初唐の書2

温彦博碑(637)
欧陽洵最晩年の作と言われる。
鋭さの中に清清しい情感が漂う。
欧陽洵の辿り着いた境地の現れであろうか。
清の何紹其がこよなくこの碑を愛したと言う。

温彦博碑

史事帖
欧陽洵の残した珍しい行書であるが真蹟は伝わっていない。
如何にも欧陽洵らしい強靭な厳しい筆勢である。
奈良時代の日本の書にこの書の書風の影響が見られる。

史事帖



猪遂良(596〜658)
唐の三大書家の中では最も若い。
欧陽洵、虞世南を充分に学んだ上で、彼らには無い用筆、書風を打ち立て、
独自の境地を編み出した。
欧陽洵を失った太宗が「今後誰と書を論じればいいのか」
と嘆いた時に推薦されたのが猪遂良、当時既に名が通っていたのであろう。
太宗没後、高宗に仕え、死をとして高宗を戒めるなど、
義を重んじた政治家でも有った。

枯樹賦(630)
35歳の作とは思えない静かで味合いの深い書だ。
若くしてこの域に達しているのは、余程、非凡な才に恵まれたのだろう。

枯樹賦


伊闕佛龕碑(641)
龍門石窟の賓陽洞の外壁に刻された磨崖である。
正統的な隷書の筆法が見られ、彼が北碑の古典に通じていた事が判る。

伊闕佛龕碑


孟法師碑(642)
猪遂良48歳の作、
59歳の作の雁塔聖教序との余りの書体の違いに唖然とする。
書法の研究へのひたむきさが覗える。
欧陽洵の書に比べ横幅が若干広く若干の丸みも覚え、全体として余裕のある、
ゆったりとした温かみを感じる。
その中に何がしかの重厚味が漂う。

孟法師碑


哀冊帖(649)
枯樹賦とも雁塔聖教序とも違った書風である。
これは猪遂良が如何に幅広く書法を追求したかを物語る。
創造性に富んだ多芸な人物だったのだろう。

哀冊帖



房玄齢碑(649-655)
猪遂良晩年の作。
雁塔聖教序に極めて近い書風である。

房玄齢碑


雁塔聖教序(653)
インドから戻った三蔵の為に太宗が自ら与えた序文、

猪遂良が筆を取った。
虞世南、欧陽洵を飛び越えたと言っては語弊があるだろうか。
虞世南、欧陽洵、そして従来の猪遂良をも越脱した書に思える。
修行、研鑚を尽くした上での自由奔放とでも言おうか、無の境地すら感じるのだ。
優雅繊細な趣の中に強烈な意思の力が底に有る。
見掛けは大らかで優しいが、気力を尽くして書いたに違いない。
今、尚、大雁塔の正面を飾る。

雁塔聖教序


引用文献
講談社刊:古筆から現代書道まで墨美の鑑賞
東京書道研究院刊:書の歴史
芸術新聞社刊:中国書道史
木耳社刊:中国書道史(上卷)(下巻)
二玄社刊:中国法書選
芸術新聞社刊:中国書道史の旅
大修館書店刊:漢字の歴史
平凡社刊:字統
平凡社刊:名筆百選
講談社刊:古代中国

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