永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
第11節 『存在意義』
―― 戦いは、数分も経たずに終わった。
数だけで見れば、1対12という数字は、圧倒的不利と感じさせるだろう。
12という数が、統率や連携が優れていれば……尚更だ。
だから、そいつ等は……つまるところ、油断していたのだ。
相手は同じスピリットで、しかも、一体だけ……数から見れば、苦戦することは、絶対に在り得ない。
―― 数秒も経たずにマナの霧に消えるのは明白だと……そう思って、油断していたのだろう。
だから、その油断さえ無ければ――
―― 少なくとも……抗う事も出来ずに殺される、なんてことは無かっただろうに……
―― 戦闘開始の合図は、地面の抉れる音だった。
放たれた裂空の太刀が、広範囲に渡り大地を砕いた結果……大量の土煙が舞い上がって、アオを含め、地上に居る敵全員の視界をゼロにした。
敵は、視覚情報を失い……頼れるのは、神剣から流れてくる曖昧な神剣の共鳴反応のみ……
―― 対する此方は、神剣本人が操っているのだ。
位置を伝える必要も無く……神剣以外の生物の反応も、半径10m以内の情報は問答無用で読み取れる。
故に、敵は何が起こったか解らないまま命を刈り取られ――
―― 土煙が晴れる頃には、地上に居た緑と赤スピリットは全滅していた。
空に上がっていた黒スピリットと青スピリットは、己の目を疑っていた。
7体も居たスピリットが、土煙と共にマナへと帰っていたから……
……その度し難い隙が命取りとなる。
煙が晴れた頃、ソイツは既に、20以上もある複数の魔方陣を一斉に展開させている。
動揺している敵の姿を見て、今がチャンスとばかりに対空掃射――
―― 5体のスピリットは、脳天・喉元・心臓を……寸分無く貫かれ絶命する。
故に、この戦いは……戦闘なんてもんじゃなく、一方的な虐殺だった。
空から降ってくる雨……数秒も経たずに消滅する血の雨や肉片を一身に受ける、漆黒の翼を背負ったソイツの姿は――
―― まるで、悪魔を連想させた。
血の雨や肉片は、やがて黄金の霧へと浄化し……大気に消える事無く、ソノ悪魔に取り込まれていく。
―― ごめんさい、ごめんなさい、ごめんなさい ――
涙声で、何かに謝るアオの声が響く。
「アオ、なんで謝る?」
―― 雫……本当に、何も感じないの?? ――
―― こんな、酷いこと、して……本当に……何も、感じなくなっちゃったの? ――
『……………………』
―― 正直に、言おう。
内臓がグチャグチャに散らばる光景を見ても……身体がバラバラに千切れ飛んだ奴を見ても……何も感じない。
目の前で、人が死んでいく姿を見ても……惨殺されてる光景を見ても、何も感じない。
見知らぬ他人が悲惨な死を遂げて、可哀想とか……
人殺しは、イケナイ事だから、やってはいけないとか……
……そんな感覚は、当の昔に麻痺している。
―― 人間の慣れというものは……優秀であるが故に、恐ろしい。
何時からだろう……スピリットのマナを喰らって、罪悪感を感じなくなったのは?
いつからだろう……目の前で死ぬ奴を見て、可哀想とか、そういう事を思わなくなったのは?
イツからだろう……人を殺す事に怯えるアオを見て……臆病者と、心の何処かで感じている自分がいたのは?
『……ごめん、アオ……本当に、ゴメン……』
気づいたら……何時の間にか、『命の尊さ』というモノを感じなくなってた。
もう、『命の尊さ』とは……どんなモノだったのか、思い出せないし――
―― 思い出せたとしても、きっと、今の俺では……理解できないだろう。
「酷い? アノ程度で?? 馬鹿言うなよ……あんなもん、まだ生温い方だっつーの」
―― …………雫…………なんか、変わったね…… ――
『…………っ、……………あ、ああ……そうだな……………』
この世界に来た時に比べると……間違いなく変わっただろう。
綺麗事だけを信じていた、あの頃の自分。
本当の絶望を、まだ感じてなかった……アノ頃の自分。
まだ、話し相手が少なかった、アオとネリガキとニムニムしか話し相手が居なかった……あの、頃の――
―― そう、騒がしくも平穏な日々を……何も知らないまま甘受していた、あの頃の自分が……とても羨ましい。
正直、戻りたい……
自分が、まだ自分だった頃に……コイツの存在を知らなかった、あの頃に戻れるのなら……例え、どんな犠牲を払ってでも、戻りたい。
あの、退屈まみれの輝かしい日々を……取り返せるのなら、取り返したい。
「なんだよ、言いたい事があるならハッキリ言えよ」
―― 言っても……今の雫には、解らないよ…… ――
「そうかい……」
本当に、映画を見ているようだ。
客席には、自分が一人……孤独で、寂しく、この映画を眺めている。
―― …………雫…………なんか、変わったね…… ――
その言葉を聞いた瞬間……本当に、泣きそうになった。
過ごしてきた退屈な日常が……どれほど幸せで、恵まれていた日々だったのかを……今更になって、心の底から思い知らされた。
ただ流されるまま……何とかなる、大丈夫だと……そう過信し続ける愚かさを……今になって、ようやく理解できた。
―― こんな結末を迎えたのは……明らかに俺の選択ミスだ。
『運命』とやらに、本気で抗わなかったから……何処か楽観してたから……こんな結末を迎えた。
もし、本当に抗っていれば……こんな結末は、訪れなかったと思う。
―― でも、もう遅い……気づくのが、明らかに遅すぎた。
「よお、終わったぜ……」
気づけば、ソイツは……皆と合流していた。
「…………………………」
ニムガキと仮面の姉ちゃん以外のみんなの目は……嫌悪と恐怖という、二つの感情を内包していた。
「雫……アンタ、何をしたの??」
そんな中……ニムガキが、ソイツに話しかける。
「ん? 何がだ??」
「みんなに、何をしたのかって聞いてるの……」
「……別に、何もしてないけど……まあ、少し口論になってケンカしたって所かね」
「本当に、それだけ……なの??」
「それ以外に何があるんだよ?」
「だって、皆の雫を見る目、普通じゃ――」
ない――と、を言いかけて……ニムガキは、その言葉を飲み込んだ。
「―― 何でもない」
「あっそ……」
ニムガキはそう言うと、ヘリオンの前に座り直す。
「ごめん、ヘリオン……治療の途中だったわよね……」
「いえ……気にしないで下さい……」
セリアの姉ちゃん達は傷だらけ……まだ、治療を施していないようだ。
「―― なんだ? お前ら、まだ回復を済ませて無いのか?」
「数分で済む訳無いでしょ……ヘリオンが一番初めよ……」
「ハリオンの姉ちゃんは?」
「さっきの戦闘でかなり無理してたから、強制的に休ませてるわ……」
確かに、ハリオンの姉ちゃんはヒミカの姉ちゃんに睨まれながら休憩してる。
―― っと、急に、アオの顔が不機嫌そうに変化していく。
目線の先に有るのは……ヘリオンから離れた場所に置いてある、第9位『失望』だった。
「あのさ、ヘリオン……さっき、オレが言った話……ちゃんと聞いてたか?」
「なにが……です?」
コイツに背を向けたまま、不機嫌そうに答える。
「味方にも、隙を見せるなって話だよ……神剣を手放したりして、急に襲われたらどうするんだって話……」
「襲われるって……そんなことする人、この中に居ませんっ!!」
ヘリオンが、更に不機嫌になる。
礼儀正しいヘリオンが、ここまで不機嫌さを表すのも珍しい。
―― きっと、コイツと絶望的なまでにソリが合わないのだろう。
「―― へぇ、それは……オレも含めて??」
「そうですよ……悪いですか?」
「どちらかって言えば、悪い事だ……こんな俺にも気を許すなんて……さては正気じゃねえな、オマエ?」
「――っ!!」
キレた……あのヘリオンの、堪忍袋が切れた……
……その証拠に、ふるふると背中を震わせている。
「アナタは……何の為に、戦ってるんですか? 何のために、強くなったんですか?」
「――はぁ?」
ソイツに背中を向けたまま、ヘリオンは語る。
「ユート様は、言ってました……仲間を守りたいから、大切な人を守りたいから戦うって……」
「自分の守りたいモノを守れるようになる為に、強くなるって……」
「……それが?」
「私だって同じです……皆さんを守りたいから、強くなりたいんです……」
「だから、アナタの忠告は聞けません……仲間を信じるなって、そんな変な忠告……私は聞きませんっ!」
それが、ヘリオンの答えだった。
「ヘリオン、確かにオマエの言う事は正しいさ……正しいけど、致命的に間違えてる――」
柄を掴む、そして、振り下ろす――
――あまりにも、自然すぎる……何気ない動作……
だからだったのか、誰も反応できなかった。
ビシャリッ……っと、ヘリオンを治療していたニムガキの顔に鮮血が飛び散った。
『……………………は?』
「……ぇ……あれ?」
右肩から左脇に斬られたヘリオンの上半身がズルリとスライドし……ベシャ……と、地面に落ちた。
―― ……え? ……え?? ――
『……なんの冗談だ、コレ?』
なんて、性質の悪い幻覚……
下半身は、気味悪いオブジェのように……赤い汚水を撒き散らしている。
ニムガキは、動揺もせず、放心状態のまま……その汚水を浴びていた。
周りの奴等も同じで……何が起こったのか、解らないと……そんな表情で固まってる。
その中で、何事も無いように言葉を紡ぐ奴が居た。
「オレはな、お前等と仲良しこよしの関係になるつもりは無いって事――」
「――こんな風にな、味方なんてモノを信じてると……呆気なく、簡単に裏切られて、死んじまう事もあるんだ」
その言葉は、ヘリオンに届いていない――
「……ぇ、……ぁ?」
――最後まで、何が起きた解らない表情をしながら、ヘリオンの体や鮮血が完全と霧へと還る。
……そして、大気に消えることなく、俺の刀身に吸い込まれてた。
「今度生まれ変わったら、気をつけるこった……記憶してるかどうかは謎だけどな」
―― あ、あ……いやあ゛あぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!! ――
頭に響く、狂ったようなアオの悲鳴……その声を引き金に、皆が放心状態から開放される。
先に動いたのは、ヒミカの姉ちゃんだ……俺を振り下ろしたままのソイツの首筋に『赤光』を当てる。
「……雫っ! 一体、どういうつもりっ!? ……いえ、さっきからオカシイって思ってたけど、一体どうしてしまったのよ?」
『やってないっ! 俺、やってない!!』
ヒミカの姉ちゃんは、『俺』が殺したと思ってる……でも、それは冤罪だ。
そんな事、してないし……しようとも思わない……
「首筋に神剣を当てたままってのは……返答次第では許すつもりか? 馬鹿じゃねえの!?」
「――っ!?」
ソイツは振り向くと同時に一閃――
――ヒミカの姉ちゃんは反対側の刃で防ぐも、衝撃により数十メートルも吹き飛ばされた。
「これもオマエ等の為だぜ。いいか、神剣に精神を奪われたスピリットはな、マナを喰らう為だったら手段は問わないんだ」
「まあ、敵味方の区別は絶対みたいだが……俺みたいな狂行に出る奴も、稀には居るって事」
「ヘリオンが身を持って証明してくれたお陰で、次からはハイロゥが黒化した味方のスピリットが味方の誰かを殺そうとしても冷静に対処できるだろ?」
良かったな……っと、ソイツは善行をして満足と言わんばかりの表情をして言いきった。
その態度は、明らかに……セリアの姉ちゃん達を挑発する行為だ。
「そう、アナタが……本来の『雫』だったのね……」
セリアの放った言葉の所為で、俺が言葉を失った――
『ばっ――、何冗談を言ってやがる!!』
なんで?? なんで気づいてくれないんだよ?
俺が、オマエに伝えた事を考えれば……普通、解るだろうが!!
なのに……なんで??
「恨むのはお門違いだ……何時間か前に忠告したよな? オレはもう、手遅れだって――」
「マナが欲しくて欲しくて……もう、止められないって――」
「――ソレを楽観したオマエの甘さが、ある意味ヘリオンを殺したんだ」
「……そうね、こうなったのも……私の責任かもね……」
『―― う……うそ、だろ……なあ、嘘だよな??』
セリア……オマエは……オマエだけは、コイツは俺じゃない存在だって、解ってくれるって……そう思ってたのにっ!!
「雫……私の最強の技を持って……アナタを殺してあげる……それが、せめてもの償いよ――」
『あ、あは……はははは……あははは……はははははっ!!』
もはや、笑うしかなかった……
俺の言葉は……本当に誰も届かない……
なのに、俺という顔を被った悪魔は……さらに状況を悪化させていく……
本当は、まだ……諦めてなんていなかった。
どんなに酷い事になっても……もう一回、俺が皆と話せれば……失われた信頼は回復するんじゃないかって……そんな希望を持ってた。
――でも、もう無理だ。
みんな、コイツの事を……『時神 雫』の意思として認識してる。
どんな事を言っても、どんなに誠意を見せても……もう二度と戻ることは無いだろう。
「―― はああぁぁぁああああ!」
セリアの姉ちゃんを構成する殆どのマナが『熱病』に流れて、オーラフォトンに近い青マナが発生する。
そして、トップスピードで突っ込んでくるセリアの姉ちゃん。
ソイツは、剣を構えることもせず……掌をセリアの姉ちゃんに向けて、突っ立ってて――
「―― 飛べぇ!!」
「―― っ、ぐぅ!?」
――遠当てを喰らい……呆気なく、数メートル近い距離を吹っ飛とんだ。
無事に着地したものの、『熱病』に宿した青マナが効果を失っていくと同時に……セリアの姉ちゃんの息が荒くなる。
「いくら最強の一撃だろうが……当たらなけりゃ意味がねえって事、覚えとけっ」
「……っ……」
その場に膝をつくセリアの姉ちゃん……
追撃しようと、ソイツは一歩踏み出そうとするが……
……ヘリオンが殺されてから、その場から動こうとせず、立ち上がらないまま此方を睨んでいるニムガキの存在に気づいた。
「……ぁ、ぅ……ぁ……」
ニムガキは、ソイツの目の前で……石像のように固まってる……
目は憎悪で染まってるけど……何故か、攻撃できないでいる。
「……さっきから固まってるけど、攻撃を仕掛けるのか仕掛けないのか、どっちなんだ、ニムガキ?」
「アンタ……アンタだけは……絶対に許さない……」
「じゃあ、攻撃すりゃいいだろ――」
「――最も、見かけによらず心優しいオマエじゃ、アオの身体を攻撃するなんて事は不可能だろうけど」
振り上げられる
―― ニムちゃん逃げてぇ!! ――
「―― ニムっ!!」
黒い残像がニムガキを間一髪で攫っていく。
それを見たそいつは、関心するように……ぴゅう♪ っと口笛を鳴らした。
―― ……ぅ、ぅぅ……なんで、こんな……コト…… ――
「全部、お前が悪いんだぜ……アオ――」
―― なんで? なんで私が悪いの? ――
「スピリットを殺さないとか抜かすからこういう事になる」
「お前がもう少し積極的だったら、ヘリオンは死ななかったかもな……」
―― 私の……所為?? ――
「極端に言えば、そうなるかな?」
コロス……コイツだけは、絶対コロシテヤル!
よくまあ、そんな都合の良い言葉を……いけしゃあしゃあと語れるもんだな!!
「アオ、ごめんっ!」
急に後ろから聞こえた声に反応したソイツは、後ろを振り返る――
―― ソコには、赤の魔方陣を展開させているオルファのガキの姿があった。
「いぐにっ――」
「――甘いなっ!」
手を軽く振っただけで、弾丸の様に放たれるボーリングの弾並の大きさを持つ氷塊――
「――しょ――っ!?」
神剣魔法発動直前に氷塊はオルファのガキを直撃――したのだが……触れた瞬間、氷塊は風船みたいに砕けた。
オルファのガキにダメージは全く無い……無いのだが、力を抜き取られたみたいに地面に膝をつき、赤の魔方陣は虚空へ消えた。
「悪いな、オルファリル……神剣魔法の早撃ちは、得意中の得意でさ――」
「―― 神剣魔法で先手を取り合うことに関しては、俺は全神剣中最強なんだわ」
「自慢じゃないが――神剣魔法の早撃ち勝負だったら、例え『天の位』を司る神剣だろうと……俺は負けない」
―― 『天位』……それは、無数にある神剣の中でも『最強』と謳われる称号の一つである。
神剣の順位は一位〜十位まで存在する。
特別に強い力や、群を抜いて特殊な能力を持っている神剣には、順位制の位から除外され、最強を意味する称号を与えられるのだ。
その称号は、全部で3つ……『天位』『地位』『鞘』……
誰が名付けたのかは解らないが、その位を司る神剣は、全ての神剣が一斉に挑んできても返り討ちにするような実力を持っているらしい。
ついでに言うと……『天位』と『地位』の神剣は対立してるとかなんとか……
―― そんな事……今は、本当にどうでもいい話なんだけどなっ!!
ソイツは、力無く地面に片膝をついているオルファのガキに向かって疾走する。
オルファのガキは気づいてるけど、身体が動かないらしく……抵抗できないまま、迫る斬撃に怯えるように両目を瞑る。
――瞬間、割り込んできたハリオンの姉ちゃんの障壁によって……その斬撃は止められた。
「雫さん、もう、止めて下さい〜」
「――じゃあ、オマエから逝け!」
障壁に手を当て、零距離から放たれる氷塊――
――避けれる筈も無く、直撃したハリオンの姉ちゃんは、オルファのガキと同じように崩れ堕ちる。
「――させるかぁ!!」
二人にトドメを刺そうと、俺を振り上げたソイツは……側面から迫るヒミカの姉ちゃんの存在に気づき――
――振り返りざまに、ソイツの頭部に迫る『赤光』をギリギリで受け止めた。
「へえ、足に怪我してたと思ったけど……いつの間に治療したんだ?」
「休憩中に、ハリオンが強引にね……ファーレーン、今よ!!」
「アオちゃん……ごめんなさい……」
後ろから聞こえる仮面の姉ちゃんの声――
「やばっ!?」
放たれる居合の太刀――
――しかし、圧縮したマナがハイロゥから噴射され、その風圧をモロに受けた仮面の姉ちゃんは……太刀が届く前に吹っ飛ばされた。
それだけじゃない……ブーストの力を味方にした体当たりでヒミカの姉ちゃんも同時に吹っ飛ばしたソイツは、そのまま離れた場所まで移動し――
「そろそろトドメだ! 一気にコロシテヤル!!」
――20もの青の魔方陣が一斉に展開された。
魔方陣は、氷の剣を精製し――
「――させない、間に合ってっ! サイレントフィールド!!」
――マナが凍結したことにより、青の魔方陣は凍りつき……精製中であった20の氷で出来た剣はガラスのように砕け散った。
「ちっ……!」
「……もう、諦めなさい……アナタに勝ち目は無いわ……」
セリアの姉ちゃんが、最終告知のように……ソイツに言い放つ。
「よくもまあ、大気のマナを凍結させただけで強気になれる」
「事実よ……アナタの剣技は、私達より劣っているのは明らかだし――」
「――お得意の神剣魔法さえ使えなかったら……傷だらけの私達でも、十分に勝機はある」
「……剣技で劣ってる? そりゃそうだろう……神剣を武器にするのは、俺のスタイルじゃない」
セリアの姉ちゃんの表情が、負け惜しみをするなと語っているが……
……コイツの言う事は事実だ……コイツは神剣を武器にして戦うヤツじゃない。
コイツの本当の武器は……たしか――
「そんなに、俺の剣技が見たいなら見せてやる」
「ま、歯止めが効かなくなるからあんまり使いたくないんだけど……お望みとあれば仕方が無い」
そう言って、ソイツは……俺を鞘に収め……詠唱を始める。
「我が内に眠る闇を縛りし黒き枷よ……『流転』の永遠者より受け継いだ、冷徹なる殺意を解き放ちたまえ――」
「――
バリバリと音を立てながら、ハイロゥが凍結し、氷柱が生えていく。
ハイロゥだけでは留まらず、アオの身体にも氷は浸透し……首から下の身体を全ての見込み……氷の鎧が姿を現した。
『――オマエ、それ天使なんてもんじゃないだろっ! どっからどう見ても悪魔じゃねえか、ソレ!!』
鎧のフォルムは、極めて斬新……
天使のようなハイロゥは氷漬けとなり、氷で出来た翼は悪魔の翼みたいな形で、体中に生える氷柱は天使じゃなく悪魔と言ったほうがしっくりくる。
ソイツの両手から、青の魔方陣が出現し……2つの氷で出来た剣が出現する。
「――なんで? 大気のマナは凍結してる筈なのに!?」
「セリア……俺の昔の名は『氷帝』だぞ? いくらマナが凍結しようとも……それは『青』の属性だし、俺に操れない『氷』なんて存在しねえよ」
そう言って、ソイツは精製された二刀の剣を構える。
「そんじゃ、いくぜ……痺れるような悲鳴を上げてくれる事を期待する」
セリアの姉ちゃんに踏み込むソイツの動きは……明らかに今までの動きとは違っていた。
まるで、水が流れる様な動きで斬撃を繰り出す。
――狙ってるのは急所では無く、最も痛覚を感じられる部分を正確無比に探り当て、集中的に切り裂いていく。
「づああああぁぁぁあ!?」
「もうちょっと痛そうに叫べねえか? 今のは40点って所だぜ?」
ワザと殺さないで、ジワジワと苦痛を与えながら弱らせていく……
相手の悲鳴を聞いて、嬉しそうに、更なる悲鳴を求めて急所を外しながら切り刻んでいく……
―― 止めてっ! お願い!! もう止めてよぉ!! ――
アオの声を無視して、まるで狂戦士のように、無差別に剣を振るう――
――そして、その度に、強烈な悲鳴が響き渡る。
正直、頭がおかしくなりそうだ……
―― やめて、やめてぇ、やめてぇぇぇええええええええええ!! ――
アオは、ずっと叫んでる……
……もう、壊れたんじゃないかって程……泣き叫んでる。
『うるせえ……』
周りの悲鳴とアオの泣き声が重なって、頭が壊れそうだ……
―― やあああ゛あああああああああ!! ――
だから、うるせえ。
―― ああああああああああ、ああああああああああああああああああ!! ――
『うるせえって、さっきから言ってんだろ!』
黙ってろよテメエ等
頭が焼け焦げそうなんだ
どうしていいか解んねえんだよ
俺だって何が起こってるのかサッパリなのに
どいつもコイツもみんなコイツを俺だって認識しやがって訳わかんねえ
ああっ、くそくそくそくそ――
『つーか、いい加減にしろよテメエ等あああああああああああああ!!』
――俺の何か限界を迎え、何が弾け飛んだ。
何かが砕ける音と共に……五感が回復し――
――気づけば、見知った病室の床に……仰向けで倒れていた。
『――っ、病室!?』
オーバーヒートした頭を、瞬時に落ち着かせる。
ここは、見たことのある病室……ただ、気温が冷凍庫の中みたいに下がってるけど……何度も訪れたことがある風景……
間違いない……ここは、雫世界だ。
――そして、遠くから……馬鹿みたいに泣き叫ぶアオの声が聞こえる。
『………………』
アイツは言った……邪魔するなら、容赦はしないと……
『……っ、――上等!』
だから、どうした!?
俺こそ、容赦はしない。
人の人生をメチャクチャにして、無罪の罪を人に擦り付けて、ヘリオンも殺して――
――挙句の果てには全員殺すつもりでいやがる奴に加減なんて要らない。
だから、アイツをコロス……どんな理由が有ろうと、もう絶対に許さない。
『……覚悟しとけよ、アイツ……』
病室を後にし、アオの声がする方向に向かって走り出す。
意外な事に、なんの邪魔も無く……あっさりと、冷酷の本拠地であるアオの部屋に辿り着いた。
――アオは、前みたいに……氷の中に封印されていた。
前と違うのは、今のアオには意志が有る……氷の中から外の世界を、泣きながら鑑賞している。
『…………』
冷酷は居ない……ここに居るのは、俺とアオだけ。
――じゃあ、今がチャンスじゃないか。
そう思って氷に触れると……アオを覆っていた氷は簡単に砕けた。
「あ゛ああああああ――、? ぇ……あれ?」
解き放たれ、風景の急変に戸惑っていたアオだが……俺を視界に入れた瞬間、掴みかかってきた。
「雫っ!! もういい加減にしてっ! もう止めて! 私の身体を返してよっ!!」
『……………………ああ、その為に、俺は来たんだ』
この惨劇の犯人は、俺じゃないって……伝えたかった。
――でも、そうしたら、説明に時間を取られることは明白だし……なにより、今は一刻を争う。
セリアの姉ちゃん達が殺されるのも時間の問題だし……なにより――
「――よう、遅かったな」
『…………』
――コイツに見つかる前に開放したかったんだが……どうやら、無駄な心配だったらしい。
「やっぱり、まだ寝ぼけてたみたいだわ……」
「あんな手間隙掛かるイベントを起こすより、ここでアオを殺せば、簡単に『器』は完成するんだって……思い出したよ」
実体を持った20を越える西洋剣が……奴の背後に浮いている。
俺は、アオを庇うように前に出る。
「……あの時の……もう一人の雫?? じゃあ、今、私の身体を操ってるのって……」
「ご名答……で、そっちに要るのがアオが良く知ってる雫って事だ」
『……………………』
……偽者だけどな……
でも、今は関係ない――
――今重要なのは、どうやってコイツから逃げ出すかって事だけだ。
……それに、腑に落ちないこともある。
いや……とにかく時間を稼がねば……隙を見つけて、一気に脱出してやる。
「どうした? なんか、腑に落ちない顔をしてるな、オマエ……」
『じゃあ聞くけど……なんでアオを殺さなかった? ここはオマエの世界で、アオはここで動きを封じられていた』
――殺すことは何時だって出来たはずなのに……なんで俺が来るまで待ってたんだ??
「種明かしするとさ……さっきアオを覆っていた氷な……アレ、俺じゃ壊せないみたいだわ」
『……は?』
「あれはさ、アオの意思を封じる枷じゃなくて、アオを『神剣』から守る為の殻みたいなもんだったらしい」
……なんだって??
「ここは、お前が訪れた事により出来た世界だ……なんで出来たのかは謎だけど、お前の心理世界そのものなんだよ」
「だから、俺達が幾らアオを殺したいって願っても……『時神 雫』という個人の意思が同意しない限り、あの氷は壊せないって事……」
隙を見せてはいけない……イケナイというのに……頭が再び真っ白になった。
『じゃあ、オレという存在を作った理由って……』
――『殺さない』という約束とかじゃ無く……アオを覆っていた氷を砕くために……それだけの為に??
「いや、勘違いするなよ……オマエを残したのは、純粋な誠意だ――まあ、喜ばれなかっけどさ」
「……で、この事実に気づいたのは、お前を作り出した後だ……その辺り、信じてくれるとありがたい」
そう、言われてもな……結局は利用したんだろ……オマエは……
「それで……オマエは絶対にアオを開放しようとする為に、ここに来るだろうと踏んで……隠れてたわけだ」
やられた……
……なんで、もっと深く考えなかったんだ……オレは……
邪魔すると容赦しないって言ってたのに……すんなり通す訳ないのに……なんで……オレの、馬鹿……
「まあ、そう落ち込むな……結果的に、またオマエに助けられて……なんつーか、オマエ個人に、本当にナニカをしてやりたいんだ……」
『じゃあ、オマエを一発殴らせろ……それと、こんな馬鹿げた復讐劇は止めて、さっさとアオに身体を返しやがれ!!』
「それ無理だって言ったろ……それに、俺なりに考えたんだけどな――」
「――アオを差し出すなら、お前が望んだ通り……『元の世界』に返してやっても良い」
『………………………………は?』
その言葉を聞いた途端、コイツを殺すまで収まらないと思っていた怒りや憎悪が、跡形も無く消失した。
『――元の世界に……返れる??』
「鍵はもう、俺の手元に有る……だから、お前が望むなら、返してやってもいい……」
―― それは出来ない。
お前にアオを渡せば、アオは間違いなく殺される。
だから、出来ない……確かに帰りたいけど、アオの方が大事だから――
―― 前のオレだったら……そう言って、断っていたのかもしれない。
『……返してくれるって……言うけどさ……その言葉自体、嘘かもしれないだろ? そんな言葉、信用出来ないぞ……普通……』
もしも……もしも、だ……アオを渡すのを断ったとして、どうなる?
ここに残って、アオを助けるとかほざいても……目の前のコイツに瞬殺されて、二人とも死ぬ……
運よく、コイツを倒したところで……再び、アイツ等と会話できるようになっても――
――今まで築き上げてきた『信頼』というモノは、跡形も無く崩れている。
オレじゃなく、目の前に居る奴が起こした行動だと言っても……おそらく、誰も信じてくれないだろう。
皆が認識してる『雫』って奴は……それはそれは、酷い奴なのだ。
ヘリオンを殺して……皆を裏切って、殺そうとして――
――アオが死ぬって解ってるのに、自分の願望の為に渡そうとしている……
……そんな……冷酷で、残酷で、無様な、自分勝手な人間なのだ。
だから、オレがここに残っても……辛いだけじゃないのか?
「確かに……嘘じゃないって証明できるモノが無いもんな……」
『……だろう?』
「でも、それでも信じてもらうしかない……俺に協力して向こうに帰るか、邪魔をして二人仲良く殺されるか……」
『………………』
「協力するなら、俺の名に誓って約束する……お前がここで体験した記憶を全て消して、何も知らなかった頃のままの状態で、お前をハイペリアに帰してやる」
本当に……アノ頃に……戻れるのか?
何も……知らない……あの、日常……に??
『………………………………』
考えるまでも無い――
オレは、帰りたい……こんな狂った世界に、一秒だって居たくない。
その願いを……アオを、アイツに渡せば……叶えてくれる……らしい。
「まだ渋るか? じゃあ、オレの知識を付けて飛ばしてやるよ……正直、神剣にあるまじき破格のサービスだ」
『……………………』
――神剣の知識……超人的な身体能力を引き出す知識と神剣魔法が向こうで使えれば、それだけで華々しい未来が約束される。
そうだよな……ここに残るより、帰ったほうが……俺の為になる。
アオをコイツに渡したという罪悪感も綺麗サッパリに消してくれるって、言ってるし……
なにより……俺の居場所は……もう、ここには存在しない……
だから、迷うことなんて……ないじゃないか……
「ねえ、どういう……こと?」
『…………………………』
――アオを渡したら……何もかも忘れて……もう、二度と戻れないと思った、アノ世界に……戻れるんだ。
「ねえ、雫? 帰るって……どういう……事?? 私を渡すって……何??」
『…………………………』
アオは……オレが偽者だって、まだ知らない……本物と思い込んでる。
だから、オレが偽者だと知れば……きっと悲しむだろう……
だから、アオと正面から向き合って……俺は――
『なあ、アオ……アオは、俺を……嫌いになったよな??』
「……え?」
最低と、そう思われても良い――
『ヘリオンを、殺して……いま、皆を、殺そうとしている俺を見て……嫌いに、なったよな??』
たとえ、アオを裏切った事を忘れなくてもいい……自己嫌悪に溺れて、人生を楽しめなくてもいい――
『皆を裏切った俺を……自分の為に、お前を差し出そうと、考えてる俺を――』
――帰れるなら、何を代償としても、オレは……帰りたい。
『――そんな最低な俺を……まだ、信じてるとか……そんな馬鹿な事……考えて、無いよな??』
だから、首を縦に振って欲しい……
そしたら、もう、この世界から……オマエ達の前から……消える事ができる……筈なのに……
「雫は、何もやってないんでしょ?」
『――違う……ヘリオンを殺したのも、みんなを殺そうとしてるのも……間違いなく、オレの……『本物』の、意思だ……』
頼む……頼むから……一言だけでも良いから、俺を罵ってくれ……
そうすれば、此処に残ろうって思う……馬鹿な選択肢が……消えてくれるのに……
…………なのに……この馬鹿は……それでも――
「じゃあ、なにか……理由があるんだよね?」
「ヘリオンちゃんを殺しちゃったのも……ぜったい、何か理由があるんだよね?」
「――だから、そんなに……辛そうな顔で泣いてるんだよね??」
――なんで、コイツは、こうも……俺を美化しているんだろう?
『……恨むからな、アオ……一生、恨み続けるからな……』
馬鹿な選択を選ぼうとしてる事は解ってる……素直に帰る事が、一番幸せになれる事も知ってる。
――でもさ……やっぱり俺には無理ですよ。
どんな破格の条件を出されようが……この先、どんな辛い現実が待ち受けていようが――
俺を愚直過ぎる程信じてるアオを……裏切るなんて事――
――俺には……出来ないよ。
『悪い、答えは――』
「――NOだろ……解ってたけどさ……」
『――、ぎっ……!!!?』
急に、息が出来なくなった……
ピシャリッ……と、アオの顔に……鮮血が滴れていた……
「―― シ、ズク?」
俺の胸から……氷の刃が生えていて……アオの額に刺さるギリギリで止まっていた。
頭は混乱しているというのに、状況は一瞬で把握できた。
背中から心臓めがけて剣が突き刺さった……それだけの事――
――後ろを振り向くと、20近い剣の切っ先が……オレ達に向いていて……
『「――アオっ、逃げろっ!!」』
アイツの声と俺の声が被った事を気づいた時……更に3つの刃が俺を串刺しにしていた。
それ以外の刃は……明後日の方向へ飛んでいく――
『……ご、ぶっ……!』
状況が、良く……把握できない――
俺は、何故か……アオを庇うように突っ立っていて……既に手遅れの傷を負ってて……
……対するアオは……狙われていた筈なのに、何故か無傷で……
その事実を……何処か理不尽と感じる反面、本当に良かったという安堵と共に……俺は自分の血溜まりに倒れこむ――
「……し、ず……く??」
アオの声が……凄く遠い……
体中に走る、あらゆる激痛が曖昧な痛みへと変化していく時……ふと、昔……誰かに言った台詞を思い出した。
―― お前やナナルゥの姉ちゃんみたいに……自己を犠牲にしてまで護るなんて……俺には出来ないよ ――
だよな……普通、出来ねえよな……
……出来ないって……そう、思ってた……筈……だったんだけど、なぁ……
いつの間にか……俺の中で、アオは、俺自身よりも大切な存在に成り上がっていたみたいだ。
「嘘、だよね? シズク……ねえ、雫ってばぁ……」
身体をユサユサと、力なく揺らされる……それが、心地よくて……眠気を誘う。
「ひ……ぁ、ああ、あ――や、やだ、たすけて、誰か、お願い、雫を、雫が、あ、ぁぁああああ!」
アオが……再び取り乱してる。
ソレを見て、凄く嬉しいと思うのは……何故だろう?
「いや……死なな、いで……死なないで、お願い、雫っ!!」
泣きながら俺を激しく揺さぶって、死なないでと言ってるアオには悪いけど……実を言うと、俺はもう満足だったりする。
「やだ……しっかりして、ねえっ! 消えないでよっ!!」
冷酷と融合する前のあの時の未練を ――
―― 最後に、オマエと話したいという未練を果せたから ――
永遠にコイツと付き合って行かなくても済むから ――
―― 俺は、もう……満足だ。
偽者として創られた俺を……まるで『本物』が死ぬみたいに悲しんでくれる奴が居る。
それだけで、本当に、十分なんだ……
―― これ以上何かを望むと、罰が当たりそうな気がする。
だから……心残りがあるとすれば、一つだけ……
……アオを、守れなかった……
俺が消滅したら……きっと、俺の後を追うように殺されてしまうのだろう。
逃がさないと……アオを、コイツから……遠ざけないと――
ぼんやりと、何も考えられなくなっていく中……奴の表情が見えた。
頭を片手で押さえながら、頭痛に苦しみながら……涙を流している。
『そっか…………よか……った……』
……希望は……まだ、あるかもしれない……
『本物』は、確かに生きている。
大半は神剣と融合してしまってるけど……酷い奴になってるけど……
……それでも、確かに『本物』の俺は、アイツの中で生きてるのだ。
消える寸前になって解った……てのは、悔しいけど……
……『本物』のオレは、融合した意思の中で、一生懸命に抗ってる。
本来なら全弾直撃コースだった剣が、数本しか刺さらなかったのが良い証拠だ。
――だから、消えるのは……怖くない。
『偽者』が消えても……『本物』が、まだ、なんとかしてくれる。
だから、アオも……きっと、立ち直れる筈だ。
『本物』が、ちゃんと、頑張れば……きっと、まだ、なんとかなる。
――こいつの狂行を止められるのは……きっと、『本物』の『時神 雫』だけだ。
だから、オレは……オレの、出来ることを――
――『本物』の背中を……押さなければ……
『本物』から生まれた……『偽者』が、押さないと……な……
死ぬのは、まだ早い……最後の大仕事を……片付けてからに……しないと……
『……聞こ、えるだろ? アオ……が、殺される前、に……オマエが、アオ、を、逃がすんだ……』
「殺そうとしてる本人に言うセリフじゃねえと思うけど?」
――テメエなんかに……言ってねえ……黙ってろっ!
『俺は、もう……ダメ、だけ、どっ……! オマエは、まだ……生きてる、だろ?』
除々に停止していく思考……それでも、なんとか言葉を捜して、口にしていく。
『抗え、よ……お前、まだ……全力、で……抗って……な、いっ……!』
『……た、たかが……神剣……如きに…………負け、るな、よ……………………』
薄くなりすぎて消える寸前の身体と死ぬ一歩手前の意識が、次の段階へと移行する。
『…………………………』
そんな中、頭を両手で押さえ、蹲ってる俺の姿が、見えた。
……でも、それは一瞬……視界はもう、闇に染まっている。
―― そして、今度こそ……自分は、もう、お終いだ。
ざまあ見ろ、冷酷……何もかも思い通りに事が運ぶと思ったら……大間違いだ。
――きっと、今頃……本物の俺が……お前なんかを、コテンパンに倒して……アオと、仲直りしてるはずだ。
――そう、思いたい。
でも、まあ……結果はどうなるか解らないけど……過程は上出来だよな?
アオを身体を張って守って……真打ちの背中を押した。
『偽者』には上出来過ぎるくらいの役目は果たした……後は、『本物』が何とかしてくれるのを祈るだけ。
………だから………………もう……………休んで…………………良いよな?
俺、胸を張って……逝ける……よ…………な?………………………………………………………………
―― 逝ける訳無かろう……汝はまだ、役目を果たしていない ――
『……え?』
そんな声が聞こえた瞬間……温かさに包まれた。
―― 小さき妖精を守るのであろう? こんな所で、朽ち果ててどうする? ――
活力が戻る……思考も視界も意識も、加速度的に回復していく。
目を開けた時、消えかけた俺の身体が蒼の光に包まれているのを見た――
――それだけじゃない、光に包まれた俺の身体は、瞬く間に実体を帯びていく。
「……っ、っ……づ……な、なに、が?」
激しい頭痛に襲われているソイツも……何が起こったか解らないようだ。
光は、完璧に実体を取り戻した俺の両腕に収束し……形となって君臨した。
透き通るように蒼い篭手――
――何の装飾も施されてないシンプルなフォルム……なのに、猛々しさと気高さを宿している。
篭手から流れてくる力……
『これ……知ってる……』
冷たいようで温かく、神々しい威圧感、そして気高さと優しさが混ざり合ってるような……そんな力を……忘れるはずが無い。
『……サード……ガラハム??』
―― 情けなくて見ていられんのでな……不本意ながら、力を貸してやろう ――
『なんで? オマエ……死んだ筈じゃ??』
それに……俺は、偽者なのに……なんで??
―― 本物か偽者か……そんな事は、関係無いのだ ――
―― 汝が『時神 雫』として、我が友として、我が友を守ろうとしている……だから、力を貸す……それだけだ ――
涙が出そうになる。
なんでこう……つまんねえ事で悩んでいたのか……
偽者なのに、涙を流しながら『死なないで』と願ってくれた奴と……偽者なのに、俺を友と呼んでくれる奴が現れて……やっと解った。
『馬鹿だな、俺……本当に馬鹿だ……』
関係無かったんだ……偽者とか本物とか、そういうの……
本当に大切なのは、其の『在り方』……
この意思は偽者でも、本物と同じ『有り方』なら……紛れも無く、その意思は『本物』だ。
だから、自分に自分自身を否定されても、目の前に本物が存在しようと……俺は、俺だ。
アホらしい悩みに決着を付けて、俺は目の前に居る奴を睨み付ける。
『形勢逆転って奴だな……『氷帝』……いや、『冷酷』さんよ……』
「たかが門番の力を、しかも半身程度受け取っただけで……いい気になってんじゃねえよ……」
「ついでに……俺は、本物の『時神 雫』でもあるんだけど?」
―― 半身程度の力?
―― まさか……受け継いだのは、それだけじゃないし……オマエを『冷酷』と呼ぶ確信もある。
『違わないだろ? オマエは『時神の力』と『時神 雫』という人格が宿っただけで、融合したと思い込んだんだ』
完全に融合したと言うのなら……オマエが取り込んだ『時神 雫』という意思と対立する筈が無い。
『オマエは、『時神 雫』の真似をしてる『氷帝』だった頃の記憶を取り戻した『冷酷』なんだ』
『ついでに……俺には守り龍様の意思が憑いてるし、オマエは『もう一人の俺』という毒が憑いてる……勝てる確立なんざ、万が一にも無いな』
『そういう訳で、返してもらうぞ……俺から奪っていったもの全部……そう、全部な!!』
俺は踏み込むと同時に駆ける ――
―― 『冷酷』は舌打ちをしながら西洋剣を召喚し、俺を迎撃するために低く腰を落とす。
「それだけの要素で勝てると思ってんじゃねえよっ! 舐めんな、ボケ!!」
助走を付けての渾身の右ストレートと、ソレを真っ向から迎撃する西洋剣がぶつかり、火花が散る。
衝突した反動で、一方後ろに後退しながら斬撃を繰り出す冷酷……ソレを左手の甲で流して、逆の手で掌底を繰り出す。
――肘でガードされた瞬間……世界が廻った。
『――んな!?』
「――取った!!」
足払いされたんだなと、気づいた瞬間……西洋剣を俺に突き刺す形で倒れこんできた『冷酷』の姿が見えた。
――ソレを間一髪で避ける。
『あ、あぶねぇ……』
「言ったろ? 俺は本物の『時神 雫』だって……オマエの攻撃パターンなんざ、お見通しなんだよ」
『……そうかい』
……嫌だな……心理戦突入だよ……
どっちが裏をかけるか……苦手なんだよな、頭を使いながら戦うのって……
「さっきの勢いはどうしたんだ、あぁ?」
――すんません、正直、調子に乗りまくってました。
―― 情けない…… ――
『うっせぇなあ……』
……で、真面目にどうしよう??
「雫、頑張れ!! そんな奴に負けないで!!」
アオ……オマエは知らないだろうけど……向こうも、一応……『俺』なんだぞ?
その言い方だと、どっちを応援しているのか解らんだろ……
――っと、そこで閃いてしまった。
『そうだ、そうだよ……頑張れ、もう一人の俺! そんな奴に負けんな!!』
「――っ!?」
『――隙あり!!』
硬直したその隙を見逃さず……ソイツの顔面に、渾身のストレートが炸裂――結果、2バウンドしながら、かなり吹っ飛んだ。
「テ、テメェ……卑怯な手使いやがって……」
モロに入ったようで、起き上がろうとしても……なかなか起き上がらない『冷酷』……軽い脳震盪でも起こしてるかもしれない。
―― まったくだ…… ――
……っていうか、オマエまで同意しやがりますか?
『はっはっは、戦力的に劣ってる時は何やっても良いんだよ!!』
――むしろ、頼らないと俺が死ぬ。
綺麗事を言ってたら、間違いなく死んでしまう。
だから、出来ることはさっさとやって先手を取らなきゃ、マジで負ける。
『アオ、今の内に戻れ……』
「……え?」
『戻って、自分の身体を取り戻すんだっ! これ以上悪化する前にな』
……俺の言葉に、アオはこくんっ……と頷いた。
『冷酷』が立ち上がったときには……アオは既に消えていた。
『さあ、第3ラウンドと行こうか……』
『もう一人のオレを押さえつけ、身体に戻ったアオを押さえつけてた状態で――』
『いや、その状態だけじゃねえ……更に現実でセリアの姉ちゃん達を相手もするんだ』
『……そんな猫の手も借りたい状況の中、サードガラハムの加護を受けたオレを相手に出来るのか?』
「さっきまでボロ負けしてた奴の台詞かよ……」
何を仰いますやら……勝てばいいんだよ、勝てばな!!
……っていうか、コレで弱体化してなかったらどうしよう……
神様、生まれて初めてのお願いです……ヤツがもの凄い弱体化してますように……ベリーベリーお願いします。
―― ……我は、こんな人間に力を貸したのか…… ――
気づくのが遅いんだよ、俺を誰だと思ってやがる?
何事も余裕でマイペース……これが『本当』の『時神 雫』の在り方よ……
へたれてた俺に、ソレを教えてくれたのは、お前だぜ?
我が命の恩人にして、我が親友であり……そして今、心の友にまで昇格したサードガラハムさんよ……
―― ……これも、我の落ち度か…… ――
……っていうか、何気に辛辣だよな……オマエ……
「…………っ、ん?」
『冷酷』が俺に攻撃を仕掛けようとしたその時……急に、ヤツの戦意が消えた。
『……??』
何を企んでいるのか、解らない……
解らないまま、ソイツはニヤリと笑って――
「――悪いが此処までだ……ちょっと、外で面白い事件が起きた」
『……は?』
「戻れば解るさ……じゃあな、続きはまた今度だ――」
地面が水みたいに変化し、ざぶんっ……っという音と共に沈んで……瞬間的に意識が反転した。
『……なにそれ?』
神剣に戻って、一番初めに流れてきた情報は……この場にいる全員が、意識無く倒れている事だった。
「ぅ……っう……」
アオは、辛うじて意識があり……ゆっくりと立ち上がった……
「…………なに……が?」
『おい、アオ……どうした!?』
―― 無駄だよ……聞こえないように設定したからな ――
聞きたくないヤツの声が聞こえた。
『――設定ってなんだ、設定って??』
―― 気にするな ――
やがて、向こうから……ラキオスの兵士が大慌てでやってきた。
「動けるのは貴様だけか!?」
「……あ、はい……」
「緊急事態だ! クルゥ・グリーンスピリットが、最高機密の書類を持ってマロリガン方面へと逃走した!」
……なんですと?
「貴様は奴を追い、殺してでも機密文書を奪取しろ!」
「…………………………え?」
『どういう事??』
―― どうもこうも……俺とアオを競合ってる最中、あの妖精が街から出てきてさ…… ――
―― 俺達に向かって神剣魔法を放った結果、全員気絶……そのまま南へ逃走しただけだ ――
わかったな!? ……っという、ラキオスの知らない兵士の問いに、虚ろに返事をするアオ……
兵士は、忙しいのか……その声を聞いて、慌てながら街へ戻っていく。
アオは、数分……放心したように、突っ立っていたが――
「…………そんな、そんな筈……っ……!」
――急に、何かを心に決めたような顔をして……南の砂漠へと走っていく。
―― 今、思えば……そこで止めるべきだったのかもしれない。
―― クルゥ・グリーンスピリット……ソイツの所為で、俺達は……会ってはならない存在と対峙してしまったのだから。
| 技名:流転の心得 | ||
| ターゲット:敵【変動】 | 属性:無 | |
| 対HP効果:700 | 最大回数:16 行動回数:3 ※氷結天使発動中のみ使用可 | |
| マインドバランス:0〜100 | マインド変動:0 | 効果:防御-50 |
| 流れる水のような太刀筋は、舞のような美しさを秘めている。 しかし、この剣技の本質は、相手を嬲り殺すようにジワジワと追い込み、激痛を与えながら戦意を奪っていく事にある。 この剣技は、『秩序』に属している永遠者の太刀筋と酷似しているどころか、『全く同じ』太刀筋である。 |
| 技名:エーテルシンク∞ | ||
| ターゲット:敵【補助】 | 属性:青 | |
| 対HP効果:− | 最大回数:16 行動回数:1 | 発動:スタートサポートタイミング(ab) ※絶対先制 |
| マインドバランス:0〜100 | マインド変動:0 | 効果:攻-100・防-100・抵-100・全属-50・行-99 |
|
『氷帝』の全てと言っても過言では無いスキル。 高位神剣魔法を使えないからこそ、低位神剣魔法を極めるしか手段が無かった。 『氷帝』にとって、このスキルは基本にして極意、奥義にして究極の壱……よって、スキルLVは測定不能であるが故に『無限大』 このスキルの最大の特徴は、魔方陣の構造を限界まで簡略化した所為で、対HP効果が全て犠牲になっている事。 しかし、対HP効果を全て犠牲にしてまで簡略化した結果……魔方陣を展開して効果が及ぶまでの時間は0.01秒も掛からないという、驚異的展開速度を持つ。 即ち……このスキルは、どんな神剣魔法より先に先制攻撃できる利点を持っている。 どんなに早く展開できる神剣魔法であろうと、どんなに優れたバニッシュ効果がある魔法でも 『詠唱』というアクションが存在する限り、このスキルから先制を取る事は不可能である。 何故なら……『氷帝』は、低位神剣魔法だけに限定されるが、詠唱無しで発動できる領域までに至っているから…… その点で言うと、詠唱が不必要な神剣魔法でも関係ない。 魔方陣を展開させ、効果が現れるまでの時間が0.01秒以内に終わらなければ、この壁は越えられない。 ――よって、先制の奪い合いという点では……『氷帝』に敵う神剣は事実上、存在しない。 |
| 技名: |
||
| ターゲット:味方【自分】 | 属性:青 | |
| 対HP効果:− | 最大回数:1 行動回数:1 ※回復不可 | 発動:スタートサポートタイミング(ab) |
| マインドバランス:0 | マインド変動:0 | 効果:攻+50・防+100・抵+100 ※ミッション終了まで継続 |
| オーラフォトンで編まれた氷の鎧を纏う事により身体的能力が上昇するのだが、それは二次的要素に過ぎない。 ――このスキルの真価は、『バニシングハイロゥ』や『サイレントフィールド』等の影響を無効にする効果がある。 また、このスキルを発動中のみ『流転の心得』が使用可能。 |
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