永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 5  反発するエゴ

第9節 『後悔』








不意打ちに近いタイミングで、背後から迫る剣の弾丸――

――避けれる筈も無いし、防げる筈も無い……

アオに似た女性は、串刺しになる。


「あらあら、この程度の攻撃も防げませんの?」

剣を放った『秩序』の契約者は、本当に呆れている表情で……アオに似た女性を見つめている。


「ぁ、っ……な、んで……」

「秩序の名の元に……アナタの違反行為を罰してるだけですわよ?」

――違反? なんの違反だというのか?


「せっかく、あの時深を本体ごと消滅させるチャンスだったというのに……アナタが台無しにしたから」

「私ごと消滅……させようとした、癖に!!」


――生きたい……そう思って、何が悪いのか?

――消滅したくない……そう思って、何が悪いのか?


「そんな事、関係ありませんわ……駒が勝手に行動するなど、許されるはずがありませんもの……」

『秩序』の契約者が手を伸ばす――

――すると、ソノ先に……槍が出現した。


「さようなら、セルシア……従順な駒でしたけど、アナタに失望しました」

ザクン……っと、脳天に槍が突き刺さる。

――ソレが最後……セルシアと呼ばれた女性は、マナの霧へと消えた。


「安心しなさい、アナタの神剣『氷帝』は、私が効率良く利用してさしあげます」



視界が、黒く染まっていく中で……



――許さんぞ――

地獄の底から響いてくるような……憎悪に染まった声が聞こえる。


――我が意思を奪いたいのなら、奪うが良い――

――我が力を取り込むのなら、取り込むが良い――

――だが、契約者の無念だけは……絶対に渡さん――

――我は、必ず戻ってくる……この場所に――


――いつか、アノ混沌の永遠者(エターナル)のように……『時を遡る力』を手に入れて……


――必ず、この場所に戻って……貴様を喰らってやるっ!!!







『そう……これが、氷帝の……いや、冷酷が何もかも失ってまで守ってきた記憶の一部さ……』

――この声は……守人か?

視界が蒼に変わっていき……目の前に影が現れる。


『とりあえず、おめでとう……と言うべきなのかね?』

『器は想像以上の精度で完成し……ソレを手に入れるまで、あと一息だ』

――ちょっと待て……そもそも、鍵と器って、何なんだ??


『気づいてると思ったんだがね……『鍵』って言うのはお前だよ、時神 雫……』

『お前に宿るその『時を操る力』……それが『鍵』なんだ』

――じゃあ、俺がこんな状態になったのは……お前の仕業なのか?


『それは違う……確かに冷酷は、『鍵』を求めていた』

『――けど、お前が冷酷に宿ったのは偶然だ』

――どんな偶然だよ……ソレ……

『確かに、都合が良すぎるけど……事実だ』


――じゃあ、器っていうのは?


『器……それは、神剣に精神を同化させた契約者のことを言うのさ……』

『不幸にも、妖精の体を構築してる最中に……お前が宿った……』

『意思の支配権はお前になり、不完全なまま……アオ・ブルースピリットは誕生したわけだ』

――神剣と精神を同化??


『そう……妖精の意思を粉々に粉砕すれば、自動的にそうなる』

『そして、奴の精神を壊すことは簡単だ……なんせ、今回の妖精は、心が脆過ぎる』

――何を、言ってるんだ?


理解できない……コイツの考えが……

解りたくない……この先の展開が……

唯一、解る事があるとすれば――

――コイツは、俺達の味方じゃないって事だけ。


『礼を言おう……これでやっと、地獄のような輪廻から解き放たれる事が出来るかもしれない――』

『――さあ、悠久にも似た永遠を共に歩もうじゃないか……』



逃げたいのに、身体が動かない。

影が、オレの頭を鷲掴みにする。

流れていく……大切なモノから、どんどん流れていく――

――そして、影は段々と、実体を取り戻していく。


――奪われる……オレという、何もかもが……奪われる……


オレの魂が――

オレの記憶が――

オレの思い出が――

オレの人格も……そして、意思も――



――消えかける意識の中、最後に見えたのは……俺を鷲掴みにしている奴の顔が……『俺』の顔になっていた。









「っ、ひぎゃあああぁぁぁあああああ!?」

声が出たのと同時に身体が動いた。

俺は、咄嗟に地面を蹴って距離を離す。

――でも、何かに躓いて転んでしまう。



ソノ何かは、立ち上がって近づいてくる――

「――やだ、嫌だぁぁああ!!」

永遠になんて生きたくない! 100年間という限られた生を自由に生きれば、それで十分なのにっ!!


「だれが……誰がテメェなんぞと、一緒に逝くもんか!!」

そういう事は、不老不死になることを望んでいる奴を誘ってくれ!!


――ソイツは、ゆっくり……ゾンビみたいに、足を引きずりながら近づいてくる。


「ひぃっ、来るな! 来るなよぉ!!」

また、奪われる……奇跡的に残ったカスみたいな俺の意思が、また奪われる。

これ以上奪われたら、もう――


「た、頼むっ! 頼むから、これ以上俺から奪わないでくれっ!」

「――俺を元の、アノ世界に帰してくれぇ!!」



「――雫っ! しっかりしなさいっ!!」

「ぁ、っ……え?」

セリアの姉ちゃんだ……目の前に、セリアの姉ちゃんが居る。

どこかで大怪我をしたのか……脚を引きずりながら、俺のほうに近づいてくる。


「……どうしたのよ、いきなり……」

「……え? せ、セリア??」

目の前に居たのがセリアの姉ちゃんと解って、安心したのがいけなかったのか……



……何かが、ゴッソリと抜け落ちていく感覚に襲われた。



その抜け落ちたものが何なのか……考えるまでも無く、思い当たった。

なんで、セリアの姉ちゃんがケガをしているのか……

なんで、地面にでっかいクレーターらしきものがついているのか……

なんで、ヒミカの姉ちゃんやオルファのガキまで大怪我して倒れているのか……

なんで、10tトラック並みの氷塊が此処にあるのか……

なんで、俺は……あんなに取り乱していたのか……



――全然、思い出せない。



だから、さっきの抜け落ちた感覚は、記憶が消失した事なんだと、すぐに解った。

「……落ち着いた?」

「あ、ああ……悪い、ちょっと……疲れてるみたいだ……」

「………………そう………………」

セリアの姉ちゃんは……同情するような、哀れみに近いような表情で、俺を見つめて――


「アナタは休んでなさい……アウル様への報告は私がしておくから……」

「? あ、ああ……」

アウルへの……報告??

何を……報告するんだろう??


「それと、雫……さっきの話だけど……」

「??」

「私からは話さない……これは、アナタとアオの問題だから……」

「…………そうか…………」


なんの話の事か解らないけど……

今は、記憶が抜け落ちた原因について、よく考えたかったから……とにかく、適当に相槌を打った。


セリアの姉ちゃんの背中を見送って……俺は、今の状態を把握する。

日が経つにつれ、記憶の消失が頻繁に起きていく。

――ソノ原因は、間違い無く……『冷酷』の仕業だろう。


何か、対策を立てなければ……この先、何も解らなくなってしまう。

でも、どんな対策を立てればよいというのか?


神剣に属する力なんて使わない……とか?

アオの身体を乗っ取る事をしない……とか?

――そんなの、当然却下だ……そんな事をしたら、俺とアオが間違い無く死ぬ。


「……でも、まぁ……なるように……なるか……」

願望に近いような想いで……俺は転がって、目を閉じる。











――ナニカ違和感を感じると思ったとき、いつの間にかベットの上に居た。

「――ぁ??」

雫世界……でもなければ、冷酷の世界でもない。

見たことも無い部屋……外から、騒がしい男共の声が聞こえるという事は……

「……現実世界……か?」

つまり、寝て……たのか?

いや、この身体になって……睡眠をとるという事は、ありえない……


――って、事は……また、記憶が飛んだ??


「……っぅ……」

本当に、大丈夫なんだろうな……オレは?

再び、自分の状況を再確認する。


――まだ、アオの身体を乗っ取ってる。

たぶん、アオは寝ている……それは、間違いない。

……そして、身体が嘘みたいに軽い……というか、調子が良いというのか……どっちでもいいや。


まずは、此処が何処だか……確認する必要がある。

ドアに手をかける。







……最後に。

一度だけ振り返って、部屋の隅に置いてある鏡の中に写る姿(アオ)を、良く覚えておく事にした……







部屋を出て、廊下を見渡す……っと、ヘリオンのガキの後姿が見えた。

タオルやら、包帯やら、沢山の荷物を抱えて歩いている。

――見るからに、明らかに重量過多だ。


「手伝うぞ……ヘリオン……」

「あ、ありがとうございますっ、って……アオ……さん?」

「今は雫だ……」

「――え? えぇぇえええ!?」

ヘリオンのガキが持っていた荷物が全部落ちた。


「いや、そんなに驚く事じゃ……ないと思うんだが?」

「だ、だだ、だって……それって、神剣に精神を乗っ取られた事に……」

ああ、まあ……確かに俺とアオの関係を詳しく知らん奴は、そんな感想を抱くだろう。


「アイツは、今寝てるんだ……代わりに俺が出てるだけだよ……」

「だから安心しろ、アオは無事だ」

「そ、そうだったんですか……」

俺は、無言で落ちた荷物を拾う。

「………………」

「………………」

ヘリオンのガキも無言で拾っているが……明らかにオレを警戒している。


「こうして話のは……もしかして、初めてか?」

「そ、そうですねっ!」

――何故、コイツの声は裏返ってるのか?


「………………」

「………………」

――会話終了――


おかしい……このガキの性格を考えれば、話題を提供してくれそうなのだが……

……なんか、怯えられるような?


「そういえば……」

「――は、はいぃ、な、なんでしょう!?」

――やっぱり、怯えてる。


「あのさ、取って食うつもり無いんだからさ……そんなに怖がらなくても……」

「で、でも……ネリーさんが……」

「――ネリガキが??」



「雫さんは、幼い子供の身体が大好きで……私の身体も狙っているとか……」



「………………ほぉ……」

「あ、あの……もしかして、怒ってらっしゃいます!? ――っていうか、私、また余計な事を!?」

「全然♪」

「でも、こめかみが……ヒクヒク動いてるんですが!?」

「ワザとやってるんだ……だから、気にするな」

――あの、クソガキぃ……もう少し大人に成長したら、ボロ雑巾のように犯して捨ててやる……


「有益な情報提供をありがとう……でもな、ガキに興味ないんだよ、オ・レ・は!!」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、勿論だ……仮に狙うとしても、お前達のような胸のちっちゃいガキじゃなくて、
 ナナルゥの姉ちゃんやハリオンの姉ちゃんあたりの胸のデカイ奴だけだから安心しろ……」

「……そう、なんですか……」

「なぜ落ち込む――って」

あぁ、胸の事を指摘されたからか……


「やっぱり、ユート様も……胸の大きいほうが良いのかなぁ?」

「――さあ、どうだろう?」

大変だね、恋する乙女は……悩む事が多くて……


「あ……で、なんです?」

「何が?」

「そういえば……って、言ってましたよね?」

ああ……そういえば……そんな事も言ったね……


「……休んでなくていいのか、って話……」

「そ、そうなんですけど……なんか、じっとしていられないんです」

「そうか……」


――それで、なんでこんな荷物を抱えているのかと聞いたところ、ヘリオンのガキは快く答えてくれた。


なんでも、先の戦闘で、特に被害が酷かったのはクルゥの姉ちゃんとハリオンの姉ちゃんだったらしい。

神剣魔法に対する抵抗力が低い緑スピリットは重症で、意識が戻っていない。

「……って、事は……もう他の奴の意識は回復したのか?」

「ええ……クルゥさんとハリオンさんだけが……まだ意識が戻っていないそうなんです」

見れば、ヘリオンのガキも傷だらけ……動くのにも苦痛がある筈なのに……健気なものだ。


「じゃあ、アオさん……じゃなくて、雫さん……これ、ハリオンさんの部屋に届けてくれませんか?」

包帯と消毒薬らしきモノが入ってると思われる壷が渡される。

「……あのさ、意味あるのか……コレ?」

「一応……傷口からマナが抜け落ちないようにする効果はあるそうなんですが……」

どこかで見たことがある壷だと思ったら……前に、ヒミカの姉ちゃんがアオに塗っていたアレか……


「解ったよ……で、お前はどうするんだ?」

「わ、私はですね、クルゥさんの看病をしてきますから……ではっ!」

そう言って、ヘリオンのガキは……オレに背を向けて、歩き出す。



「ぁ……」

その姿を見て……急に、胸が痛くなる。

まるで、もう……二度と合えないような……そんな予感が――



「……なんてな」

――そんなのは、錯覚だ。


――不安になってるから、一人は、寂しいと感じてるだけ……だと思う。

自分自身を納得させて、ハリオンの姉ちゃんの気配をさがして……その部屋まで歩く。

ハリオンの姉ちゃんの気配がする部屋まで……数秒も経たずに着いてしまった。

――そして、ヒミカの姉ちゃんの気配もセット……たぶん、看病でもしてるんだろ。







扉を開けると……苦しそうなハリオンの姉ちゃんが寝てる姿と、思い詰めた顔で看病をしているヒミカの姉ちゃんがいた。

「邪魔するぞ……」

「……雫、よね?」

「言葉使いで分かるだろ……で、ハリオンの姉ちゃんの様子は?」

「………………」

黙って首を振る。


「……そう、か……」

「っ、ぅぅ……」

うなされてる……あのハリオンの姉ちゃんが……苦しそうな顔で、うなされてる。


「……なんか、貴重な表情だな……」

ハリオンの姉ちゃんの様子を見ながら、俺はヘリオンに渡されたモノを机に置く。


「そうね……いつもは、ヘラヘラしてるのに……」

「……こんな、ハリオンの苦しそうな顔なんて……今まで、見たこと無かった……」

「ふぅん……で、お前は何故……そんなに思い詰めているのか?」

「もしね、このまま……ハリオンが死んじゃったらって……思うと、私、どうしたら……」


――死ぬって……大袈裟な……


「つーか、そんなに仲が良かったのか?」

「そうね……良い方だと思う」



――ヒミカの姉ちゃんの赤裸々な告白が続く。



なんでも、ここに配属されたばかりの頃は一人ぼっちだったが、ハリオンだけ仲良くしてくれた事とか……

ハリオンの姉ちゃんが菓子屋を作る夢を語って、誘われていた事とか……

結構ハリオンに振り回されているけど、実は楽しかったりとか……



まるで、ハリオンの姉ちゃんが既に故人になったように語ってるのは、な〜ぜ??



「ハリオンが死んじゃったら……私、私はっ――」

もう一息で泣く……そう思った瞬間――







「ぅぅっ……お菓子ぃ〜……」

「「………………」」

――そんなポヤポヤした声が聞こえました。







「一つだけなんて、選びきれないで、すぅ……ぅぅっ……」

「「………………」」

誰の声か……言うまでも無い。

――シリアスな雰囲気が、苦しそうな寝言で一気に吹っ飛んだ。


「………………」

――絶句――


ヒミカの姉ちゃんは、石造のように固まってる。

「ハリオンが死んだら……どうなるんだ? その辺、とてもすごく気になるんだが?」

「お願い、雫……今の話、忘れて……」

――ゴメン……無理……


うなだれてるヒミカの姉ちゃんを見て、苦笑いしながら部屋を後にする。

扉を閉めると……面白かったと思った気持ちが急速に冷めていき、再び胸を締め付けられる。

「なんなだろうな……まったくよぉ……」

まるで、死刑宣告を受けた死刑囚のような気分だ。







――果てしない不安から逃げるように、外に出る。

「………………」


外に出た瞬間……ふと、空が目に入った。


ただ雲が流れている、何も変わらない空……

何時もなら、今日は晴れてるな……ぐらいしか思わないのに……







何故……







――何故、こんなにも美しいと感じるのだろう?



「珍しい日もあるもんだ……」

景色を眺めるなんて、趣味じゃないのにさ……

でも良いや……空を眺めてるだけで、気持ちがこんなにも穏やかになるんだから。


空を眺めること、数分……やけに高い塔が視界に移った。

「……………………」

――煙と何とかは高いところが好き――

そんな言葉が頭に浮かぶが、登りたくなったモノは仕方が無い。


ハイロゥを展開し、塔の頂上まで飛ぶ。

足元には緑……向こうには砂漠……地平線には海と空の境界が――

その光景は、まさに自然が生み出した芸術――

――こんな変哲の無い景色が……こんなにも愛しく、美しいものだったという事を……初めて知った。


時間が経つのを忘れ、ボーっとその景色を眺めてると……ハシゴを登る音が背後から聞こえてくる。

振り返って床の開口部を見ると、そこからアウルの奴がひょっこりと顔を出した。

「貴様、こんな所で何……を……?」

アウルは、驚いたように俺の顔を見て――



「オマエ……泣いてるのか?」



――そんな言葉が聞こえた。







「―― へ?」

目を拭うと、確かに、目が潤んでいた。

「……本当、だ……泣いてる……よ、な?」

目どころか、大量の涙が、頬を伝って流れている冷たさが……今更になって、解った。



何で泣いているのか……そんな理由、とっくの昔から検討がついてる。



――けど、本当に解らないんだ。

なんで?

どうして??

どうして、よりによって自分なんだろう?


時神の血筋を引いた人間は、親戚を合わせれば沢山居るのに……

『時』なんて属性を持つ奴なんて、『時神家』以外にも……異世界を含めれば、無限に居るのに……なんで自分が選ばれたんだろう?



――氷帝は言った。俺が選ばれたのは『偶然』だと――



それはつまり……『時』という属性を持っていれば、誰でも良かった筈なのに……なんで、オレが?

「ぅ……ぐぅぅ……っ!!」

涙が止まらない……

悔しくて、何をどうすればいいのか解らない。

だって、俺の終わりは……すぐソコまで迫っている。

残された時間は、もう数秒も無い事も、無意識の内に解っている。


――だから、余計に悔しい。


満足な人生を歩めなかった事……

出会った皆に別離(わかれ)を告げられなかった事……

いままで育ててくれた爺さんに、何も返せなかった事……



何より、最後に話したい奴と話せない事――



――それが一番悔しい。



「……っ!? 鐘の音!? 敵襲っ!?」

――遠くで、カンカンカン……っと、鐘の音が響いている。


「――アオ・ブルースピリットっ!!」

迎撃に向かえ……と言うつもりなんだろう……もう、手遅れだ。







――鐘の音が聞こえた瞬間、キィィィン……という金切り声と共に頭痛が発生して……金縛りにあったように、動けないんだ。







「っ……ぐぅ……ぅ……ぁ……っ……」

身体の自由が効かないだけじゃなく、呼吸も出来なってる。

それだけじゃない……内臓が暴れてる……まるで生き物が進入して暴れまわっているような痛みに襲われる。



「――おいっ!!」

世界が廻って、地面と空が逆転し……ドシャッ……という音と共に背中に激痛が走った。



「がぁ、ぁぁ……ぁ……」

世界が蒼く覆われる――

――そして、死神の声が聞こえてくる。







――もう、十分だろう?



――選手交代だ……お前の後釜は、俺が座ってやるよ。







「や、だぁ……いや……だぁ……」

もう、知性さえも残っていない……

ただ、生きたいと……もっと、人として人生を味わいたいことしか、頭に残っちゃいない。







――安心しろ、お前は殺さない……なんせ、『鍵』を持ってきてくれた恩人だからな。

「………………え?」







その言葉の誘惑が、決定的な隙となった。







――お前は俺と……共に永遠を生きるんだ。







「ひぃ、ひぎゃああぁぁぁああああああああああ!!」



――頭痛の威力が増す。



――まるで、脳みそがミキサーに掛けられたような痛み……なにもかもがグチャグチャになっていく。







失われた記憶と、まだ残っている記憶、『冷酷』だった頃の記憶、『氷帝』だった頃の記憶がグチャグチャに溶けていく――







この時点で、『時神 雫』は死んだ。







『時神 雫』という精神は、完璧に消滅し、無へ還える……そして、自分じゃない何者かが生まれるのだ。








あとがき



UPしたのは何ヶ月ぶりでしょう?
この話は、エムさんの「サテライト夢要素」にUPした話なのですが……後半部分に納得いかなくて、リメイクしました♪

やっぱり、人の死ぬ間際の心境とは難しいです……orz



次節は、『新生・雫』が語り手……の予定?




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