永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 7 胡蝶の夢
第9節 『後悔先に立たず』
スピリットに殺され、闇に飲まれ、アオが先に死んでいると宣言される。
―― そんな夢を見た。
「……うう、ん?」
目覚めれば、朝の7時前。
窓越しの光はやや強く、部屋の温度は若干高いので、全身が少し汗ばんでいた。
「……ぅー」
頭がまだ寝ており、考える事すらダルイ。
……でも、そんな状態でも……すっげぇリアルな夢だったと断言できる。
地面が真っ黒に染まって、そこからド○クエのマドハ○ド・黒色volが無数に出てくるというのは、まさにホラーとしか言えない悪夢だった。
お陰で、目覚めがスゲエ悪い……昨日、どうやってこの部屋まで足を運んだのかも覚えてない程に――
―― つーか、昨日は……何があったんだっけ?
「…………ダメだ、思い出せねえ……つーか、着替えないまま寝てたのか、俺は?」
―― とりあえず、寝汗で気持ち悪いから、風呂場に行ってシャワーでも浴びるか。
寝ぼけ
……うん、腹減ったな……先に台所に行ってつまみ食いでもしてこよう。
台所につくと、ヘリオンが隣の居間で皿を並べているのが見えた。
「”あ、雫さん……おはようございます♪”」
「”はよ〜っす……つーか、動いて大丈夫なのか?”」
「”はい、昨日お薬を貰いまして……それを飲んだら身体が嘘みたいに軽くて……”」
「”ふうん……で、何してるの?”」
「”朝食の手伝いで、お皿を並べるように頼まれました”」
「”そりゃご苦労なこって、俺は風呂に入ってくるから………………ん??”」
ヘリオンは言った……皿を並べるように頼まれたと……
―― 日本語を知らないんだぞ? ヘリオンは……
「”……なあ、ヘリオン……誰に頼まれたって?”」
「”あの人です”」
そういって、台所に指を指すヘリオン。
その先には、ツインテールの女が――
「って、きゃーーーーーーーー!!!!!?」
……夢の中で俺を殺そうとしていた、あの女が師匠と仲良く朝食の準備をしていた。
何事かと振り返る師匠と夢の中の殺人未遂者――
「どうしたんですか? オカマのような悲鳴が聞こえましたけど……」
―― そして、そんなセリフと共に台所にやってきた車椅子少女こと小鳥……
「朝の挨拶の第一声がソレか……オマエ、何気に毒舌だよな……」
―― お返しに、今度から車椅子腐女子と呼んでやろう。
「―― いや、そんな事よりですね、ソイツは誰? なんで此処に居る? つーか、アレは夢じゃなかったとでも申すのですか!?」
「……雫、何訳解らん事を言ってるんだ?」
精神科逝っとく? みたいな表情で、俺の心配してくれる師匠……その視線がちょっと悲しいよ、ボク……
「とても良心的な精神科がある病院知ってますけど……住所要ります?」
「―― 車椅子腐女子、テメエは少し黙ってろっ!」
「ひどいっ!? せっかく人が心配してるのに……しかも、なんなんですか、その不名誉なアダ名は!?
せめて『ことりん』とか『とりりん』とか、そういうプリティなアダ名は考えられないんですか?
雫さんにネーミングセンスは無いって薄々は感じていましたが、まさかここまでとは……本気で精神科逝く事をお奨め――」
「頼むから黙ってろ……」
疲れる、コイツと会話すると疲れる……ついでにムカツク……
「あ〜、お前等……この人の紹介に入っていいか?」
「どうぞどうぞ♪」
「勝手にしてくれ……」
コホン……と、咳払いをしてから、師匠が隣の人の概要を述べてくれた。
「……出雲から神木神社に巫女としての研修に来た『
「………………」
そして、無言でお辞儀をする夢に出てきた殺人未遂者 ――
「まもり、ひとがた……さん? ……変わった名前ですねぇ……」
小鳥さん? もはや変わってるっていうレベルじゃねえと思うぞ……
つーかぁ、絶対偽名だろ……もっとマシな偽名を思いつかなかったのか??
「しばらくの間は、この神社に滞在するんで仲良くやってくれ」
「解りました♪ 私は『夏 小鳥』です、よろしくお願いしますね、人形さん♪」
「……よろしく……」
「………………」
「雫、どうした……苦虫を噛み締めてるような顔をして……」
車椅子腐女子と夢の中の殺人未遂者の握手を複雑な心境で眺めてると、師匠が声をかけてきた。
「なあ、師匠……アイツ、何時来たの?」
「何時って……昨日の昼くらいに……」
「……日本刀……持ってなかった?」
「持ってたな……それが?」
「……そうなんだ、で、昨日の俺、どうやって帰ってきたか知ってる?」
「境内で酔いつぶれてるお前を人形さんが担いで帰ってきたぞ……後で礼を言っておけ……」
「……ふーん、酔いつぶれた……ね……」
俺の記憶が正しければ、真に残念なことに……昨日は酒なんて一口も飲んでない。
という事は、あの夢は現実の出来事である訳で……
「……………………」
……あの女とは、なるべく関わらないようにするのが吉だろう。
「時神 雫……」
―― そう思った矢先に、ソイツに声をかけられてしまった。
とりあえず、逃げましょう。
「伝言が――」
「”―― そうだ、ヘリオン……ちょっと買い物に付き合え♪”」
「”へ? でも、朝食は?”」
「”奢ってやるから、とにかく行くぞ……”」
「”ちょ、ちょっ!? 雫さん、私今日初めてハイペリアのご飯食べるんですよ? 楽しみにして――”」
「―― つー訳で、ちょっと俺達出かけて来るから……帰ってくるのは深夜辺りだと思ってくれっ!!」
「おい、朝飯は!?」
「雫さん雫さん、今から出て行ってもお店は10時開店が殆どなので意味無いっていいますか
出来れば私も連れて行って欲しいなぁとも思ったり……って、あぁ、もう居ないし……」
「……伝言……」
師匠や車椅子腐女子、偽名さんが何か言ってるが、それら全てを無視して玄関まで向かう。
―― 玄関で待ち伏せる事数十秒……追ってくる気配は無い。
「”よし、撒いたか……”」
「”あの、雫さん……誰から逃げてるんです?”」
「”子供は大人の事情を知らんでいい……”」
「”子供って……ぅぅ……”」
軽い冗談なんだから、凹むなっつーに……
内心、そう思いながら靴を履く。
「”そういえば、お前の靴は無いんだよな……サンダルでも履いとけ”」
下駄箱から師匠のサンダルを失敬して、ヘリオンの目の前に置いてやる。
「”そういえば、買い物って言いました?”」
「”言ったよ……それが?”」
「”あの、私……この世界のこと全然解りませんから……お役に立てないかと……”」
「”だからこそ連れて行くんだよ……”」
「”はい?”」
「”アッチの世界で役に立ちそうなモノを買い揃えるから、お前はアドバイザーとして役に立ってくれ”」
「”あど、ばいざー??”」
「”つまりだ、俺が提示するものが役に立ちそうか・アッチで高価で売れそうか……それだけを判断してくれれば良いんだよっ!”」
「”あ、なるほど……”」
二人して玄関を後にする。
そして、神社の境内に辿り着き、鳥居を潜って階段を降りようとした所で、俺は重大な事を思い出した。
「”そうだ、ヘリオン……オマエに伝えなきゃいけない注意事項があった……”」
「”なんですか?”」
クルリと振り返って、ヘリオンの肩をガッシリと力強く掴む。
「”あ、あの……”」
「”この買い物は、俺の今後の幸せ家族計画の第一歩っていうか、その基盤となるっつーか、むしろ切り札となるのだよ”」
「”雫さん、目が怖い……目が怖いですっ!?”」
「”切り札って意味は知ってるよな、ヘリオン? 重大な局面にてソノ行方を左右できるマジックアイテムの一つなんだぞっ?”」
「”雫さん、肩が痛い……ミシミシって聞こえます、っていうか痛いっ!?”」
「”だから、他言無用……解ったか、他言無用だ……王族関係は特になっっ!?”」
これ以上に無いって程力を入れると、ヘリオンが泣き叫ぶように返答を返してくれた。
「”わ、解りました……解りましたっ!”」
「”さあ、復唱してごらんなさい? 私は死んでも誰にも言いませんって……さあ、さあさあさあさあさあっ、サアッッ!!”」
「”誰にも言いません、誰にも言いませんからっ!!”」
「”……よろしい……つーか、マジで頼むぞ……俺の人生掛かってるんだからな”」
「”ぅぅ、痛かったよぉ……ところで、なんで秘密なんですか?”」
「”もし、俺が戦力外通達を受けて、『オマエ要らない』とか言われた時の保険だ”」
「”はぁ……”」
「”アイツ等が喉から手が出る程欲しいと思われるハイペリアの書物持ってますという事を宣言すれば、きっと優遇されると思うんだ”」
「”あ、なるほど……”」
「”それを小出しに小出しに交渉していけば、アッチの世界で巨万の富を手に入れるのも夢じゃない……って、ん?”」
―― 言ってから気づいた。
なにも戦争だけが手段じゃ無い……ラキオスに属さなくても、ハイペリア道具を売ってスピリットを買い取る事もきっと可能だ。
うん……イケる……イケるじゃない。
ハイペリアに行く、道具を売る……アオやその他のスピリットを買い取る……遠く離れた地で一軒家を買って平和に暮らす。
「”そうか、そうすりゃ何もかもハッピーエンドじゃないかっ”」
やる気が凄い出てきた……俺、人生勝ち組確定したも同然なのでは?
「”あは〜♪ あははははぁ♪ くふふふっふっふ♪”」
ヤバイ……笑いが止まんない、止めようとしても止まらない……こんな経験初めてだ。
あっちの世界の下見は済んでる……どんな物が流通してるのかも把握できてる……どんなモノが役に立つのかも何となく予想できる。
―― これ、確実に成功するビジネスじゃね??
「”雫さん……大丈夫ですか? なんか、凄い気持ち悪いですけど……”」
「”はっはっは、さあ行こうヘリオンっ、金のなる木が俺達を待ってい――”」
―― 瞬間、視界の隅で何かがキラッと輝いた。
その輝きは、俺目掛けて一直線に ――
「―― って、のぉぉぉぁぁぁあああ!?!?」
コンマ五秒前に俺の脳天が存在した場所を貫通して、カッ!!と、軌道の延長上に存在していた木に刺さった。
恐る恐る振り返って、その着弾点を二人して確認する……
「”……矢……ですね……”」
「”矢だな……”」
鏃どころか、矢の半分以上がすっぽり幹に食い込んでる。
嫌だなぁ、少しでも反応が遅れてたらボクの人生ここでスタッフロールを迎えたんだろうなぁ……
こう……脳天にズビシッ! ってな感じで……
そんな事を考えながら、飛んできた方向に向き直り視線を向ける。
そこには、師匠ん家が見えた……正確には、師匠ん家の屋根に弓を構えたツインテールの人影が見えた ――
―― その人影は、一礼してから何事も無かったように窓から家の中に戻った。
「”なんのつもりだ、アノ女郎っ!!”」
再戦か? 昨日の続きか!? それとも無視った復讐なのか!? なんという心の狭い奴だっ!?
「”雫さん? ……矢の後ろに何か括り付けられてますけど……”」
「”……コレは……”」
矢文……矢文だな……コレは……
ひったくる様に紙を矢から抜き取り、開いて内容を確認する。
『この直接攻撃は、今朝の事とは一切関係無し』
―― そっか、この矢文を書いてた時に直接攻撃する事は確定事項だった訳ですな♪
『本日21:00に境内にて待つ ―― 現れなかったら、確実に…………』
―― 確実に……で、手紙は終わっていた。
「”雫さん? 顔真っ青ですけど……”」
「”気ニスルナ”」
嫌だな……本当に嫌だなぁ……つまり、アレだろ? 来なかったらコロスって言いたいんだろ?
解ってる、解ってるとも……アイツの言いたい事は確実に伝わりましたとも♪
「”つーかぁ、誰だよ……あんなヒットマン放った奴はよぉ……”」
「”ひっとまんって……なんです?”」
「”あのクソ女みたいな奴の事だよ……”」
「”……??”」
「”それより、行くぞ……”」
「”あぁ、待て下さいよぉ!”」
ヘリオンを置き去りにするような感じでズンズンと先を歩く。
追いかけるように、テンポの速い足音が聞こえてたが……途中で、足音が途切れた事に気づいた。
振り返ると、20段後の階段でヘリオンは呆然と何かを眺めていた。
―― 何を眺めているのか……考えるまでも無い。
ヘリオンの視線の向こうには、街全体……とまではいかないが、それでも大半は見渡せる景色が広がっているのだから……
「”―― どうだい、ハイペリアの眺めは?”」
「”……凄い……です……”」
「”これでも、まだ辺境だぜ? 都心になったら、もっと凄い”」
「”辺境!? あの規模で辺境なんですか!?!?”」
―― 度肝を抜かれたように驚くヘリオン。
その反応は中々に面白い。
「”時間もある事だし、都心の方まで足伸ばしてみるか? たぶん、もっと驚く……”」
東京までは、新幹線に乗って一時間ちょいって所だろう……まだ10時までは3時間ぐらいあるし、丁度良いと言えば丁度良い。
んで、駅前まで行く道程の中……ヘリオンは目を輝かせながら様々な事を質問してくる。
それは車だったり、電線だったり、信号機だったり、排水溝だったり、自動販売機だったり……様々だ。
駅につく頃には、何を質問されて、どんな返答をしたのかも覚えてないけど……一つだけ印象に残ったやりとりはあった。
「”ねえ、雫さん……前々から思ってたんですけど……なんでこの世界は、こんなに空気が濁ってるんですか?”」
「”……やっぱり、解るか?”」
「”解らないほうがオカシイですよ……”」
「”……そうなんだ”」
「”それで、さっきの質問なんですけど……”」
「”あー、悪い……正直、俺も解らねえ……きっと、この世界は他の世界と比べて空気が濁ってるだけだろ――”」
―― 言えなかった。
真実を口にしたら、子供の夢をぶち壊しそうな……それに似た感覚を覚えたから……
アッチの住人からして、この世界は正に理想郷と言っても過言ではない……
……だから、この世界の問題を話して幻滅させるようなマネは野暮というものだろう。
駅について、新幹線のキップを買ったが……出発までは40分の余裕がある。
その間、駅前の喫茶店に入ると……またヘリオンが驚いた。
「”ほわぁぁ……凄い涼しい……”」
その気持ちには同感……9月の早朝だっていうのに、外は真夏日だ。
クーラーが効いてる場所は、魔法以外の何者でもない。
「いらっしゃいませ〜♪ 2名様ですね? あちらの席へどうぞ〜♪」
―― と、元気の良い女店員に奥の席に案内される。
休日の朝だからだろうか、周りには誰一人居ない……まさに貸し切り状態だ。
「”……で、何食いたい?”」
メニューを眺めながらヘリオンに聞く。
「”何……と、言われましても……”」
「”じゃあ、候補を挙げてやるよ……肉・魚・パスタ……じゃなくて、ハクゥテ……それと、丼物……っていうか、種類多いな……”」
鰻重とか唐揚定食とか、カキフライとか天ぷらとか刺身とか……喫茶店じゃなく食堂か、ここは!?
「”雫さんのお薦めで……”」
……了解した……後悔するなよ。
「……すいませ〜〜ん♪ 鰻重【松】とお子様ランチ一つ♪」
「申し訳ありません……お子様ランチは年齢制限がありまして……」
「そうなんだ……じゃあ、カレーライスでいいや……」
スプーンだし、嫌いな奴はまず居ないという定番中の定番だ。
「かしこまりました……」
しかし、お子様ランチは年齢制限がついているのか……つまんねえの……
「”まあいい……それでヘリオン、此処で食事を食った後は本格的に行動する訳だが、どういうモノを揃えたら良いと思う?”」
「”そうですねぇ……書物関係は一通り揃えた方がいいかと……”」
だよな……電気関係の本を中心に漁ってみるか。
「”あと、植物の苗や種とかも……”」
「”あ、なるほど……”」
―― それは考えてなかったな。
「”あと、ケイコウトウ……でしたっけ? それも持っていったほうが……”」
「”蛍光灯か……ちょっと無理あるかもな……”」
―― あ、いや……出来るか……最近はライトじゃなく蛍光灯がついてる懐中電灯をCMで見たことがある。
それに、電気関係の本を購入するなら……教材も必要だろう。
となると……テスターとかモーターも買い揃えるべきかもしれない……あと電池と豆電球……磁石も必須だな。
「”技術関係はこの位で良いといて……金になりそうなモンってある?”」
―― 一番重要なのは、ソコだ。
「”お金に……ですか……ん〜……”」
ヘリオンが考え込む事、一分弱……帰ってきた答えは ――
「”ごめんなさい、解りません……”」
―― の、一言だった。
まあ、戦う為だけに生きてきた奴等に聞く質問では無かったかもしれない。
「”まあいいさ、さっきのだけで十分金になる筈だし……方針が決まったから良しとするか”」
揃えるのは電気関係の本を中心に、歴史や図鑑……医学書あたりが狙い目だろう。
あとは電気の教材、植物の種……あとは、めぼしい物があったら購入しよう。
「”でも……雫さん、お金あるんですか?”」
「”ん?”」
心配そうな顔で聞いてくる……余計な心配だっつーのっ!!
「”書物とかって、凄い高い筈ですよね?”」
まあ、高いな……普通の本が500円なら、専門書は1500円ぐらいするし……
「”技術書とかは、家一軒買えるような値段はするって……セリアさんから聞いたことあるんですけど……”」
へえ……1500円が100万以上の単位まで跳ね上がるのか……あははははは♪
―― もう、内心笑いが本当に止まりません♪
「”さっき、そこのATMで全財産を降ろしたからな……今、手元に30万は有る”」
―― 改めて気づいたけど……俺って結構金持ってたんだね♪
「”30マン??”」
「”技術書が家一軒っていうなら……200軒は購入できるな”」
―― ヨフアルに例えると、4000個だけどな……ワッフルって確か100円だったし♪
「”に、200軒も!?!?!?”」
「”自分でもビックリだよ”」
つーか、そんな大金手にしてみたいもんだね……本当に♪
「”雫さんって、凄いお金持ちだったんですねぇ……”」
「”ああ、お金持ちだ……お金持ちだとも♪”」
―― だから鰻重の、しかも松を頼んだんですよ♪ 備考欄に現地輸入の天然モノって書いてある奴♪
3300円というキチガイ沙汰というか、ぼったくりとしか思えない値段……つーか、あっちの世界じゃ家二軒買える値段だ。
一度は食ってみたい高級料理の一つ……その夢が、今此処にっ♪
―― つーか、天然ウナギって喰った事無かったんだよ……悲しいけど……ボク、貧困なのよね……
つーか、鰻重がある喫茶店ていうのも珍しい。
「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ〜♪」
―― と、料理が運ばれてきた。
ウナちゃんの香ばしい香りが……ああ、もう待てねえ……
いざ、口の中に運ぼうとした瞬間……カレーライスを不審そうに睨んで、汗をタラタラ流しているヘリオンの姿が目に入った。
「”どうした、ヘリオン?”」
「”あの……雫さん?”」
「”ん?”」
「”この茶色いの……食べ物なんでしょうか?”」
「”オマエ、失礼な奴だな……”」
「”しかも……なんか、ドロドロしてるんですけど……”」
「”食ってみれば解る……つーか、嫌いな奴なんて居ないんじゃないのか?”」
「”そう、なんですか?”」
「”そうなんだよ……”」
―― で、カレーを見守ること数秒……やっぱり無理みたいな表情で抗議をするヘリオン。
「”あの……でも、やっぱり……雫さんのと交換してもらっても良いでしょうか?”」
「”冗談じゃねえっ!! おまえ、これヨフアル33個分の値段の高級料理なんだぞ!? 今日まで食べるのを楽しみにしてたんだぞ!?”」
―― たがが400円ぐらいのカレーと交換されてたまるかっ!!
「”大丈夫っ、試しに食べてみろ……絶対気に入るから、気に入らなかったら好きな物買ってやるからさ♪”」
「”じゃあ、一口…………っ――!?!?”」
恐る恐る口に運ぶヘリオン……次の瞬間、ケホッケホッ……っと食べたモノを吐き出した。
「”ヘリオン、汚い……”」
「”あの……コレ、ものすっっごい辛いんですけど……”」
「”んな大げさな……辛いもん苦手なのか?”」
「”そんな事ない筈ですけど……コレは、余りにも……”」
「”んな訳あるか……どれ、一口食わせてみろ”」
ヘリオンからスプーンを借り、カレーを一口頬張る ――
「―― ぶふぐぁおおおおおお!?」
―― 瞬間、世界が崩壊したかと思った。
「”雫さん、汚いっ! っていうか、私の服に飛び散りましたよ!?”」
「”ぐぅ……ああっ、か、辛ぁっ! ―― つーか、水っ!? みずぅっ!!”」
最初に運ばれてきたお冷に手をつけなくて本当に良かったと、自分の気まぐれに感謝しつつ一気に飲み干す。
―― あ〜、落ち着いた……っていうか、舌がまだヒリヒリする……
「つーか、責任者は何処のどいつだっ!?!?」
「お客様、いかがなさいました?」
即座に店員が飛んでくる。
「なんなんだよ、このカレーは!? 辛過ぎるにも程が有るわっ!?」
「申し訳ありません、今日は火曜日なので……カレーの辛さは20倍となっております♪」
「意味がワカンネエ……」
―― 20倍っていったら、人が失神するぐらいの辛さじゃ無かったっけ?
「……つーか、1倍には出来ないんすか?」
「火曜日ですので、無理な相談かと……」
なんだよ、その理由……
「そうなんだ……じゃあこのカレーを鰻重【松】に取り替えてくれません?」
「かしこまりました〜♪」
ちなみに、メニューをもう一度ご覧下さいという捨て台詞と共に去った店員の言うとおりメニューを開いたら書いてた。
―― 火曜日は激辛曜日とカレー曜日の『か』♪ ――
―― (注:20倍の辛さなので自信の無い方はお控え下さい) ――
ご丁寧に注意書きまでデカデカと書いてやがった。
「”悪かった、ヘリオン……俺の注意不足だ……メニューをよく確認しなかった俺が悪かった……ごめん……”」
「”い、いえ……雫さんも本当に悪気が無かったみたいですし……”」
―― うぅ、良い娘だな……ヘリオン……
「”とりあえず、コレやるから先に食ってくれ”」
そう言って、俺の鰻重【松】をヘリオンの所へ寄せる。
「”え? でも、これ……雫さんが楽しみにしてた奴じゃ……”」
「”同じのもう一個頼んだから、気長に待つよ”」
「”あ、じゃあ……お言葉に甘えまして……”」
脇に置いてある新しいスプーンを使い、一口目を頬張るヘリオン……
「”あ……おいひい……”」
「”お口にモノを詰めながら喋るな”」
「”んぐ……食べたこと無い味ですけど、本当においしいです”」
「”そうか、そりゃ楽しみだな”」
天然ウナちゃんの味を想像しながらタバコを取り出し、火をつけようとした瞬間……さっきの店員が現れた。
「あの、お客様……」
「ん?」
「鰻重【松】は、品切れで……」
「……はい?」
「喫茶店で鰻重頼む人なんて稀なので……その、天然ウナギは一品分しか仕入れてないみたいなんです」
「……なんだそりゃ?」
―― つくづく腹の立つ喫茶店だな、オイっ!?
「じゃあ、養殖モノならあるんだ……」
「はい、鰻重【竹】800円となりますが……」
「……じゃ、それでいいや……」
「かしこまりました♪」
という事は……天然ウナちゃんは、美味しそう〜に食べてるヘリオンの分しか存在しないという訳で……
「”なあ、ヘリオン……美味いか?”」
「”んぐ……はい、とっても♪”」
「”そっか……そりゃ、良かったな……噛み締めて食うんだぞ、ヘリオン……なんたって、ヨフアル33個分の高級料理なんだからな……”」
「”はい♪”」
棒読みになっている俺の台詞に気づかず、ガツガツと食べるヘリオン……まるで、俺に見せ付けるように食っているのは気のせいだろうか?
つーか、よほど腹が減っていたんだろうな……
……ここに来てから何も食ってないって話だし……よく今日まで保ったよな、本当に……
うんうん、その頑張りに免じて……天然ウナちゃんはキミに差し上げよう……
……でも、やっぱり食いたかったなぁ……俺の天然ウナちゃん……ああ、ヘリオンのお口の中に消えていく……
そんなこんなで、悲劇の喫茶店を後にし駅のホームへ……丁度新幹線も到着しており、自由席へと乗り込む。
無論、再びヘリオンの質問攻めが始まるのだが……この時点で俺は後悔していた。
だって、コイツ……エスカレータに乗っただけでスゲエ大騒ぎしてたんだぞ?
……周りの微笑ましい視線が痛かったのなんの……
―― 都心に着いたら、きっと今の比じゃない程恥ずかしい思いするんだろうなぁ……
だから、もう勘弁してくださいヘリオンさん……
―― と、口に出して言いたかった……けど、言える筈が無い。
こんなに生き生きと、楽しそうにはしゃいでるヘリオンを見たら言える訳がねえ。
言える奴が居たら、そいつはきっと残酷な性格と断言できる……
……まあ、俺が甘いのかもしれないけど……つーか、なんで俺……ガキに甘い性格になってんだろ?
「”はわぁぁ……シンカンセンから見てビックリしましたけど……近くで見るとこんなに――って、雫さん? なんかグッタリしてません?”」
―― そらグッタリもするわ……
新幹線が動き出したら声を出しながら感動しやがって……
……しかもビル群が見えた途端、声の音量もMAXになって……ご近所の皆さんに迷惑になったのを覚えてないかコンチクショウ!!
もう金輪際、コイツが驚くような場所には行かない……絶対に行かないとも ――
―― そう心に堅く誓い……それでも恥ずかしい思いするんだろうなぁ……っと、諦めに近い心境で近くのデパートに足を踏み入れた。
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