書の歴史21/元時代の書

元の書
宋を滅ぼしかけた金が、中国文化に同化し国力が衰え、元に滅ばされる。
元は、1271年から1368年まで98年間、中国を支配した。
成吉思汗を祖とする蒙古帝国は、中国本土はもとより西域、ヨーロッパまで君臨し、
欧亜に跨る大統治国家を確立する。
しかし、第二代以降は皇位継承を巡る王族間の対立抗争が激化し、
人種差別、重税、物価の高騰など、が人民の不信を買い、
各地で反乱蜂起が相次ぐようになり、元朝も短命であった。



趙孟フ（1254-1311）

字は趙子昂。
宋の太祖の流れを込む宋王室の後裔である。
宋滅亡後、隠遁していたが、その才幹を認められ、
元の世祖から五朝に仕える。
弁にたけ学に通じ、眉目秀麗、、書画詩文に詳しく、
所謂、当時のスターであったらしい。
管夫人と呼ばれる彼の夫人は才色兼備をうたわれ内助の功のお方と知られている。
ご本人の趙孟フ、趙子昂と言った方が通りが良いかもしれない。
天分に恵まれ、元代では右に出る人は居ないとまで言われた傑物であった。

顔真卿以降、王羲之の典型を破り、
宋の、蘇軾、米元章、黄庭堅と新しい書風に走っていたが、
元時代の入ると懐古主義が風靡し王羲之への回帰が叫ばれ、
趙孟フがそのの活動の中心人物であった。

玄妙観重修三門記
玄妙観は現在でも蘇州城内に現存する。
三門を修復した由来を記した原稿である。

蘭亭所十三跋（1310）
趙子昂が大都（北京）へ赴く際の長老から譲り受けた蘭亭序拓を日夜愛玩し、
末尾に十三の跋を記した。
心底から尊敬した王羲之の人品、用筆、筆法を精魂傾けて習得しようとした意気込みが感じられる。

中峰明本宛尺牘（1311）
趙子昂が帰依した中峰明本に宛てた尺牘の一つであるが、
両者の親密な関係、趙孟?の人柄が読み取れる貴重な資料でもあろ。
また、その筆跡から彼が如何に二王に傾倒していたかが顕している。

仇諤墓碑銘稿（1319）
趙孟ﾌ６９歳の作。
この年は賢夫人たる管夫人を彼岸へ送った年でもある。
味合いの深い堂々とした楷書であり、諸所の高宗の書風が垣間見られる。

鮮于枢（1257-1302）
鮮于枢も中年以降官を辞して西湖畔に門を閉ざして俗客を避け、
書画、骨董の鑑賞等、専ら文雅の中に暮らした。

透光古鏡歌冊
力強く大らかでゆったりした結体で、
趙子昂と並び称されるが、趙子昂よりもやや激しい書風か。

唐詩巻（1296）
韓愈、杜甫、の詩５首をしたためた。
元代第一に書家と言われた趙子昂が
「彼と一緒に草書を学んだが彼の進歩には追い付けなかった」
と述懐している。
趙子昂が二王を頑なに追従したが、鮮于枢は更に、
肥痩遅速を加え個性的な書を追及したと考えられる。
これは南宋末の張即之に似通っている。

咲劉毅従来布衣願家無?石輪百萬兵車行

杜甫茅屋為秋風所破歌（1298）
杜甫の詩を草書で大書した詩巻。
三度筆を代えて書いたと言う。
どのような筆を使ったのか興味がある。
余談だが、古今の名書を臨書するに当たり、
まず悩むのは筆の選択である。
筆の長さ、材質、太さ、だが、
吟味の仕様も無いので、結局、成り行きに任せている。

八月秋高風怒号　捲我屋上三層茆　茆飛度江麗郊

馮子振(1257-1327以降）

日本では宋元時代の禅僧の書を墨蹟と称し主に茶家などで重宝された。
普通、この手の墨蹟は僧侶のものが多かったが、
この馮子振と張即之は僧侶ではない。
入山の日本人僧侶に人気があったらしく、
日本には多くの真蹟が伝わっているが中国に残されているのは稀ある。

贈無隠元晦詩
無隠元晦も日本からの入山僧である。




中峯（1263-1323）
名は明本。
彼の趙子昂が弟子の礼を取っていたと言われ高徳な人物であったらしい。
先の馮子振が泥を練り、趙子昂が運搬し、中峯自らが壁を塗って、
幻住庵を構えたと言う逸話が残っている。

法語
彼の字は奇異な風格を持ち、柳葉書、笹葉書きと言われる流れを汲む。
技巧を弄せず明鏡止水の心境が覗われる。

濟生死大河砕涅槃?臼�ﾊ

�ｹ文原（1259-1329）
趙子昂の後輩で、宋、元に仕え諸職を歴任した。


漢時二帖跋
私淑した趙子昂が補った漢時二帖に�ｹ文原が跋している。
趙子昂の書風であるが、どこかおっとりとした落ち着きが有る。



キキ(1295-1345)
中央アジアの遊牧民、所謂、色目人である。
西域の王族の血を引いている。
フビライに優遇されたらしく、
重臣の子として教育を受け、漢文化を解し大臣の職まで登っている。
キは難しい字だ、普通の辞書には出ていない。
山編にゴチャゴチャした字だ。
その書は趙子昂を継ぐものと称されたが書風は大分異なる。

　
秋夜感懐詩
速筆らしく飛動している書だ。
しかし、芯はしっかりと風格に満ちている。




楊維�驕i1296-13??）
父に山中の楼閣に閉じ込められ梯子を外して5年間の読書を強いられたと言う。
多才ながら異常な性格な為、官職を辞し放浪し放逸な人生を送った。

張氏通波阡表
当時の文学界において彗星の名を欲しいままにしたが、
その書も、また、狂怪とも言われながら、
脱俗の趣に富み、独特な風格を見せている。

張氏通波阡表

柯九思(1299?-1352)
文宋の寵愛を受けたが文宋の亡き後は不遇を送った。


独弧僧蘭亭帖跋
先述の趙子昂の跋の次に書かれている跋である。




倪ｻﾝ?（1301-1374）

字は元鎮。
元末の山水画家として名高い。
彼も富豪の家に生まれる。28歳で家産を相続した。
　多数の法書名画を蒐集･所蔵し、多くの堂、亭のに陳列し、
庭は草花で飾りつけ、
その中に隠遁して詩画の制作に明け暮れる生活を送った。
元代を代表するサロンでもあった。
しかし、中年になってから家を出て放浪の身となり貧困の生活を送った。

呉炳本蘭亭序跋
後の徐渭、文徴明が絶賛している。

引用文献
講談社刊：古筆から現代書道まで墨美の鑑賞
東京書道研究院刊：書の歴史
芸術新聞社刊：中国書道史
木耳社刊：中国書道史（上卷）（下巻）
二玄社刊：中国法書選
芸術新聞社刊：中国書道史の旅
大修館書店刊：漢字の歴史
平凡社刊：字統
平凡社刊：名筆百選
講談社刊：古代中国
創元社：書道入門
平凡社：書道全集第８巻、第１０巻
講談社：現代書道全集
二玄社：書の宇宙


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