永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 6 秩序の永遠者
第2節 『試練』
―― 音が聞こえる。
低く唸るモーターの駆動音にも似た音を……俺はぼんやりと、聞いていた。
……何処だろう、此処は?
思い出せない……いや、まだ目覚めたばかりで……頭の中が回転してないのだろう。
『ぅ、つぅ……』
……頭痛に似た痛みが全身を襲う。
まるで、泥酔後の朝だ。
飲みすぎて、昨日の記憶が残っていない感覚と、まるっきり同じ……
『……ここ、は……』
グラグラしている意識で状況を確認する。
まず、馬鹿でかい部屋だってのが解った。
東京ドームみたいな広さを持つ、そんな部屋……
……そして、正方形のブロックで積み上げられたような高い壇……その壁にはハシゴが取り付けられている。
そして、俺達の真上には……鎖に巻かれた巨大な神剣が、巨大な水晶を串刺しにしながら浮かんでいる。
―― 神剣の大きさは、俺という神剣を10倍弱大きくしたような……そんな馬鹿げたスケールだ。
巨大な神剣は、大気のマナだけを吸収し続けている。
一定の速度で、機械のような単調なリズムで……マナを吸い上げている。
『……ぁ……』
その存在を、俺は知ってる。
なんで、あんな姿になったのか……理解できる。
この神剣は生きていない……いや、もはや神剣じゃなくなっているのだ。
神剣の外見は進化する。
―― 契約者の特性に合わせて……というのもあるが、神剣が生きて行く上でも自分を進化させるのは必要な事なのだ。
神剣が取り込めるマナの量に限界は無い。
マナを取り込みすぎたら進化して『限界量』を増やし、使いすぎれば『残ったマナを節約』する為に退化する。
神剣は、己の意思で進化と退化を自在に行う事ができる存在なのだ。
しかし、目の前の神剣は……違う。
この神剣は……進化の過程を人為的に歪められ、巨大化するしか生きる術が無いように仕向けられた末路だ。
ただ、使われるだけになった存在……
進化の過程を歪められ、大気のマナを吸う機能だけしか残せなかった存在……
……これ以上進化できない、限界が定められた神剣……
……だから、既に生きてはいない……ただの機械と、なんの変わりも無い。
『……なんつー、惨い事を……』
この光景を見て、憤怒しない奴なんているんだろうか?
この神剣に契約者が存在したとしても……
もう、その契約者と共に戦う事もできなければ、新たな契約者と契約を結ぶ事さえ叶わない。
第一、こんな馬鹿でかい剣を扱える奴なんて、存在しないのだから。
だから、こいつはもう……未来永劫に一人なのだ。
自分と共に歩んでくれる存在を奪われ、意思を剥奪され死ぬ事も許されない、永遠の孤独を約束された……哀れな神剣だったモノ……
―― 改めて、思い知らされた。
『やっぱ、この世界……狂ってるぞ……』
力の無い『人間』が頂点に立ち、『人間』より圧倒的力を持つ『妖精』は奴隷と化し、その『妖精』に力を授ける『神剣』はこんな風にも扱われている。
過去に何が起こって、何処をどうすれば、このような狂った現実が出来上がるのか……まったくもって理解できない。
―― ぅ、つぅ…… ――
『……あ、起きたか?』
―― 頭痛いんだけど…… ――
『そら奇遇だな……俺もだよ……』
―― なあ、此処……何処だ? ――
『俺が知るか……』
―― つーか、何で俺達……こんな所にいるんだ? ――
『だから俺が知るか……砂漠で嵐に遭遇して、吹き飛ばされた次の瞬間、こんな所だよ』
―― そうだった……っけ? ――
『……たぶん……』
どうも、記憶が曖昧だ……
……けど、断片的には覚えてる。
例えば……神剣に宿ってる『もう一人の俺』……
『冷酷』は碧の兄ちゃんに意識だけを刈り取られ消滅……
そして、取り込まれた筈の『
―― アオの隣に転がってる、ソフトボールみたいに小さな丸いのだって覚えてる。
……確か、ントゥシトラとか呼ばれてて……俺達を助ける為にこんな可愛らしい姿になってしまった筈だ。
……必要な事は全部記憶してる……
けど、所々が欠けている……
―― そもそもどうして、俺達はこんな密室で倒れているんだ??
嵐に出会った後……何か……そう、何かが起こって、結果……俺達は此処に居る。
―― だめだ……此処に至るまでの過程が全然思い出せない…… ――
『同じく……っていうか、此処、本当に何処なんだろうな?』
すると、ギィィィ……っと、扉が開く音がした。
「なんだ……これ……!?」
聞き覚えが有りすぎる男の声……
「驚きましたか? これが、エーテル変換施設の中心部です」
……更に聞き覚えのある女性の声……
間違いない……高嶺の兄ちゃんとメイドの姉ちゃんだ。
―― 姿も確認したから間違いない……更には鎧の姉ちゃんまで居る。
『た、助かった……』
俺達が倒れてる姿は、高い壇が死角になって……高嶺の兄ちゃん達は気づかない。
―― でも、アイツ等が移動すれば……俺達の姿は見えるはず。
むしろ、気づかない確率の方が少ないだ。
だって、凹凸なんて壇ぐらいしかないし……俺達は注目を集める馬鹿でかい水晶の真下に倒れているのだ。
……な? 気づかない方がオカシイよな??
「あの馬鹿でかい剣は……まさか……」
「はい、あれも永遠神剣……すべての変換施設の動力中枢です」
エーテル変換施設……
大気に含まれるマナを『エーテル』という万能な物質へと変換する。
つまり、『エーテル技術』に頼った世界で、一番重要となる施設の正体が、コレだ……
『……なんてクソッたれな技術だ』
―― ……まったくだ…… ――
確かに神剣には、契約者をゴミみたいに思ってる神剣も存在するけどさ……
……だからといって、こんな仕打ちは無いだろうに……
「エスペリア、どうしてわざわざ変換施設を破壊するんだ?」
「理由は簡単です……敵側に利用されないようにです」
「……にしても、こんな大きなものをどうやって破壊するんだ?」
「マナ吸引装置を破壊させれば、マナの吸収ができなくなり、全ての機能が停止します…………その筈です」
―― なにか、物騒な単語が聞こえたぞ!? ――
『……破壊する前に、こっちに気づいてくれるかなぁ……浮いてる水晶落ちてきたら洒落にならんぞ、ホント……』
水晶の先が尖がってるし……全機能が停止するって事は、浮遊機能もなくなるって事だろ?
このままでは確実にスプラッタだ……なんてこったい……
「ユートさま、アセリア、警戒をお願いします」
そう言って、壇上まで登るメイドの姉ちゃん……
メイドの姉ちゃんが、壇という死角を抜け――
――壇上にある操作卓っぽいものに視線を落とし、俺達の姿が確認できていない様子……
――『冗談だろおぉぉ!?』――
まさかの悲劇!?
そんな所に端末らしきモノがあったなんて!?
『――顔を上げるんだエスペリア!! 見えるから! 今のアンタなら確実に俺達の姿をハッキリ捉えれるから!!』
けど、俺の声は届きません……
メイドの姉ちゃんはメモ帳を片手に必死に端末を操作してますから、顔を上げることも致しません……
「……っ、敵か!?」
「……ユート、エスペリアを……お願い……」
―― 唐突に、そんな声が聞こえた。
鎧の姉ちゃんの視線の先には……チャイナ服に似た服を纏った、一人のブラックスピリットが居る。
そのスピリットが、刀に手を添えた瞬間……姿が霞んだ――
「――っ!?」
目視さえ許さぬ居合いを間一髪で避け、カウンターぎみで斬撃を繰り出す鎧の姉ちゃん――
しかし、居合いは連続して放たれており、2撃目の居合いで斬撃は弾かれ、3撃目の居合いは鎧の姉ちゃんの胸を切り裂くように放たれる――
―― それを、後ろに跳び引き、鎧の姉ちゃんは間一髪で回避する。
「よくぞ受けた……しかし、次は外しませぬ……」
―― つーか、なんだあの馬鹿げた居合いは……ゲームや漫画の中しか存在しないと思ってたぞ…… ――
『激しく同感……』
居合いで発生した速度を殺さないまま鞘に刀を納め、間を置かずに次弾を放つなんて芸当……それを連続してだなんて、並の修練じゃ習得できねえぞ……
しかも、戦闘で使用するなんて……何者だ、アイツ?
「……どうして、帝国が!?」
「帝国!? エスペリア、あいつは帝国の奴なのか!」
「はい、あれは『漆黒の翼・ウルカ』……サーギオスの遊撃隊員最強のスピリットです!」
―― アレが漆黒の翼!? ――
なるほど……この世で一番強いスピリットなら、あの技量も納得できる。
けど、一体どれ程鍛錬を積めば……あんな領域まで至るというのか?
―― 才能だけでは絶対に無理だって断言できる。
「――アセリア、下がれ!!」
こう言っちゃなんだが、高嶺の兄ちゃん……その指示は無理が有ると思うね。
第一、あの黒スピリットから間合いを取るなんざ至難の業だ。
―― 後ろに跳び引いても簡単に距離を詰められ追撃されてしまう。
「クソッ! エスペリア、まだか!?」
「あと少しで……もう少しで、全部終わります!」
「解った、急いでくれ!!」
『――っていうか、気づけよオマエ等!!』
特にそこのメイドっ!! お前にはドジっ娘属性は無い筈だっ!!!
『鎧の姉ちゃんも壇という死角を抜けているのに、全く気づく気配が無いのは何故だっ!?』
―― メイドの姉ちゃんはともかく、鎧の姉ちゃんは当然だろうな……生き残るのに必死だもん ――
だろうね……カウンターを繰り出す回数も落ち、いまや防御一辺倒だ。
目視を許さぬ程の連続した居合いを裁き、避け続けてるのは『ラキオスの蒼い牙』という二つ名スピリットだからだろう。
普通のスピリットならとっくに死んでる……なのに、鎧の姉ちゃんはまだ一撃も被弾していない。
―― ソレほどまでに、殺気に敏感なのだろう。
「―― ユートさまっ、作業が終わりました! 急いで退避しなければ!」
……あの薄情メイド、俺達に気づかずに戻りやがった!?
「アセリア! 作戦終了だ、撤退するぞ!!」
「……っ、」
鎧の姉ちゃんが高嶺の兄ちゃんの言葉に気を取られて生まれた微かな隙――
「―― そこっ!!」
―― その隙を逃す事無く、鎧の姉ちゃんの腹に強烈な蹴りが炸裂し……鎧の姉ちゃんが吹っ飛んだ。
それをチャンスと見たのか、黒スピリットは柄に添えてる手を順手から逆手へと変えて追撃する。
黒スピリットが射程に迫る前に、鎧の姉ちゃんは吹っ飛ばされながらハイロゥを羽ばたかせ ――
―― ハイロゥから零れ落ちる羽は、光となり、弾丸のような速度で黒スピリットを襲う。
「っ、……!?」
黒スピリットはハイロゥを盾のように広げ、羽の弾丸を払い ――
「―― テアァァァァァ!!」
鎧の姉ちゃんは、袈裟懸けに神剣を振り下ろし ――
「――、ハァッ!!」
同時に、黒スピリットは地から天へと昇るような居合いを繰り出した。
結果、鎧の姉ちゃんの剣は黒スピリットの頬を掠め、黒スピリットの刀は鎧の姉ちゃんの胸を掠めて終わる。
―― 二人は振りぬいた格好のまま、睨み合う事数秒……
「アセリア! 撤退します!!」
……メイドの姉ちゃんの声に反応し、鎧の姉ちゃんは高嶺の兄ちゃん達の方へ大きく跳び引いた。
―― 着地と同時に、膝を付く鎧の姉ちゃん。
メイドの姉ちゃんは鎧の姉ちゃんに肩を貸し、高嶺の兄ちゃんは二人を守るように前へ出る。
「エスペリア、先に行ってくれ!」
「―― そんな……ユート様、無茶です!」
「いいから先に行けって! これは命令だ!」
あからさまに心配した顔をしながら、メイドの姉ちゃんは鎧の姉ちゃんと共に部屋を後にする。
高嶺の兄ちゃんの顔には、若干の諦めが入った顔……自分では勝てないって理解してるんだろう。
「……エトランジェか?」
「だったら、どうする?」
『漆黒の翼』と呼ばれる黒スピリットには、もはや戦意が無い。
「手前どもの任務は攪乱、役目は既に終わりました……故に、これ以上戦うつもりはありませぬ」
鞘と刀の柄から手を離し、自然体に戻る黒スピリット……
……ソレを見た高嶺の兄ちゃんの戦意が消失した。
「貴殿の名と、先程の剣士の名を聞かせていただけませぬか?」
「……俺の名は悠人……あいつは、アセリアだ」
「感謝いたします……では、また戦場で」
そう言って、部屋の外へ走り出す黒スピリット……
……そのスピリットが退室した次の瞬間……周りに響いていた振動が、鈍い音へと変わった。
それを見届けて、高嶺の兄ちゃんも続けて退室……俺たちだけが残される。
『結局……気づかなかったな……あの薄情者共め……』
―― まあ、こんな展開になるんじゃないかなぁ……って、薄々は確信してたけどな…… ――
うん……俺もだよ……
なんとなく、こんな展開になるんじゃないかなぁ……って、思ってたけど……
『それはそうと、高嶺の兄ちゃん達はマナ吸引装置とかを壊すのが目的なんだよな?』
―― たしか、そんな事言ってたな…… ――
『……気のせいならいいんだけどさ……どう見ても止まってないよな……コレ?』
―― ああ、吸い寄せられてるマナの量が桁違いだ…… ――
『……しかも、音……さらに煩くなってないか?』
―― ああ……明らかにモーターとかがオーバーロードしてる音っぽいな ――
『……………………』
―― …………………… ――
俺達は、元は同じ存在である。
故に、これからどうするか……なんて、語る必要など無い訳で……
―― 『アオ、起きろテメエ!! 呑気にグースカ寝てる場合じゃねえんだよ!!』 ――
けど、この子ったら……一向に起きる気配がありません。
『そうだ! アオの身体乗っ取れば!!』
―― なる程、道理だ!! ――
―― ………………………… ――
『しかしまあ、なんで最初っから思いつかなかったんだろうな?』
―― ………………………… ――
『高嶺の兄ちゃん達が居る時に乗っ取って出てれば、問題なかったんだよな……』
―― ………………あ、れ? ――
『……ん、どうした??』
―― ………………なあ、オマエが乗っ取ってみろ? ――
『――はぁ!?』
―― いいから早く!! ――
なんか、嫌な予感がするけど……あえて何も考えないで、乗っ取ってみる。
―― …………………… ――
『…………………………』
いつもなら、アオの身体を乗っ取る……っと、思った時点で五感が回復するんだが ――
『…………………………あ、れ??』
―― だぁぁああああ、わけわかんねえっ!! なんで今まで簡単に乗っ取る事出来たのに出来ねえんだよ!! ――
『―― 知るかああぁぁ!!』
「……ンシュ、るる??」
―― おぉ♪ ントゥシトラ、いい所で目覚めた!! オマエ凄く頭良いんだよな、確か!? だったら、この暴走一刻も早く止めてくれぇ!! ――
「――シュル!? ンシュルルル!!」
事態を察してくれたようで、ふよふよと壇上にある操作卓に向かってくれた。
ピコピコと、途切れる事のない操作音が聞こえる。
『うわ、すげえ……触手を器用に操って本当に操作してるよ、コイツ……』
ソイツの姿は、最速のタイピング技術を持つブラインドタッチが得意なオタク兄ちゃんみたいな感じで、頼もしい事この上ない。
―― んで、数秒後……ブブー……っと、エラー音らしき音が響いた。
「――シュル??」
ントゥシトラが触手でボタンを押すのと連動するように、ブブー……ブブー……ブブー……っと、エラー音が悲しく鳴り響く――
「……………………」
『……………………』
―― …………………… ――
「――ンシュルル!! ギシュルルル!!!!!」
慌ててコッチに戻ってきて、アオの足と俺を触手で掴んで一生懸命脱出を図っている。
―― でも、重量はコッチの方が圧倒的に上……少しづつ引きずられてはいるが、秒速1mmといった感じ……
『なんて言ってるんだよ、コイツは!?』
―― 俺が知るか!! コイツの反応見る限り、止めるの無理だったんだろ!! ――
『あ〜、もうっ! 使えねえなコイツ!!』
「――ンシュルルル!! ギシュルルルン!!」
―― だったらテメエがマニュアル無しでやってみろっ!
コイツの瞳がそう物語っている事だけは解った。
ちなみに……音は更に五月蝿くなっている。
『なんか本格的にヤバイんだけど!?』
―― 知ってる…… ――
『……念のために聞くけどさぁ……障壁は張れるんだよな?』
―― ……たぶん……な…… ――
この上なく頼もしい言葉……頼もしすぎて涙がでそう……
『つーか、試せよ!!』
―― 試せるか!! 今解ったけど、俺達全員のマナが空に近いんだ!! ――
―― 張れてせいぜい一回で、しかも直に壊れるようなシロモノなんだ!! つーか、障壁に頼っても焼け石に水だ!! ――
死亡フラグ確定ですか!?
生き残るには、メイドの姉ちゃんに発見されるしか道は無かったと申すか!?
『っていうか、何でこんな事になってんだよ! もう!!』
そもそも、此処って何処の変換施設で……なんで高嶺の兄ちゃん達は此処に来たんだよ!?
「―― きしゅ、るる……キシュ、るる……」
『―― ってか、さっさと引っ張れよっ! そこの目玉!!』
「……キシュュルル……?」
俺から触手が離れる……
―― あ〜、嘘々っ! ウソですってばっ! ベリーすんませんでした……っていうか、何で俺が謝るんだよ!? オマエが謝れっ!! ――
『ゴメン、ントゥシトラ様っ! 俺が悪かったっ!! お願いですから俺も連れてって下さいっ! ベリーベリーお願いしますっ!!』
必死の願いが通じたのか、渋々といった感じで触手を絡ませてくれるントゥシトラさん……
あ〜、良かった……いや、助からなきゃ良くないか……
……っていうか、このペースだとマジで間に合わないんですが……
「……んにゅ??」
女神キターーーーッッ!!!!
―― 『アオ、逃げろ!! 早く!! さっさと起きろ!! はーーーやーーーくーーーーーっ!!』――
「は、はひぃ!!」
寝ぼけ頭でフラフラと走り出すアオ……
―― 『ってか、俺を置いて行くんじゃねえよ、バァカッ!!!!』 ――
「はひぃ、ご、ごめんなさいっ!!」
フラフラと戻ってきて、俺達を拾い上げて再び出口へ走り出すアオ……
幸い、廊下は一本道だ。
走り抜けてる最中、アオの頭は回転を取り戻し、疑問を俺にぶつけてくる。
「ねえ、雫……何がどうなってるの??」
『すまん、今の俺には答えれない……』
―― 以下同文 ――
「それに……この子誰??」
「キシュルルン……」
『後で教える……』
―― 以下同文 ――
「……なんで雫の声が二つも聞こえるの?」
「キシュルル……」
『以下同文』
―― 以下同文 ――
「……説明、めんどくさいだけでしょ?」
「シュル……」
『以下同文』
―― 以下同文 ――
長い廊下を走り続け、やっと出口が見えてきて……外へ抜けた瞬間――
「――きゃっ!?」
―― マグニチュード8を連想させる地震が起こった。
『うわぁ……』
外の光景の禍々しさに、息を呑んだ。
――空が死んでる。
――風が死んでる。
――大地が死んでる。
ここら一帯のマナが後ろの建屋に、根こそぎ吸われていく――
『……ぁ、あぁ……』
真上に溜まっている膨大なマナ……
ここら一帯のマナは既に枯れているのに、それでも尚吸い続ける……
……ここまで枯れ果てていると、再生には何千という月日が必要になるだろう。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
真上に集まっているマナ……
それはまるで、風船を連想させる……
貯蔵できる要領の限界を超えているのに、まだ
――そして、聞こえるナニカの悲鳴――
悲鳴とは、風船の皮だ……風船の皮が限界を越えるほど伸びているので、軋みを上げているのだ。
あと数秒後には、破裂して……破裂した直後に発生する火花によって
そうなれば、この一帯は跡形も無く吹き飛ぶだろう。
『そんな……そんな……』
―― もう……間に合わないな……クソッが!! ――
……死にたくない……まだ、死にたくない……
せっかく此処まで来たのに……色んな出来事を乗り越えて……此処まで来たのに……
ここまで……だなんて……
「キシュルル、キシュルルル!!」
「雫、コレ……!?」
―― 『ぇ??』 ――
俺の刀身から、光が漏れ出ている。
―― 目玉の小さな王冠も、同じように光が漏れている。
空だった刀身にマナが満たされていく……
―― これ、共鳴現象か!? ントゥシトラッ!! テメエのマナをこっちに回せ!! ――
「キシュルルン!!」
―― で、もう一人!! 障壁最大出力で張れ!! 二重の防壁でなんとかっ!! ――
『――やってるっ!!』
青の障壁が二重に展開された瞬間……周りの情報が一切解らなくなった――
―― 『っ、ぐぅ……!?』 ――
聞こえるのは、音だけ……
暴風が吹いている……
障壁が砕ける音……
――確か、最前面に展開していたのは……俺の障壁だった筈だ……
間も立たずに、もう一つの障壁に亀裂が入る音……
終わる? 消滅する?? ふざけんなっ!!
『――まだだ、まだ終わってねぇ!!』
力を振り絞って、亀裂の入ってる障壁の中に新しい障壁を張ると同時に、外の障壁が砕ける音が聞こえた。
―― こっちだって、まだ終わらせねえよっ!! ――
ピシ……っと、亀裂が入る音と共に、中に障壁が展開される。
大丈夫だ……この調子で障壁を張り続ければ……生き残れる……っ!?
――『……、ぎっ……!?』――――
ピキッ……っと、亀裂が入った音が……『物凄く近く』から聞こえた。
「――、――!!」
――『――ギッ……ガッ、ァ!?』――
「――、――! ――――!!」
――アオが、ナニカ叫んでる……
でも、ピキピキピキピキ……って聞こえる嫌な音と、身体を引き裂くような痛みの所為で、ヨク聞こえない――
あまりの痛みに集中力が低下し、俺が張っていた外の障壁が消滅する――
――周りが白く……白く染まり、体が浮遊感に包まれる。
このまま消滅してしまう……そう悟った瞬間――
――俺の悪夢は終わっていた。
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