永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
第8節 『輝く翼に潜む影』
「ユート様、敵です!」
進軍開始から数十分……サモドアから数km離れた地点で、道を塞ぐように6体のスピリットが居た。
『赤と青が3体ずつね……』
「セリアとアオ、ネリーとシアーは赤スピリットの神剣魔法に警戒を頼む!」
そんな言葉を言い残して、高嶺の兄ちゃんは単独で敵陣に突っ込む。
「残りの者は、ユート様を援護しながら敵を殲滅してください!」
メイドの姉ちゃんの声と共に、第2の青組以外の奴らは高嶺の兄ちゃんの後に続いていく。
「まったく、あの人は……隊長の自覚があるのかしら?」
「? 隊長の自覚って?」
「隊長っていうのは全体の戦況を把握して、的確に指示するのよ? なのに、単体で突撃してどうするのよ……って話……」
アオに愚痴をこぼすように話すセリアの姉ちゃん……
『無いと思うね……あったとしても、戦闘になれば頭から抜け落ちてるんだろ……』
――つーか、戦況を見切る戦略眼が一般の学生だった奴にあるのかどうかも疑問だね。
アイツより人生経験が長い俺でさえ無いんだ……ヤツにある筈が無い。
「ねえねえ、セリア……ネリーもユート様の後に続いていい?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「ぬぅぅ……」
本当なら、こんな雑談をしている余裕は無いんだが……今回は有ったりする。
なんで有るのかと問われれば、高嶺の兄ちゃんの采配ミスとしか言いようが無い。
ミス・その1――
俺達の仕事を率先して奪っているのが、クルゥの姉ちゃん……
敵の赤スピリットが、詠唱しようと剣を手放した瞬間に……ヘリオン並のスピードで近づき、一撃必殺――
クルゥの姉ちゃんと組んでいるヒミカとエスペリアの姉ちゃんは、クルゥの速度に付いていけず、遠距離でサポートしている状態なのだ。
ミス・その2――
一瞬で3体のスピリットを葬れる鎧の姉ちゃんに、パワー馬鹿のエトラジェに加えて、そのパワー馬鹿を上回るスピリットがこっちに居る。
そいつらは、一騎当千の働きをしているのは明らかで、物量的に勝ってるのがこっちなもんだから、敵は数十秒も経たずに消滅するのは確定。
だから、無駄話をしている間に敵は消滅した。
その後も、3体、6体……伏兵で3体と敵のスピリットが待ち受けていたが、こちらに手傷を負わせる前に、ことごとく消滅していった。
まあ、こちらは全軍固まって進軍しているのに対して……相手は一、二部隊なので当然といえば当然かもしれない。
計18体のスピリットをマナの霧に変え、分かれ道に差し掛かった頃……メイドの姉ちゃんが口を開いた。
「皆さん、今回の作戦の概要を、もう一度確認します」
「悠人様、アセリア、ネリー、シアー、ナナルゥと私は、帝国領土に隣接するケムセラウトに向かいます」
「ケムセラウトには、訓練士のアイシアス様と技術者であるウィランド様がラキオスへの亡命を求めており
第一目標は、二人の身柄の確保……ということになります」
「ヒエムナに向かうのは、セリア、アオ、クルゥ、ヒミカ、ハリオン、ヘリオン、オルファになります」
「ヒエムナからラキオスに向かうスピリットの排除はもちろん、街に潜伏しているスピリットの殲滅が目的です」
「占領後、アウル様が率いる衛兵隊の護衛を受けた技術者の皆さんがエーテル変換施設や塔と祭壇の建設作業に入ります」
「ですから、占領後は敵スピリットの侵入を防ぐために、ダーツィ首都であるキロノキロからの進軍に注意してください」
――っと、概要説明の再説明を受けたのが、今から10分ぐらい前の話だ。
今現在、俺達は街に攻め込む前に、アウルが率いる衛兵隊と技術班の到着を待っている最中である。
つまりは、休憩時間だ。
セリアの姉ちゃんは、ヒミカの姉ちゃんとハリオンの姉ちゃんとクルゥの姉ちゃんを集めて作戦会議中……
ヘリオンのガキとオルファのガキは、雑談中――
――時折、心配そうにこっちの様子を見ている所をみると、皆と離れた場所に一人で黄昏てるアオをアイツ等なりに心配しているのが良く解る。
――最近、こいつが一人の図が多いような気がする。
「……………………はぁ」
憂鬱そうな表情で、溜息……こいつの悩んでる答えは、まだまだ見つかりそうに無いようだ。
――つーか、いつまで悩み続けてるんだろうね、コイツは?
そろそろ気づいても良い頃なんだけど……
――考えるだけ無駄って事をさ――
それをアオに教えようか悩んでいると、セリアの姉ちゃんがやって来た。
アオも、それに気づいたようで、セリアの姉ちゃんに向かい合う。
「アオ、確認させてもらうわよ……」
いつにも増して真剣そうな表情で、セリアの姉ちゃんは言葉を紡ぐ。
「アナタは……本当に戦えるの?」
その問いに、アオは――
「………………戦える……と、思うけど……殺せるかどうかは、わからない……」
――そう答えた後、落ち込んだように俯いた。
「そう……」
セリアの姉ちゃんの顔に変化は無い……きっと、その答えを予想していたのだろう。
「じゃあ、アナタは後方で待機してて……戦闘が終わったら、アウル様に報告しなさい」
セリアの姉ちゃんが背中を向けて歩き出だそうとした、その時だった――
「ごめんね……」
そんな言葉が、アオから漏れた。
「解ってるんだよ、本当は……」
「アオ?」
小さく震えてる声――
「どうすればいいのか、何をすればいいのか、解ってるんだよ……」
――まるで、葛藤に苛まされ、限界を迎えたように――
「でも、頭で解ってても、私……ば、馬鹿だから……その――」
――そんなアオを、セリアの姉ちゃんは、力強く抱きしめた。
「いいのよ、アオ……」
「でも……」
「アナタがどうして、そんなことで悩んでいるのかは、私達には解らない――」
「――でも、アオにとっては重要なことなんでしょう?」
「うん……」
「じゃあ、焦らないで……ちゃんと、アナタが納得する答えが見つかるまで、ゆっくりと悩みなさい」
「うん……うん……」
セリアの姉ちゃんに抱かれて、その中で涙を流すアオを見て、再び想う――
――やっぱり、親子だ……コイツ等――
数十分ぐらい経っただろうか……アオが落ち着きを取り戻した時、ヒミカの姉ちゃんがやって来た。
「セリア……アウル様が見えたけ、ど……」
家族のような抱擁を目の前にして、固まるヒミカの姉ちゃん――
――だが、数秒もしないうちに状況を察したようで、苦笑いをしている。
「……アウル様には、私から言っておこうか?」
「大丈夫よ、ヒミカ……アオも、大丈夫よね?」
「うん……」
泣き収まったアオの表情を見て安心したのか……今度こそ、ヒミカの姉ちゃんと一緒に背を向けて歩いていく。
「セリアお姉ちゃん……ありがとう!」
セリアの姉ちゃんは振り返らない……ただ、背中を見せながら、手を振っていた。
アオの顔には、沈んだ面影は無い。
若干、スッキリしたような表情でその場を立ち去ろうとしたその時だった。
「アオ〜〜〜っ!!」
元気の良すぎるオルファのガキの声が聞こえた。
何かを抱えて、なにやらこちらに爆走してくる……
「じゃ〜〜〜ん♪」
アオの前で停止……と、同時に、そのブツをアオに見せる。
「うわぁ……ちっちゃくて、かわいい……」
「――でしょでしょ?」
ウサギの子供が居た……しかも、角が生えていた。
「このエヒグゥはね、さっきヘリオンと一緒で、そこで見つけたんだよ♪」
オルファのガキは、そのままエヒグゥと呼ばれた角付きウサギをアオへ押し付け――
「アオにあげる」
――笑顔で、そんな事を言いやがりました。
「え、いいの?」
「うん、だから……元気出して、ね?」
「ありがと……オルファちゃん」
宝物のように、その角ウサギを抱く――
――角ウサギもまた、暴れる様子も無く、アオに懐くように身を寄せている。
その光景に、オルファのガキはうんうんと満足そうに首を振り、アオの手を掴んで歩き出す。
「――そろそろ時間みたいだから行こ♪」
「あ、ちょっと……そんなに強く引っ張らないでよぉ……」
そうして俺達は、セリア達と合流してヒエムナの街を目指すことになった。
――街が見え、いざ進入しようとした所……敵12体ぐらいが門の前に終結する。
その後方……町の中には3体の赤スピリットを確認……おそらく、最終防衛を任されたスピリット達だろう。
敵の数は12と、2倍ぐらいの多さだったが……クルゥの姉ちゃんを筆頭に、アダルト組が敵を蹴散らしている。
オルファのガキは遠距離で援護……ヘリオンのガキは、こぼれた敵を確実に仕留めていく……
戦闘は、極めてこちらが優勢……あと十分ぐらいで決着は付くだろう。
アオは角ウサギを抱え、セリアの姉ちゃんの言いつけ通り、その門からかなり離れた場所で見守っている。
――その表情は、辛そうだ。
その表情の意味……今日でやっと解った気がする。
――コイツの本当の悩みが――
結局の所……アオは最初っから理解していたのだ。
――敵を殺すのは当然……殺さなければ、味方が死ぬ――
その事を、理解している半面……
――何故、殺すまで戦い続けなければいけないのか――
そういう疑問を持っている。
味方が死ぬのは嫌だ……けど、味方が死ぬ苦痛を他人に与えるのも嫌――
――そういう反吐が出るほど、甘い思考の持ち主なのだろう……コイツは……
馬鹿な話だ……
その理想を叶える方法など、戦争中で有りはしないというのに……
「――ぇ、ちょ、痛っ!?」
『? どうした?』
「エヒグゥちゃんが……急に暴れ出して……」
暴れるように、アオの抱擁から脱出し……地面に降りたウサギは、ダンッ! っと、後ろ足で地面を蹴り始めた。
何度も、何度も地面に足を叩きつけ……その度に、ダンッ! ダンッ! っと大きな音が響く……
「エヒグゥちゃん……どうしたの?」
恐る恐る、ウサギに話し掛けるアオ……
その光景を見て……俺の頭の中に、ある言葉が浮かんだ。
――スタンピング――
そんな言葉を、聞いたことはあるだろうか?
スタンピングというのは、野生ウサギの本能を受け継いだ行為で、『最大限の危険』が迫ったときに行なうという。
ウサギは聴覚が優れているため、野生ウサギはこの行為によって数キロ離れた仲間にでも危険を知らせることができわけだ。
――いやはや、この世界のウサギも同じような習性が有ったとはビックリだ……じゃなくてっ!!
急いで周辺の様子を探る。
――危険と認識できる存在は……この近くには無い。
だが、膨大なマナが街の方に集まっていく……
そのマナの量は……想像を絶する程、デカイ……
マナの属性が赤で、街に居る3体の赤スピリットの仕業だと思い当たった瞬間――
――辺りは白の閃光に包まれ、あらゆる音が失われた。
「『――!?』」
なにが起こったのか、解らない……
――解るのは、大気を振るわせる空気の振動と、大気の熱さだけ。
きっと、隕石か何かが落ちてきたら……このような状況に陥るに違いない。
白い閃光が晴れたのは一瞬だったが、とても長い気がした――
――そして、閃光が晴れたソコには、戦っていた筈のスピリットが……全員倒れていた。
「……ぇ?」
アオは、その光景を呆然と見ていた。
――それは、オレも同じ……
なにが起きたのか解らない。
ただ、残留している濃度が濃い赤マナのお蔭で……街に居る赤スピリット達が放った神剣魔法の効果だという事を理解した。
「雫……何が……起こったの?」
『さあな……』
赤の反応は、爆心地へと近づき……目視できる位置まで近づいてくる。
『解ることは……十中八九、アイツ等の神剣魔法だろう……』
俺とアオは離れていたから無傷だが――
――その魔法を受けた奴等は……もう、立ち上がれない。
アオは、その赤スピリット達を凝視する。
――そのスピリット達は、狂気にも似た笑いを浮かべていた。
貴様等の敗北は決定的だと――
――仲間を巻き込んだ事の罪悪感なんて、微塵も感じられなかった。
『……アイツ等……味方まで巻き込みやがった……』
正気の沙汰じゃない……っと、動揺している心と――
――ああ、そんな戦法も存在するんだな……っと、関心している心が有った。
だって、そうだろう……
死なない程度に、敵味方を巻き込んで……残った戦力で確実に敵を叩く。
――こっちのほうが、勝率も高いし、戦死するスピリットの数が少なくてもすむ。
そんな時、アオの口からギリッ……っと、強く歯を噛む音が聞こえた。
『……?』
――その表情は、『憎悪』の感情に染まっていた。
「……なんで……こんな、ことっ!!」
そんな、アオにあるまじき表情を目視した途端――
――アオの憎悪に共鳴するように、『冷酷』が活性化した。
『――ぁ――』
――負の感情に飲み込まれる――
辛うじて存在していた『時神 雫』という精神を、更に蝕んでいく――
――でも、恐ろしいとは感じない。
正直、糧になる獲物を目の前にした時から……いや、この戦いが始まる前から正気など無くなっていたのだし――
「許さない……絶対、こんな事……許せないっ!」
――契約者が殺る気満々で、大量のマナを得るチャンスだというのに……なぜ恐ろしいと感じる必要が有る?
「雫、お願い……力を……私に、もっと力を――」
そうだ……契約者は、ヤツラを殲滅する事を望んでいる。
その為に、オレも最大限に協力する必要が有る。
ラインは既に繋がっているし、不鮮明だった情報も手に取るように理解できる。
『ああ、任せとけ……お前が望む『力』……最大限に発揮できるようにしてやる』
――オレは、迷う事無くアオの身体の情報を書き換えていく。
「――っ!? あっ、ぎっ、っ、あ゛ぁあああああああああああああああああああああ!!」
アオの叫びと共に、まるで烈風のように放出される契約者のマナ――
そのマナは、アオの背中に吸い込まれるように流れていき――
「――はぁ、はぁっ、はぁ……」
――その背中から、汚れを知らないと思わせる程の……白い翼が空虚より出現した。
――其の翼は、間違い無くハイロゥ――
ハイロゥとは、周囲のマナを己に取り込み力とする。
アオは、ソレが無かったために……オレの力を引き出せなかった。
神剣は、契約者のマナをエネルギーとして力を発揮する。
いわば、『ガソリンのタンク』と『燃費効率が悪い高性能エンジン』みたいなモノだ。
ハイロゥという給油手段の無いスピリットは、当然力を発揮できず――
――ガソリンが無くては、エンジンは馬力が強かろうと動かない。
正に、オレ達がソレだった。
『錬気』という技のお蔭で、タンクに少しずつマナが集まった事により契約者は、オレの力を少し扱える事が出来た。
――だが、それでは目の前のスピリットに敵わない。
しかし、神剣としての自我が強くなった事……そして、アオが発した負の感情でオレは完全に覚醒した。
――そのお蔭で、契約者の構成途中の不完全な身体だと思い出し……今、完全な状態に仕上げる事が出来たのだ。
「……ふぅっ、ふぅ……」
アオは、血走った目で標的となる獲物を確認し――
「雫……行くよ……」
『ああ、思いっきり暴れて来い』
さあ、狩りの時間だ……ここ一帯の獲物を喰らい尽くすまで続けよう――
奴らはアオの存在に気づき、三人が同時に神剣魔法を唱える。
3つの魔方陣は同種……その魔方陣から読み取れる効果は、広域神剣魔法……
『アイツ等、此処に居る全員を消し飛ばす気か!?』
「――させない……させるもんか!!」
ザクン……っと、俺を地面に突き刺し、アオのハイロゥが輝く――
「神剣の主が命ずる……大気を凍らせ、消沈の世界へと変われ――サイレント・フィールド!!」
瞬く間に、周囲は蒼一色の空間に包まる。
敵が展開させていた複数の赤の魔法陣は輝きを失い、氷が砕けるみたいに割れていく。
「――っち、舐めるなぁぁ!!」
ここ一帯では魔法が使えないと悟った赤の妖精は、弾丸のようなスピートでアオへ駆け出し、渾身の一撃を振るう。
「――っ!」
ソレを、事もなげに受けきった。
身長差も進力も関係無い……アオは一歩も引かず、そのスピリットの双剣を弾き――
「――てぁあああああ!!」
――間髪入れずに、俺を赤の妖精の脳天へと振り下ろした。
竹を割るように、真っ二つになる妖精――
――アオは、そんな屍骸に眼もくれず、ハイロゥを広げて飛翔する。
流星のような速度で、そのスピリット達の真上に飛翔し――
「あんた達なんか――」
敵が居る真下に手をかざし、ハイロゥが一段と強く輝く――
――同時に、俺のマナの大半が抜けていく……
「――死んじゃえばいいんだっ!!」
アオの掌から魔方陣が開放され、限界以上のマナが注ぎ込まれたソレは、10tトラック並の質量をもつ氷塊となり、発射された。
時速200kmも出てると思わせる、巨大な氷塊は……地面を抉りながら突き進み、2人のスピリットを押しつぶす。
「はぁ、はぁ、は……ぁ……………………」
それが全力だったのだろう……空中で意識を失い、頭から落ちていくアオ……
地面に落ちる直前に体を奪い、ハイロゥを羽ばたかせて無事着地する。
「……………………ふぅ」
しかし、まぁ……こんだけ巨大な氷塊を、よく一瞬で作り出したものだ。
ハイロゥのお陰だけでは説明が付かない……今回は、アタリ……なのかな?
「ぁ……や、だ……」
そんな声が突然、真後ろから聞こえた。
振り返ると、下半身が潰された赤スピリットが……そこに居た。
「死に……たく、ない、よぉ……」
腕を動かして、氷塊から脱出しようと這いずっている。
しかし、氷塊に挟まってる下半身があるため、進めるはずも無く……前に進もうとしている腕だけが動いている状態だ。
「……………………はははっ」
その光景は……この上なく、無様だ……
無様過ぎて、つい笑ってしまう。
まあ、殺意を持って氷塊を落としたのに、それでも死んでいないのはアオの甘さか……それとも、運が良かったからなのか?
――どうでもいい……今となっては……
後から思えば……魔が刺したんだと思う。
なんで、そんな考えに至ったのか解らない……
……いや、考える暇すら無かったと思う。
その時のオレは……ただ本能的に――
――まだ息の有る、そのスピリットの心臓に……剣を突き立てていた。
「ひ、ぎぃ……ぁ、ぁ…………」
流れてくる甘味なマナ――
――美味い……本当に美味い――
……だが、それも一瞬で……獲物はすぐ消えてしまった。
もっと味わいたいのに……消えるのが早すぎる……
だから、もっと……もっと……味わうんだ……
そうして俺は、別の獲物の前に立ち、同じ作業を繰り返す。
獲物じゃない糧と、獲物である糧を識別しながら心臓に剣を突き立てる。
嫌悪感なんて感じない。
だって、これは、ワルイコトじゃ、無いはずだ。
――コイツ等は敵だし……俺達を殺す覚悟で剣を持ったのだから、殺されても文句は言えない、筈だ。
だから、疑問……なんて、感じるコトは、ナイ……
――なのに、何故……こんなにも、キモチワルイと感じるんだろう?
そんな事はどうでも良い……
キモチワルイ? それがどうした……マナが、力が手に入るんだ。
早く、糧を食い尽くして、力を蓄えないと……
「――っ!?」
そんな事を考えていたのがいけなかったのか、背後に接近する獲物に気づかなかった――
――でも、殺される前に気づいた。
ソイツを足払いして、転ばせる。
すぐ馬乗りになって、心臓を突き刺そうと剣を振り上げたとき――
「……………………ぁ?」
「……どうしたの? 殺さないの??」
――見知った獲物が……セリアの姉ちゃんが……オレの下に居た。
その眼は、とても冷たかった。
汚らわしいモノを見るような眼で……オレを見抜いていた。
「………………」
その眼光のお蔭で――
俺は、ようやく、暴走していた思考が鎮圧していき……辛うじて正常だと思える思考が戻ってきた。
――でも、多分……これで最後だろう……次の機会は……無いと思う。
だから、託さないと……もう、自分じゃ、どうにも……ならないから……
「…………愚痴なんだけど……聞いてくれるか?」
「………………いいわよ」
「見て解るとおり……もう、手遅れだ……」
「…………」
「流されるまま、コイツの意思に逆らえなくなってる」
「初めっから弱い意志の人間、なんだよ……オレは……」
「昔から、辛い事からは逃げたかった……苦しい事もしたくない……」
「ただ、マナが欲しくて欲しくて……もう、止められない……」
―― いま、自分の置かれている状況を……とにかく、言葉にする。
―― 一刻も早く、伝えなければ……また、忘却してしまう。
「だからさ……セリア――」
「――この出来事を、俺がした行動をアオに話してやってくれ……」
「そうすれば、最悪の事態にだけはならないと思うんだ」
――そう、アオが俺を取らなければ……『仲間殺し』という最悪のシナリオだけは回避できる。
でも、それは……今までの日常を失う事を示している。
ソレでもいい……むしろ、そうしないと……完璧に人じゃ無くなる――
――だというのに……
「アナタは卑怯よ……涙を流して、そんなに辛そうな顔で言われたら、言えるわけないじゃない……」
馬鹿……なんで、解らないのか?
もうちょっと、非情な性格だと思ったけど、甘い……まだまだ、この姉ちゃんは甘すぎだ。
――だから、我に騙される。
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