永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 7 胡蝶の夢
第7節 『死後の世界の夢物語』
いつから、こんな酷い状態になったのか?
拗ねたコイツを、無理矢理に手を取ってでも引っ張り出していたら……もう少し早い段階で感知できたんじゃないのだろうか?
そんな過ぎたことを悔やむだけ無駄だし、そう思ってる暇があったらヘリオンを回復させる手段を考えるべきだって事も解ってる。
―― 頭では解ってるんだが、落ち込まずには居られなかった。
「”は……ぁ、はぁ、は……”」
汗を拭いても秒単位で玉のような汗が浮かび上がる……そんな状態……
……意識は無く、呼吸は弱々しいクセに激しく熱病に魘されている。
「”ぅ……はぁ……っ、ぁ……あ……れ?”」
そんな状態にいるヘリオンが、突如目を覚ました。
同時に固まる俺達……特に、ヘリオンを診断してる爺さんは脂汗をかいている方に1000円♪
ヘリオンの視線は、爺さんの顔から爺さんの手に移動する……
……自分が再び素っ裸で、しかも股付近を触れられてると理解した少女の顔は、タコを茹でたみたいに赤く染まっていく――
―― そして ――
「”き、きぃ――”」
「OK、落ち着こう、お嬢さん……コレは誤解――」
「”――きゃあああああああああああああああああああああぁぁぁ!?”」
ビダーーーーンッ!! っと、パーで強烈に頬を叩く音が部屋に響いた。
うむ……起き上がりと同時に放ったというのに、とんでもなく腰が入った会心のビンタだ。
―― 近くに居なくて、本当に良かった……ジジイじゃなくて、俺が叩かれてるところだったかもしれぬ……
―― 気を取り直してテイク2♪
「まったく、最近のガキときたら……人がせっかく善意で診断してるというのにビンタなんぞ喰らわせおって……」
ぶつぶつと頬に紅のもみじの型を付けた爺さんが不機嫌そうに呟く……
……その視線の先には無残にも、ビニール製のロープで縛られたヘリオンが居た。
―― 無論、全裸で……しかも、手足だけでは無く全身を縛られてる。
「むごぉ……むごぉ……」
「……………………」
更にオマケと言わんばかりに口には布を詰められ、誰がどう見ても強姦される直前の少女と、犯そうとしている強姦魔の図としか思えない――
―― つーか、この光景を撮影してAVに売り出したら結構な売り上げを記録するんじゃなかろうか?
モデルが絶景の美少女だし、しかも未成年だから、そっちの趣味に興味ある奴は問答無用で飛びつく気がするぞよ……
―― てか、ヘリオン……マジ泣きしてる?
「なあ、雫……」
「なんだ、強姦ジジイ?」
「……いや、真面目な話で……コイツ、何者だ?」
「今にもジジイの手で犯されそうな少女としか――」
「―― じゃなくてぇっ、コイツ人間じゃねえだろっ!?」
―― あ、やっぱり解る?
「訳解らんエネルギーで人の形を構成していて、訳解らん存在の加護を受け、人と同じような知能があるんだぞ!?」
ジジイが興奮してる姿は久しぶりに見る……訳解らんエネルギーというのは『マナ』の事で、訳解らん存在とは『失望』の事だろうな……
っていうか、ヘリオンの全裸を触りまくった結果で興奮してたら嫌だな……
「いやぁ、長生きはしてみるもんじゃな……ありがたや、ありがたやぁ……」
全裸で縛られてるヘリオンを拝める爺さんの姿は、色んな意味でシュールだ。
「”ぶぐ〜〜〜、むごぅ〜〜〜っ!!”」
そんな爺さんを見て、更に怯えるヘリオン……
きっと、自分はこれから何処かの怪物の生贄に差し出されるんじゃなかろうかと思わせるような反応だ……
……っていうか、段々ヘリオンが可哀想になってきた。
「”ヘリオン、そう怯えるなって、ただ診察してるだけだから……だから安心しとけ……”」
「”ふぐ……ふぐ??”」
口に布を噛まされてるから、何言ってるのか解んねえよ……
「……えっと、マカダミアンナッツ語??」
「ジジイ……それは一体、どんな国で使われている言葉なのかを教えてくれないか?」
「まあ、それはコッチに置いといて……」
と言いながら、物を隣に置くジェスチャーをした後 ――
「コイツが弱ってる理由は……結界の力も有るんだろうが稀薄すぎるんだろうな、その訳解らんエネルギーが……」
訳解らんエネルギーじゃなくて、『マナ』な……あと、マカダミアンナッツ語というネーミングは一体何処から出てきた?
「今の状態は訳解らんエネルギーが駄々漏れていて、漏れている訳解らんエネルギーを補給できないから衰弱している……って考えるのが妥当じゃ……」
つまり、ヘリオンを構成する『マナ』が駄々漏れてて、『マナ』を補給できないから衰弱してるって言いたいんだな……
間違いではない……っていうか、流石爺さん……
スピリットであるヘリオンの本質をそこまで看破するとは、腐っても時神家当主という事か……
「まあ、応急処置として地下室に寝かせる事が無難だろう」
「……地下室って?」
「オマエさ……ここは地脈の上に建てられてるって、知ってるよな?」
「んな事は知ってるよ」
ジジイの言うとおり、この神社や師匠ん家は地脈の孔の上に建てられてる。
地脈って言うのは……星の活力とでも言えばいいのか、とにかく、科学的に解明できない不思議で神秘的なパワーの通り道である。
ジジイの提案は、普通に寝かせるよりも神秘的なパワーが集まる場所にでも寝かせておけば衰弱の進行は遅くなるんじゃないかなぁ……という楽観的な判断だろう……
んで、俺が聞いてるのは……そんな地脈知識ではなく――
「―― 師匠ん家に地下室なんて無いだろ?」
―― 有ったら初耳だぞ!?
「この家には無いが、蔵の方に入り口がある」
「ふーん……っていうか、蔵って何処よ?」
つーか、この辺に蔵なんてねえだろうがっ!
「行けば解る……ってな訳なんで、ちょっくら鹿島に話つけてくるかのぉ……」
「―― ヘリオンをこのまま放置したままでか!?」
善は急げと言わんばかりに俺の問いに答えずに、いそいそと退室する爺さん……
……そして、滝のような涙と共に助けて下さいという願いが籠もった視線でふごふごと悶えてるヘリオン……
その光景は余りにもアレなので、ため息をつきながら口に押し込まれてる布を取った。
「”ぅ、う゛ぅ……雫さん……私、もう……お嫁にいけまぜん……”」
まあ、泣きたい気持ちも解らんでもない。
つーか、この状態のヘリオンを携帯で写メって高嶺の兄ちゃんに見せるぞと脅せば一生俺に逆らえないんじゃないだろうか?
「”大丈夫だって、気にするな……誰でも一回は経験する出来事だから……”」
「”無理ですぅ……しかも絶対嘘ですよね、ソレ……”」
―― 当たり前だ……もし事実だとしたら、この世は変態のみが暮らす楽園ですよーだ。
「”泣くなヘリオン、男の子がソレぐらいの逆境を乗り越えられなくてどうするっ!?”」
「”私、女の子……女の子……”」
解ってるから……場を和ませようとしただけだから……
「”女の子、ねぇ……”」
そんな可哀想な胸で言われてもな ――
―― とかなんとか言ったら、再起不能なまでに凹まれそうだから止めておく。
……場を和ませるのが目的なのに、凹まれてしまったら意味は無い。
いや、さっきの発言で十分凹んでる事は解ってるよ?
ただ空振りしただけでさ……悪気は無かったのさ♪
「”雫さん……その哀れむような目で見るの、止めてもらえませんか?”」
「”悪気は無い筈だから気にしないように♪”」
「”それより、コレ……どうにかしてもらえません?”」
「”ああ、今すぐ解いてやる……にしてもなんだ? 元気そうじゃんか……”」
安心しながらヘリオンの縄を解こうと手を伸ばす――
―― 縄に触れた瞬間、閃光に包まれたと同時に『バキューーン』っと、拳銃を放ったようなデジタル音声だと思われる効果音が聞こえた。
「”―― ひゃ!?”」
その閃光は一瞬で収まった……まるでカメラのフラッシュのように……
「…………」
背後から嫌なオーラを感じる。
ゆっくりと振り返ると……デジカメを持ったジジイが居た。
デジカメを構えたままのジジイと目が合う……
『貴様の弱みを完全に握ってやったぞ、このペドフィリアがっ!』とか言わんばかりの表情をしていて――
「……ぶひ♪」
―― そんなフザケタ声が聞こえた瞬間……俺のこめかみ辺りがプッツンした。
「”……ヘリオン、腹減ってないか? いや、昨日から何も喰ってないから減ってる筈だろ?
食欲無いとしても無理矢理食わせるから安心しろ……ってな訳で俺は流動食を用意してくるから大人しく待ってるように……”」
小鳥みたいなマシンガントークで退室する理由を述べ、速攻で立ち上がる。
そんな俺に気づいたジジイはドタドタと脱兎の如く逃げ出した。
ソレを追いかけるオレ……
ジジイの脚力は半端ではなく、追いつけずにお終いというのが何時ものパターンである。
―― だが、今のオレにはサードガラハムの加護がある。
現在の脚力は通常時の2倍……いや、5倍は堅いね♪
「捕らえたぞ、クソジジイィィ!!」
時速60kmという速度で跳躍――
「ちょっ、なんじゃそりゃ!?」
「―― くたばれ、このキチガイィっっ!!」
―― 後に、師匠は語る。
実際に壁貫通して吹っ飛ぶ人間を初めて見た……つーか、お前等弁償しろよ……と。
―― 続けて、夏 小鳥も語る。
っていうか、ゴキブリ並の生命力ですねぇ……と。
「だから、な? ワシはただ……場を和ませようと、しただけなんじゃ……」
ジジイの言い訳は続く……
小鳥は、ジジイの言い分を苦笑いしながら消毒液を付けたガーゼで手当てしている。
俺はというと、タバコを吹かしながら師匠が現在作ってるお粥が出来上がるまで待ってる状態である。
……ちなみにジジイをぶっ飛ばし、ボコボコにした後、へリオンの戒めを解放したのであしからず♪
「―― 見て小鳥ちゃん、このデジカメ……ワシが昨日10万を出して買った最新モデル……」
「誰がどう見ても、巨大な鉄槌で叩かれたように平たい円形をした鉄屑にしか見えないんですけど……」
「あのバカが原型を留めないほどペチャンコに潰したんじゃっ!!」
「老い先短い命じゃなく、デジカメ代だけで済んで良かったなぁ授業料……」
「ワシの顔がボコボコなのは授業料に入ってないのか?」
「それは元からボコボコだった……人の所為にすんな――」
―― 一撃で蹴り倒した後、全力で顔面タコ殴りにしたつもりなのに……ただ顔が腫れてるだけなんて、入院してた所為で筋力が落ちてんのかなぁ?
「しかし、功体鋼で硬化してた筈なのに腫れるとは……流石、我が孫……侮れぬ……」
ああ、そうか……気功スキル習得してたんだっけ、この爺さんも……それで軽傷なのね、納得……
「っていうか、小鳥……あんたのお母様の姿が見えないんだが……」
朝は居た筈なのに……今は姿が見えない。
帰ったにしても、小鳥が此処に居るのは不自然な訳で……
「お母さんなら、家に荷物取りに戻ってます……私、今日から此処で暮らすんで……」
「―― 師匠ん家でか?」
「巫女の教育なら経験あるからの、出来る限りの事はしてやるつもりじゃ……」
御盆に小さな鍋を乗せた師匠が丁度やってくる。
「へえ、鹿島って教育資格持ってたんだ……ワシは持ってないのに……」
「オマエが教育資格なんぞ持ってたら、この世は終わりじゃ」
―― 激しく同感。
「くそぅっ、鹿島め……教育資格持ちだとバレた途端に、いい気になりやがってっ……」
悔しがるジジイ……っていうか、退魔師の教育資格ってライセンス獲得から5年以上経ってる者が退魔協会に申請すれば殆どが成れるんだよな?
パーセントにすると、ほぼ100%なわけで……それを弾かれた爺さんも凄いよな……
「そうやって、ピチピチ女子高生だけじゃなく、人妻をも毒牙に――」
「へえ、お母さんも一緒に住むのか?」
「ああ、一週間程度だがの……言葉では説明したが、実際にどのような生活を送るのか解らんのじゃろ……」
「―― って、無視!? ワシの渾身のボケを無視!?!?」
つーか、今の渾身のボケだったのか?? 割と本気かと思ってたよ。
「大丈夫って言ったんですけど……私のお母さん、ちょっと子離れできてないから……」
ちょっと恥ずかしそうに語る小鳥……
「ガキを平然と棄てる親よりは立派だと思うぜ……」
「………………」
「………………」
瞬間、師匠と爺さんの空気が変わった。
それで、その言葉は俺達にとって禁句って事を思い出した。
「ま、そんな訳で胸を張れ……お前等の両親は誇れる存在だってな……」
「は、はぁ……」
「じゃ、俺はヘリオンに食事届けるから……」
その空気から逃げるように、俺は居間を退室した。
―― ガキを平然と棄てる親よりは立派だと思うぜ ――
俺の両親は、俺を捨てたのか……それとも、理由が有って爺さんに預けたのかは……俺は知らない。
爺さんに理由を聞いても、何も言ってくれないのだ。
実際に棄てられていたとしても……俺は、もう何とも思ってない――といえば嘘になるが、それでも顔に出さない程度には成長したのだ。
けど、爺さんはかなり気にしている傾向がある。
なんというか、怒ってるというより……自分にも責任があるという表情で哀しむのだ。
だから『禁句』……んな爺さんの顔を見るだけで気持ち悪い。
あの爺さんは年中迷惑キャラでなければ……なんというか、こっちの調子が狂ってしまう。
「”ヘリオン、入るぞ……”」
返事を待たずに扉を開ける ――
「”―― え?”」
―― そこには、ヘリオンが寝てるであろう部屋の窓が全開で開いていた。
それは、驚くに値しない。
俺が驚いたのは、全開になっている窓の先……部屋で寝てるであろう人物が、ふらふらの状態で庭に出ていた事に驚いた。
「”おまえっ、何やってんだよっ!?”」
驚きは、秒も待たずに怒りに変わった。
ビクッ、っとヘリオンの身体が震えた。
その後ソイツは、こっちに振り向き……誰もが作り笑いだと見破れるような、そんな脆い表情を浮かべながら――
「”あ、雫さん……ちょっと、身体の調子も……良いから、ちょっと、散歩に……”」
―― そんなアホな言葉を抜かしやがった。
「”……………………”」
その言い分が、すっげぇ頭に来た……
すっげぇ頭に来たので、お粥を置いて……庭へと出てヘリオンに近づき有無も言わさず、耳を抓るように摘んで部屋に引きずっていく。
「”イダダダダッ!? 耳痛いっ、耳千切れちゃいますぅっ!?”」
「”黙れクソガキッ、その状態で調子が良いとか抜かすからだっ!”」
こんなに腹が煮えるようなムカツキは久しぶりだ。
―― ジジイの嫌がらせは後味サッパリしてるから回数重ねても平気なのだが、このタイプのムカツキは後味が悪いから嫌いだ。
5歩ぐらい歩いた所で、ヘリオンがバランスを崩し地面へ倒れる――
―― 寸前に耳から手を離し、即座に襟袖を掴んで引き寄せた結果……地面と衝突する前に抱き込むような形で受け止めることが出来た。
「”ふぅ、ふぅ……ふぅ……”」
身体が熱い……息も荒い……寝間着がびっしょりと濡れている。
「”こんな状態で何が大丈夫だ、馬鹿っ!!”」
ヘリオンを担いで部屋に戻り、布団に叩きつけるように降ろす。
それで、呼吸困難になりかけたように咳き込むが……自分の状態も解らないバカにはいい薬だ。
「”……飯喰わなくていいから寝てろ……そして、もう動くな……”」
「”でも……”」
「”でもじゃねえよ……”」
「”ほ、本当に……大丈夫……ですから……”」
「”―― 終いには殴るぞ?”」
「”……っ……”」
まるで、虐待を受けている幼児のように表情が泣きそうな顔に変化していく。
―― そして、ボソボソとヘリオンが言葉を発する。
「”……怖いんです……このまま眠るのが……眠ったら、夢から覚めちゃうんじゃ……ないかって……”」
そこまで言って、ダムが決壊したように……ボロボロと涙を流しはじめた。
「”……ヘリオン?”」
「”本当に……怖いんです……怖いんですよぉ……”」
子供のように泣き出したヘリオンを見て……一瞬、頭がテンパった。
―― だが、ガキ共に囲まれた生活を送っていたお陰か……以前ならどうしようもない状態に陥る筈の俺の身体が勝手に動く。
「”落ち着け……な?”」
泣いているヘリオンの頭を撫でながら……自分でも気持ち悪いと思えるほど、優しい声でそう言っていた。
「”……は、はい……”」
効果はあったらしい……ヘリオンは多少の落ち着きを取り戻し始める。
―― 泣いてるガキへの有効手段が、とにかく優しくすればなんとかなると身体が覚えたのだろう。
「”それで、何が怖いんだ? ん、言ってみな?”」
なるべく、その気持ち悪い声を維持させたままヘリオンに問いかける。
―― つーか、泣きたい……こんなの、俺のキャラじゃない……
「”コレは、夢なんじゃないかって……そう、思うんです……”」
「”なんで、そう思うんだ?”」
「”本当は死んでいて……いいえ、死ぬ直前に……都合の良い夢を見てるんじゃないのかって……”」
「”………………”」
その言葉を聞いて、ヘリオンが怖がっているモノの正体が理解できた。
斬られて死んだと思ったら天国と称されるハイペリアだ……
……しかも、身体の調子が異状だからダブルパンチになったんだろうな。
「”みんなに……会いたい……会いたい、よぉ……”」
その後に呟かれる人物の名前は……全てオレが知っている人物達だった。
コイツが恋心を抱いている勇者様だったり、最近になって俺の夢に出てくる少女の名前だったり……
第1・第2に住んでいる騒がしいガキ共の名前や……厳しく、そして優しくしてくれる姉のような存在達の名前だったり……
コイツの口から出た人物達は、オレにとっても掛替えのない存在達の名前だ。
だから、笑えた。
―― もう二度と会えないだろうと……そう言って、涙を零すヘリオンを見て……少し笑えた。
「”これが夢だって言うなら、オレは何なんだ?”」
「”えっと、私の夢が作り出した……『雫さん』の名前を借りた架空の人物――”」
思いっきり頬を抓ってやった。
「”いひゃい、いひゃい……”」
「”オレがオマエの夢の住人っていうなら、オマエはこんな風に苛められたかったのか、ほっぺた抓られたかったのか? ああん?”」
ブンブンと首を横に振るヘリオン……
「”じゃあ安心しろ、コレは紛れも無い現実でオマエはちゃんと生きてる……いま生きてるから、こんなに苦しんでるんだろ?”」
「”……え?”」
「”その苦しみは、オマエがちゃんと生きてるんだって……そう身体が懸命に訴えてる証拠だよ”」
オレは嫌になるほど体験してる……身体はまだ生きてるんだって、激励するような痛みを。
神剣に呑まれそうになった、あの痛みも……骨が砕けた、あの痛みも……脇腹を吹っ飛ばされた、あの痛みも……
まだ、生きてる……だから、ここで果てるなと……身体が一生懸命訴えていたから ――
生きてる実感を痛みで感じさせて、死への恐怖を煽ってくれるから ――
―― みっともなくても、俺は……ここまで生き延びれる事ができたのだ。
「”………………”」
でも、コイツの顔を見てたら不安になってきた……
―― 何言ってるんだろう、この人……みたいな顔されたら、誰でも自信は無くなる。
「”……俺、間違った事言ってるかな?”」
「”いえ、間違ってないと思いますっ!”」
「”じゃあ、なんで『この人、訳解んない♪』みたいな顔してたんだよ?”」
「”違います、違いますっ! そんな考え方もあるんだなぁって……感動してたんですよっ!”」
―― そんな顔には見えなかったんだがなぁ……
「”この苦しみは……この辛さは……自分が生きてる証なんだって、そう考える事も出来るんですね”」
改めて言われると、ちと恥ずかしいモノがある。
っていうか、よくもまあ……こんなクサイ台詞を吐けたな……俺……
―― きっと、高嶺の兄ちゃんの影響だろうと無理矢理に納得する。
「”雫さん……”」
「”……ん?”」
「”本当に、信じても良いんですよね? 本当に、帰れるんですよね??”」
「”ああ、もう少しの辛抱だ……明日か明後日……いや、もしかしたら今日にでも帰れるかもしれない……”」
「”ほ、本当ですか!?”」
「”もちろんだ♪ そして皆に自慢してやれ……私はハイペリアに行ったんだってな♪”」
ネリガキやオルファのガキが嫉妬するような視線でヘリオンに詰め寄る姿が簡単に想像できる。
んで……ソイツ等に詰め寄られて、泣きそうな顔で誰かに助けを求めるオマエの顔も簡単に想像できた……
ヘリオンも、そんな自分の姿を想像したのか……さっきまでの泣き顔が一変し、微笑みを浮かべてる顔に変わっていた。
「”あはは……あと、アセリアさんにも羨ましがられそうです……”」
「”鎧の姉ちゃんもハイペリアに憧れを抱いてるのか?”」
「”はい、もしかしたら……一番ハイペリアに憧れを持ってるのって、アセリアさんかも……”」
「”そうか……戻るのが楽しみだな……”」
「”そうですね”」
彼女の表情には、苦しさや辛さを感じさせる面影は既に無い。
―― でも、ソイツの身体からは大量の汗が滴れていて……身体の危うさを周囲に訴えている。
「”とりあえず、そのまま寝てろ……きっと夢の中で高嶺の兄ちゃんが待ってるから、そこで告白の練習でもしとけ……”」
「”ぬ、ぬぁなななっ、ぬぁに言ってるんですかぁ!?”」
「”あはは、解りやすい奴だなぁ……ま、飯はここに置いておくから好きな時に食べることだな”」
恋する乙女の分かりやすさを笑いながら、部屋を後にする。
まあ、何はともあれ……精神的に回復してくれてよかった。
このまま体調も回復してくれれば助かるのだが……そんな都合の良い話など無い。
俺に出来ることは何も無い――
―― でも、下準備だけなら出来る事はある。
とりあえず、戦巫女が着たら……すぐにでも戻れるように準備をしなければ ――
考えたら、此処でやらなければいけない事は沢山ある。
アパートや携帯の解約手続きとか、自宅に置いてある荷物の処分とか、自分の武器の調達とか、バイトの退職届けとか――
―― あと、アッチに戻っても役に立つ道具の買出しとかも必要になるだろう。
「やばいな……」
タイムリミットを教えられた日から、3日が経ったのだ。
しかも、今の時間は11時前……残り時間は丁度半分ぐらいか――
―― いや、あと3日半でアオと合流し、神剣を渡さなければならないとなると……ハイペリアに滞在できる時間はかなり少ない。
つまり……いつ戦巫女が準備完了できましたと現れてもおかしくは無い。
のんびり過ごしてる暇なんて無い。
とりあえず、自分のサイフを取り戻すべく……俺は行動を開始した。
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