永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 7 胡蝶の夢
第5節 『疫病神』
「では、担任の先生と校長を呼んでくるので、少々お待ち下さい……」
「……あ、お願いします」
職員室の隅に作られたスペースに、一人取り残される。
窓の外では、陸上部の学生達が元気良く走り回っていた。
昼を過ぎ、外は炎天下だというのに……よくもまあ、頑張るものだ。
―― 県大会でも近いのだろうか?
「……………………」
そんな事を思いながら、出されているお茶を一人寂しく啜る。
本当は、ヘリオンも連れてきて、色々とハイペリアの名所……というか、近所を案内してやろうと思ったのだが ――
―― あいつ、本格的に拗ねやがった。
お風呂事件簿から数時間経った時、ヘリオンの意識は回復した。
そして、眼を覚ましたヘリオンに、俺が風呂場事件の経緯を嘘偽り無く話した結果……師匠ん家の一室に引篭ってしまったのだ。
そこからが、もう大変でした――
「”ぅぅぅ……良いんです、良いんです……もう、誰も信じません……”」
「”だから、拗ねるなって……”」
どうやら、ジジイのオチャメが相当なトラウマになってしまったらしい。
―― その気持ちは痛過ぎる程解る……俺も一時期そうなった経験があるからな。
「”身体がベトベトになっちゃうし……”」
「”アレは、いきなりジュース被ったオマエの責任だろうが……”」
「”そのベトベトや汗を流そうとしたら、肌が焼けました……私の肌を見たんですよね!? 今も肌がまっかっかなんですよ!?”」
「”だから、爺さんも悪気は……かなりあったと思うけど、俺には温度を確かめずに湯を頭から浴びるオマエにも原因があると思うんだが――”」
「”―― それに、また私の裸姿を沢山の人に見られちゃいました!! ユート様にも、まだ見せて無いのにっ!! もう穢れ過ぎちゃいましたっ!!!」
「”その点については安心しろ……沢山つっても、たった3人だし、ここの住人は俺以外既婚者だから気にしないし……それに、俺も忘れるから ――”」
―― だから、お前も忘れろ。
「”そういう問題じゃ無いんですってばっ!!”」
―― じゃあ、どういう問題なんだよ?
「”―― 良いんです、もう良いんです……私が悪いんです、そうですよ、なにもかも全部私が悪いんです……”」
「”ほら、何時までも拗ねんなよ……ハイペリアの外でも案内してやるからさ、いい加減に機嫌直せって♪”」
「”嫌ですっ! どうせ気持ち悪い人の形をした変なのに遭遇するんです……絶対遭遇しますっ!!”」
「”あのゾンビ共の事は、いい加減に忘れろ……絶対に居ないから”」
「”嘘ですっ! 雫さんは私の事嫌いだから、そんな嘘をついて私を陥れようと――”」
―― ダメだ……俺には無理……つーか、どうすればいいのか解りません。
誰か助けて……ガキの扱いが巧い奴……ハリオンの姉ちゃんかセリアの姉ちゃんでもいいから……
「”人聞きの悪い事を言うなっつーに、俺が何時嘘をついたよ?”」
「”沢山つきました……何時何処でついたか解りませんが、絶対ついてますっ!!”」
―― 酷い言われようだ……人を嘘つきみたいに言いやがって……
「”ほら、ハイペリア産の美味しいフルーツも用意してあるからさぁ……”」
5つで100円という格安リンゴが近くのスーパーに安く売ってあった所、ジジイが入手してきたらしい。
毒とか洒落にならんものが仕掛けられてそうだが、長年かけて培われた俺の『対ジジイ直感センサー』が訴えてる
―― とりあえず他の奴に食べさせた後の反応を見ろ、と…… ――
「”食べ物で機嫌直そうとしてもムダですよぉ……どうせ、とっても渋くて苦いに決まってますっ!!”」
―― 渋柿じゃねえんだから、渋くも苦くも無いっつーの……
……まあ、賞味期限はヤバそうだけどさ……
「”……つーか、オマエ……飯はどうするんだ? そこに引篭ってたら喰えるもんも喰えないんじゃ――”」
「”戻れる方法が見つかるまで耐えますっ!!”」
「”んな無茶な……”」
「”ぐすっ、ハイペリアって、本当に怖い所です……早く帰りたいよぉ〜〜……”」
―― ダメだ、こりゃ。
一人にしてあげる時間も必要だ♪ ……っと、判断した俺は、居間に撤退する。
「どうだった? まあ、聞くまでも無いと思うが……なあ、司?」
「無理……相当のトラウマになったみたいだ……なあ、ジジイ?」
俺と師匠の視線の先には……簀巻きになったジジイが転がっていた。
『現在反省中』という紙が張られているが……本当に反省してるかどうかが謎だ。
「…………なあ、お前等……この簀巻きプレイを何時まで続けるつもりじゃ?」
「そりゃ、あのお嬢さんが機嫌直すまでだろ……」
簀巻きプレイ……じゃなかった、簀巻きの刑は俺も受けた事がある。
師匠の骨董品コレクションをうっかり割ってしまって……簀巻き状態で、外に放置されたのだ。
冬の夜空だったから、そりゃあ空が綺麗だったさ……よかったな、ジジイ……今は夏で♪
「で、雫よ……あのお嬢たんの機嫌はすぐ直るんじゃろうな?」
「3日間は頑張りそうな気はする」
「3日!? 3日も!? ワシが何をしたと言うんじゃ!?」
「人様に迷惑かけまくりの存在が何を言っておる……」
ジジイと師匠のやりとりを尻目に、俺は食器を洗うべく台所に向かう。
「酷いっ!! しかも無垢な少年を簀巻きにするなんて……鬼っ! 悪魔っ!!」
「あのな……司……お前、ワシに簀巻きの刑にされたの……コレで何回目だと思ってる?」
―― つーか、『少年』って部分を突っ込もうよ……師匠……
「……コレが初めて??」
「2桁後半あたりは確実だ、ボケ……」
つーか、そんなに簀巻きの刑受けたのかよ!?
道理で師匠の手際が桁外れに手馴れてると思ったわ……
「師匠……ちなみに、ジジイの最高刑罰時間は?」
「一週間だ……さて、今回は記録更新になるかどうか……賭けるか?」
「……止めときます♪」
―― ジジイの人外伝説が更に更新されそうだから♪
「つーか、師匠……一週間も放置した時、餓死しなかったんですか?」
「流石に可哀想だったから、近くに水とドックフードでも用意しておいたら……一週間は辛うじて生き延びたぞ」
ドックフードて……つーか、師匠?
対ジジイになると容赦が無いよな……俺もだけど……
「……罪悪感とか感じるとき、あります?」
「40年前に感じなくなったな……オマエも似たようなもんだろ……」
「…………」
良かった♪
……ナニが良かったって?
ジジイに対する扱いに罪悪感を感じていないのは俺だけじゃなかった事に決まってんだろ♪
「あ、そうだ……これ洗い終わったら出かけるんで、俺の荷物が置いてる場所を教えてもらえます?」
「? 何処に出かけるんだ?」
「浅見ヶ丘学園に……ちょっと……」
正直な話、アッチに戻る手段と神剣探しは戦巫女に全てを任せるしかない。
……けど、だからと言って、じっとしていられる余裕もない。
今日の夢を見た所為で呑気に日常を過ごす気分でもなく、出来る限りの事をしようと思ったのだ。
「浅見ヶ丘か……じゃあ、ちょっと頼まれてくれるか?」
「師匠の頼みなら、なんなりと……」
そんなこんなで、俺は一旦自宅に戻り、大学の入学式と卒業式にしか着たことの無いスーツで諜報活動を開始……というか、私立浅見ヶ丘学園に来ている。
部屋に別の人が居たらどうしようと思っていたが、師匠が家賃を肩代わりしていてくれたお陰で、今も無事に俺の部屋は存在している。
―― あの人には一生頭が上がらないかもしれん。
ちょうど出されていたお茶を飲み干した時、書類を持った二人の人物が職員室に入ってきた。
「あ、どうも……例のクラスの担任をしている『安部』と申します」
「校長の『藤崎』です』
「や、こちらこそどうも……退魔師の『時神 雫』です……紹介状もちゃんと貰ってますので……」
師匠から渡された紹介状を校長に手渡す。
「しかし、退魔師という職業が本当に存在していたのですね……警察に紹介された時には驚きましたよ」
校長が紹介状の中身を確認しながら、俺の向かいに座る。
「ある理由から、報道に完全規制かかっていますから……知らないのも当然でしょう」
「しかし、何故報道規制をするのですか?」
「幽霊とかの存在は、常識的に『存在しない』と思われているのが普通です」
「しかし、本当は存在するんだ……なんて報道されたら、霊的存在を信じない人物が詐欺だのなんだのと騒ぎます」
「他にも、実際にゾンビとか……そういう存在が報道されて、世の中にいらない混乱を持ち込まない為に、報道規制がかかってるのです」
「そうだったのですか……」
―― それが、表向きの理由。
真実は……更に深いところにある。
昔には当たり前のように存在していた、精霊とか妖怪とか幽霊とか……神秘的力を宿す存在達……
……日本だけでは無く、世界中での現代社会で……何故、そういう存在は、現代社会で『存在しなくなった』のか?
―― それは、人間の力によるものだ。
人間は、誰もが、例外無く……自分の思い描く通りに世界を塗り替える力を持っている。
―― けど、それは……本当に微弱な力だし、個人で世界を塗り替えられる訳がない。
しかし、そこで共通の認識を持つ人間が集まればどうなるか?
その微々たる力は、すこしだけ強くなる。
まあ、『共通』している事が条件だが……
……さて、ここまで言ったら話は読めたと思う。
全世界に存在する人間の殆どが『神秘的な生き物なんて存在しない』という認識を持ったからこそ……
……『神秘的な生き物』は存在できない世界が出来上がったのだ。
世の中には、人間が最も脆弱な生き物だとか言っている者もいるが……とんでもない。
最弱だったら、人間がこんなに長く繁栄している訳が無い。
世界を塗り替えてしまう人間の力は強力無比だ。
全世界に存在したであろう妖怪・吸血鬼・天使・悪魔・精霊・鬼……そして、万能の力を持つ神さえも駆逐したのは、間違いなく『人間の力』……
地球上に存在する、何十億という『人間の力』……いや、意思は、神さえも超えたのだ。
……世界中に住む人間の常識を改革する……
そんな馬鹿げた計画を、昔の人間は……いや、世界中に居る『魔』と対峙する組織や個人が一つとなって、事を成したのだ。
それが、どれだけ想像を絶するモノなのか……それが、どれだけ困難なモノなのか……それが、どれだけの年月が必要だったのか……
今、この世に……神秘的な力を持って、人に仇なす存在が居ないのは……昔の退魔に属する先人達のお陰だ。
しかし、全世界の人間が無意識的に作った結界より更に強い力の強い妖怪や人外的存在は、その結界内でも活動できるのだ。
それでも、全人類が作り出した結界は伊達じゃない。
結果内では、能力の制限が大幅に付く他……最低・数百万分の一ぐらいに弱体化してしまう為、専門家が複数集まれば追い出す事も可能なのだ。
その為の退魔師・その為のエクソシスト・その為のホラーハンター……
全世界で神秘を持つ存在に立ち向かい、人の世を護っているのが俺達だ。
だから、今の世界の在り方に……本当に恐怖を覚える時がある。
取るに足らない怪異は、結界の力によって弱体しているだけの存在であって――
―― 本来の力は、神と崇められる存在より大きい力を宿している事になる。
現段階で現れてる怪異は、本来はそういう大きすぎる力を宿した連中だ。
もし、結界が破られるような事があれば……世界は一瞬で消滅する。
それが、報道規制をする真の理由なのだ。
インターネットというメディアが存在する今……情報は瞬く間に全世界に渡る。
だから、一歩間違えれば……全世界の人間が『神秘的な存在が実在する』と認識し、結界はあっという間に消滅し――
―― 結果……瞬く間に人の世は滅亡する。
そんな事、今考えても仕方が無いんだけどな……
「それで、本題に入りたいと思うんですけど……警察から預かっている資料、有りますよね? 拝見させて貰えませんか?」
「あ、はい……」
校長が頷くと共に、二人は持っていた複数の資料をテーブルに置く。
そして、俺が取ったのは現場状況が詳細に載っている資料……
現場写真には、爆弾が爆発した後の惨状を思わせる……ボロボロになった教室が写し出されていた。
日付は2008年12月22日とある。
「12月22日って事は……冬休みに入る前に起こったんですか?」
「いえ、その時は既に冬休みに入っていたので、怪我人は居ませんでした」
爆破物の痕跡は無し……
備考には……精液と愛液が発見されたと――
―― 教室で性交してる奴って……やっぱり居るんだな。
「あ、あの……そこの備考に書かれている事は――」
「―― 大丈夫です、私達は基本的に口外しません」
「助かります」
困るよな、学校側も……世間様の信用に関わるから……
校長がふかぶかと頭を下げるのを苦笑いしながら、次の資料に手を伸ばす。
この資料は……同時期に行方不明になった学生のリストのようだ。
そして、その資料に書かれた人物の名前を見て……息を呑んだ。
―― 高嶺 悠人 ――
―― 高嶺 佳織 ――
―― 岬 今日子 ――
―― 碧 光陰 ――
―― 秋月 瞬 ――
「あの……この学生達は?」
「教室が謎の爆発を起こした日と同じ時期に……行方不明になった生徒です」
「……いまも、見つかってないのですよね? この5名は?」
「はい……」
上記4人は知っている……神木神社で謎の光に巻き込まれたと、高嶺の妹さんから聞いたんだから――
―― でも、秋月という人物が近くに居たなんて……そんな事、一言も言ってなかったぞ……
『高嶺 悠人』の詳細が載った書類を読んでいると……備考欄の所に気になる文字を発見した。
『行方不明者は全員、『高嶺 悠人』と関係が深い生徒である』
『12月19日〜22日の間……浅見ヶ丘学園の制服を着た、髪の青いモデルのように美しい女性と共に居たという証言有り』
付属の資料に、目撃者証言を元に作成された似顔絵が添付されており……それを見た瞬間、頭が真っ白になったと言っても良いほど……俺の頭は混乱した。
「なんで……鎧の姉ちゃんが…………」
「はい? なにか、気になる点でも??」
「……いえ……なんでも無いです」
「はぁ……」
「……………………」
どういう……事??
このリストに載ってる奴等が……いや、俺達は2007年の12月18日に、アッチの世界に飛ばされたのは絶対だ。
でも、なんで……それ以降に高嶺の兄ちゃんが目撃されてるんだ?
―― しかも、鎧の姉ちゃんと一緒に??
「……………………」
一旦、こっちの世界に戻ってきた?
何時??
エトランジェである高嶺の兄ちゃんや『ラキオスの蒼い牙』と謳われる鎧の姉ちゃんが一緒に居なくなれば……その噂は絶対俺達の所まで届くはずだ。
高嶺の兄ちゃんだけ、時間差で飛ばされた??
だったら、なんで鎧の姉ちゃんがこの世界に?
―― それ以前に、高嶺の妹さんは『一緒に飛ばされた』と証言していた筈だ。
「………………」
「どうしたのですか?」
「……あ……いえ……とりあえず、現場を見せてもらえませんか?」
「解りました……」
担任と校長と共に移動してる最中も、俺の頭は混乱していた。
なんで18日以降……高嶺の兄ちゃんは、鎧の姉ちゃんと共に目撃されているのか?
その事で頭が一杯だった。
―― もしかしたら……まだ、この世界の何処かに潜伏してるのだろうか?
けど、だとしたら……姿を現さないのは何故??
「………………」
「………………」
「………………」
俺を心配そうな眼で見つめる先生方……
……この謎は、とりあえず置いておこう。
このままじゃ、仕事に成らないし……顧客である先生方にも失礼だ。
「あの……『高嶺 悠人』と関係が深い生徒が飛ばされたとありましたが……関係が深い生徒全員が飛ばされたのでしょうか?」
「いえ、『夏 小鳥』という生徒が居ますが……彼女も冬休み中に退学しました」
「退学……ですか?」
「ええ、原因不明の病にかかって……下半身不随になったそうです」
『夏 小鳥』
確か、高嶺の妹さんと親友で……占い大好き少女だったか?
つまり、高嶺の兄ちゃんの関係者が全員……学校から消えたって事か?
「前に、『高嶺 悠人』は疫病神だという噂が生徒に流れておりまして……」
「…………」
「私が、もっと早く気づいてあげれば良かったんです……」
「???」
「アイツは、本当に真っ直ぐな奴でした」
「妹の事になると見境無しの過保護で、慰謝料を受け取らずにバイトだけで生活している……そんな、子供みたいに自分勝手な生徒だったけど――」
「―― でも、アイツは本当に良い奴だったんです」
安部先生の表情には、後悔という感情だけが写っていた。
「警察から、退魔師という職業が本当に存在して……そして、胡散臭いオカルトの中に、本当に起きた出来事もあると知って――」
「―― アイツは、本当に呪われてるんじゃないかって……そう思いました」
「…………」
「もっと早く……退魔師という職業が存在するって気づいて……高嶺を診てもらってたら……こんな事にはならなかったんじゃないかって……」
「もっと、幸せな人生を……これからを、歩んでいけたんじゃないかって……」
現代では珍しい程、良い先生だな……この人……
「過ぎたことを悔やんでも仕方が有りませんよ……大事なのは、これからです」
「これからも似たような生徒が居たら、今度こそアンタが護ってやらなきゃいけない……そうだろ?」
「……そう、ですね……」
教室に辿り着く……
このクラスの担任の先生曰く……高嶺の兄ちゃんもこのクラスで日々を過ごしていたらしい。
―― 改めて、高嶺の兄ちゃんの過去について考える。
高嶺の兄ちゃんの本当の両親は他界……
高嶺家に養子となり……義理の両親達は飛行機事故で他界……
慰謝料は受け取らず……親戚に頼る事無く、バイトのみで生活費を稼ぐ……
学生がバイトして稼ぐ収入なんて、スズメの涙だ……なんせ、一日中働く事が出来ないんだから――
そんな収入で二人分の衣食住を賄うには、かなり苦しい生活を要求される。
何故、慰謝料を受け取らないのかは知ったこっちゃねえが……それで一番被害を受けたのは妹さんだ。
本人は気にしてないようだが、それなりの裕福さを知る者から見れば、かなり不幸だろう。
周りは、兄の我侭で苦しい生活を強いられてるようにしか見えないんだから……
そして、関係の深い生徒は行方不明や原因不明の病にかかり……関係の深いこの教室も巻き込まれた。
―― 周りが、高嶺兄ちゃんの事を『疫病神』と噂するのも無理は無い。
だから、高嶺の兄ちゃんに……少し関心した。
よくもまぁ……そんな不幸の連続が続いて、世間からは『疫病神』と噂されてるにも関わらず、あんな真っ直ぐな性格を保てた事に……
安部先生の話を聞いて、高嶺の兄ちゃんは自分勝手過ぎるような気もしなくもないが……幼い頃に、人生の先生となる両親が死んだんだ。
己の行為の善悪を指摘してくれる者はおらず、幼い身で唯一人の身内を守る為には……そのくらい自分勝手になるしかなかったんだろう……
「…………………………」
まあ、なんでそんな事を熱心に考察しているかというと……修復された今の教室に、どこにも異変なんて感じられないからだ。
瘴気とか、そういう類の力は感じられない。
悪霊が暴れた痕跡……いわゆる残留瘴気とでも言えばいいのだろうか――
―― それらは放置しただけで、自然と消えるようなもんじゃない。
ちゃんと、御払いとか儀式とかして……そうやって消していくものだ。
だから、不思議だった。
何の痕跡も感じられないのだから……
少なくとも、写真に載ってあった教室の惨状は……悪霊によるものじゃない。
―― それだけしか解りません♪
だから、高嶺の兄ちゃんの人生を考察してたんだよ……つーか、この現実逃避癖って、いつ抜けるんだろ??
『今回は調査だけなので♪』……という言い訳を鵜呑みにしてくれた先生方に感謝しつつ……わずか一時間で今日の情報収集、兼、お仕事は終了した。
先生方には悪いが、俺には何も解らなかった。
―― でも、貴重な情報を手に入れることができた。
高嶺の兄ちゃんと鎧の姉ちゃんが、この世界に訪れたのだと……
―― でも、ただそれだけ。
今は何の意味も無い言葉の羅列だ。
「つーか、アイツ等は一体、何の為に戻ってきたんだ……」
―― 俺に対する嫌がらせか、コンチクショウッ!
俺をミステリアスな迷宮に叩き落す事が目的に違いないっ!!
そうだよ、そう考えれば全ての辻褄がご都合主義的に合うじゃないか♪
―― この謎は全て解けたっ!!
「……………………はぁ……………………」
虚しくなる前に帰ろう……後は師匠に強引に引き継がせて、この仕事は本当に終わりだ。
この神木神社へ続く階段は、尋常では無い程の急斜面で階段が永遠と続いる。
師匠ん家に長い間泊まると、買出し等のちょっとした理由でも長い階段を往復しなければならないので並の苦労ではない。
……が、基本的に身体が資本主義な俺達にとってはさほど辛くもない事であった――
――ただ、移動が面倒なだけ。
時々、浅見ヶ丘学園で部活をしている生徒がこの階段を使って集団筋トレしていることも有るそうな……
長い長い階段を昇り終え、師匠ん家の玄関を開けると……見慣れない靴が2足と、車椅子が置いてある。
「……??」
またジジイの悪戯だろうか……と、考えながら居間へ足を運ぶと……知らない女性と師匠が会話していた。
「お、雫……帰ってきてたのか?」
「ちょうど今帰ってきました……っていうか、仕事話なら席外しますけど?」
「外す必要は無い……今仕事をしているのは司じゃ……」
「…………………………」
珍しい……
ナニが珍しいかというと、あの爺さんが遠地に出張してまで仕事するという事が……
「あの……本当にあの子は助かるんですよね?」
「ご安心を……先週も申したように、彼女を蝕んでいる正体がやっと掴めまして……今、蝕んでいる元凶を取り除いていますから」
「……良かった……ぐすっ、本当に……本当に……」
安心した顔で泣き崩れる女性……
部屋の隅にあるタンスの引き出しからハンカチを取り出し、その泣いてる女性に渡そうと手を伸ばす。
「―― あ、ありがとうございます……それで、アナタは?」
「『時神 雫』と申します……現在、修行の為、神木神社でお世話になっている身です」
「あ、こちらこそ……『夏 早百合』です」
夏??
―― はて、何処かで聞いたような苗字だ。
「でも、本当に良かったです……何処の病院に行っても、原因不明と言われて……小鳥はもうダメなんじゃないのかって……」
……小鳥??
―― 夏という苗字で……小鳥!?
『夏 小鳥』って……ああっ、退学した例の生徒かっ!
「―― って、師匠……病院って警察と違って退魔の存在を知らない筈だよな?」
―― っていうか、今更だけど……俺が入院してた病院の事を聞くの忘れてた事を今思い出したっ!!
「小鳥が言ったんです……この神社の神主さんに頼れば直るって――」
「―― 最初は信じなかったけど……今思えば、なんでもっと早く来なかったんだろうって……」
俺は師匠と顔を合わせる。
―― 知り合い??
―― いや、2ヶ月前初めて会話した。
……アイコンタクト終了。
後で『夏 小鳥』とかいう生徒に事情聴取してやろう。
高嶺の兄ちゃんの事とか、なんで隠避されてる退魔の存在知っていやがるんだ……とか――
―― とりあえず、爺さんの仕事が終わるまで……俺は師匠と一緒に『夏 早百合』さんとの雑談に加わる事にした。
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