永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 5 反発するエゴ
最終節 『再会』
広大な夜の砂漠……何処まで歩いても、同じ景色……
何故か知らないけど、碧の兄ちゃんに刺された腹の傷は……完治していた。
でも、その部分だけで……全身ボロボロという事実は変わらない。
まあ……命あるだけでも良かったと、この幸運を噛み締めておこう。
しかし……あの正体不明のマナといい、目が覚めたら周りに誰も居なかった事といい、致命傷の傷だけ治っている事といい……
……正直、都合の良すぎる事ばかりだ。
けど良いさ……きっと、運命の女神とやらが、再び光臨したのだろう。
今は、その幸運を甘受して……早くセリアの姉ちゃん達の元へ戻ろう。
「……っ、づっ……」
急に、頭をカチ割るような頭痛に襲われる。
――誰が引き起こしているかなんて、考えるまでも無い。
「――痛えじゃねえか、このっ!!」
近くを転がっていた岩に、刀身を叩きつける。
『支配権を渡せ!』
「断わるに決まってんだろ、ばーか……っ……、っ゛!」
本当に頭割れそうな頭痛が再び襲ってくる。
――負けずに、コッチも刀身を岩に叩きつけ続ける。
コイツの力は……そりゃあ、もの凄く減衰していた。
――だって、俺でも抑え込める程度の力しか残ってないのだ。
力関係はイーブン……むしろ、オレが優勢なのが現状。
ぶっちゃけ、何もかもが形勢逆転した状態……碧の兄ちゃんには、本当に感謝だ。
……やがて、何かを諦めたように頭痛が治まっていく。
ソレを確認して、刀身を岩に叩きつけるのを止め……俺は再び歩き始める。
『無駄だって言うのは解ってるけどさ……希望を込めて言うぞ……』
「……ぁ゛?」
『……ハイペリアに戻るつもり、本当に無いのか?』
「……本当にしつこいな、オマエ……返事はNOだって言ってんだろっ!」
『お前の居場所は、もう無いんだぞ? それでも残ると?』
「…………ああ、そう言ってる」
アオはともかく、誰も俺を歓迎してくれないって、解ってる。
……きっと、冷たい眼で見られるだろうし、誰も俺やアオの言葉を信じてくれないだろう。
でも、それでも……居場所が無いなんて事は無い。
アオが居るだけで……俺の居場所は存在する。
元より、俺はアイツの神剣なのだ……
相棒の笑顔を守る為に……俺はこれからを生き続ける。
『今なら、まだ間に合うぞ??』
「……うるせぇ……黙ってろ……もう、決めたんだ……」
『よく考えろよ……オマエが『神剣』である限り、コイツと結ばれる事は……永遠に無い……』
……痛いところ突いてくるよな、オマエ……
でも、残念だったな……そんな事、とっくの昔に解ってるんだ。
「……それを含めて、俺は此処に残るって決めたんだ……」
もう、『人』には戻れない……
これから『神剣』として……永遠に『冷酷』と共に生き続けるだろう。
『人』として……アオと接する事は、二度と無いだろう。
コイツの言う通り……『神剣』として残った俺は、もう……アオと結ばれる事は無いだろう。
『人』と『神剣』は、共に生きることは出来ても……結ばれる事は無い。
戦争が終わったら……スピリットの差別が無くなったら……アオは、普通の女として生きるだろう。
俺以外の誰かと恋を育んで……いずれ結婚して、新たな命を産み出して……そして、俺は子供へと受け継がれていく。
「……良いじゃないか、それで……そんな生き方も、きっと悪くない筈だ……」
『……そんな事、微塵も想ってない癖に……』
ああ、そうさ……俺は『人間』として生きたかった。
俺はきっと、アオに恋をしている。
自分より大切な奴が……命を張ってまで守りたいと思った奴だ。
だからこそ……結ばれるのなら……『人間』として、アオを愛したかった。
アオが俺以外の男と結ばれるなんて、そんな事、考えたくも無い。
俺が『人』として……アオを幸せにしてやりたい。
――けどさ、その願いだけは……どうにもならないんだわ。
例え、『人の形』として神剣の外に出られたとしても……俺が神剣から離れれば、アオが『冷酷』に殺される。
そうならない為に……俺はストッパーとして、コイツと共に永遠を生き続ける。
アオが死ぬくらいなら、この欲望は抑え込まないと……
『救われないな……本当に……』
「―― 誰の所為だ、誰の!!」
『……愛する奴の為に人生捨てるなんて……本当に健気だよな、オマエ……』
「ほっとけ……」
自分でもビックリだよ、ホント……
独占欲が意外に高かったり、自分の人生捨てるほど献身的だったりよぉ……マジで鬱になりそう……
「それにしても……本当にコッチで合ってるのかなぁ……」
この世界の太陽の動きを観察してなかった事が、今更ながら悔やまれる。
夕日を見ることが出来たから……その方位を『西』と設定し、北に向かって歩いていたのだが……既に4時間は経とうとしている。
『さあね……方向感覚なんてモノ……神剣には存在しねえよ……』
知ってる……むしろ、オマエに頼るつもりは無い。
――マジでどうすっかな〜……っと悩んでるとき……ソレは訪れた。
「ずいぶんとボロボロだけど、大丈夫かい……お嬢ちゃん?」
「――!?」
目隠しをした女が……後ろに居た。
ロングコートの中には、服といえる物は無く……素肌を殆ど露出している。
艶やかすぎる肌……胸を布一枚で隠しているところが更に色気を誘う。
無論、下の方も透け透けな下着……男を魅了するようなガーターベルトが印象的……
極めつけは鞭――
なんつーか、SMの世界に存在していそうなアブナイお姉さんが、獲物を狙うような危ない目で俺を狙っている。
「夜道を一人で歩いてちゃ……危ないねぇ……」
アナタの方がアブナイです……なんて、口が裂けても言えるはずが無かった。
だって、強さの基準が根本的に……いや、次元から違う……
月とスッポン……蟻と恐竜……メダカの卵と木星の直径ぐらいの差が有る。
この姉ちゃんが何者かは知らない……
だが、理解できる事は一つだけ――
――絶対に怒らせてはイケナイ――
――反抗してもイケナイ――
「ぁ……あ゛……」
つまり、争いになったら絶対に勝てない――
「……なんてね、冗談さ……久しぶりだね、氷帝……一周期ぶり?」
『なんで、オマエが此処に居る?』
「……それは、私から説明して差し上げますわ……」
「――え!?」
また背後から声が聞こえた。
振り向くと、杖を持ったガキが一人……
アオと同じような身長の白髪のガキ……
ガキの筈なのだが……なぜか鞭を持ったSMの姉ちゃんに匹敵するような艶を感じる。
初めて見る筈なのに……その姿は、どこか懐かしく……どうしようもない憎悪が内から湧き出てくる。
いや、違うな……初めてじゃない……その口調……知ってる――
―― 夢の中で……アオと似た女を殺した……張本人だ。
「……そう構えるな、氷帝……別に、貴様と戦う為に現れたのでは無い……」
また別の声が聞こえた……方向は真横――
――視線を向けると、黒が印象的な……マッチョなおっさんが立っていた。
『タキオス? テムオリン!?』
コイツ等が誰だか知らないけど……完全に包囲されている状態は、絶体絶命ってヤツなのでは?
『何しに来やがった……テメェ等……』
「何って、決まっているじゃありませんか……アナタを迎えに来たのです」
『……はぁ? アイツを、セルシアを裏切っておいて……今更、戻れだと??』
冷酷の声には……明らかに動揺が混じってる。
「そうです……それに、セルシアを殺したのも……アナタの為ですのよ?」
『……俺の、為??』
「ええ、アナタは秩序に属する身としては……弱すぎでしたもの」
「ですから、再教育という形で……アナタをミニオン・サイクルに組み込んだだけですわ」
「その過程を見てましたけど……滑稽過ぎて、呆れてモノも言えませんでしたが……それでも、アナタは奇跡を起こした」
「時深と同じ『時を操る力』を手に入れたとき……流石の私も驚きを隠せませんでしたの」
『……へぇ……その口調から察すると……ずっと監視してたんだ……俺の事……』
「ええ、その通りです……」
『……見捨てられたって、わけじゃ……無かったんだ……』
――『冷酷』に迷いが発生している。
大男は、迷っているソイツの背中を押すように言葉を紡ぐ――
「戻って来い、氷帝……俺はこれでも、貴様を買っているんだぞ……」
「貴様は今でも貧弱だが……『天位』『地位』『鞘』の称号を持つ神剣より優れる、究極の壱を持っているのだ……」
「そして、『時を操れる』力を手に入れた貴様と……共に、背を預けながら戦いたい……」
『……タキオス……』
本当に戻っていいのかと……そう聞くように、その大男の名を呼ぶ――
「一緒に来なさい、氷帝……戻れば、アナタから奪った力は全て返して差し上げます」
『その前に、一つ聞くけどさ……アイツを裏切った理由って……俺を再教育させる為だけ……だったのか?』
「ええ、それ以外に理由がありまして?」
『……なんだよ、ソレ……』
その搾り出したような声は、哀しみだけしか含まれて無かった。
『俺が聞きたかったのは……戻って来いとか、迎えに来たとか……そんな言葉じゃない……』
『それに、お前らを愚直なまでに信じてたアイツを裏切った理由が、俺を再教育させる為だけって……ふざけんじゃねえよ!!』
冷酷……いや、氷帝の答えは、決まった――
――いや、始めっから決まっていたと思う。
『答えはNOだ!! 俺は、お前らに従わない! 俺はアイツを救うんだ!!』
殺意を込めた決意は……くすくす……というガキの笑い声で掻き消される。
「時に聞きますけど……アナタ、どうやってセルシアを救うつもりですの?」
『時間を遡って救うに決まってんだろ!!』
「私達、永遠者は『時の概念』から外されてますの……なのに、どうやって?」
『…………………………え?』
くすくす……っと、子供の哂い声が響く……
「まあ、その知識はこちらで操作させて貰いましたけど……でも、今なら思い出せるでしょう?」
「改めて問いますわ、『永遠者の理』を思い出した『氷帝』……過去に遡って、アナタは誰を救えるんですの?」
『………………………』
この時……冷酷は、戦意を見失っていた。
果たすべき道しるべを壊されて、泣き出す一歩手前のようだった。
「もう一度、言います……あの役立たずの事なんか忘れて、私達の元へと戻りなさい」
従うしか、生きる術はない……元より、戦って敵う相手ではない……
それを一番解っている『冷酷』は……即行で俺からアオの身体の支配権をぶんどり――
「――う、うわあああああああああああああああ!!」
『――バカ、止せ!!』
――神剣を引き抜き、ガキへと特攻を仕掛けやがった。
「やれやれ、まるで子供の駄々ですわね……タキオス、氷帝の頭を冷やさせてあげなさい……」
「――承知」
『冷酷』とガキの間に現れたタキオスのおっさんの手には、おっさんの身長の2倍ぐらいはある刀身を持った剣だった。
いや……剣というより包丁を連想させるソレを構え……『冷酷』の攻撃を捌く。
「だああああああああああああああああああ!!」
――『冷酷』の攻撃は、幼稚すぎる剣裁だった。
ただ、感情に任せて闇雲に振り回すだけ。
手数こそ多いが、無駄が多すぎる太刀を受けたおっさんは……呆れた顔をしていた。
「……失望したぞ、氷帝……もはや剣の振るい方すら忘れているとはなっ!」
鈍重の剣が振り下ろされる。
それは、回避不可能なタイミング――
――瞬間、時が止まった。
「――掛かったな! 間抜け!」
タキオスのおっさんの脇腹を深く抉った瞬間……時は動き出した。
「――ごっ!? な、なんと……」
そのまま、ハイロゥからマナを放出し……音速に近い速度でガキに突撃する。
「死ねぇえええ!!」
音速を超えると思われる特攻は――
――足に絡まった鞭により、ガキに届くことは無かった。
「――私を忘れてんじゃないよ!!」
ブーストで得た速度を殺さず、空中へと上げられ……2倍近い速度を持って地面に叩きつけられる――
「――がっ!?」
「ほらほらぁ、まだまだ続くよ!!」
終わらない、鞭が足に絡まったまま……何度も何度も空中に上げられては地面に叩きつけられる。
……それが8回ぐらい繰り返された後、トドメと言わんばかりに強烈に地面に叩きつけられて鞭が離れた。
「……っ、ぎ……ぐぞ……」
吐血を吐きながら、それでもなお……ソイツは立ち上がる。
「しかし、第4位の分際でタキオスに傷を与えた事は、素直に感心しました……」
「改めて歓迎しますわ……『氷帝』……いえ、『冷酷』……今度こそ、秩序の仲間として迎えてさしあげますわね」
「――ざ、ざけんな……っ!」
「往生際が悪いぞ!」
おっさんの手から放たれた闇のつぶてがアオの身体に当たった瞬間、アオを包むように正方形の結界が出現した。
「ミトセマール……捕獲しなさい」
アブナイ姉ちゃんの上着が球体へと変化して、此方に放たれる――
その球体は、パックマンみたいに口を開け……俺達は結界ごと飲み込まれた。
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