永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 7  胡蝶の夢

第2節 『バイオハザードU』








―― ベットの上に居る少女は、死んでいた。



生気の無い表情、空虚(うつろ)な眼、何日も絶食したような痩せこけた顔……

……昔の少女と今の少女は、明らかに別モノだった。

その少女は、……ごめんなさい……っと、いう言葉を永遠と繰り返している。


もはや、生きる希望を見失った少女の末路――

―― だから、彼女は既に生きてはいないと悟ってしまった。


なんで謝ってるんだよ、バカ……

誰に謝ってるんだよ、あのバカ……

どうして……そんな状態になってまで、謝ってるんだよ、このバカ……


お前の、その行為は全く無意味だと……伝えたかった。

時間の無駄なんだって……一刻も早く伝えたい。


―― でも、俺の想いは届かない。

だって、コレは夢だから……


視界が闇に呑まれていく――

―― その直前、その少女の様子を、悔しそうに見つめるダレカ達の姿が有った。







闇の中でも、罵倒の念は納まらない。

思い浮かぶのは、ヘリオンとの会話で口にした言葉……


―― 時間は腐る程有るんだ……今日は、自分が置かれている状況をよく考えてみるといい ――


アホだ、俺……

……なにが、時間は腐るほどある……だよ。


時間なんて、ある筈が無い。

時間を浪費するほど、アオは哀しみに潰されていく。

時間を消費するほど、アオは衰弱していく。


いや、それだけじゃない。



―― 使えないスピリットは処刑される ――



昔、アウルが教えてくれた……狂った世界の理……

神剣を失って、あんな状態のアオを……一体、誰が使えると判断するのか?

使えないスピリットの末路は、簡単に想像できる。

国のマナとして使われる為に殺されるか、欲望の吐き口として慰み者にされるかのどちらかだろう。


それ以外に使い道があるとしても、悲惨な事実だけが待っている事だけは変わらない。

だから……一刻も早く、アオが居る世界へと帰還しなければ……取り返しが付かなくなる。



―― 激痛が走って体が動かせない??



たったそれだけの事で、時間を消費して言い訳が無い。

目覚めたら、無理矢理にでも病院から出て……戻る方法を探さないと間に合わない――

―― いや、それでも……きっと、間に合わない……方法を探してる間に、時間は無情にも過ぎていくだろう。


だから、自分の頭の悪さに怒りを覚える。

―― なんで、何も思いつかないのか?

神剣の知識があるというのに……

……なんで、『門を開く(もどる)』方法を、欠片程も思い出せないのか??







―― ()らないからだろ…… ――

『――え??』







闇が晴れた時、俺は病室へと辿り着いていた。



この世界に来て、何度も訪れた事のある……あの病室に――







暗く、所々が風化していて……廃墟と言っても過言ではない程、この病室は風化していた。

―― よお、生きていて何よりだ…… ――

病室に響くのは、俺の声……無論、俺が喋っている訳ではない。

『……アンタ、生きてたのか?』

―― 辛うじて……ってレベルだけどな……何時死ぬかは、解らない ――

そうか……生きてるのなら、それで十分だ……


『なあ、今のアンタは……アオに神剣の加護を……』

―― 残念ながら、加護を与える力さえ残ってないし、アオと話せないのも以前のままだ…… ――

『……そう、か……』

―― 現状を把握してもらえて何よりだ ――

死にかけ……そう言ってる割には、コイツは冷静すぎる。


以前は、死ぬという現象に怯え、醜態を曝していた自分とは……全く違う。

『成長』した……という事なのだろうか?


―― 違うね…… ――

―― 神剣と融合した所為なのか……お前が生まれた所為なのかは解らないけど…… ――

―― 死ぬという捕らえ方が、根本的に変わった ――

『??』

言ってる意味が解らない。


―― お前は、当然……死ぬのは怖いだろ? ――

『当たり前だ……』

―― 俺は違う……このまま力尽きても、輪廻転生が確実なモノと織ってるから、別に怖くは無い ――

『……生まれ変われるから、死ぬのは怖くないって??』

―― ちょっと違うけど……まあ、同じようなもんだな…… ――

―― 神剣はな、『意思の消滅』さえしなければ『死』という概念は、そう怖いと感じる現象じゃないんだ ――

『……俺には理解できそうも無い……』

―― だろうな……人間に理解できるとは、俺も思わない ――



元人間だった奴が何を言ってるんだろうな――

―― っと、思った瞬間……病室の風景に、古いビデオテープの映像のようなノイズが走った。



―― 時間が無い……無駄話はこの辺にして、本題に入るぞ ――

―― 俺はもう、意思そのものが消えかけてる……休眠状態に入っても、一週間が限界だ ――

―― だから、一週間以内に……アオ用の新しい神剣を探してきてくれ ――


新しい……神剣?


『……無理だ……簡単に見つかるもんじゃないし、例え見つかっても……アオと契約できるとは限らない』


神剣とその契約者……契約書は常に神剣が持っている。

だから、神剣を見つけたとしても……アオにその契約書を出してくれるかどうか解らない。


―― その辺は心配しなくてもいい……俺が融合すれば済む話だ ――

確かに、それなら希望は有る。

融合すると、契約書も二つになるのだ。

二つとも名が書かれていたら、意志の強いほう……つまり、アオの名が記された契約書は破棄されるのだが ――

―― もし、新たな神剣の契約書に何も書かれていなかったら……契約済みのである、アオの契約書が残るのだ。


『……アンタ、本気で言ってるのか? 弱ってる奴が融合なんてしたら……お前は――』

下手したら……二度と、表に戻って来れないんだぞ?


―― 元より承知だ……あんな状態のアイツを見てたら、やるしかないだろ? ――

それじゃあ、意味が無いじゃないか……

……アンタも一緒に居ないと意味が無い……だから、お前が生き残れる方法を探すべきだ ――



―― そう言いかけて、言葉を飲み込む。



時間が無いのだ……俺も、アオも、コイツも……

会話できるチャンスは、今だけかもしれないし……何時現実に引き戻されるかも解らない。

だから、聞かなきゃいけない事を聞かなければ……


『解った……必ず、神剣は探し出す――』

『―― でも、俺は戻る方法なんて知らない』

……その辺はどうするんだ?


―― ………… ――

『…………』

……沈黙が続く……

数秒後、意外な言葉が出てきた。







―― ……戦巫女…… ――







『……戦巫女??』

―― そうだ……戦巫女、『倉橋 時深』と接触しろ…… ――

戦巫女って……あの、戦巫女ですか??

平安の時代に活躍した倉橋の巫女……

未来視の能力を持ち、強力な式神と共に幾多の妖怪を滅ぼした……伝説の戦巫女の事ですか??

しかも、戦巫女のフルネームなんて初めて知ったぞ??


―― アイツには、『氷帝』の貸しがある……俺が体験した出来事を話せば、きっと力になってくれる ――

その言葉を聞いて、ある話を思い出し……そして、繋がった。

そう、夢の中で……あの白ガキが言っていた。

『時深』を消滅させるチャンスを、セルシアが台無しにした……っと……

あの『時深』って名前……戦巫女の事だったのか……


―― ……いや、もしかしたら、『氷帝』の貸しを返すために動き始めてるかもしれない ――

義理堅い性格だとしたら……の話だ。

でも、接触するに越した事は無いだろう。

『………………』

……希望の光が出てきた……大丈夫、不可能な事じゃない。

これからの方針には、勝算がある。

まず初めに、戦巫女を探し出す。

『倉橋家』に行けば……何か情報が得られるだろう。


―― その過程で、神剣を探す。


神剣とは、『力の有る武器』の総称だ。

魔・妖・聖の属性を持つ武器の類を探せば……きっと当たりは出る。

退魔協会(グループ)の力を借りれば……見つけ出せない事も無いと思う。

―― 聞くべき事は全て聞いた。



あと、聞き出さなければ成らない事は……

―― それより、ヘリオンの奴は……ちゃんとアッチに出現したか? ――

『ああ……お陰でややこしい事態が勃発したよ―― っていうか、テメェ、最初っからヘリオンが生きてる事、知ってやがったな!!』

そうだ……確か、こいつはこう言っていたのだ。

大丈夫、オレが必ず元に戻すっていうか、必然的に戻る…………っと。


―― 俺も驚いたさ……まさか、ヘリオンがそのまま保管されていたなんてな ――

『そのまま??』

―― ああ、リヴァイブっていう……神剣魔法の原理、知ってるか? ―― 

『まあ、概要だけはな……』



リヴァイブとは……マナの霧へと分解されたスピリットを再構成し、復活させる神剣魔法の事だ。

無論、マナの霧になった後、『構成情報を宿すマナの粒子』が大気へと消えていない事が条件とされる。

どんなに大量の霧が残っていようが、構成情報という設計図を記したモノが消えた後に再構築しようとしても無駄な事。



―― だから、コイツの言いたい事も、なんとなく解る。



『ヘリオンがマナの霧に還った時……そのマナを欠片も残らず吸収していたもんな……冷酷(アイツ)は……』

―― そういう事だ ――

でも、それでも疑問が残る。

なんで冷酷は、そのまま保管してたんだ?

―― きっと、後の駒として使うつもりだったんだろ……記憶を操作してな…… ――

『そうじゃなくて……なんで、ヘリオンなんかを?』

アイツは、スピリット隊の中で最弱の筈だ……取り込むならセリアの姉ちゃんの方が戦力になるだろうに……


―― いや、アイツは最強のスピリットだ……500年に一回は生まれるかどうかの極上と言っても過言じゃないさ ――

―― アイツは神剣に恵まれてなかっただけ……アイツが秘める資質は、漆黒の翼なんかよりも上を行く ――

それ、褒めすぎじゃないのか?


『そんなに凄い奴には、全く見えないけど……』

―― 事実だ ――

『……そうかい』

改めて、病室を見渡す。

壁のペンキは跡形も無く剥がれている。

何時崩れても不思議ではない程の亀裂が走った灰色のコンクリートは、この病室の寿命が長くないと物語っていた。


前に訪れた時とは、様変わりしすぎた程の光景――

―― だと言うのに、この病室の空気は……全く変わっていない。


何処か空虚(うつろ)で、悲しくて……

……けど、懐かしくて、穏やかで、寂しさなんて欠片も無くて……温かさが満ちていて――

―― そんな矛盾を成立させている。


ここは、悲しい出来事があったのか……それとも、別の出来事が起こったのかは、解らない。

悲劇が訪れたのなら、ここの空気に温かさなど残るわけも無く……

……幸福が訪れたのなら、悲しいと思わせる空気は残すまい。


『図書館とか映画館とか……他の場所にも飛べるか?』

―― いや、他の場所は跡形も無く消滅した……この病室だけが、何故か残ってるんだ ――

変哲も無い、ただの病室……いや、今は倒壊しそうなほどボロいが……

……それでも、こうなる前は、本当に変哲も無い、普通の病室だった。

何処にでもあるような病院の個室……入院患者がお世話になる部屋……

……でも、入院した記憶は本当に存在しない……誰かが入院して見舞いに行ったという記憶も無い。


そもそも、病室自体訪れた事はない……訪れたのは、今回が初めて……

―― なのに、なんで……この部屋だけが生き残り、あまつさえ、こんな空気を漂わせているのか?

……必死に思い出そうとしても、その気力が急速に衰え……やっぱり止めてしまう。

ここで起こった出来事を知れば、何かが終わるような気がする。

真実を知れば、また残酷な出来事に悩まされるような気がする。

今まで積み重ねてきた何かが、跡形も無く崩壊する……嫌な予感とは少し違う、恐怖に似た予感を感じる。

この病室で、何が起きて……『俺達』の心に深く存在しているのか……それを知りたい気持ちはある。

―― でも、興味本位で見てはならない……閲覧するなら、それ相応の覚悟を持たないと後悔する。


そう、心が警告しているが解る。


やがて、ノイズが視界を埋め尽くした。

テレビの受信外チャンネルに合わせたような、酷いノイズだけが視界を覆っている。


『時間切れか……』

そして、テレビの電源を切ったように……視界が完全に闇に飲まれた――




























「………………っ゛、ぅ………………」

……ゆっくりと、意識が戻る。

目を開けると、俺を覗き込んでるヘリオンと目が合った。


「”…………ぁ…………”」

心配そうな表情から安心したような表情へと変化していくヘリオンの顔……

……そのヘリオンは俺が起きたのを確認すると、パタパタとスリッパの音を響かせながら部屋を出て行った。


「…………づっ、ぅぅ…………」

ズキン、ズキン、ズキン……っと、頭が痛む……

我慢できるレベルだが、結構痛む……

……下手したら寝れないんじゃないのだろうか……この痛みは??


「……寝不足覚悟しなきゃダメか……コレ??」

ふと、窓の外に目を向けると……外は暗闇に彩られていた。

目覚めた時は朝だったのに、今は夜……時間の感覚がおかしくなりそうだ。


「やあ、おはよう……調子はどうだ?」

ヘリオンと女医が部屋に入ってきた。

―― 今気づいたのだが……ヘリオンは服を貰ったらしく、衣服は裸白衣では無くなっていた。



……でもな、この世界の一般人として……コレだけは言っておきたい。



「なあ、女の子にジャージ姿は酷すぎるんじゃねえか?」

「裸白衣よりはマシだろうよ……それに、近くに服屋なんて無かったんだ」

俺は、裸白衣の方がマシだと思うな……ビジュアル的に……


「”なあ、その服良いのか??”」

「”ええ、動きやすくてとっても♪”」

―― まあ、本人が気に入っているのであれば問題は無いだろう。


「改めて聞くが、本当に何語なんだ、ソレ??」

「外国語以外になにがある?」

渋い顔で俺を見つめる女医……


「……まあいい、それより身体の調子はどうだ?」

「頭が痛い……」

―― だろうな……っと、女医は呟く。


「お前が倒れた後、色々と検査してな……解った事がある」

「……なんだよ?」


「通常、脳は20〜30%ぐらいしか使用してないって……聞いた事があるだろ?」

「……数パーセントじゃなくて?」

「まあ、そっちでもいいんだけど……とにかく、脳の大半は使われていないという事だ……」

「……しかし、お前の脳は……一時的に限界を超えてしまった」

「……20〜30%の使用率を越えたって事か?」


「それは、一般人が使用してる脳の稼働率だ……限界とは言わない――」

「―― 私が言っているのは、人間の脳みそが引き出せる限界……つまり、100%超えたんだよ」

「…………はぁ…………」


「通常30%しか使ってないモノが瞬間的に300%とかに跳ね上がってみろ……」

「……普通に考えるまでも無く、壊れるね」


「そうだ、壊死してないのが奇跡だ……後遺症とかあるかもしれんが、その検査は明日でみっちりと調べるつもりでいる」

「だから、また同じ現象が起きたら……今度こそ、お前の命は無い」

―― つまり、神剣の力を少しでも行使したら……俺は死ぬということか?


「……ちなみに、入院期間はどのくらい延びるんだ?」

「原因が解らないからな……4ヶ月以上は覚悟して欲しい」

―― 話にならねえ。


「……悪いな、今すぐ退院させてもらう……っ、っ……」

激痛が走るが、こんな事で泣き言は言っていられない。

身体に走る痛みは、除々に無くなっているのは実感できてる。

まだ一人で歩けないにしても、身体を動かす程度には回復している。


「”ヘリオン……肩、貸してくれ……”」

「”で、でも……”」

「”アオがヤバいんだ、下手したら処刑される”」

「”……え??”」

「”ここで寝てる場合じゃない、時間は一刻も争う”」

「”わ、解りました……”」

「”とりあえず、出るぞ……”」

ヘリオンが肩を貸してくれて、ベッドから立ち上がる。



その前に立ちはだかるのは、女医……

「ふざけるなっ!! おまえ、今、どんな状態なのか解ってるのか!?」

「少なくとも、アンタよりは知っている……」

「―― 嘘だな」

「嘘じゃない……自分の身体の事ぐらい、嫌になる程知ってるさ……」

一度体験して、そして、身体に起きた異常を聞いて、なんとなく解った――

―― 人間が神剣の力を行使するという原理を……


知識として『力の行使法』が保存されている事自体、身体には何の影響も無い。

―― ただ、行使する段階で、身体の機能が追いつかないだけ。


例えば、身体能力強化の法――

大気のマナに加え神剣に宿る高密度のマナを契約者の身体へと宿らせる初歩的な神剣魔法。

それを行使する最初の段階……マナを認知するという過程で、脳はオーバーフローを起こしてしまったのだ。

つまり、あの強烈な頭痛に耐えながら、次の段階へ移行する事ができれば、間違いなく神剣の力を行使できる。



しかし、目の前の女医は言った。

―― また同じ現象が起きたら……今度こそ、お前の命は無い ――



その言葉が事実なら……その負荷に耐えた後、待ってるのは自滅という道のみ。



―― まさに宝の持ち腐れだ。







「そこまで言うなら私は止めないが……お前、本当に出て行くつもりなのか?」

「……どういう意味だよ?」

「金も無い、服も病服しか無い、荷物も無い……その状態で出て行かれても、困るのはそっちだと思うんだが……」

「…………え?」


病室を見渡す……

……確かに、俺の荷物が無い。


「俺の荷物は?」

「お前の保護者に渡してある……」


頭の中に浮かんだのは一人の爺さん……

人のサイフから札を取って、うひょひょひょひょ……っと、嗤いながら人の金を扇子のようにして仰いでいる姿が想像できる――


「……あぁのぉ〜ジィジぃ〜〜〜イィィィィイイイイイイ!!」

「”ひょわ!? ど、どうしたんですか!?”」

「そう、鹿島とかいう爺さんにな……」

「あ、そっちの?」


頭の中に浮かんでいたアホな爺さんを轢き殺して、新たな爺さんが頭の中に降臨した。

―― ありがとう、師匠……本当にありがとう♪


「……何故、そこで救われたような顔をしている?」

「救われたからな……まあいや、テレカか10円貸して♪」

「……いいけど……」







そんなこんなで、ヘリオンに肩を貸してもらって女医と共にロビーまで降りる。







「……つーか、荷物は解るとして、なんでサイフまで……」

「もう一人の爺さんが持って行ったぞ……お前の保護者とかいう面白い爺さんが――」


うひょひょひょひょ……という笑い声と共に、再びクソジジイが脳内に降臨した。


「……あぁのぉ〜ジィジぃ〜〜〜イィィィィイイイイイイ!!」

「”ひょえっ!? ま、またぁ!?”」

ロビーに置いてある公衆電話を乱暴に取る。

そして、テレカを入れて度数が表示された瞬間、目に見えぬ程の速度でダイアルをプッシュする。

現在、師匠とジジイは一緒に居ると確信しながら5桁目を打ち終えたとき、ある事に気づいた……



「……あれ??」

勢いで打ち込んだのはいいが……覚えてねえぞ、神木神社の電話番号なんて……


「…………」

電話を一旦戻すと、入れたテレカが音と共に戻ってくる。

「……え〜とぉ……」



思い出せ、電話番号……知ってる電話番号……

自宅(アパート)は、きっと誰も居ないし、そもそも電話なんて無い……

荷物全部持っていったなら、俺のPHSの番号を入れれば誰かが出るだろう――

―― が、入院中の未払い料金を払わない限り繋がる事は無い。


退魔協会に連絡して、師匠ん家の番号を聞けば……って、それも覚えてない。


時神本家も同じ理由で却下……



「だあああぁぁっ!! PHSのアドレス帳という文明の叡智が人間の脳を退化させたとでもいうのかぁぁああああ!?」

「タウンページが有るけど……使うか?」

「……ありがたく使わせてもらいます」

タウンページを受け取り師匠ん家の電話番号を検索すること数十秒、発見していざ受話器を取ろうとした次の瞬間だった。







「きゃあああああああああああああああああ!?」
「――!?」
「――!?」
「”――!?”」

遠い所で、悲鳴が聞こえた。

「地下から聞こえたぞ!!」

ドタドタと、階段に向かう医者達や看護婦の姿が見える。


「また403のロリコンか!?」

「ペドフィリアが適切な表現だと思いますっ!!」

「―― 黙れっ、ソコの凡人医者Aと腐れ看護婦Cっ!!!」

無視られたのか聞こえていないのかは解らないが、そいつ等は脱兎の如く地下へ向かう……



……そして、再び聞こえる複数の悲鳴……



「おい……なんか様子が、変だぞ……」

「……お前達はソコで待ってろ!」

只事では無いと感じ取った女医は、皆を追うように階段を下りていく。


「”あの、何が起こったんですか? さっきの、悲鳴ですよね??”」

「”ああ、悲鳴だ……”」

「”私達、行かなくてもいいんですか?”」

嫌な空気だ……瘴気の匂いが除々に濃密になっていく――

―― それに……腐臭の匂いも……


「”……行かなくていい……けど、何時でも動けるように待機しとけ……”」

「”わ、わかりました……”」


霊の存在を知覚するには、霊の本質を読み取るべし――

彼の霊は何を求め、何故現世を彷徨っているかを悟るべし――


―― 目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。


まず、この瘴気の持ち主は如何なる怪異なのか……周りに漂う瘴気を取り込み、その瘴気に含まれる情報を読み込む――

この行為は、神剣だった頃にやっていた『索敵』という行為に酷似している。

「……ぁ、れ?」

ふと、違和感に包まれる。

瘴気を取り込むという事は、その怪異が発する呪いまでも受け入れるという事……

……情報を深く読み込めば読み込む程、身体は呪いに蝕まれる。

怪異の種類を……実体の有無・属性・未練・願いのどれかを読み込むだけで、途方も無い吐き気や酷い頭痛に襲われる。


だというのに、頭痛や吐き気は感じない。


ほんの少しの眩暈と些細な身体のダルさしか感じないのだ。

しかも、これ以上は無い程、情報が鮮明に頭に浮かぶ――


―― 怪異は霊……悪霊では無く、未練を持った魂……

……一度現世を離れた筈の魂が再び黄泉返った。

ソレが複数……数は10以上……


彼らの想いは唯一つ……

別離を言葉にして伝えたいという事……

……彼らが死んで悲しみに陥った、残された者に言葉を残したいだけ。


読み取れた情報は、以上……予想以上の大収穫だ。


しかし、腑に落ちないことがある。

残された者に言葉を残したい……という、その程度の願いでは現世に復帰するどころか現世に留まる事も不可能だ。

なのに、今発生してる霊魂は……その程度の願いで現世に復帰している……何故か?


考えるまでも無い――

―― つまり、彼等に力を与えている黒幕がいる。


どんな奴なのか、何の為にこんな事をしたのかは解らないが……

……この身が退魔に属している以上、この騒動を見過ごすわけにはいかないのだ。

この騒動の真意が善でも悪でも……後、人々に感謝されようが称えられる行為に値したとしても関係無い。

世に霊的存在を認知させない為に……退魔という職が存在しているのだから――





「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」

ロビーから見える階段から、悲鳴を上げながら医者や看護婦が脱兎の如く逃げていく。


「ヒィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?!?」

……女医も凄い形相でコッチに走ってくる。


「あ、あ、あっ、あっっ!!」

女医がテンパっている様子がもの凄く解る。

「落ち着け、この病院には落ち着きというモノが足らんのだ……とりあえず深呼吸でも――」
「―― んなことしてる暇あるかぁぁぁああああ!!」

グーで頬を殴られました。

―― つーか、コイツは病人を労わるという精神を知らんのか?


無いよな? 有る訳無いよな……有ったら患者を問答無用でボコボコにするという行為をする筈が無い。


「―― で、何??」

「アンタ、職業、退魔師だったよな??」

「なんで知ってんの?」

「アンタの担当医だからなっ! 職業ぐらいは把握しているわよっ! それより、退魔師ならアレなんとかしてよっ!!」

女医の喋り方が地に戻りかけてる……つーか、やっぱり女の子だったんだね♪


ある意味安心しながら女医が指を指す方向を見る――

―― 示しているのは階段……そして数秒後、歩くより遅い速度で……ソレは現れた。







「ギャーーーーーー!? バイオハザードU!?」
「言いたい事は解るが、正確にはゾンビだっ!!」

知ってるわっ! つーか、似たようなモンだろっ!!

むしろUしかプレイした事ねえんだよっ!! 悪いか!?


しかも、なんだぁ……アレ?

腸を引きずってるのも居れば、中身丸みえのも居るわ、顔が原型を留めていない程グチャグチャなのもいる……


「”…………………………”」

ヘリオンは恐怖で固まってる ――

―― ソノ気持ち、痛いほど解るぞ。


「無理っ!! アレ、絶対無理!! マジで怖いっ!! ―― つーか、グロイ!!」

「退魔師の癖に心霊現象が怖いとか言わないでよっ!!」

「だってぇ、怖いもんは怖いんだもん!! ―― っていうか、グロイの元から苦手なんだってっ!!」

「アンタの事情なんて知らないわよっ!!」


―― あのゾンビ達……あれは、死体に霊魂が宿っただけの存在だ。

無論、身体の持ち主ではなく、ランダムに選出された霊魂がな……


バイオハザードというゲームみたいに人を喰らう事も無ければ、襲う事もない……殆ど無害に等しいモンである。

―― でも、ビジュアル的にOUT……


このまま放置すると、この病院の信用が大幅に下がったり近所の皆さんの大迷惑になるシロモノである。

故に、害をなさない存在でも関係ない……お前らは、人間が生を謳歌する世界には、その存在を許されぬモノだ。

人に不快感や多少の損害を与える人外的存在は、速やかに駆除するのが、人が頂点に立っている世界の非情の理だ。

―― 故に、人は世界の王として君臨している。


「斬るモノ……メスでも包丁でもカッターでも何でもいい、貸してくれ……」

「……カッターなら……」

そういって、胸ポケットからカッターを取り出す女医……

「借りるぞ……」

カッターで掌を浅く切って、傷口から出た血液をカッターの刃に塗る。

退魔を長い年月……一族単位で続けている血筋は、己の血にも破魔の力が宿るという。

1000年単位で退魔を続けてきた一族だと、血を霊に浴びせるだけで浄化できるとも言われているのだが……

……生憎、『時神』はソコまでに至ってはいない。

精々300年程度……しかし、目の前の怪異を葬り去るには十分すぎる。


カッターの刃に微量の霊気が宿る。

何度も言うが、ゾンビ共は戦闘能力を持たない。

肉の器の中に宿ってるのは、ただの魂魄だ。

霊体にダメージを与えられる武器さえあれば……子供でも簡単に駆除をする事ができる。

でも、あんなグロイ集団に特攻を仕掛ける勇気がある奴なんて、此処には居ない。



故に――

―― 俺は優しくヘリオンの手を取って、その刃を握らせてあげた。



「”ヘリオン、それでゾンビの群れを切り裂くんだ♪”」

「”はえぇ!? む、無理ですっ!! 見てるだけで怖いのに……”」

「”黒スピリットの癖に心霊現象が怖いとか言うなっ!!”」

地獄(バルガ・ロアー)から力を引き出してる癖に、なんて言い草だっ!!


「”怖いモノは怖いんですよぉ〜〜〜!!”」

「”悠人に無いこと無いこと吹き込むぞ、コノヤロウ! 動物の虐待が趣味で実は腹黒い陰険女だとかなぁ!!”」

「”ひ、酷いっっっ!?”」

泣きそうな顔で……いや、既に涙を流し、諦めに近い表情でソノ刃物を取って、居合いの型でゾンビの群れに特攻をかけるヘリオン。

……その、特攻をかける後姿の頼もしさといったら……そりゃあもう、言葉で表せない程、素敵で勇敢だ。


さすが、恋する乙女……

惚れた男の為なら、なんだって出来ると思わせる程の哀れみ(オーラ)が漂っている――

―― ソノ限界がどれ程のモノなのか、実験してみようかな……っと、思ったのは秘密にしておこう。


神剣の加護無しでも達人顔負けの居合いを放つヘリオン……

……レベルが高いんだなぁ……アッチの訓練師って……


「”……ぅぅ、うぅぅぅ……怖いよぉ……怖いよぉ……でも、殺らないと、ユートざまに゛……”」

健気だなぁ、ヘリオン……オマエ、本当に健気だよ……

オマエに想われる高嶺の兄ちゃんに嫉妬しちゃいそうだぜ――

―― 別の意味でな♪


「なんで、あの子は……泣いてるんだ?」

「あのゾンビ共は、死んだ人間だ……だから、人を傷つけるという行為に泣いているのさ……」

その他の要素が圧倒的多数含まれているのは、あえて言わない。

「そうか……勇敢で、それでいて優しい娘なんだな……」

「そうだな……」

とりあえず、そういう事にしておけ……

良かったなヘリオン♪ お前を尊敬する奴が一人増えたぞ♪


「……にしても、カッターナイフ一本で人間真っ二つにする技量ってのもスゲエなぁ」

限界まで伸ばしてるカッターナイフがよく折れないなと感心する。







―― 正直に言えば、気が緩んでいた。

ヘリオンの技量を持ってすれば、あのゾンビ達を一分もかからずに始末できるのだから。

だから、この騒動を引き起こした存在の事をすっかり忘れていたのだ。



―― その結果 ――







「ひぐぅ!?」

真後ろから、潰れたような悲鳴が聞こえた。







振り向いた瞬間、煌く刃の姿が見え――



―― 俺は、身体のあらゆる所を一瞬で斬り刻まれた。








あとがき



 やっと、ハイペリア編のプロットが固まりました♪
見直してみると、結構早い段階で帰還するかもしれませぬ……

 今話を見直して一言……なんでヘリオンだけをハイペリアに飛ばしたんだろう?

……今思うと、謎です。



黒幕と思われる存在に斬り刻まれてしまった雫……

……そして、孤立無援(最初から)となったヘリオン……



―― 次回、黒幕が明らかに! そして、外伝Case1のお爺ちゃんの本名が明らかに!?



…………できたらいいなぁ…………







あと、今章で明らかにされる雫の過去や爺(自称5歳)の秘密なんですが……

過去に考えていた設定に加え、新たに受信した電波を混ぜた結果――

―― なんか、とんでもない事になりました。






<今話で出てきた用語>

バイオハザードU(ばいおはざーど2):カプ○ンが発売したゲームソフトの名前
                  :主人公達がゾンビだらけの町から脱出する事を目的にしたゲームです。




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