永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 7  胡蝶の夢

第1節 『現状把握』








「んもぅ♪ 誤解を招くような行為をするからこうなっちゃうんですよ♪」

「そうそう……まあ、大事じゃなくて良かったわ……」

「…………その、時神さん……お大事にね♪」

ぞろぞろと退室していく疫病神共……


その全員が俺と視線を合わせない様にしているのは、決して気のせいではない。


殆どの奴が退室して、残るはヘリオンのガキと女医だけ……

「……まあ、私は……始めから、君を信じていたからな」

「嘘つけ、このアマっ……!」

マウントポジションを取って、嬉々とした表情で人の顔面に拳の雨を降らせた奴のセリフとは到底思えない。


おかげで、もう……顔、ボコボコ……下手したら、お婿に行けないかもしれない。


「”あ、あのぉ〜、大丈夫でしょうか?”」

「”大丈夫な訳あるかぁーー!! つーか、俺がこんな目に合ったのも誰の所為だと思ってんだっ!?」

「”ひぃーっ! ごめんなさい、ごめんないさいぃ〜〜!”」

ヘリオンのガキは、誰かから借りた白衣を羽織っている。

無論、下は裸……裸白衣というのも中々にそそるものである。

胸が大きければ、もっと良いんだが……


「鼻の下、伸びてるぞ……まあ、気持ちは解らんでもないが……」

「むしろ、この光景を見て鼻の下が伸びないのであれば……漢としてどうかしてるね……」

まさに、眼福……という奴です。

「…………で、世間話はコレくらいにして……事情を話してもらおうか?」

女医の目が真剣になった。

つられて、俺も真剣になる。



―― さて、どう話したら良いもんだろう?



ヘリオンの言葉は俺にしか解らない。

この事実は、俺にとってかなり有利である。

嘘をついても、コイツはヘリオンの言葉は解らない……つまり、真実は闇の中なのだ。







「―― つまり、そういう訳だ」

数秒で思いついたストーリーを包み隠さず女医に伝える。



「…………………………」

嘘付くのもいい加減にしろというか、もっとマシな嘘を付けと言わんばかりの顔で俺を睨む女医……



「お前の話を纏めると……彼女は、お前に恋心を抱いたストーカーであり……」

「……お前が目覚めた事を確認し、人が居なくなった後……自分の想いの大きさを表すために裸で現れたヘンタイだと?」

「まあ、そういう事になるのかな……」


「ちなみに……彼女の出身は?」

「……教える義理は無い」

「……………………」

「……………………」

睨み合いという沈黙が続く……

……その沈黙を先に破ったのは、女医の方だった。



「……百歩……いや、百万歩譲ってソレが真実だとしよう……すると、彼女の発した悲鳴は一体なんだったんだ??」

「……それ、は…………」

痛いところを突いてくるなぁ……


「あれは…………悲鳴じゃない……アレは、きっと歓喜の声だ……」

「歓喜……ねぇ……するとお前は、彼女の気持ちを受け入れたんだな?」

「……ま、まあな……アレだけの行為をされたら、流石に撥ねる訳にもいかないだろ?」

―― ごめん、ヘリオン……本当にゴメンよぉ……

……でもな、こうするしか誤魔化す方法が無いんだ……

だから、許せ……


「……下衆野郎(ペドフィリア)が……」

「なんか言ったか、暴力医師? ……それに、さっきの事を裁判沙汰にしても構わんのだぞ?」

「……っ、いいだろう……信じてやる」

「それと、俺が退院するまでアイツをこの部屋に泊めてやってくれ……」

「そんな事、出来る訳――」

「―― さっきの事件、マスコミにバレたら……一体誰が責任取るんだ?」

「……………………好きにするがいいっ!!」

これ以上此処に居ると危険と感じ取った女医は、ツカツカと早足で部屋の出口へ向かい、バタンッ!! っと、乱暴にドアが閉めた。







「……はぁ〜〜〜」

どっと疲れた……精神的にも肉体的にも……肉体的の方が圧倒的なのは言うまでもない……

「”あ、あのぉ〜……”」

そして、更なる難関はコイツだ……

「”解ってる、ちょっと待ってくれ……言葉を整理したい……”」

「”はぁ……”」

……コイツに、嘘は語れない……いや、今後の事を考えると語ってはいけないのだ。



―― だから、語るべきことは3つ。



ここがハイペリアだという事……

そして、アッチに帰る手段は現時点で無いという事……

そして、俺がコイツを殺したという事も……語らなくちゃいけない。



「”まず、ここが何処だか……解るか?”」

「”いえ……”」

「”ここはな、お前達の世界でハイペリア……と呼ばれている”」

「”…………はい??”」

ヘリオンが固まった。

俺は、構わずに言葉を紡ぐ……


「”高嶺の兄ちゃん……いや、『求め』のユートの生まれ故郷と言えば、解りやすいか?”」

「”え? え?? こ、ここ……ハイペリア……なんですか?”」

「”そう言ってるだろうが……”」

「”………………ええぇぇぇえええええええ!?”」

うるせぇ……っと、言ってやりたかったが、気持ちは解らんでもないので叫ばせておく。


「”な、なんで……何で、私は此処に居るんですか?”」

「”死んだからだろ……”」

「”……死ん、だ……? 私が??”」

「”その辺、覚えてないのか? アオ・ブルースピリットを乗っ取った神剣の手によって……後ろからバッサリと――”」

「”………………あ……………………”」

斬られた痛みを思い出したのか……ちゃんと胴体がくっ付いている事を確認するように手を置くヘリオン……


「”お前が何で此処に居るのかは解らない……そして、アッチに帰る手段も解らない……”」

「”俺が動けるようになったら、アッチに帰る手段を探すつもりだ”」

「”まって、待って下さい……いきなり、そんな事、言われても……”」

だろうな……普通、理解できないよな……


不意打ちに近い形で殺されて、気づいたらハイペリアだ。


「”だからさ、要点だけ解ってくれればいい……”」

「”ここがハイペリアで、お前が居た世界に戻る手段は現時点では無いって事……”」

「”そして、俺は……お前の味方だって事も……”」

「”はぁ……”」

「”まあ、時間は腐る程有るんだ……今日は、自分が置かれている状況をよく考えてみるといい”」

一応、緊急で伝えなければいけない事は伝えた……

……あとは、ヘリオンが落ち着き次第……俺の名を明かせばいいのだが――







「”あの……なんで?”」

「”何が?”」

「”なんで……私が殺された事、知ってるんです?”」

「”いえ、それだけじゃない……なんで、ユート様の事も……アオさんの事も知ってるんですか?”」

「”………………”」

―― どうやら、今、答えなきゃダメらしい。



「”答えてください、貴方は一体……何者ですか?”」

先延ばしにしていた決意を固める。

―― 俺が正体を隠そうが、俺がヘリオンを殺したという事実を明らかにしないと、きっと前に進めない。

どう転ぶか解らない、危険な賭け……でも、ソレ無しでは、信頼関係は築けない。



「”何度も言うけど、俺は、お前の味方だって事……敵意なんてコレッぽっちも無いって事、覚えておいてくれ……”」

「”……はい……”」

深呼吸した後……重い口を開け、俺は言葉を紡ぐ――


「”俺は、『時神 雫』……あっちじゃ、永遠神剣・第4位『雫』って呼ばれていた……”」

「”っ――!?”」

ヘリオンの視線に、敵意と殺気が灯っていく。


「”そう睨まないでくれ……お前の言いたいことは、良く解ってる……”」

「”ふざけないで、下さい……”」

「”覚えてる……貴方は、確かに……『お前等と仲良しこよしの関係になるつもりは無い……』って、そう言ってました……”」

「”『味方なんてモノを信じてると……呆気なく、簡単に裏切られて、死んじまう……』って……確かに、そう言ってました”」

「”そうして、私は……殺された……貴方の手によって、殺されたんです……”」

どんなに人を疑わない奴でも、一度殺されたら流石に疑うだろう……と、覚悟はしていた。


非難される事だって、とっくの昔に覚悟していた筈なのに……何故、こんなにも胸が痛いのか?


俺自身がヘリオンを殺していないというのに……何故??

「”なのに、貴方は……私を殺したのに、味方だと……”」

「”誰が信じるんです? そんな話……”」

それは、きっと……自分に非があるからだ。


俺が、もっと強い意志を持っていれば……こんな事にはならなかったのかもしれない。

俺が、ちゃんと冷酷と向き合っていれば……こんな事態は起こらなかったのかもしれない。

―― でも……それは既に変えられない事実……


「”そうだ……お前の言う事は正しい……だから……俺は、お前に、謝らなくちゃいけない……”」

「”……え?”」

寝たきりの身体を無理矢理に起こす。

体中に激痛が走るが……それでも踏ん張って、何とか身体を起こす――


「”ごめん、ヘリオン……本当に、ごめんな……”」

ありったけの誠意を込めて……

二度と、味方殺しなんていう事態を引き起こさないと、決意を込めて……



―― 俺は、ヘリオンに頭を下げた。



「”俺が至らなかったばっかりに……お前を、殺してしまった……”」

「”謝って済む問題じゃない事は解ってる……こんな俺を信頼できる筈が無いって事も解ってる……”」

「”……でも、コレだけは信じてくれ……”」

「”もう二度と、お前達を裏切らない……自分の意思じゃ無かったとしても、二度と場に流されるようなマネはしない……”」



赦してくれなくても構わない……例え、どんな罰でも受けてやろうと……堅く心に誓った瞬間――



「”あ、あの、解りました……解りましたから、顔を上げてください……”」

――そんな言葉が聞こえた。


言われたとおり、顔を上げる。


―― その表情は、敵意など微塵も無く……穏やかで、それでいて困ったような表情だけが存在していた。

「”……私、信じますから……今の貴方は、前の貴方と違うって信じますから……その……”」

「”……俺を……赦して、くれるのか?”」

「”だって、私が知ってる『雫』っていう神剣さんと……貴方は、全然違いますから……信じられるような気がして……”」

自分が犯した、赦される筈の無い罪を、あっさりと赦すと言ってくれた少女……

……その温かさに、不覚にも涙が出そうになった。


「”――いででででっ!?”」

気が緩んだ瞬間、激痛が容赦無く俺を襲う。

「”あわわっ、無茶しないで下さいっ!!”」

ヘリオンは、俺の体を支えて、優しく俺をベットへと誘導してくれた。

「”悪い……まだ、本調子じゃないんだ……”」

「”はぁ……雫さんは、病人だったんですか?”」

「”まあ、似たようなもんだ……”」

―― ともあれ、これで全ての難関は突破した。



後に控えてる難問は、俺が退院してから考えるべき事……



……今は、一刻も早く体を自在に動かせるように努力しよう。







「”あの……雫さん?”」

「”……ん?”」

「”雫さんは神剣なんですよね? 神剣の力とかで、病気とかパパって直らないモノなんですか??”」

そうだ……なんで失念していたんだろう……

「”神剣の……力……”」

覚えてる……ちゃんと、覚えてる。



―― 周囲の情報索敵方法 ――

―― マナの濃度感知方法 ――

―― 身体能力強化 ――

―― 簡単な神剣魔法 ――

―― ハイロゥの展開方法 ――

―― マナを物質に変換する方法 ――

―― スピリットの構成変換 ――



()ってる……アノ頃の知識、全部……()ってる。

「”そうだな……身体強化能力を使えば……”」

―― この激痛は無くなり、体は問題無く動くかもしれない。

「”……やってみる……”」

頭の中で、身体強化能力の公式を引っ張り出し、発動させる――







―― その瞬間、洒落にならない痛みが脳髄を襲い、何も考えられなくなった。







「ガ――――!」

まるで、脳に蛇が侵入したような……そんな踊り狂うような痛みが、脳髄を破壊していく――


「づ……! ガ、あ、あ、あ――!」

「”――、――っ!!”」

脳が弾け散りかねないような、あまりにも痛すぎる激痛――

ヘリオンの言葉さえ聞こえないほど、強烈な頭痛――


「ぎ――ア、ガ……、がアアアアアアアアああああああああああああああああ――!」

―― 俺の意識は、弾け飛んだようにブラックアウトした。











あとがき



 そんな訳で、天国(ハイペリア)編の始まりです。

暴力医師&看護婦の虐待に耐え、何とかヘリオンと和解できた雫……そして、神剣の知識も残ってるという理想状態♪

―― でも、簡単に行使できると思ったら大間違いなのであった。



 章のサブタイトルである『胡蝶の夢』……

名の通り、雫の意思がハイペリアとファンタズマゴリア界を行ったり来たりします。



理由は簡単♪

ファンタズマゴリア界の状況がどうなっているのか……気になる方が多いと思ったからです♪








<今話で出てきた用語>






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