永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 8  半身

第2節 『解放』



 






「はっ、はぁ、はぁ……」

走る……時速60km/hにも近い速度で山道を走る。


前には、先行して走るニムガキ達の姿が見える。


そして、段々と、地響きや咆哮が大きくなる。

発信源は近い……おそらく、この急な坂道を登りきった先で……絶望的な戦いが繰り広げられている。


「……なあ、オルファ……」

「……ん、なあに?」

「あのさ……高嶺の兄ちゃんは?」

「……タカミネ??」

「悠人様だ、ユート様」

「あ、パパ? パパはまだサルドバルドで戦ってるよ」

「……え?」


―― サルドバルド ――

ラキオスの東に位置する国で、ラキオスの同盟国である。

記憶が確かなら、イースペリアにて交戦した事があったような気がするが……そこと戦ってる??


「じゃあ、お前達は何で此処に? 一緒にサルドバルドで戦ってたんじゃ無いのか?」

「―― えっとね……抜け出してきちゃったんだ♪」

「……なんで?」

「だって、アオが龍さんを退治するって……アウル様が言ってたから……」

「戦力不足だってのに、よくアウルが許したな……しかも、こんなに……」


ラキオスの主力スピリット隊は、言うまでもなく数が少ない。

バーンライトやダーツィに攻め込んだ時だって、圧倒的な戦力差に俺が呆れた回数はかなり有った。

恐らく、サルドバルドも同じように大量のスピリットを配備しているだろう。


オルファやニムガキ、ネリシア達は……戦闘力こそ際立ってないが、ラキオス隊の主力として組み込まれた奴等だ。

ヘリオンが抜け12人となってしまった部隊から、更に4人が抜ける。

つまり……8人でサルドバルトを落とそうとしているのは無謀としか思えない。


「だからぁ……その……内緒で抜け出してきちゃったんだ」

「そうだったのか……今頃、セリアの姉ちゃんとかカンカンに怒ってんだろうな……」


いや、もしかしたら……「あの子達は……本当に、もぅ……」っと、呆れてる可能性が高い。


「あははは……その、秘密にしてくれると助かるなぁ……」

「秘密にする必要は無いだろ……むしろ誇っても良いと思うけど――」
「―― オルファッ、ソイツに余計なこと言わなくても良いっ!!」

突然、ニムガキの怒鳴り声が聞こえた。


「別に怒る事無いだろうがっ!」

「……ふん」

俺とは口を聞きたくない……という表情と共に、そっぽ向いてしまったニムガキ……


「……やれやれ……」

信頼回復の道程は、絶望的に遠い……

……負けるな、俺……頑張れ、俺……







そう自分で自分を応援していると、突如先行していたニムガキ達が足を止め……何かを見入っている。


「?? ―― みんな、どうし……え??」

追いついたオルファも同じように言葉を失った。


その視線の先……視線の先では、二つの黒影が紅の龍とぶつかり合っていた。

二つは純白のハイロゥを巧みに操りながら超高速で地面を駆け、地表上空、前後左右から目まぐるしく紅の龍へ攻撃を仕掛けている。



一つは偽名ちゃんの姿……

そして、もう一つの影は……言うまでもなく、ヘリオンの姿……



「うそ……なんで、ヘリオンが生きてるの??」

「だって、アイツ死んでないし……」

「「「「―― え゛っ!?」」」」

ネリガキの呟きに答えると、皆が一斉に俺の方を向く。


「何で黙ってたのよっ!?」

「そりゃ、実物見せないと信じてくれないと思って ――」
「―― レッドスピリット全員、神剣魔法一斉射撃ッ!!」

ニムガキの問いに答えていると、突如、男の号令に遮られた……

……音源は龍から離れた場所に居るスピリットの集団……4人の赤スピリットが集団の前面へ出ており、魔法陣が展開されている。

ヘリオンと偽名ちゃんが同時に離脱した瞬間、そこから放たれる紅蓮の光線が落下してくる巨体をつるべ打ちにする。



だが、しかし ――

「―― くそっ、これでもダメだってのかよ!?」

―― 兵士の言うとおり、紅の巨体には何ら効果を持たなかった。



巨体が飛ぶ。

護り龍と呼ばれたモノが、大空から大地まで、何十メートルという距離を一息で落下してくる。



咆哮をあげながら、レッドスピリット達へ振り落とされる爪と ――

―― その落下地点まで走り寄った青い少女の神剣が火花を散らす。



「ふっ……!!」

ぶつかり合う神剣と爪……

……巨体の爪に圧されながらも、少女はその剣撃を緩めない。

その少女と龍が攻防を繰り広げている隙に、狙われた集団は逃げるように距離を取る。



あの小さな身体にどれ程のマナが込められているのか……

……明らかに力負けしている筈の『少女(アオ)』は、けれど一歩も譲らなかった。


旋風にしか見えない巨体の爪を『誘惑』で受け、弾き、真正面から切り崩していく。







「………………」

息を呑むのは、俺だけじゃないだろう。

俺の傍で呆然とアオを見ているニムガキ共も、その姿に見惚れていた。



「……っ、ブルースピリット各自、援護ッ!!」

咄嗟に叫ぶ兵士。

それに応じて3人の青スピリットが青の魔方陣を展開し、氷塊を発射する。


氷塊は、容赦なく巨体のこめかみに直撃する。

時速100km/hは出ているであろう氷塊、全弾を全身に受けて体勢を崩す護り龍 ――


『―― 取ったっ!!』

『誘惑』の声と共に、間髪居れず神剣を薙ぎ払うアオ ――



―― しかし、それは余りにも凶悪な爪の迎撃によって、『誘惑』を通じて身体ごと弾き返された。



「づっ……!?」

飛ばされ、地面を滑るアオ ――

―― それを追撃する紅の巨体と、それを阻止せんと『光線』『火玉』『氷塊』『黒い津波』が幾つも放たれる。



……だが、効かない。

全ての神剣魔法が命中するも……何の効果も与えられないまま、紅の巨体の前に敗れ去っている。



「人形さんっ!!」

「―― 了解、合わせる」


龍の進行方向に着地し、二人同時に居合いを放つ ――

―― けど、それも無駄だった。


二つの刃は鱗を切り裂く事も叶わず、猛スピードで突進する巨体に二人は轢き飛ばされる。


―― 巨体は止まらない。

咆哮を上げながら振り落とされる爪を、アオは咄嗟に『誘惑』で受け止める。

護り龍の一撃を受け止めたアオは、それこそボールのように弾き飛ばされ、ドンッ、っと岩肌へと叩きつけられた。


意識が飛んでしまったのか……アオは気を失ったように動かない。



そのアオにトドメを刺すように紅の龍は大口を開け、その口から火炎が零れる ――

「―― まずいっ!? 皆、行くわよっ!!」

ニムガキが龍に向かって走り出す。

ネリガキとシアガキはハイロゥを広げ、大空へと飛翔する。

オルファは詠唱を開始し始めた。


「……っ、応よっ!」

遅れる形で走り出す俺……



「―― !? また増援か!!」

兵士の希望に満ちた叫びを無視して鉛弾が装填されている50AEを引き抜く……

そして、紅の龍へ走りながら三連射発砲する……が、弾かれた。

……傷一つ与える事無く、銃弾が虚しい音を立てて、全て弾かれていた。


「―― くそがぁッ!!」

「雫、五月蝿いッ! ふんっっ!!」

続けて、ニムガキが『曙光』を投擲……だが、先程の銃弾と同じように弾かれる。

『曙光』の一撃でコチラに気づいた龍は、コチラを向く……


口の中には太陽のような火炎が爆発寸前まで猛っており ――

―― ニムガキは『曙光』を投げた直後で動けない。


「やらせないっ、とりゃああああああああっ!!」
「―― やあああっ!!」

ネリシアが、空中から渾身の一撃を以って龍の首を同時に一閃 ――

―― しかし、その一閃は……ギシャリと、同時に硬い音を立てながら火花を零してズレていく。


「―― うぇ!? なんで!?!?」
「―― そんな!?!?」


ネリシアの叫びを無視するように、その火炎は放たれた。

ニムガキはまだ、投擲からの体勢を立て直せて居ない……故に、業火を目前にしても動けない ――

「―― ひっ!?」

「あ゛あっ、もうッッ!!」


ニムガキの襟を掴み、抱き寄せるように横に飛ぶ ――

「―― あぐっ!?」

―― 直撃は避けられたが……じゅっ、っと嫌な音が熱と共に両足から流れてくる。


「っ、余計な事を……」

「……そら悪かったな……つーか、お礼の一言も無しか!?」

「ふんっ!」

俺の手を払うように立ち上がるニムガキ……

俺も続けて立ち上がろうとしたが、何故か足に力が入らず……コケた。


「……あれ??」

「……何やってるのよ雫っ、さっさと立ちなさいよ!」

ニムガキの言う事は最もだ。


でも、立ち上がれない……何故か立ち上がれないのだ。


―― そして、その理由はすぐに解った。


膝から下は、真っ黒に炭化している……これじゃあ、立てないのも納得だ。


んで、悪いことは更に続く……

あの龍……明らかに俺をロックオンしてやがるのだ。

ズン、ズン……っと、余裕タップリに歩いている気がする。

―― でも、奴の瞳を直視して……それは明らかに気のせいだと解った。


サードガラハムがしていた瞳とは全く違う……狂気に犯された瞳――

理性なんて感じさせない……ただ見えるものを全て破壊するという意思が見られる瞳――

もし、龍が神剣と契約して……神剣に支配されたとしたら、あんな眼をするのかもしれない。


「―― って、どうでも良いんだよそんな事ッ、つーか、こっち来んなッ!!」

でも龍さんは、どんどんと距離を詰めてくる。


「あぁ、もうっ!!」

そう叫びながらニムガキは俺の手を掴んで、持ち上げるように肩に手を回す ――

―― だが、遅い……目前の龍は、既に腕を振り上げている。


「「……あ……」」

死んだ……







……そう思った瞬間……天空から極大の赤色の光線が、落雷の如く龍の身体に直撃した ――

―― そして、着弾して発生する圧倒的熱量と爆風に吹き飛ばさる俺とニムガキ。


「―― どわあああ!?」
「―― きゃああぁぁ!?」


驚くべき事は、天から落ちる極大の光線は、一つだけじゃない ――

―― 二つ……三つ……四、五、六、七……と、続々に降り注ぐ。

更に驚くべき事は、全ての赤色の落雷が目の前の龍目掛けて、全弾外さずに落ち続けているという点だ。



何が起こったか、何一つ解らない……

解るのは……龍の悲鳴のような断末魔を聞いて、目の前の龍の命が完全に息絶えたという事だけだ。



まあ、龍の姿は白煙に包まれており……これは予想の範疇でしかない。

―― でも、あの攻撃で生き残れる生物なんて存在しないのもまた事実。



「……何が起こったんだ??」

「知らないわよ……風よ、彼の者を癒す力の盾となれ ―― ウインドウィスパー!!」


炭化した部分は黒から肌色へと変色していき、数秒後には元に戻った。

「どう、動く? 問題無い??」

ソノ問いに答えるように足を動かす。

問題なく動く……うん、大丈夫っぽい……


「ありがとよ、ニムガキ……見ない内に腕上げたな……」

「か、勘違いしないでねっ、私はただ……そ、そうっ、助けられた借りを返しただけだからっ!」

「そっか、そっかあ……アリガトヨ……」


―― っと、後ろの方から元気が良い足音が聞こえてくる。

振り向くと、疲労タップリで……しかし、爽快感に溢れているオルファの姿があった。


「ニム〜、雫〜〜、みんな〜〜っ!! 見た見た!? オルファのちょう・ひっさつわざ〜〜♪」

「―― 名付けて、『す〜ぱ〜・あぽかりぷす♪』」

いえ〜い♪ っとVサインまで掲げるオルファ……


「……降り注いだアレ、オマエの神剣魔法だったの?」

「―― 嘘でしょ??」

「オルファだってやるときはやるんだも〜ん♪」


「ぅう〜〜、オルファに……負けた……」

「オルファちゃん……すごぉ〜い……」

「えへへ〜〜♪」


白煙が晴れる……そこには、大きな巨体が……ぷすぷすと、焼けるような音を立てて転がっていた。

―― 全身黒焦げ……誰がどう見ても、これは死体である。


それを見届けて、安心した兵士やスピリット達……

……解き放たれた表情で、兵士がこちらへやってくる。



「お前達、何処の部隊のスピリットだ?」

「私達は、その……アウル様の指示で……その、バーンライトから来ました」

「そうか……アウルの奴、粋な計らいをしてくれる……」


そう言って、兵士はニムガキやオルファの頭をグリグリと撫でる。

「ま、良くやったお前達……いや、お前等みたいなスピリットが居るのならラキオスは本当に安泰だな♪」

あははは……っと、清々しい笑いを響かせた後、今度は俺のほうに視線を向けた。


「―― で、オマエは誰だ? ……まあ、予想は付いてるんだが、確認の為、一応な♪」

兵士は、麻薬でも使用してるんじゃないかって錯覚させる程に……テンションがハイになっていた。

……まあ、その気持ち……解らんでもない。


人外同士の戦闘に明らかに巻き込まれる場所で、一生懸命指示を出してたもんなぁ……この人……

まさに九死に一生を得た、生きてるって素晴らしい……という気持ちが、痛いほど伝わってくる。


「……通りすがりの、ちょっと訳有りなエトランジェだ」

「あははは……嘘付け、俺が当ててやる……永遠神剣『雫』だろ?」

「なんで知ってるんだ?」

「それは、ヘリオン・ブラックスピリットに聞いたからな……」

「……ヘリオン……あの野郎……」

まあ良いか……遅かれ早かれバレる事だし。


「雫さ〜〜ん、みんな〜〜〜!!」

「「「「ヘリオンッ!」」」」

ヘリオンが手を振りながら、こちらへ走ってくる。

オルファ達も、ヘリオンに走って行き……そして、ネリガキが一番先に勢い良くヘリオンと抱擁 ――

―― ニムガキもシアガキも、オルファも……続けてヘリオンに飛びつく。

彼女等は、生きてる事の喜び、再び出会えたことの喜びを「良かった、良かった」と噛み締めながらボロボロと涙を流しながら抱き合っている。


俺は、その光景を……微笑ましく、隣の兵士と一緒に見ていた。


……そして、その光景を見ていた兵士の口が開いた。

「……なんか、あれだな……」

「……何が?」

「人とかスピリットとか、そんなの関係無いって思わせる光景だな」

「……まあ、感動的ではある ――」
「―― 隊長、アオの回収……終了しました」

俺の話を遮るように現れたのは、満身創痍のスピリット……

龍の一撃をモロに受けたのか……そのスピリットの服は大きな爪で裂かれた跡があった。

―― 傷が塞がってる事から、癒しの魔法で処置した後だろうが……顔色が悪く、ふらふらになっている。


「フォールゥ、ご苦労だった……早くアオに癒しの魔法をかけてやれ」

「はいっ!」


そう指示して、隊長と呼ばれた兵士はスピリット全員を確認するように見渡す。

「龍相手に戦死者一人も無し、思わぬ戦力増加、神剣だったエトランジェ確保♪ うん、確実に昇進できるな♪」


好き勝手に言いやがって……と、思った時、アオに回復魔法をかけている筈の緑スピリット全員が此方を見てるのに気づいた。


「……た、隊長……?」

「ん? どした??」

良く見れば、周りのスピリット全員が……血の気の引いた顔で、有り得ないモノを見たかのように固まっている。


「……あ、あ……」

「……??」

「あ……ア、レ……」

フォールゥという緑スピリットが俺達の後ろに指差す。







―― そこには、ガフガフと咳き込みながら起き上がる、黒焦げの龍の姿。







「「「「「「「………………」」」」」」」

恐らく、この場に居る全員が……間違いなく絶句した。


だって、龍の中心地は……地面は幾十にも抉れ、深いクレーター状になっているんだぞ?

オルファが放った神剣魔法は、それほどの破壊を引き起こし……

それほどの破壊を以ってしても、この巨体は……なお健在だった。


「んな、阿保な……」

鉄板を軽々と貫通する銃弾を弾き、大砲の弾に匹敵するような投擲を弾き、鉄など紙の様に切ってしまう斬撃を弾き ――

―― そして、大地を殺しかねない天の雷にも似た究極の破壊を以っても……この龍は死ななかった。



……一体、どんな御都合主義が生み出した化け物だ、コレ??



虚ろだった龍の瞳に狂気が戻る。

そして戦闘再開だと言わんばかりに龍が吼えながら、一番近いニムガキ達へ特攻する。

慌てて神剣を構えるニムガキ達 ――

―― だが、それは紙一重の間で遅すぎた。



凶悪な爪による斬撃……

……4人は大量の鮮血を撒き散らしながら、ゴミのように飛ばされていく。



―― 瞬間……意識が発火し、思考能力がゼロになる程の殺意が湧き上がる。



「て、テメェッ!!」

後先考えずに全速力で龍へと駆け出す。

俺の殺意に共鳴するようにサードガラハムの篭手に蒼い炎が灯る。

『失望』の影を四散させた時よりも、更に大きな炎が篭手に宿り ――


「あんま調子に乗ってんじゃねえぞ、コラーッ!!」

―― そのまま、渾身の右ストレートを龍の脇腹に炸裂させた。


「―― っ!?」

……が、ビクともしなかった。

それどころか、手の骨はもちろん腕の骨にも亀裂が走るんじゃないかって程の衝撃が返ってくる。


―― なんちゅー装甲をしとるだ、コイツ!?

「時神雫っ、右っ!!」
「―― えっ!?」

偽名ちゃんの声に導かれ、右を向くと……巨大な尻尾が迫る。

―― 回避なんてできる筈も無い。


「―― ぐぼぉっ!?」

車道を走る大型自動車に轢かれたような衝撃と共に何十メートルも弾き飛ばされ、岩肌へと叩きつけられる。


「が、はぁ……この野郎……」

痛みを訴える身体を何時も通りに無視して視線を龍に戻す ――



―― 瞬間、時が止まった。



龍がスピリットの集団へと、火炎を零しながら大口を開けていた。

それは良い……気づいた兵士やスピリット達は既にその場を離れ、退避し始めているから ――



―― 問題は、取り残された者が居るという事だ。



気絶しているアオと、フォールゥと呼ばれていた緑スピリット……

そのスピリットは、もう神剣の力を引き出す力も残っていないのか……アオを抱えながら、ふらふらな足取りで逃げようと試みる。

―― だが、無駄……あと一秒も経たない内に灼熱の業火は吐き出されようとしている。



このままでは、二人が死ぬ。

―― この距離では、間に合わない。



そう思った瞬間、頭に眠っている知識を読み込んでる自分が居た。



―― 神剣の力を使ってアオ・ブルースピリットの命を助けたとしても……『時神 雫』は死亡 ――

―― 『時神 雫』の死を見たアオ・ブルースピリットの心は完全に砕け、『誘惑』が支配した肉体だけが生き延びる ――



解ってる、そんな事は解ってる……

……でも……未来はまだ、確定してはいない。



アオが目の前で殺されて、俺が発狂するのなら ――

俺がアオの目の前で死んで、アオが発狂するのなら ――

結局、二人とも死ぬ宿命にあるというのなら ――



―― そんな宿命、何が何でも否定してやる。



最後の最後まで抗って、自分の手で未来を切り開く。



だから、大丈夫だ……気合でなんとかなる筈だ。

『失望』の影や偽名ちゃん、戦巫女のお陰で、死ぬような痛みを何度も経験している。

だから、大丈夫……この位、余裕で耐えられる……

そう自分を鼓舞して、頭の中に眠っているハイロゥの設計図を引き出す。



―― 頭が、痛い。

龍の口に宿る炎が永遠に吐き出されないと錯覚させる程、動きが完全に停止してるように感じられる。



―― 身体が、熱い。

視界に『青』『緑』『赤』『黒』『白』と、各色を持った粒子(マナ)が……所々に現れて行く。

その5色のマナが、俺の意思に従うように……背中へと流れてくる。



―― 壊れる。

流れ込むマナは、もはや押さえが効かない。

器の容量は既に越えているのに、更なるマナが器の中に押し込められ……逃げ場を求めるように猛り狂う。



「……ごっ、ぶっ!?」

マナは質量を持ち、器の内臓を(ことごと)く破壊していく……



―― だが、構わない。

俺とアオ……二人がこの戦いで生き残るなら……

ソレが叶うのなら……出し惜しみをしている場合では無い。







「―― 解放(イグニッション) ――」

溜まりに溜まった体内のマナを解き放った瞬間、あらゆる人間性が崩壊した。







自身を構成する粒子(マナ)の一つ一つに意志が在るのか……身体のあらゆる情報が手に取るように流れてくる。



―― 脳内稼動率、限界を越えてなお上昇中……崩壊までの予測、2時間 ――

充分だ……予想よりずっと長い。


―― しかし、注意せよ……神剣の神秘は人の身で扱えるような生易しい知識では無く、下賎(げせん)な神秘でも無い ――

―― 神秘の乱用は脳へ更なる付加を与え、瞬く間に崩壊を迎えるだろう ――


「―――――」

呼吸を止め、大半の構成マナを『身体能力強化』と『ブースト・ハイロゥ』へと費やす。

注意事項なんて知った事じゃない……重要なのは、許された僅かな時間で……あの化け物をマナの霧へと変えてやる事だけ……


「―――― 行くぞ」

全身が発火したように熱く、背中は紅蓮のように熱く ――


「最大出力……噴射(バースト)ッッ!!」

―― 身体中の熱を排出するように……漆黒のブースト・ハイロゥを起動させた後、止まっていた時が動き出した。



龍が射出する炎の速度を『疾風』と例えるのなら……

……その龍に一直線に迫った俺の速度は……きっと『閃光』だった。



最大出力噴射から刹那の間も置かずに ――

周りから見れば時間を切り取ったように龍の懐へ飛び込み ――

―― その腹に渾身の拳を叩き込む。


「ごっ……!!」

だが、この龍はビクともしない……まるで、地面に幾千の根を這わせた大木だ。

圧倒的な重量差、圧倒的な装甲で、突き出した筈の腕が止まる。


「―― っんん゛、のぉぉぉぉおおおおおおオオオ!!」

―― それを、気合だけで強引に押し通した。

数十メートルも弾け飛ぶ巨体、見当違いの方向に吐き出される火炎……周りで息を呑む音がした。



無様に地面に叩きつけられる黒ずんだ巨体……

間を置かずに向けらる眼光……そして、咆哮と共に突進してくる化け物 ――


突進と共に振り下ろされる爪を強引に弾く……そして、迫ってくる巨体を押し留めるように、がら空きの胴体に渾身の掌打を叩き込む。

びちゃッ、っと龍の唾液が顔面に降り注ぐ……構わず、龍の胴体を蹴り上げる ――



―― だが、強靭な鱗の前では打撃の効果は無い。

衝撃を内部に貫通する攻撃方法でしか、この化け物にダメージは与えられない。



突然、龍の大口が開く……その中には、灼熱の火炎 ――

「―― っ、エーテル・シンク!!」

神秘の氷塊は一瞬で現実へと召喚される。

冷酷(ヤツ)』が知る中で最速の神剣魔法が展開されたと同時に、その火炎が吐き出された。







力関係は、見るまでもなく明らかだった。



そもそも、この器は……『マナで編まれたての身体』は、まだこの世界に馴染んじゃいない。

加えて、人の脳の処理速度で神剣魔法の公式を編んでも無駄が多すぎて……その能力は10分の1も発揮できない。



氷塊が瞬く間に縮小し、漏れ出す業火が手足を焦がす……



だが、問題はそれだけではない ――

ここで、守り(エーテルシンク)を完全に失えば……俺だけではなく、後ろに居るアオ達までもが一瞬で蒸発する――!!



「あ、あア、アアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」



―― 吼える。


すぐソコに迫る業火を押し返すように ――

すぐソコに迫る『終焉の時間(タイムリミット)』を追い返すように ――



絶叫しながら脳神経を更に加速……加速させ、猛スピードで溶ける氷塊に大気のマナを補填する。

―― だが、足りない……このままでは間に合わない。


だから注ぎ込む……利用できるものは全て注ぎ込む。

身体能力強化に使用しているマナ、ハイロゥを構成するマナ、身体を構成するマナを無我夢中で溶ける氷塊にマナを注ぎ込む。







―― それでも、無駄だった。



全てを使い切っても、溶ける速度には追いつけず……閃光と暴風が俺達3人を包むように吹き飛ばした。








あとがき



どうも、ASファンです♪

この話は、お正月から練りまくっていたネタを若干編集しただけなので思ったより早く書き上げることが出来ました♪

今話でアオとは再会できましたが、未だ会話には至らず……何故だ!?


今回は雫の珍しい見せ場♪

サードガラハムの加護+神剣の知識解放=パワフリャーになりましたが……それと同時に命の危機もいっぱい♪

やっぱりね、強大な力にはソレと同価値なリスクが必要だと思うのですよ。


―― 主人公最強主義小説大好きな筈なんだけどなぁ♪




<今話で出てきた用語>






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