永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 7 胡蝶の夢
第10節 『さらば雫、永遠に……』
―― 嫌な予感がする……っていうか、神木神社へ至る階段を登る前からヒシヒシと頂上から殺気を感じる。
間違いなく殺される……この階段に足を踏み入れ、境内に辿り着いた時……俺はきっと死ぬのだ。
「………………」
「”あの〜、雫さん? どうしたんですか?”」
「”感じないか?”」
「”何がです?”」
コイツ、本当に
俺でも解る程に感じる殺気なのに……何故貴様は感じない??
別に良いけどさ……と、思いながら腕時計の時刻を確認する――
時刻はPM10:30
ポケットに入っている忌まわしい呪いの手紙を確認する。
『本日21:00に境内にて待つ ―― 現れなかったら、確実に…………』
「………………」
すっかり忘れてて、思い出した時はもう9時過ぎてました……なんて言ったら、許してくれるかなぁ……くれねえよなぁ……
だから考えたさ……迫る危機をどうすれば回避できるのか、必死で考えたさ……
……そうして、簡単に危機の回避法を思いついた。
「………………」
「………………あ、あの……なにか?」
もう一人の俺は言っていた……へリオンは500年に一回は生まれるかどうかの素質の持ち主だと。
カッターでゾンビをスパスパと両断した事から、その技量はもはや疑う余地は無い……
……だから、信じてる……信じてるからな、ヘリオン♪
「”もしかして、また良からぬ事を考えてません?”」
「”…………そんな事は……ないのですよ?”」
「”なんで疑問系なんですかっ!?”」
「”どうでも良いだろ……で、だ……ヘリオン三等兵、貴様に任務を与える”」
「”ふぇ? サントウヘイって何です?”」
「”境内に俺達の敵が居るので、出会ったら有無も言わさずに殲滅せよ”」
―― 俺が殺られる前にな。
「”敵……ですか? でも私、『失望』を持ってないんですけど……”」
「”安心しろ……その為に武器を買ってきたんだ”」
ビニール袋ごとヘリオンに渡す……
がさがさと、その袋から取り出したのは駅前の玩具屋で買ってきた魔法少女ヨロシクと言わんばかりのリリカルなステッキである。
時価3000円……今思えば、結構高い玩具である。
「”……あの、コレ明らかに武器じゃありませんよね?”」
「”大丈夫だって、オマエなら使いこなせると信じてるから♪”」
カッターで人を真っ二つにする技量もソレで人を殴殺する技量も似たようなもんだろ♪
つーか、堅い鈍器で使いやすいモノはその杖しかなかったんだ……
……それとも何か? ガキがチャンバラ等で使うプラスチック製の柔らかい刀の方が良かったか?
「”……確認なんですけど……本当に、敵なんですよね?”」
「”ああ、間違いなく敵だ……世界を滅ぼそうとしてる悪の組織の幹部なんです”」
「”悪の……組織??”」
「”ああ、実はユート様の暗殺も企んでる……”」
「”そ、そんな……”」
「”つーわけで、ヘリオン……やってくれるな?”」
「”任せてください雫さん……ユート様の安全の為にも、私、頑張りますっ!!”」
そう言って、リリカルな杖を片手にダッシュで階段を駆け上がって暗闇に消えていく――
―― っていうか、明かりつけようよ師匠……ヘリオンが転びそうで心配だ。
「”へぎゅ……”」
案の定転んだみたいだし……
「”ぅぅ……痛いです……でも、負けない……”」
健気過ぎる……健気過ぎるぞヘリオン……っていうか、人疑う事を覚えてくれ……
つーか、恋いする乙女は盲目って本当なんだねー。
足音が途絶える……その空白が数十秒した後、鈍器のようなモノで殴った音が此処まで響く。
「……流石、恋する乙女……早いな……」
脅威が去り、俺もいざ階段を登ろうとした時……ガシャンと、後ろに何か落ちてきた。
「……………………」
粉々になった電子部品とプラスチックとリリカルな装飾の欠片……それだけで境内で起きた状況が一瞬で解った。
まあ、神剣が無いアイツじゃ絶対勝てないって解ってたけど……
「……すまん、ヘリオン……お前の骨は何時になるか解らないが、たぶん丁寧に拾ってやると思うから……」
とりあえず、師匠ん家に帰るのは得策ではない……なにしろヘリオンに続けて殺されてしまう。
となると、駅前でホテルを探して泊まるしかあるまい……無かったらネットカフェに直行だ。
まあ、金は余ってるし……3日ぐらいはなんとかなるだろう。
クルリと回れ右をして、いざ立ち去ろうと右足を踏み出した瞬間……目の前に真っ白な翼を生やした女が着地した。
ツインテールなので一瞬へリオンかと思ったが……残念、ヘリオンはこんなヒシヒシと感じられる殺気を放てる訳ありません♪
振り返る黒髪の女 ――
―― その無表情な表情が、口裂け女みたいな表情で笑ってるように見えるのは……きっと俺の気のせいじゃないでしょう。
「……時神……シズク……91分41秒の遅刻……」
声にも殺意が含まれてる……やっぱりもの凄い怒ってるよ……どうしよう……
―― っていうか、秒数まで数えてたのか……この暇人がっ!!
「ち、遅刻って……何のことかなぁ?
「手紙……送った……朝に……ちゃんと……」
「レターなんて
―― そもそもですね、アノ手紙には宛名が書いていなかった……つまり、俺宛とは言い切れないのですよ、ですよ??
「…………え?」
そんな筈は無い……と、目の前の女から殺気が消えていく。
「でも、矢から手紙……消えていた……」
「それは……えと……アレです……え〜っと、そうっ! 妖怪『紙食べヨン』の仕業でゴザイマス」
「かみたべよん??」
「知らないのか? バリウムとベリリウムを合成したような妖怪で1年に365回出現する……名の通り紙を主食にしているんだ――」
「―― ちなみに、最近はリサイクル用紙を好んで食べる」
「……そんな妖怪、初耳……」
―― そらそうだろう……存在するのかも疑わしいというか、ついさっき俺の脳から湧き出た設定だからな。
「昨日生まれたばかりの突然変異の妖怪だからな……知らないのも当然だろうよ」
「了解した……疑った事を謝罪する……」
「気にすんなよ、間違いなんて誰にでもある♪」
「……その……感謝する……」
―― 俺もアンタの疑い深さの浅さに感謝する。
二人して階段を登る……
境内では、巫女装束を来た知らない人がヘリオンが地面に伸びているヘリオンを心配そうに見ていた。
「あの……ソイツは?」
「いきなりリリカルな杖を片手に襲い掛かられてきたので……ちょっと眠ってもらいました」
「そうか……今は夏だし、暑さで頭をやられた奴が続出してるんじゃないか?」
―― 無惨なり、ヘリオン……命あるだけでも良かったねと、その幸せを噛み締めよ。
「……で? 巫女服にすっげぇ似合ってないっていうか、物騒な剣を片手にアンタは此処で何してる?」
巫女は手に西洋剣を持っていた……正直、違和感がバリバリだ。
その西洋剣は、向こうの世界に居る兵士達が常備しているロングソードと同じ型……形だけは、平凡な西洋剣だ。
―― だが……気を抜けば、その刃の美しさに目を奪われる事だろう。
白銀の刃と表現すればいいのだろうか?
1メートル半はある刀身は、まるで鏡でコーティングされたように一点の曇りも無い。
魔性の女……という言葉がある。
異性だけではなく、同姓までも虜にできる程の美貌を持つ女の事なんだが……
……その剣は、ソレに近いものを感じる。
故に、気を抜いてはいけない……
油断した瞬間、堕とされる……そんな嫌な予感が離れない。
「そう警戒しなくても大丈夫ですよ……」
―― と、微笑むような形で……その剣を持った巫女は俺に語りかけてくる。
「確かに、この子は多少の浮気性があるって事は認めますが……欲の無いモノには無害な神剣ですから♪」
今コイツ何て言った?
神剣って言ったよな? 確かに言った……つーか神剣ですってぇ!?
「あ……え……えぇ?」
「紹介が遅れましたね……私は『倉橋 時深』……貴方達の間では『戦巫女』と呼ばれています」
………………WHAT??
「……………………」
「………………??」
「ああ……そういう事……冗談にしては、出来すぎてる冗談だ……」
「……はい? 冗談??」
「―― いーや、何も言わなくてもヨロし……話は読めている……いや、読みきったね」
「……はぁ……」
OK……落ち着け、落ち着くんだ俺……
例え目の前に居る御方が英雄と称えられし戦巫女だとしても冷静にならねばならんのです。
「アンタ、戦巫女だろ? ―― いや、何も言わなくても解るさ、その神々しいオーラで俺は既に看破している」
「自己紹介しましたからね♪」
「その戦巫女が俺に用事があるというぐらいは見通しだ……伝承にあるアンタの『時詠の眼』並みに朝の時点でお見通しだ」
「うんうん……その癖に、一時間半も私を待たせるとは結構図太い神経してますよね♪」
「まあ、一時間半も待たせてしまった事については、こちらの不手際だろうが、なんというか、ねぇ……その、あの……ご、ごめんなさいぃ……」
その場に土下座して謝る俺――
―― つーか、俺、今、何を偉そうに口に出して喋っていたんだろう?
ああ思い出せない……つーか、思い出したくねぇ……太古の英雄様に向かって何喋ってたんディスカ、俺!?
「一つ、聞いても宜しいですか?」
「ああ、いいよ……出来ればさっきの暴言忘れて欲しいんですが……」
「……うふ♪」
意味深な微笑みと共に黙殺されました……YesかNoかハッキリ言って欲しいなぁ……
「まあ冗談はさておき……なぜ貴方はセルシア、いえ、アオ・ブルースピリットの事を知っているのですか?」
「……なんでって……」
「……………………」
「………………いや、ちょっと待ってくれ……質問の意味が解らない」
「そのままの意味です……何時アオ・ブルースピリットの事を知ったのですか?」
―― いや、だから……なんでアンタがソレを聞く?
「え、だから……その神剣は?」
「貴方に渡せばこの神剣はアオ・ブルースピリットに渡るという未来が見えるからですよ……」
「……だよな……それは、元々はアオに渡す神剣……俺はソレを探してて、アンタもソレを承知で用意した――」
「―― で、何を疑問に思うことがある?」
「ですから……貴方とアオ・ブルースピリットの出会いが解らないのです」
「出会いって……だから、アンタ知ってんじゃないのか? 知ってるから神剣を俺に託してくれるんじゃないのか?」
「だ〜か〜ら〜〜っ、貴方は半年前から最近まで植物状態でこの世界に居ました。
なのに未来に見える可能性の全部が、初見の筈のスピリットを顔見知りのように話してるんですよ?
それ以前に、何でアッチの世界の事情を知っているのかが解らないんですってばっ!!!」
うが〜っと吼える戦巫女……つーか、それがアンタの地なんですね♪
つーか、この人って平安時代に生まれたんだよね? 西暦700年代ぐらいの……
もう1300歳のババアだってのに、パワーが有り余って――っ!?!?
瞬間、超高速で白い人型の紙らしきナニカが俺の正面から頬を切り裂いて後ろに飛んでいった。
余りにも唐突で、速過ぎた為、反応できなかった……
……そして、だら〜っと大量の血液が頬を伝って滴れる感覚がハッキリと伝わってくる。
紙ってこんなに深く切れたんだぁ……っじゃなくてっ!?
「何しやがるアンタ!? ずっぱり頬切れてるスッゲェ切れてる……つーかボタボタ服に血が垂れてるんですがっ!?」
「今のは警告ですヨ?」
「―― はぁっ!?」
「長い年月を生きると、人が何を言いそうになるか漠然と解るんです」
「だから、なんだよ……」
「女性に向かって失礼な暴言を吐かないほうが長生きするコツですよ♪」
「まだ何も言ってねえだろ……」
「”まだ”……ですって?」
「……………………」
ああ、そうか……このババァ ――
―― じゃなくてっ、バニラエッセンスのような甘い香りが似合うお姉様に眼を付けられた時点で今日の運勢は最悪なんだね♪
……っていうか、心の中のボヤキを殺気にて訂正する経験って初めてだ……新鮮過ぎて涙が出そう♪
「OK、全面的に俺が悪かった……ごめんなさい……」
「解っていただければ良いのです……私も鬼じゃありませんからね」
―― 何処がだ? 十分過ぎる程鬼じゃねえか……
つーか、コイツの前で禁句を口にした後の末路って……いや、止めとこ……つーか考えたくもねぇ……
「時神 雫……これを……」
そう言って、俺にハンカチを差し出してくれる偽名ちゃん……
「―― ありがとうっ、貴方を誤解していたっっ!!」
両手でガッシリとハンカチと一緒に握手をする。
良い娘だなぁ……もう本当に良い娘っ子だなぁ……
誰かに見習わせたいもんだ……戦巫女とか戦巫女とか戦巫女とかに……
「―― って、顔が若干赤くなってないか?」
「………………」
偽名ちゃんは何も答えない……ほんのりと顔が赤くなってるだけ……
照れてるのか? いや、まさか……あのナナルゥを凌ぐ機械的ヒットマンが照れるなんて……なぁ?
「いい加減に本題に入りたいと思うんですが……」
先ほどの禁句未遂発言……いや、禁句発言未遂が正しいのかな?
とにかくソレで機嫌を損ねているのか、いかにも不機嫌そうな声で語りかけてくる戦巫女……
……っていうか、話が脱線したのってアンタの所為だと思うんだよね、ボク。
まあ、そんなこんなで……命が再び危険に晒される前に、時神雫事件簿を語ってやった。
―― っていうか、こんな珍事件の語りを何回か説明した経験もあってか……比較的スムーズに概要を伝えることが出来た。
森で幽体離脱にあって、その時偶然に開いていた門に突っ込んだ事とか……
元第3位の神剣に憑依しちゃった事とか……
後、呑まれて分裂しちゃった事とか……
全部話した時……戦巫女の表情に失望の表情が混じっていた。
―― というか、軽蔑するような視線だ。
「神剣に呑まれるなんて……精神が脆弱なのですね、貴方は……」
うっさいわボゲッ!!
―― なんて口に出したら、500%命を危険に晒すような悪寒がしたので……そのセリフを必死に飲み込んで次の言葉を紡ぐ。
「つーか、俺は被害者だぞ!? 何も知らずに巻き込まれた奴に言うセリフじゃねえだろっ!?」
その言葉は自分から進んで神剣を執って呑まれるような奴に叩きつけてくれ。
「なかなかに正論です……ですが、私は『倉橋家』の分家である『時神家』であろう者が神剣に飲み込まれたという事実を嘆いてるだけです」
「……ぅぐ……」
「精神を強靭に持つべし……さて、何処かで聞き覚えの有ると思いますが?」
「……す、すいませんでした……」
ソレを言われては言い返せる筈が無い。
精神を強靭に持つべし……それが、全世界中に存在する魔と戦う職業に共通する合言葉みたいなもんだ。
つまり、強靭な精神を持てない奴は退魔師失格という意味でもある。
「……とまあ、イジワルはこの辺にしておいてあげましょうか♪」
「はい?」
いつの間にか、先ほどの雰囲気は一転……初めてこの巫女に出会ったような……そんな柔らかい雰囲気が訪れる。
「事情は掴めました……この神剣を渡す前に、最後に一つだけ聞きたいことがあります」
真剣な眼差し……本当に、俺の本心全てを見透かすような眼で……戦巫女は言葉を解き放つ。
「あなたは、今、後悔してますか?」
一瞬、言葉に詰まった。
後悔してるって……何を指すのか解らなかったから……
今の状況の事なのか、神剣に呑まれた事を言ってるのか……それとも、アッチに飛ばされた事なのかは解らない。
―― 解らないが、どれにしても……答えは既に出ている。
「……してる訳無いだろ……」
―― 神剣に飲み込まれて……己の精神が脆弱すぎる事実を知った。
―― 精神が分かれ、暴走する自分を見て……己の弱さが引き起こす最悪の事態を痛感した。
―― この世界に戻って……この日常がどれほど眩しいものなのかを実感した。
「俺が不甲斐ない所為で、今アッチが大変になってるって事も解ってる……でも、その事に関しては後悔していないよ」
これらの痛みは……きっと、神剣に呑まれなかったら解らなかった事実だろう ――
―― 無論、そこから生まれる教訓もだ。
その教訓を知る代償はデカイが……得たモノもまた、代償に負けないぐらい大切なものだと思ってる。
だから……あっちがどんな悲惨な状況でも、これからどんな悲惨な事が起きても……後悔しちゃいけないと思う。
後悔するって事は、その出来事を経て得たモノの全てが無価値だと、自分で決めつけるようなものなんだから――
―― そう考えてると、くす……っという柔らかい笑いが戦巫女から聞こえた。
「なるほど、精神は脆弱ですけど……その分、しなやかで柔軟なのですね」
「―― ?? 精神が脆くて柔らかいって聞こえるんだが……どういう意味だよ?」
「解りませんか? 困難に挫けやすい癖に、芯のところは柔軟で折れにくいという意味ですよ」
―― この場合、褒められてると受け取っていいんだろうか?
「ともあれ、その答えは合格です……どうぞ受け取って下さい、永遠神剣・第4位『誘惑』です」
「じゃあ、後は……コレをアオに渡して契約させれば良いんだな?」
「いえ、契約は昨夜、彼女の夢に入り込んで手続きは終了しました……後は、あの子がこの神剣を手にするだけです」
用意が良いというかなんというか……遅くなった理由はコレだったのか?
「ふうん……じゃあ、アイツは『誘惑のアオ』と呼ばれるんだな……似合わねえ……」
「いえ、そうでもないですよ?」
「なんで?」
「この神剣は契約者が少しでも好意を持った異性を文字通り『誘惑』し、契約者の虜にしてしまう特殊な能力があるんです」
「ちょっと待て、なんだその羨ましい限りの特典……というか、よく考えたら傍迷惑過ぎるスキルじゃねえか!?」
少しでも好意って、アイツは誰に対しても好意持ちまくりだし……アブナイ奴を誘惑したら強姦とかされるんじゃないのか?
「心配ありません……契約者が望まない限り、この力は発動しません」
「でもさっき……少しでも好意を持った異性をって……」
「それは力を発動するにあたって最低限必要な条件です」
「なるほど、強制じゃなく任意なんだ……それはそれは羨まし過ぎるスキルじゃない……」
「ええ、まったくもってその通りです……これさえあれば、鈍感すぎる悠人さんにも……っ!」
「………………」
ふるふると、悔しがっている戦巫女……でも、なんで高嶺の兄ちゃんの名前がソコで出てくるんだ?
まあ、それはどうでもいいとして……ありがたく神剣を受け取る――
―― と、脳にダイレクトに声が届いてきた。
『ねぇ、私の契約者にならない?』
「…………………………は?」
めちゃくちゃ色っぽい声が聞こえた。
なんつーか、超グラマーなショタ属性のマダムが何も知らない無垢な少年をR指定以上の領域へ誘惑するような感じの響きだ。
『私と契約するとぉ、酒池肉林も夢じゃないのよ……うふふ♪』
「し、酒池……肉林……」
―― すっげぇ破壊力を秘めた殺し文句だなぁ、オイッ!?
大半の野郎共はこの言葉でイチコロなんじゃないでしょうか?
「つーか、戦巫女さん?? この剣って、自我があるんですか?」
「第4位の剣ですからね……」
そうだね……確か『求め』にも自我あったね♪
『……で、どうするの?』
「……………………」
……どうしよう?
いつもなら、きっと二つ返事で首を縦に動かす……だって、『あ、あの娘可愛いな……』と思っただけで虜に出来てしまうんだぞ?
―― だがしかし、俺の本能が声を大にして叫んでる。
神剣の甘言を信じると碌なことにならないと……
……だから断わるべきなのです。
「……保留ってことで……良いかな?」
『ダ〜メ♪』
ここで断わらなかったら後悔する……でも断わったら、もっと後悔するかもしれん……
だって、なぁ? 相手を『誘惑』する特殊能力ですよ?
どう考えても反則だよなぁ? 男の浪漫だよなぁ……酒池肉林って……
「……ぁぁ……ぅぅ……」
『あらあら、優柔不断なボウヤだこと♪』
ボウヤとか言うなっ……優柔不断なのは認めるけど……
「………………」
「………………」
そうウジウジ悩んでる俺を、戦巫女が絶対零度に近い視線でコッチを見てる……ついでに偽名ちゃんまで無表情の視線で俺を見てる。
「悪いな『誘惑』……断わらせて頂きます……愛が無い恋愛は邪道です、貴方の力に頼って伴侶を得てもソレは正しい愛の形ではありませんっ!!」
『強がっちゃって、もぉ♪ そこのオバサン達なんて気にしなくて良いのに……』
ビギッと音を立てて青筋を浮かべる、すぐそこにある
……ついでに俺の背筋に悪寒が走る。
この悪寒はアレだ……『失望』の影やそこに居る偽名ちゃんと対峙したときに感じたと思われる悪寒と同じ種類だ。
―― このまま放っておくと、俺ごと殺される予感が離れません♪
「お、お……落ち着こう戦巫女っ! 決してこの神剣に悪意が有っての発言では ――」
「―― ダイジョウブですよ、雫さん……ええ、ワタシは落ち着いていますヨ?」
嘘付けっ! 笑顔の後ろの殺意がビンビンじゃないか!?
……っていうか、今の時代はもう2000年なんだからオバサンという表現は正しくありません。
―― なんてツッコミをすれば無惨に殺されるという事はガキどころか赤ん坊でも解る……つーか、さっきの一方的な攻防で証明済みだ。
「安心してくれ戦巫女っ、外見だけ見たら貴方は10代のピチピチお姉さんですっ! 誰が見てもオバサンには絶対見えませんからっ!!」
「……そう……ですよね……ええ、解っていましてよ……ほほ、ホホホ……」
力無い笑いが響く……
そして、その喋り方や笑い方こそが『オバサン』臭いと言われる
―― 止めておこう……逆鱗に触れてボコボコにされ、最後は無惨に殺されるのがオチだ。
『心の狭いオバサンだこと……』
ひぃぃ……! そういう怖いコト言うのやーめーてー!
―― つーか、この神剣……危険感知機能ぶっ壊れてんじゃねのか!?
「……雫さん、その剣を返してください……ええ、代わりの神剣をすぐ用意しますから……さあ、早く――」
「どうどうどう、堪えて、堪えて戦巫女様っ!! たかが4位の神剣の戯言ですっ! いちいち反応しないで聞き流して頂きたいっ!!」
『そうよ、この位の嫌味を聞き流せないと後々大変になるわよ……ねえ、オバサン?』
俺の反応は早かった……こんな事になるんじゃねえかなぁ、って予想してたからね♪
俺は『誘惑』が禁句を良い終えると同時に戦巫女の後ろの方向へ、できるだけ遠くに投げる。
戦巫女の視線は『誘惑』に釘付けになったようにロックオンしている為か、怒りが爆発する直前に後ろから羽交い絞めにして押さえつける事に成功した。
―― その間、わずか0.1秒。
「―― きいいぃぃっ、渾身の
『おばさんなのに元気が一杯有って良いわねぇ♪』
「黙ってっ、お願いだから黙って神剣! そして落ち着いて下さいっ、貴方様はまだピチピチでゴザイマスからっ!!
―― つーか、お前も黙って見てないで手伝え
「……了解した」
早くしてくれ偽名ちゃん……コイツ女の癖に力強いよ、ずるずると引きずられてるよ、後20秒後には『誘惑』と接触してしまう ――
―― しかも神剣の力でも使われたら、この大惨事を止める術が無い……だから早くしてくれっ!!
「その神剣を渡しなさい……ソノ神剣をワタシナ ―― ん?」
偽名ちゃんが戦巫女の正面に立つ……
『誘惑』をロックオンしている戦巫女の視線が遮られ、『誘惑』から偽名ちゃんへと移る。
「ほ、ほら戦巫女様……防衛人形ちゃんが言いたいことがあるそうですよ?」
さあ、言ってくれ偽名ちゃん……お前ならこの状況を打破できると信じてる♪
「……おばさん……」
「―― って、ナニ状況悪化させてんだテメエエェェェ!?」
これ以上火に油……いや、原子炉にウランを注がんでくれっ! メルトダウン寸前だっ!!
「……なんですって?」
しかし、戦巫女の反応は……その真逆だった。
あまりにも意外な奴から言われたからなのか……戦巫女は怒りより疑問が勝っているようで、プッツンしていない。
いや、完全に怒りを忘れてると言っても過言ではない。
―― もしや、こうなる事を予想して命をかけて禁句を発したのか……凄いぞ偽名ちゃんっ!!
しかも一瞬にして戦巫女の怒りを静めるとは……やるなっ!
「時神雫に手伝えと命令されました……おばさん……」
「……へぇ♪」
振り返る戦巫女の瞳に、再び殺気が5倍増しで蘇る。
そして、お前が発言した禁句どころか『誘惑』が言った分の怒り全てが俺に向くのも計算済みって事か ――
―― 殺す気ですかっ!?
しかもゼロ距離でロックオンされてるから逃げられない……羽交い絞め状態から戦巫女を解き放った途端、俺の人生は終わってしまう……
「ちょ、ちょちょちょっ、ちょっと待ってくれっ! っていうか確かに言ったけど、意味が全然違うっ!」
―― 手伝えと言った意味のベクトルが10回以上回転して反対方向に爆走してるんですっ!!
「うんうん、正直に告白したアナタの勇気は褒めて差し上げます♪」
「……なあ、人の話……聞いてねえだろ?」
ちゃんと人の話を聞こうよ……最後まで聞いてくれよ……むしろ、聞いて下さいよ。
「その勇気に免じて、苦しまないようにして差し上げますね……『時遡』『時詠』『時果』、リミッター解除……」
「だから誤解 ――」
―― つーか、リミッター解除ってナンデスカ!?
そう言葉を発する前に、一瞬にして意識を刈り取られ……ボクは天に召されましたとさ♪
……っていうか、コレ……絶対BADENDだよね?
| 技名:渾身の |
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| ターゲット:変動【敵】 | 属性:無 | |
| 対HP効果:999999 | 最大回数:∞ 行動回数:1 | |
| マインドバランス:0 | マインド変動:+100 | 効果:ダメージ限界存在せず |
| このスキルには発動条件がある…… 一つ、『おばさん』『ババア』と同義の単語が自分の事を指していると自覚した時。 二つ、その状態で同単語を5回以上耳にしたとき時。 ―― 上記の条件を満たした状態で、戦巫女が怒りで我を忘れた時……初めてこのスキルが使用可能となるだ♪ 『無我』の契約者のディフェンススキルを持ってしても一撃死させる程の威力を持つ。 サポートが『タイムシフト』だと、きっと『運命』や『宿命』、『第一位の姫』の人にも勝てる…… |
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