永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 7 胡蝶の夢
第4節 『がんばれっ、ヘリオン♪【受難編】』
―― そうして俺は、再び悪夢の世界に訪れた。
どうやら、気を失ったり睡眠状態になると、強制的に飛ばされるらしい。
正直、勘弁して欲しかった。
寝るという行為をするたびに、胸糞が確実に悪くなる……そんな映像が流れるんだから――
―― でも、今回の夢は……思ったより悪いモノでは無かった。
食卓にて、皆と食事を取る少女……
相変わらず元気は無いが……でも、それでも……ちゃんと皆と会話できてるのが解った。
他の奴等も、本当に安心した顔で……その少女を見つめている。
その光景は……何より、俺を安心させた。
心の焦りを取り除くには、十分すぎる光景だったから――
―― でも、幸福と思える時は……突然に終わりの時を迎えた。
平和な団欒に突如、一人の兵士が現れた……
気の強そうな女が兵士に話しかけ……驚愕の表情を浮かべた後、怒りを浮かべた表情で何かを叫ぶ ――
―― けど、兵士も怒鳴り返して……悲痛と思える沈黙が支配した。
皆の顔が、悔しそうな表情へと変化する。
そして、兵士は……元気の無い少女の腕を無理矢理掴んで、少女と共に食卓の席から消える。
残されたのは、暗い雰囲気の漂った食卓だけだった――
闇に飲まれる……
「………………」
確かに、思っていたほど悪い夢では無かった……
……ただ、状況が悪化しまくってるだけ。
夢の内容を整理してみよう ――
まず、兵士に連れて行かれたのは……アオで間違いは無い。
次に、気の強そうな女……セリアが兵士に向かって啖呵を切っていた。
あの姉ちゃんが兵士に向かって怒鳴るくらいだから……相当理不尽でヤバイ事になっていると思う。
処刑が決まったのか……それとも売り飛ばされるのか……またはエロい事を仕込まれるのか……
期限は一週間と言われたけど……
……きっと、残された時間はもっと少ない。
だから、早く帰還しなければ……
目覚めたら、『失望』の影によって刻まれた深刻な傷の所為で動けないんだろうが……それでも手掛かりを求めに動かなくてはいけない。
例え、この身が破滅しようとも……アイツが先に終わったら、意味が無いのだから……
―― それも、違うんじゃないかな? ――
『……え?』
誰かの声と共に闇が消え……目の前には、崩れかけた病室が広がっていた。
オレの世界……きっと、オレにとって、禁忌に近い記憶が眠る祠……
『誰……だよ……』
もう一人の俺とは明らかに違う……聞いたことの無い女の声だった。
耳を澄ましても、何も聞こえない――
『……………………』
―― でも、さっきの言葉の続きを……この部屋自身が訴えていた。
どちらが終わっても意味など無いと――
焦り過ぎるなと――
―― 焦っても結果は変わらない……焦りは状況を更に悪化させる要素にしかならないのだと……
……この部屋の空気が俺に訴えている。
『………………』
確かに、焦ってもどうにもならない……焦ったところで、早く帰れる筈なんて無いってことも……解ってるんだ。
―― でも、こんな夢を見せられて……焦らないで居られる程、俺は大人でもないんだ。
後悔だけはしたくない……惨めな後悔は特にしたくない。
解るだろ? このままじゃ、それ以上に後悔する事になる。
……だから、オレは……焦ったままでもいいから、出来る限りはするんだ。
前回みたいに、テレビの受信外チャンネルに合わせたような酷いノイズだけが視界を覆い ――
―― そして、電源を切ったように、意識が落ちた。
その一瞬、懐かしいダレカの姿が……見えた気がした。
―― ジリリ。ジリリ。
「…………ん」
―― ジリリ。ジリリ。
……うるせえ……つーか、目覚まし……だよな?
鳴っている目覚まし時計を止めるべく、手を伸ばす……でも、付近には何も無い。
「……??」
顔を上げる……何処かの和室の一室に、俺は居た。
目覚ましは……布団から約1m離れた場所に置いてあった。
なんで、和室?
という考えが、寝起き直後の頭で考えられる筈も無く……匍匐前進で目覚まし時計まで手が届く位置まで移動し、目覚ましを止める。
―― 06:00 ――
―― こんな早い時間にセットした奴を恨みつつ……そのまま後退し布団の上まで戻る。
そして再び睡眠を貪ろうとしたその時――
ピピピピピピピピピ。ピピピピピピピピ。
再度、目覚ましが鳴った……
「???」
種類が違うし、なにより下から響いている。
下の住人の目覚ましだろうか……とりあえず、数秒で止まるだろう。
しかし、何時まで経っても止まる気配は無い。
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
むしろ、音が複数に増えている?
「…………………………」
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
数秒単位で音が増え……挙句の果てには、ボリュームMAXにした大音量スピーカーが部屋中に響いているような感じ……
……つーか、音でガラスがガタガタと振動している。
―― 無論、鼓膜にもソレ相応の負荷がかかる訳で――
「―― があああああぁぁ!!」
耳を塞いで布団から立ち上がり、一目散に部屋の出口へと向かう。
障子を開け、外に出ると……これまた時代錯誤な庭に出た。
大きな池にデカイ鯉が20匹に、シンプルな竹落とし……つーか、ここ師匠ん家じゃ……
後ろから響く音と共に頭が覚醒していく。
此処は神木神社内にある師匠の家だ……それは、絶対に間違いない。
この家には地下なんて存在しない……なのに、布団の下から目覚ましが多数鳴っていた。
「…………………………」
このミステリーの解決法を考えながら、このまま放っておいたらどうなるかを考えてみる。
考えるまでも無く、絶対に怒られる。
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
―― ジリリリ。ジリリリ。
―― ピピピピピピ。ピピピピピピピ。
―― ♪〜〜♪〜〜♪〜〜。♪〜〜♪〜〜
でも……絶対に、こんな騒音魔境に脚を踏み入れたくない……つーか、鼓膜が確実に破れる。
「……はぁ……」
―― でもよ、行くしかないんだよな。
師匠が怒ると怖いし……何より近所迷惑だ。
意を決して、爆音が響く部屋に入る。
「耳が破れそうだ……マジで……」
鼓膜が持つかどうか不安になりながら布団をどかし、畳を持ち上げ ――
「……な゛……」
―― そこには……1uほどの穴があり、その中に目覚まし時計の山が有った。
目視確認だけで、ぜったい30以上はある……無論、全ての目覚ましが一斉に鳴っている。
―― こんな馬鹿げた嫌がらせを考え、そしてマジに実行する人物なんて……この世に一人しかいない。
「あの野郎……」
目覚ましを一個一個取り出し、スイッチを押していく……
……つーか、鼓膜が限界を迎えそうだ。
全ての目覚まし……総計50個程の目覚ましを止めた瞬間、黒幕が現れた。
「……グットモ〜ニング♪ 愚孫ちゃ〜〜ん―― って、おぶぅ!?」
手に持っていた目覚ましを、現れた人物に投擲――見事顔面HITして庭に吹っ飛んだ。
「朝から手の込んだ嫌がらせすなっ!! ――って、あれ??」
身体……全然痛くない?
つーか、今気づいたけど……俺、着物を着てる……いや、そんな事はどうでもいい。
動かすだけで激痛が走っていたのに……つーか、良く考えれば、俺、死体同然だったのに……ここ病院じゃない!?
確か……『失望』に脇腹を吹き飛ばされたり、腹のど真ん中を貫かれた筈なんだけど……
着物をめくって確認しても、傷口や傷跡なんて何処にも無く……極めて綺麗な肌だった。
それどころか、身体が錆び付いているような痛みも無い……
「男のストリップはゲイバーでね♪」
「………ぐっ………」
―― 我慢だ……ここは我慢だ……オレッ!!
反射的に目覚ましの山から適当なのを一つ取り、振りかぶった所で……その想いが身体に通じてくれた。
まずは、オレの身体に起こったミステリーを追究せねば ――
「……ジジイ……どんな手品を使った?」
「オマエのサイフに入ってた金を全部使って目覚まし時計を大量に買い込み、アナタの真下にセットしました……」
「―― 死ねっ!!!」
松坂もビックリするほどの剛速球がジジイの鳩尾目掛けて放たれる筈だったのだが、途中で指が滑った。
ジジイは腕の動きだけで着弾点を見定めていたのか……手から目覚ましが離れる前に、鳩尾を腕でガードしていた。
そして、そのまま放たれた目覚ましは、剛速球に近い速度で……そして、まるでフォークボールの様な軌道で降下し――
――『ブチョッ』……っという鈍い音と共に……ジジイのタマタマに着弾した。
「―― あ゛!?」
「お、お゛ぉぉ……ぉぅぉぅぉぉ〜〜」
涙を流しながら崩れ落ちるジジイ……
タマタマを必死に抑えながら悶える爺さん……『へ』の字を連想させるような形でうつ伏せになり、必死にタマタマが破滅しそうな痛みと戦っている。
「……その……ごめん……本当に、ワザとじゃないんだ……オレは鳩尾を狙ってただけで――」
「ぉ、ぉっ、ぉ゛ぉぅ……ぅ、……」
オレの声が聞こえないのか……顔を地面に付けたまま、ビクンッ! ビクンッ!! っと、痙攣している。
―― 正直、キモイ ――
「……じゃ、オレ、行くわ♪」
「……………………」
返事が無い……ただの屍のようだ……
……痙攣している屍を背に、オレはそそくさと居間へ向かった。
「はぁ……」
……爺さん……怒ってないよな?
爺さんをマジに怒らせた回数は数える程しかないが……マジで怒らせると、後が怖いんだよな……あの人――
―― 想像を絶する傍迷惑な復讐劇を『近所なんて存在しねぇ』みたいな感じで、大騒動を勃発させる奴だからな。
そんな事を思いながら、居間へ入ると……師匠が居た。
「雫……目覚ましの音がここまで届いていたぞ……」
「師匠、おはようっす……それと、オレに言われても困ります」
オレの師匠こと、『鹿島 信三』……あのジジイの友人であり、文字通り、オレに色んな事を教えてくれた先生・師匠でもある。
神木家の婿として迎えられた経験を持ち、現在、この神木神社の神主になっている。
―― 師匠の奥さんは……オレが生まれる前に無くなったらしい。
「……司は?」
「庭で痙攣してる……つーか、あのジジイの行動を止めてくれ」
「あやつの行動を止める事ができるのはオマエぐらいじゃて……」
「俺でも無理だってば……」
『
俺の最大の天敵にして、『唯我独尊』『心は何時でも5歳・身体も5歳』という迷惑思想の持ち主である。
俺が4歳の時からの付き合いだが……その性格は18年経った今でも変わる事は無い。
「つーか、師匠……聞きたいことあるんだけどさ……」
……主に、オレの身体の事について……
「解っている……が、詳しい事は、ワシの口からは言えん」
「なんでよ!? 穴だらけで即死のような傷が、たった一日で傷跡も綺麗に無くなったミステリーだぞ!?」
「だから、ワシの口からは ――」
「―― だったら、俺の身に何が起こったぐらいは教えてくれよ!」
「巻き戻ったんだろ……」
「巻き……戻る??」
なんだ、ソレは? ビデオの巻き戻しの事を言ってるのか?
「そう焦らずとも、ある人物が詳細を語ってくれるさ……」
「……そのある人物は何処に居るんだよ?」
「出かけた……なんでも、宝剣を探しに行くとか……」
「宝剣??」
『宝剣』とは、特殊な力が宿る武具の総称だ。
魔を払う……人を狂わせ、超人的な力を引き出す……自然の力を操る……等々――
―― そういう神秘的な力が秘められているモノの他にも、霊剣・魔剣・聖剣という伝承されているモノも『宝剣』と呼ばれている。
ぶっちゃけた話、永遠神剣と同じ意味でも…………って、まさか!?
―― たった一日で身体が治ったミステリー ――
―― 『巻き戻し』という言葉 ――
―― その真相を知ってる人物は、宝剣探索中 ――
ここまでキーワードが揃えば、俺でも解る。
「……戦巫女……か?」
その言葉を聞いた師匠は、意味ありげな笑みを浮かべ ――
「……さて、ワシは朝食の準備でもしてくるかの……」
―― そんなことを言いながら、台所へと歩いていく。
「師匠、朝食なら俺が――」
「お前や司みたいに、米に調味料やミカンに醤油をかけるゲテモノは嫌だからな……」
「……ミカンに醤油って……ナニソレ??」
そんなゲテモノを好むのか……あのジジイは?
「なんでも、イクラの味がするらしい……」
「―― マジで!?」
「お前まで、やるなよ?」
「………………………………やらねえよ」
「今の間は?」
「師匠……細かい事を気にしたら負けです―― って、そうだっ!!」
もう一つ、大切な事を忘れてた。
「まだ何かあるのか?」
「……俺の他に、もう一人居ただろ? アイツは??」
「ああ、あのお嬢ちゃんなら『例の森』に出とるよ……」
「なんで『例の森』に?」
「刀を振るっていた……型を見せてもらったが、只者では無いな……」
―― そりゃそうだ……『もう一人の俺』曰く、何百年に一人の逸材なんだ。
「会いに行くなら、タオルと冷蔵庫に入ってるスポーツドリンクでも持っていきなさい」
「そうだな……」
勝手知ったる人の家……冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、洗面所へと向かう ――
―― 訓練してるって事は汗をかいてるだろうから、ちゃんと風呂も沸かして、蛇口から出るお湯の温度を確かめてやるという親切心付き♪
これで、ストーカー説等々の、無い事無い事を言ってた借りはチャラだな……ヘリオンよ……
500mlのペットボトルに入ったスポーツドリンクとバスタオルを片手に、俺は『例の森』に入る。
―― 『例の森』と言うのは……まあ、悪霊の発生率が非常に高い……神社の裏にある森の事である。
『例の森』にでる退魔を依頼するのは、いつも師匠……代金は一回につき50万円……
師匠は何故か、俺の財政状況を俺以上に把握している。
何故なら、軍資金が一定以上少なくなると……ワザと曰くつきのモノを、この森放置しておいて悪化したら俺に退治させてくれる。
―― そうやって、俺は現在まで生き長らえてきた。
その借金は収入が入り次第、分割で返しているのだが、それでも総額100万に届きそうで……
……社会人なのに社会人になった気がしないのは、きっと、コレが原因なんだろうな。
―― つーか、俺の入院費は誰が払ったんだろう?
むしろ、あの病院……あの後、どうなったんだ??
後で師匠に聞こう……
「”989……990……991……”」
「やってるねぇ……」
声が聞こえる方向へと道を修正し、歩く事数秒……ヘリオンの姿が確認できた。
「”995……996……997……”」
ジャージのズボンにTシャツという姿で、ヘリオンは『失望』を振るっていた……っというより、居合いの練習をしていた。
「”998……999っ……”」
居合いを放つごとに、ヘリオンの汗は飛び散り……日光で反射しているのか、飛び散った汗がキラキラと輝いている。
Tシャツはもう汗でビショビショで……可愛らしい乳首が薄っすらと透けて見える ――
―― つーか、ブラジャーぐらい買ってやれよ……あの暴力病院の看護婦共め……
「”1000ッッ!! ―― と〜〜……はぁ、はぁ……はぁ…………はぁ…………”」
ポタポタと滴れる汗を拭う事もせず、ヘリオンは両膝に手を付きながら、うつむいて息を整えている。
「”……朝から精が出てるじゃねえか……”」
「”あ、雫さん……お、おはよう……ございます……はぁ、はぁ……”」
「”ほら、差し入れだ……”」
ヘリオンが顔を上げたのを確認してから、ペットボトルとタオルを投げる。
「”あ、ありがとうございます……”」
先にタオルで汗を拭かず、ペットボトルに手を付けたヘリオン ――
―― 果たして、スピリットはペットボトルの蓋を外せるのか!?
そう思ってたが……?マークが浮かぶ間も無く、普通に開けられてしまった事が少しショックだった。
そして、蓋を外したヘリオンは……その中に入ってるスポーツドリンクを飲むかと思いきや ――
―― 何を血迷ったのか、スポーツドリンクをいきなりをパシャパシャと頭からかぶった。
「”―― な゛っ!?”」
「”?? どうしたんですか?”」
「”いや……いきなり頭から被るからさ……”」
―― 糖分が結構含まれてるスポーツドリンクをな。
「”どっちにしろ、汗でビショビショですし……あれ?”」
―― 気づいたか、己の過ちに……
「”もしかして……運動した後、水を被るのって……私だけですか??”」
「”いや、『水』を頭から浴びせた経験は俺もあるし、誰でもやった事があると思うぞ……”」
「”そうですよねぇ……良かったぁ♪”」
「”そうだよな……あはははは……”」
俺の笑いが棒読みであることを誰が責められよう?
水と勘違いしてスポーツトリンクを頭から浴びたら、後でどんな惨劇が訪れるか――
―― 知ってる者なら、誰だってこんな反応をするに違いない。
「”それより、良かったです……雫さんが無事で……”」
「”ってか、お前……俺が気絶した後、何が起きたか知ってるのか?”」
「”はい……知ってますけど……”」
―― 知ってるのか?
「”じゃあ、教えてくれ”」
そう言うとヘリオンは、はいっ! っと、元気に答え、昨日の事を話してくれた。
「”ええっとですね……雫さんが倒れた後、2人のお爺さんと女の人が来たんです”」
「”女??”」
二人のお爺ちゃん……っというのは、ジジイと師匠の事だろう。
「”ええ、皆さん、お揃いの服を着ていました”」
「”どんな服だった?”」
「”赤と白の、ぶかぶかの服です”」
赤と白とぶかぶかの服……たぶん、巫女装束の事だろうな。
「”女の人は、永遠神剣を持っていて……”」
ヘリオンの表情が曇る……
「”永遠神剣を持っていて……どうしたんだ?”」
「”感じたことも無い力が……きっと、ユートさまの『求め』より、とてもとても凄い力を持った永遠神剣を……雫さんに掲げて――”」
「”雫さんの下にあった血溜まりがみるみる小さくなって……まるで、血溜まりが生きてるように雫さんの中に入り込んだと思ったら……”」
「”雫さんの傷が、初めから無かったように塞がったんです”」
「”なる程……『巻き戻った』……ねぇ……”」
十中八九間違い無い……ジジイと師匠と共に現れたのは戦巫女だ。
彼の戦巫女の伝説は……退魔に属する者なら、誰でも知っている程に有名な話である。
時は平安、『倉橋』の家より生まれた彼の巫女は『時を詠む力』……未来視の能力を生まれつき持っていた。
いや、それだけでは無い……『式神』でも扱いは右に出るものは無く、一人で幾千もの妖怪を殲滅したとか……
そんな戦巫女にも、窮地が訪れる。
戦巫女が敵わぬ程の妖怪が出現したのだ。
彼の戦巫女の窮地を救ったのは、『倉橋』の家に伝わる宝剣を持った、彼の戦巫女の父親……
……しかし、父親は宝剣の力を引き出せずに死亡……彼の戦巫女がその宝剣を執り『時を操る力』を持って、見事妖怪を殲滅した。
―― その後には、様々な説がある。
その直後、父が死んだ悲しみに心壊され、発狂し、父の後を追うように死んだ……という、発狂説 ――
『時を操る力』を手に入れた彼の戦巫女は、今も何処かで生きている……という生存説 ――
強力な力を持った彼の戦巫女は、世界に拒絶されて異世界へと飛ばされた……という次元飛翔説 ――
どれが正しいのかは解らないが……『永遠神剣』という存在を知った、今の俺は……どれもが正しいのではないのかと思う。
例えば発狂説 ――
―― 死んでる事は、完璧に間違いだが……『永遠神剣』には人を発狂させる程の強制力がある。
例えば次元飛翔説 ――
―― 現に俺達は、異世界を渡った。
例えば生存説 ――
―― 確証は無いのだが……永遠神剣の持ち主は、ある条件が揃えば『時の概念』から外れる事も可能……な、気がする。
とりあえず……戦巫女が近くに居て、尚且つ、俺達に力を貸す気満々という事だけは解った。
「はぁ……」
とりあえず、安心した……胸のつっかえが殆ど抜けた。
「”あの……雫さん……あの人達は……知り合いなんですか?”」
「”ジジイ2名は知り合い……もう一人の女は……貸しがあるみたいだ”」
「”??”」
「”ま、とりあえず戻ろうぜ……風呂の準備もしてある”」
「”あ、本当ですか!?”」
―― 嘘ならどうするつもりなんだろう?
『例の森』から戻る最中、鼻歌を歌っていたヘリオンだったが……
次第に元気がなくなり……師匠ん家の玄関に付く頃には、既に半泣き状態になっていた。
「”あの……雫さん……”」
「”ん?”」
「”なんか、身体がベトベトして……とても気持ち悪いんですけど……”」
だろうね、スポーツドリンクを頭からかぶったもんな♪
―― しかも、500ml全部♪
「”あれ、水だったんですよね?”」
「”……………………”」
「”なんで視線を逸らすんですか?”」
「”…………ごめん、あれは水じゃ無くてな……飲めば水より旨いと思うが、体にかけると……お前みたいな状態になる”」
「”なんで、先に言ってくれなかったんですかぁ〜〜っ!”」
「”仕方が無いだろ、いきなり頭から被るとは思わなかったんだ……つーか、お前こそ先に言えっ!!”」
「”へうぅ……”」
「”いいから、さっさと風呂に入って来い……ほら、玄関である此処から廊下を真っ直ぐ行った所の突き当たりだ”」
「”はい……うぅ〜、本当にベトベトですぅ……”」
内心大笑いしながらヘリオンを見送った後、居間に戻ると復活したジジイと師匠が飯を食っていた。
「お、焼き鮭っすか……相変わらず、古臭い朝の定番を貫いてますな……」
「うっさいわ……嫌なら喰わんでもいいんだぞ」
「冗談ですって……」
つーか、飯喰うのって……本当に何ヶ月ぶりだろう……この食欲のそそる匂いも……腹の減り具合も……
……本当に、本当に帰って来れたと……実感できた。
「つーか、雫……オマエ、風呂に入るんじゃなかったのか?」
「なんでジジイが知ってんだよ?」
「そりゃ、風呂場から出てくるお前の姿が見えたからな……」
「俺は後で入るよ……先に入るのは、あのガキ……」
「―― なにいいいぃぃ!?」
ジジイが驚くと共に、何処からか悲鳴が聞こえた。
「”あきゃあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?”」
―― 今の……ヘリオンの声??
つーか、今度は何をやらかしたんだ……アイツは??
「雫っ!! 氷と救急箱から軟膏を持って来いっ!!」
悲鳴を聞いただけだというのに、ジジイの指示はかなり的確だ。
―― まるで、どんな事が起こって、どんな事態に発展したのか解ってるような……
「……ジジイ、何しやがった?」
「お前が入ると思って……蛇口の調節量をお湯だけにしました……」
このジジイ……
「それと、ヤカンで煮えたぎったお湯を3回ぐらい注ぎ込みました……」
「「―― な゛っ!?」」
事態を理解できた俺達の行動は早かった。
俺が氷、師匠が救急箱を抱えて、急いで風呂場へと急行する ――
―― ちなみに……ジジイは俺と師匠のツープラトン攻撃がタマタマに炸裂……現在、再び痙攣しながら伸びている。
風呂場の扉を開けると、肌が赤く茹で上がったヘリオンが桶を掴みながらピクピクと痙攣して倒れていた。
「おい、大丈夫か? ―― って、あっつぅ!?」
倒れてるヘリオンを楽な姿勢に変える途中、長い髪から滴れる熱湯が俺の肌に触れたのだ……
……つーか、またコイツは頭から被ったのか!?
―― 温度ぐらい確かめろやっ!! いやっ、それよりもマジで洒落にならん温度だぞ、コレは!!
「師匠っ、水っ! とにかく水っ!! そうだ、シャワー!!!」
「いかんぞ、雫っ! いきなり冷水をかけたらダメだっ!! ヌルめの湯から徐々に冷水に――」
「―― りょ、了解です、師匠!!」
「こうして……無垢な幼女は薬で眠らされ、雫の毒牙にかかるのであった……ま〜る♪」
「―― うっせぇっ!! テメェは黙って反省でもしてろボゲジジィ!! つーか、何時の間に復活しやがった!?」
「ワシのタマタマは……何度潰されても蘇るのじゃ……」
「頼むから黙れっ! そのタマタマを俺の銃でぶち抜くぞっ!!」
「雫……オマエのマグナムをワシにぶち込むだなんて……いやん、えっちぃ♪」
―― コロス……このホモガッパ……
「―― お前等、いい加減にせんかっ!!!!」
―― こうして、大迷惑な騒動と共に、一日が始まろうとしていた。
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