永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
第10節 『葛藤する意思』
――衝撃の事実……天国は真っ暗だったっ!!
もしくは、地獄かな??
目が覚めたら何も見えなかった。
神剣に戻ってるのかなあ……と思ったけど、周囲の情報は全然流れてこない。
何も見えない……何も感じない……
永遠神剣になってた頃とは違う……完全なる『無』……
『本当に……死んじまったんだな……俺……』
ここが天国なのか地獄なのか解らないが……後者の可能性のほうが極めて高いだろう。
人もスピリットも殺した奴が、天国に逝ける筈がない。
だから、ここは地獄なのだろう。
ともあれ、ここに居る限り、自分から行動できない。
鬼かエンマ大王の迎えが来るまで、のんびりと待ちますか……
……なんて考えが浮かぶ程、能天気な性格はしていない。
このまま永遠に誰も来ない……なんて展開も、考えられなくもないのだ。
人が死ねば天国か地獄に逝く……それは、死んだことのない奴が喋りだした事。
死後の世界は死者だけが知っていて、生者が語れるはずもない。
――だから、不安になる。
本当の地獄とは……エンマ大王とかが存在するような場所ではなく……
……闇の中で、孤独のまま、永遠を過ごす空間の事を言うのかもしれないから。
―― だから、人の話……聞いてたか? ――
『……え?』
真っ暗な闇の中から、俺の声が聞こえた。
―― お前は殺さない……そう言った筈だけど、覚えてる? 覚えてる訳ねえよな ――
『冷酷』!? いや、『氷帝』!? ――どっち!?
―― 残念ながらどっちでもない……、『冷酷』、じゃなくて、『氷帝』……っていうか、めんどくさいから『アイツ等』で統合する ――
『…………はぁ…………』
なんなんだ、コイツは?
―― で、『アイツ等』から言われた事……覚えてる? ――
『そら、覚えてる……でも――』
確かに、俺達は融合した筈だ……
覚えてる……あの、脳みそをミキサーにかけたような痛みも……自分じゃない誰かと溶け合う、おぞましい感覚も……
……忘れろという方が無理だ。
そのまま取り込まれて、『力』だけ奪ってお役御免……ゴミ屑みたいにポイッって投げられたと思われた俺の意思は、そのまま地獄に逝ったと思ってた。
――でも、闇の中で響く『俺の声』は……俺はまだ生きてるという。
じゃあ、なんで……融合したはずなのに、『俺』という個人の意思が、まだ存在してるんだろう?
―― え〜と、まあ、順を追って説明してやるよ ――
『……ああ』
つーか、なんでこんなに馴れ馴れしいの?
―― まず、俺の存在について……俺は『時神 雫』と『アイツ等』が融合して出来た人格だ ――
『…………はぁ…………』
―― それで、お前の存在について説明する前に……『神剣』って、なんで無数にあるのか知ってるよな? ――
『……まあ、何時知ったのかは解らないが……何故か知ってる』
神剣とは……元は一つの剣だったのだ。
自分の意思か、または事故かはしらないけど……その神剣は砕けてしまった。
砕けた欠片には、意思があり、強大な力があった。
元は同じ存在だっていうのに、その意思達は対立している……何故か?
――分裂した意思にも、色々とあるからだ。
大雑把に分けると……『元の形に戻りたいという意思』と『戻りたくないという意思』が有る。
……そいつ等が戦って、剣が傷ついて、更に複数の欠片が生まれて……現在、無限にも近い数の神剣が存在しているのだ。
――もっとも、細かくなりすぎた欠片……大きさで言うと粒子ほどの奴等は、理性など持たず、生存本能だけで存在しているのが現状なんだが……
『冷酷』も、その内の一人……
『氷帝』という神剣が細かく砕かれた欠片が『冷酷』という意思を持ったと……まあ、そういう訳だ。
『それで、その話と俺が存在してるっていうのは、どういう関係があるんだ?』
―― まだ解んねえか? 『時神 雫』のオリジナルは、『アイツ等』と融合して『俺』が存在してる ――
―― 『俺』の覚えてる『時神 雫』という人格情報を複製して、魂という器を創った ――
―― 『
『……………………………………はい?』
オリジナル? 複製?? 生まれる???
……ナニヲイッテイルノカ、ワカラナイ……
―― オマエは、俺の欠片だ ――
―― 『時神 雫』という人間の意志を、出来る限り再現させた新しい意思 ――
―― 人間の常識を刷り込ませた、器が存在しない生まれたての永遠神剣と言えば解るか? ――
『……全然……』
これ以上は聞いていけないと、理性で解ってるのに……
ここで話題を変えるべきだと、本能が叫んでるのに……
……事実を認めたくないが故に、致命傷を求めて、無意識に口が開いた。
『じゃあ、なにか? 俺は本物の『時神 雫』じゃなくて、偽者だって言いたいのか?』
―― そうだな……なんて言えばいいんだろう ――
―― 『
―― でも、俺は混ざり過ぎてる……前の『
―― けど、オマエは違う……俺とオマエを比べたら、オマエの方が『
『………………』
頭がカラッポになった。
……俺が……偽者??
そんな筈は無い、そんな事は無い……そんな言葉、デタラメだ……
だって、覚えてる……俺がこの世界に来る前の事も、ここに来てから体験した数々の出来事も……ちゃんと覚えてる。
そうだ……ちゃんと覚えてる……
でも……自分の中にある空虚さが、『オマエは偽者であることは事実だ』と……そう言っていて……
訳のワカラナイ絶望感が、自分の中から無限に溢れているような感じで……
『……お、オレ……オレは……』
『
そんなの、なんの慰めにも成らない。
自分が、自分じゃなくなる……
そんな経験は『冷酷』という存在を知って、体験したことがあるけど、それは……まだ『自分』が存在してたから耐えられた。
……でも、もう……オリジナルとかいう『自分』は……俺の中には存在しない……
あっちに居た……神剣になる前の状態になっても……もう、俺は『
まったく、コッチの世界に来てからというもの……本当に碌な目に在っていない。
食事出来なくなったり、寝れなくなったり、スピリットを食べたり、他人の身体を乗っ取ったり、精神を犯されたり……
……挙句の果てには、偽者扱いかよ。
『……勘弁、してくれ……』
本当に、勘弁してほしかった。
―― 深く考える必要は無いんじゃね? 位置的に、本物は俺だが……オマエの方が『時神 雫』に近い……それだけだって ――
―― 偽者だろうが、本物だろうが関係無い……そんな事、オマエが一番知っている事だと思うけどな ――
ああ、自分以外の他人がそうなれば……間違いなく、そんな綺麗事だけの感情を抱いていた……
……けど、俺がそうなるなんて……思ってもみなかった……っていうか、こんな事態想像できるかっ!!
知らなかった……周りじゃなく、『自分自身』に否定される辛さなんて……知りたくなかった。
『………………』
―― まあ、悔しいのは解る……俺も感じてる ――
嘘付け……安い同情はよしてくれ……
……『本物』のオマエにはワカラナイ……
『偽者』だと……自分自身に存在を否定される辛さなんて……本物にはワカラナイ……
―― 殺さないって言ったはずなのに、殺されちまったが……『アイツ等』は約束を破ってない ――
―― あいつ等は、『人間の死』というモノを理解してなかった ――
訳がワカラナイ……本当にワケガワカラナナイ……
―― 例え話をすると、あれだ……『無機物の死』って奴を、人間が理解できないように……『人間の死』って奴を、神剣は理解できていなかった ――
『ああ、死んでしまえば……どれ程、楽になったことか……いっその事、殺してほしかった……』
前は、死にたくないって思ってたけど……これからの事を考えると、死んだ方が良かったという後悔が俺を襲う。
『俺は、これから永遠に付き合わされるんだろ? こんな空虚な自分を感じて……偽者って、烙印を自他共に押されて……永遠に苦しみ続けろっていうんだろ!?』
何が『鍵』をくれた恩人だよ……神剣って奴は……恩人に対して、こんな仕打ちを平気でする存在なのか?
『俺に恩義を感じてるのなら返してくれ!! 何も知らなかった頃の俺をっ! 本物の俺をっ!! 元の状態で、元の世界に返してくれっ!!!』
そんな事は、もう不可能だって解ってる……
けど……でも……何で……俺だけ……こんな目に……
『悪いことなんて……コッチの世界に来るまで……何も……悪いことなんて……して、ないのに……』
きっと、身体があったら……見っとも無く鼻水を流しながら泣いているだろう。
―― ………………………… ――
もう、精神的にボロボロの俺を見ているソイツは……言葉に詰まり――
―― ……混ざりすぎてるってのも、嫌だな……どっちに傾けばいいかワカラナイ時がある ――
――そんな言葉を口にした。
『……どういう、意味だよ』
―― オマエが俺に『本物』にはワカラナイって言った事と同じように……『混ざってない』奴にはワカラナイ感情だ ――
そうか……俺は『偽者』だから、『本物』の考えてる事なんて理解できないって言いたいのか?
ああ、そうですか……そうですね……どうせ俺は『偽者』だから『本物』のアナタ様の考えは理解できませんよ。
―― 拗ねるなよ……それと、先に宣言するが……今は神剣側に傾いてる ――
『だから?』
―― だから、謝罪と警告をしとく ――
『何を?』
―― 許せとは言わない……ただ、解ってほしい……目的の為に仕方が無い行動だって事…… ――
―― それと、邪魔したら、オマエでも容赦しないから、そのつもりで…… ――
『だから、何を?』
―― 決まってんだろ? 念願の『鍵』は取り込んだんだ……だったら、後は『器』を完成させるだけさ ――
その言葉を聞いた瞬間……自分の不幸を嘆いてた、甘ったれた思考が全部吹っ飛んだ。
『――テメェ!! 何言ってやがる!?』
『器』を完成させるって事は……アオの自我を壊すって、オマエが一番知ってる筈だろうが!!
それを、オマエが裏切るのか?
『本物』であるオマエが……アオを、アイツを裏切るのか??
そんな馬鹿な話があってたまるかっ!!
―― 仕方が無いだろ……『アイツ等』の意思の方が、オマエより…… ――
―― いや、『
―― 解るか?
―― そして、アイツを殺されて、秩序共の手駒になって900年だぞ!? ――
―― 1年も過ごしてない奴より、セルシアの方が大事なんだよ……俺は、いや、俺達はなっ!! ――
オマエの言いたいことは解る。
そんな想像もできない年数を言われなくても……理屈は解る。
だからといって、裏切っていいのか?
死んじまった契約者を救うために、今を生きてる契約者を裏切るのか?
セルシアという契約者が、どんな奴なのか……姿しか知らない。
――けど、そのセルシアって奴は、アオと瓜二つの姿をしてた。
もし、セルシアって契約者とアオが中身まで……その在り方まで瓜二つだとしたら……
……絶対にセルシアって奴は、絶対に喜ばない。
それでも、オマエは……アオを裏切ってまで、セルシアって奴を助けようって思ってるのかよ!?
―― 当たり前だ……『鍵』が手に入るまでの900年……俺は生まれたばかりの契約者を裏切り続けてきた ――
―― だから止まる訳には行かない……ここで止めたら、今まで裏切ってきた契約者達が浮かばれない ――
『それは……』
返す言葉がない……
だって、尤もらしい理由で……あまりにも馬鹿げてる理由だからだ。
裏切ってきた契約者達が、浮かばれない?
何を言っとるんだ、コイツは??
―― 俺の狂行を止めれるもんなら、止めてみろ ――
―― オマエだって、分かれたとはいえ、俺の思考の一部なんだからさ ――
『待てよっ!! オマエ、その理由、何かオカシイって気づか――っ!?』
言い終える前に、白い閃光が視界を染め上げた。
目が眩んだと同時に、遠くから声が聞こえた。
―― 雫、しっかりしてよ、ねえっ!! ――
『……アオ??』
その声は段々と大きくなる……同時に、周囲の情報が除々に読み取れてくる。
―― ねえってば! 起きてよっ!! ――
心配するアオの叫び……そして、流れてくる情報は……ベットの中??
更に範囲を広げると、詰め所の中に居る事が解った。
――きっと、塔から転落した俺を、アウルが運んでくれたのだろう。
起きなきゃ……そう思い、身体を動かそうとしてたら、神剣に戻っている事を思い出しだした。
アオの身体は寝ている……でも、アオの声が聞こえる……
『……なんで?』
――その疑問は、直に解決した。
「――、ぁ――」
―― 雫!? 良かったぁ…… ――
目覚めるアオの身体……安心するアオの声……そして、俺は神剣に戻っている。
「……アオ、か?」
『――!?』
恐れていた事態が勃発した。
奴が……冷酷と氷帝と融合したヤツが……アオの身体を乗っ取っていた。
「……どのくらい寝てたか、解るか?」
『おい、アオ! 聞こえるよな!?』
―― えっと、10分ぐらい……かな? ――
……聞こえて、無い?? ちょっ、冗談だろ!?
『アオ、なあ、解るよな!? 俺だ、雫だっ!!』
―― ハリオンお姉ちゃんは、鐘の音で起きて、そのまま外に行っちゃって…… ――
『聞こえないのか? マジで聞こえないってこと、無いよな!?』
―― その後、クルゥお姉ちゃんも起きて……私に謝って、出て行っちゃった ――
本当に……聞こえてないのか?
……嘘だろ……そんな……
「……じゃあ、俺達も行かなきゃな」
―― 雫、急いで……みんなの怪我はまだ直ってないの……早く行かないと…… ――
「知ってる、だから今のタイミングで仕掛けるんだ……」
―― ?? ――
間違い無い……コイツ、絶対何かを企んでる。
止めないと、本当に手遅れになる。
――確信とか、推測とかじゃ無く……これは絶対だ。
ソイツは、ベッドから起き上がり……ベットに掛けてあった俺を背中に収め――
「さて、行くか……今度こそ、地獄のような輪廻から俺達を解き放つんだ――」
――そんな言葉を紡いで……部屋を出た。
戦況は、誰が見ても絶望的だった。
敵は青・緑・赤で組まれた3部隊が交戦している。
そして、トドメと言わんばかりに黒・青・黒で編成された2部隊が増援として進軍中……距離的に、あと3分で合流するだろう。
対する此方は怪我人ばかり……
ハリオンの姉ちゃんがフル稼働で回復魔法を唱えてはいるが、疲労の所為で満足なマナを得られず、かすり傷程度しか癒されていない。
セリアの姉ちゃんとヒミカの姉ちゃん、ヘリオンのガキは接近戦で頑張っているが……ほぼ防戦一方の展開になっている。
オルファのガキは、魔法で援護しようとしても敵青スピリットのバニッシュ魔法を集中され、碌に援護も出来ていない状態だ。
――その光景を、ヤツは塔の上から眺めている。
―― 雫、早く……早く行かないと、みんながっ!! ――
「まあ、そう慌てるな……今出て行っても、あまり効率的じゃない」
「戦術としては、3分後……合流する直前に増援部隊を叩く」
「――それで増援部隊の危機を知った敵さんが慌てて引き返してるうちに殲滅、そして挟み撃ちに出来れば……まあ、なんとかなるさ」
それでも、五分五分の賭けだろう……3分の間、セリアの姉ちゃん達が負けないという保証も無い。
……残り2分……
セリアの姉ちゃんが敵の神剣魔法で大きく吹っ飛ばされた。
セリアの姉ちゃんが居なくなった穴から敵が雪崩れ込んでくる……敵が目指すのは街へと通じる門……
門はハリオンの姉ちゃんとオルファのガキが守護してるけど……あまり長く持たないだろう。
……残り、1分……
既に下は乱戦状態だ。
ヒミカの姉ちゃんは、脚を負傷……動けないなりに、神剣魔法を行使して援護をしている。
壁となっているのは瀕死に近いセリアの姉ちゃんとヘリオンのガキ……
ヘリオンのガキはセリアの姉ちゃんよりダメージが大きい癖に、更に速度を上げて敵をかく乱するだけではなく、居合いの速度もキレも増している。
――アイツはピンチになればなるほど強くなるみたいだ。
ハリオンの姉ちゃんとオルファのガキは、必死で門を守っているが……それも時間の問題……後、数十秒もしない内に突破されるだろう。
「……ギリギリだな、マジで……」
3分ジャスト……敵の増援は、もう目の前まで迫っている――
――そして、ソイツは行動に移す。
空虚から現れるのは、漆黒に染まったハイロゥ……
……それを限界まで広げた途端、大気中のマナは掃除機に吸い込まれる塵みたいにハイロゥへと吸い込まれていく。
吸い込まれた大量の大気のマナは、オーラフォトンへと変換され……闇となり、俺の刀身に集まる。
そして数秒後、敵の増援が合流した。
セリアの姉ちゃん達は絶望的な顔をしているが、コイツは勝利を確信した表情をし……低く腰を落とす。
「……らああああああああああああああああああ!!」
自分の存在を気づかせる為に、大仰な雄叫びを上げた。
アオの存在に気づいた敵スピリット……かなり動揺した姿が確認できる。
ソレも当然……いまアオに宿っているマナの総量は、この付近の大地に宿るマナに匹敵しているのだ。
――敵味方の注意がしっかりと向いたのを確認して、ソイツは塔から地上に向かって飛翔する。
圧縮した大気のマナをロケットブースターのようにハイロゥから開放し、弾丸のような速度で直線距離約600mという離れた距離を瞬時に詰める。
「――喰らい、やがれえええええぇぇぇぇ!!」
そして、勢いを殺さず、地面を抉るように裂空の太刀を繰り出し――
――ズガガガガガガガッ!! っと、何百という強力な地雷を一斉爆発させたような音と共に、敵の増援は吹っ飛んだ。
いや、正確に言うと……その凄まじ過ぎる一撃は、敵増援部隊全員の身体をバラバラに千切れ飛ばしたのだ。
『ていうか……作戦、違っ!!』
敵が引き返すまで殺さないんじゃ無かったのか!? つーか、なんつー威力だっ!?
――だが、これはこれで、功を制したようだ。
勝利を確信していた敵の表情が一瞬にして逆転し、茫然自失となり……絶望的な表情をしていた味方が放心状態となる。
当然だ……今の一撃は、高嶺の兄ちゃんの一撃を軽く凌駕する。
敵は、見たことの無い破壊力の前で絶望を感じ――
――味方は、何故アオがコレほどまでの力を有しているのか理解できないといったところだろうか。
「隙だらけだな……」
アオの頭上に、小さな青の魔方陣が複数展開され……そこから氷で出来た剣が精製される。
ソレを見て、敵は呆然としている自分に気づく。
――けど、気づくのが遅すぎた。
コンマ数秒の差で、速く気づいたセリアの姉ちゃん達によって……敵の殆どは、呆気無く殺されていたのだから。
剣でバッサリ斬られた者も居れば、魔法で薙ぎ払われた者……
……奇跡的に生き残ったのは、赤のスピリット一人だけだった。
――けど、その命も長くは持たないだろう。
そのスピリットの両足は焼けて炭化してるし……その状態で、ラキオス精鋭のスピリット隊を一人で出し抜ける訳が無い。
「……っ、くそ……」
脚を負傷して動けない赤スピリットを円陣で囲んでいる。
「……っ、……」
包囲されても、勝てないと解っていても……それでも、剣を構えるスピリット……
セリアの姉ちゃんは、一歩前に出て――
「……降伏するなら、命までは取らないわ……」
――そんな、らしくない言葉を口にした。
「――ちょ、セリア! 何を言ってるの!?」
「……………………」
セリアの姉ちゃんは、ヒミカの姉ちゃんの声を無視して、敵のスピリットを見つめ続ける。
「ふざけるなっ! 私はお前達なんかに屈しない!!」
「貴様だって解ってる筈だ……私達は人間の奴隷で、戦う為だけの存在だって事を!!」
故に、国を裏切れないと……自分は国の奴隷だから裏切れないと、そのスピリットは主張する。
しかし、セリアの姉ちゃんは……ソレは違うんじゃないのかと、そんな表情で言葉を紡ぐ――
「……私達は、本当に戦う為だけの存在なのかしら?」
「人の命令で、死ぬまで戦う事為だけの……本当に、それだけの意義しか持たない存在なの?」
――セリアの姉ちゃんの変化に驚いたのは、きっと俺だけじゃないだろう。
ヒミカの姉ちゃんも、オルファのガキも、ヘリオンのガキも……あの、ハリオンの姉ちゃんまで、驚いている。
「……なに、を?」
敵のスピリットも、かなり驚いてる。
同じスピリットなのに、なんでそんな事を言えるのか……
同じ差別を受けてきた筈なのに、なんでそんな考えを持つのかと……
「私達の手は、剣を握る為だけじゃない……」
「きっと、この手は……剣を握るだけじゃなく、他の何かを出来る筈だと……そう、思わない?」
その言葉には、聞き覚えがあった。
―― みんなの手だって、剣を握るためだけにあるんじゃない……スピリットも人も同じなんだよ、何も違わないんだよ!! ――
忘れるはずが無い……高嶺の兄ちゃんが、歪んだスピリットの存在意義に憤怒し、それを諦めて受け入れているコイツ等に贈った言葉だ。
他の皆も、どこか納得したような表情で事の成り行きを見守っている。
……高嶺の兄ちゃん……オマエ、凄いよ……
俺だって、スピリットの境遇に憤怒した時があったけどさ……
こいつ等の在り方を見て、心のどこかで……言っても無駄だと、そう思っていた。
でも、アンタの言葉で……その境遇をオカシイと思うスピリットが現れた。
――しかも、あのセリアの姉ちゃんが……だぜ? 本当に、スゲェよ……アンタ……
「……わたし、は……――っ、!?」
何かを言い終える前に、そのスピリットの側頭部にザグンッ……っと、氷の剣が突き刺さった。
何が起きたのか、そんな表情を作る間も無く……そのスピリットはマナへと消えた。
「――なっ!?!?」
皆の視線が、氷の剣が飛んできた方向へと集中する。
「なんつーか、らしくないぜ……セリアの姉ちゃん?」
――その先には、アオの姿があった。
―― し、雫……な、なんて事するのっ!! ――
アオの怒った声が、頭に響く。
「……アオ? 今、アオの声が……頭に……」
オルファのガキが頭に手を当てながら……聞こえたのは自分だけじゃないよねと、周りに同意を求めるように見渡す。
「……確かに、聞こえましたねぇ……」
ハリオンの姉ちゃんも、ヒミカの姉ちゃんも、セリアの姉ちゃんも、ヘリオンのガキも……アオの声は届いてるようだ。
―― え、……私の声、聞こてえるの? 今まで、聞こえて無かったのに…… ――
「そりゃ、俺だって日々進歩してる……それに、オマエの声が聞こえてないと、ちょっと面白みに欠ける展開になる」
『――ちょっと待てっ!! 俺の声は!? 俺の声は聞こえねえのか!?』
「――じゃあ……今、アオの身体を操ってるのは……雫なのね?」
――やっぱり、聞こえてな〜いっ!
「当然……で、セリアの姉ちゃんよ……一体どういうつもりだ?」
「それはコッチの台詞よ……なんで、殺したの?」
「はあ? 何言ってんの??」
「あいつ等は敵で、自分の意思なんて欠片しか持っちゃいねえ敵国の駒だぞ? んな道具なんかに情けを掛けも無駄だろうが……」
「――どう、ぐ……ですって?」
ヒミカの姉ちゃんの、殺気だった声が聞こえる。
――いや、この場居る全員が……その言葉で、殺気だっていた。
「おいおい……なんだよ、皆まで怖い顔してさ……そんな事、お前達だって自覚してるし、今更の事だろ?」
「それとも、なに? ……自覚してるけど、実は口に出されると気に障るとか?」
「…………っ」
言い返せないのは、事実だからだろう。
しかし、おかしな話だ。
道具だと、自分から受け入れてたスピリット達が……道具だと言われて腹を立てている。
――それは、つまり……高嶺の兄ちゃんの言葉は、セリアの姉ちゃんだけでなく……全員に、ちゃんと届いていたのだ。
「それに……お前こそ、今の段階で降伏を呼びかけるなんて正気か?」
「お前達は、人間に命令されるだけの都合のいい人形だ……属してる国が滅びるまで屈服しないってのは、解ってる筈だけど?」
「まさか、『求め』の契約者のガキ臭い言葉に感化されて忘れてるなんて……正気、笑えない」
だが、アオの身体を乗っ取ってるソイツは……それを良しとはしていない。
「正気に戻れよセリア、俺達は人間の駒として戦争をしてるんだ……ガキみたいな綺麗事を吐いて敵に情を向けると死ぬぜ?」
現状を忘れるなと……自分達は戦争をしているんだと……非情な言葉を放つソイツに、我慢の限界を迎えたヤツが居た。
「――そんな事、ありませんっ!!」
―― ヘリオンちゃん? ――
「さっきの人だって、解りかけてたのに……アナタが台無しにしたんですっ!!」
「ふーん、台無しねえ……本当にそうだとしたら、悪かったが――」
「――時にヘリオン、オマエ……本気で誰かを恨んだ事、あるか?」
「……え?」
「ある訳ねえよな……あったら、んな綺麗事を吐ける筈がねえもんな」
「いいかい、お嬢ちゃん……恨みの力を甘く見たらいけないぜ」
「虫を殺せない臆病者でも、どんなに穏やかな心を持っていても……簡単に、冷酷無比の冷徹な性格に変える力をもってる」
「『求め』の契約者も例外じゃない……恨みに呑まれたら最後、アイツだって相手がお前等でも、躊躇わずに殺すだろう」
「そんなの嘘です! ユート様がそんな事する筈ありませんっ!!」
「めでたい神経してるな、オマエ……じゃあ、例えばだ――」
「人質になってる『求め』の契約者の妹がラキオスの連中に強姦されたあげく殺されたとする」
「その事実を知った『求め』の契約者は、ラキオスに復讐を誓う」
「お前らは人間の命令で『求め』の契約者と殺し合う事になった……さて、ここで問題――」
「――果たして、『求め』の契約者は、邪魔するお前等を殺せるでしょうか?」
「そ、それは…………」
――考えるまでもない……答えは当然Yesだ。
躊躇する事はあっても、復讐を果たすまでは止まらないだろう。
「つまりは、そういうことだよ……」
「今さっき殺したスピリットだってそうさ……仲間を殺した連中と仲良く前線で戦う為に、国を裏切るとでも思ってたのか?」
「――ならねえよな、普通……なったとしても、常識で考えるなら復讐の為に仲間になったフリをして後ろから刺す可能性の方が高いって事さ」
「だから、敵に心を許してはいけないし……もちろん、味方にも許してはいけない」
「味方もですかぁ?」
「お前等だって見たろ? この街を占領するとき、お前等という敵と共に、仲間に攻撃されて死んで逝ったスピリット達の事を……」
「戦争が終わるまでは、せいぜい、敵味方に殺されないように疑心暗鬼で生きていくのが賢い生き方だ」
ハリオンの姉ちゃんの疑問を丁寧に答えていく、自称『俺』……
「そう……それが、アナタの本音なのね……」
「当然だろセリア、オマエだって解ってる筈だ……他人に心を許してはいけない、ってな」
『あ、あー、あぁ〜……』
今まで、俺が築いてきた『信頼』という名のネットワークがボロボロと音を立てて崩壊していく……
もはや再建は不可能な程に……ボロボロと……
「――とまあ、長話はこの位にして……クルゥの姉ちゃんはどうした?」
「…………………………」
ツンツンモードに入ったセリアの姉ちゃん……信用できない人に答える義理は有りませんという意思がヒシヒシと感じられる。
「セリア、真面目な話だ……下手したら生死に関わるからさっさと答えろ……」
「詰め所よ、アナタの隣に寝てたでしょうが…………って、生死??」
「そ、西の方からスピリットが複数……戦闘しながら、真っ直ぐこっちに向かってくる」
クルゥの姉ちゃんは、なんで合流してないのか……という疑問を捨てて、索敵モードに入る。
確かに、コイツの言うとおり……2km先に、戦闘しながらコッチに向かってくる反応を感知した。
――っていうか、索敵範囲の限界がかなり伸びてるね……なんでだろ?
「西って、イースペリアの方よね? なんで戦闘しながらコッチに向かってくるのよ??」
ヒミカの姉ちゃんの疑問は最もだ。
「んなもん、俺が知るか……もうすぐ目視確認出来る筈だが……今の内に回復しておいたほうがいいぞ、お前等……」
――どっちにしろ、巻き込まれることになるだろうから……っと、他人事のように忠告している。
ハリオンの姉ちゃんの魔法で、全快……とまでは行かないが、多少回復した所で……目視できる位置まで、ソイツ等はやってきた。
「あれは……」
見たことのあるツインテールの緑スピリットと、見たことのある仮面を被った黒スピリット……
―― ファーレーンお姉ちゃんとニムちゃん!? ――
あっちも、こっちと劣らないような傷を負っている。
目視確認できるのは、ニムニムと仮面の姉ちゃんだけ……
離れてる場所で確認できる数は14……内、2つの反応が殿を務めてるように12の反応を迎撃している――
――が、直に反応が消え……12の反応は、こちらに進行を再開した。
「はぁ、はぁっ……、みなさんっ、サルドバルドが、イースペリアにっ……!」
「落ち着いて、ファーレーン……一体、何があったの?」
「サルドバルドのスピリットが、いきなりイースペリアに進軍してきたんですっ!!」
「なんですって!?」
確か、イースペリアとサルドバルドという国は、ラキオスと共に『龍の魂同盟』という軍事同盟を結んでいた筈だ。
何故、同盟国でありながら攻撃を仕掛けてきたのかは、お偉いさんしか解らない。
「それで、私達は……伝令と、本隊に合流するよう……命令されて……」
「――お姉ちゃん……そんな事より、早くしないとディウムとレイルがっ!!」
聞いたことの無い名前……恐らく、さっき消えた2名のスピリットの事を言っているのだろう。
「お願いです……向こうに、敵を引き付けているイースペリアのスピリットを助けて――」
「――残念だが、その2人……ついさっき、殺されたぜ」
その事実を、バカ正直に、包み隠さず述べるヤツが居た。
――ニムガキは、敵意に近い視線で、アオを睨み返す。
「バカなこと言わないでよ、アオっ!! あの二人が、簡単に死ぬはずないっ!!」
「事実だ……それに、ほら……敵さんのお出ましだ……」
指で示した先には……大勢のスピリットの姿があった。
「……そん、な……」
膝から崩れ落ち……ボロボロと涙を流すニムニム……
「ニム……ダメ、今泣いちゃダメよ」
ファーレーンの姉ちゃんは、優しく……それでも、厳しさを感じさせる声でニムニムを叱る。
「でも、でもぉ……」
「いや、泣かせておけ……お前等も休んでろ……俺一人でなんとかする」
――そう言って、ソイツは敵の方へ向かって歩き出す。
「――え……ちょ、アオっ! 正気!?」
涙を流したまま、ニムニムはソイツの言葉に耳を疑う。
「正直……お前らが参加すると、出力を絞らなきゃいけないから辛いんだわ……だから、俺一人でいい――」
「――それと、ニムガキ……俺が誰だかまだ解らねえか?」
「……まさか……雫、なの??」
「そういうこと……じゃあ行くぜ?」
俺だけで良いよな? ……っと確認するように、セリアの姉ちゃんの方を見る。
「……ええ、アナタに頼るのは癪だけど……お願いするわ……」
「ああ……この後、とっておきのイベントが待ってるからさ……それまで、出来る限り体力を回復させておくんだな」
――そんな意味不明の言葉を残して……ソイツはたった一人で、敵陣に特攻していった。
| アオ・ブルースピリット【神剣覚醒】(LV.30) | クラス:アヴェンジャー | |
| ライフ:9000 | ハイロゥ:ウイング&ブースト・ハイロゥ | マインド:0 |
| 攻撃力:250% | 防御力:130% | 抵抗力:200% |
|
『冷酷』でも『氷帝』でも『雫』でも無い存在となった第4位の神剣 永遠者だった頃の記憶や戦闘情報を持ち、『身体能力上昇』のスキルはエトランジェをも軽く凌駕する。 得意技は、大気中の青マナを使用して『氷』を自由に精製したり加工したりする事や、低位神剣魔法を『ストック』すること。 また、『秩序』に属している永遠者の技と酷似したスキルが数多く存在している。 ブースト・ハイロゥとは、取り込んだマナをロケットブースターのように、ハイロゥから放出して加速を得る事から『雫【偽】』が銘々。 直線移動しか出来ないが、その速度は黒スピリットをも軽く越える。 圧縮したマナを放出しなければ、ただのウイング・ハイロゥである。 |
| 技名:裂空の太刀・滅 | ||
| ターゲット:全体【敵】 | 属性:青 | |
| 対HP効果:1000 | 最大回数:6 行動回数:1 | |
| マインドバランス:0〜10 | マインド変動:-30 | 効果:抵抗-200・行動-99 |
|
『大気の青マナ』の他に『オーラフォトン』を加えた、裂空の太刀・強化版 最大回数も増え、属性攻撃で、敵全体の行動を無効にする他、抵抗力も大幅にさげるという……もう、鬼としか言いようの無い技である。 |
| 技名:フローズン・アーマーX | ||
| ターゲット:変動【敵】 | 属性:無 | |
| 対HP効果:700 | 最大回数:16 行動回数:3 | |
| マインドバランス:0〜100 | マインド変動:±0 | 効果:無 |
| 周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする青スピリットの上位防御スキル。 |
| 技名: |
||
| ターゲット:全体【敵】 | 属性:青 | |
| 対HP効果:3000 | 最大回数:1 行動回数:1 | 発動:ディバインマジックタイミング |
| マインドバランス:0〜100 | マインド変動:-10 | 効果:無 |
| 『秩序』に属する永遠者の攻撃スキルを真似た技、その1 スットクしたエーテルシンクの神剣魔法を剣型に加工し、一斉に発動させる。 ―― 唯一の欠点は、回数が少ない事とアンチバニッシュスキルじゃ無いって事だけ。 『裂空の太刀・滅』と組み合わせたら、最凶コンボと化してしまうのは気のせいです。 |
|
|