ちょっとWM8741を試してみる、の巻き。 2010.10.2
ついでで購入したWM8741
いつものように海外の電子部品通販をつかっているが、なかなか
送料無料になるまで総額が積み上がらない。あと2〜3千円というところなので、
こういったときはつい、何かおもしろそうなパーツはないかと捜してしまいます。
それでDACを調べてみると、WM874Xなるものがみつかりました。
シリーズとしてはWM8740,WM8741,WM8742の3種類ありますが、
データシートのタイトル、ニュースリリースの文言、性能、価格を見ると、
それぞれ特徴があります。どうやらWM8741がもっとも性能が良さそうです。
WM8740 | 24bit,High Performance 192kHz Stereo DAC |
@545円 | 120dB SNR (‘A’-weighted mono @ 48kHz) |
一般機器用 |
WM8741 | 24bit 192kHz DAC with Advanced Digital Filtering (2007-11-07)ハイエンド・オーディオ製品向け ステレオDACの出荷を開始しました。 |
@1285円 | 128dB SNR (‘A’-weighted mono @ 48kHz) |
ハイエンド用? |
WM8742 | 24・bit 192kHz DAC with Advanced Digital Filtering (2009-02-06)アドバンスト・デジタル・フィルタリング技術の採用で 広範囲なオーディオ・アプリケーションをサポート |
@1185円 | 126dB SNR (‘A’-weighted mono @ 48kHz) |
WM8741の廉価版 |
ということでデータシートのAdvanced Digital Filterなる言葉にも魅せられてWM8741をついでで購入。
スペックを見る限り、かなりの高性能なので期待できそうです。
特徴は?
特徴を列記すると(ref http://www.incom.co.jp/newsroom/desc.php/3096)
<WM8741の主な特長>
■ 超高性能を兼ね備えながら、帯域外ノイズの低減や線形性の向上を実現し、
プログラム可能な先進デジタル・フィルタの組み合わせを提供することで、
従来のDACよりも自然な「アナログ・フィール」のサウンドを生成。
■ ハイエンド・ホーム・オーディオ、プロフェッショナル・レコーディング、およびスタジオ機器など、
Hi-Fiオーディオが必要とされるあらゆるハイエンド・オーディオ製品に最適。
■ 高性能DACであるWM8740の後継、次世代製品であり、PCMモードを使用しているアプリケーションでは
WM8740と簡単に置き換えも可能となり、製品の設計仕様によっては開発期間の最小限化が可能。
■ 128dBのS/N比(モノラル)を実現し、必要とされるリスニング性能に適合するようオーディオ・フィルタを
調整することで、最も厳しい性能要求を持ったアプリケーションにも対応可能。
■ 独自の先進デジタル・フィルタの組み合わせにより、オーディオ出力に影響を与える数多くのパラメータを
精彩に制御可能。群遅延、位相、レイテンシー、インパルス応答、遷移域ロールオフなどの多種多様な
特性をユーザーが柔軟に選択可能。
■ 独自の低次モジュレータとマルチビットDACアーキテクチャの採用により、帯域外ノイズの低減と
世界クラスの線形性を可能にし、音質のさらなる向上を実現。
■ SACD(TM)とCDの両ディスクの再生に対応する広範囲のオーディオ・インターフェース機能を搭載した
完全差動ステレオ・オーディオDACシステム。マルチビット・シグマデルタ・モジュレータや差動電圧出力を
持ったスイッチトキャパシタ・マルチビットDACに加え、ディザ付きデジタル補間フィルタ、
高解像度ボリューム・コントロール、デジタル・デエンファシスを搭載。
となると、市販のDACのどのクラスに使われているか気になるところです、
ネットで調べてみると、Linnの新製品Akurateというのに搭載されているらしい。
それなりに値段がします。
□AKURATE CD
SACD/CD/DVD-AUDIO (プレーヤー)
<販売予定価格> ¥997,500(税込)
これかな?
ハードウエアモードで使えるかな?
データシートを眺めて見るとハードウエアモードでも使えそうなのでホットしました。
マイコン制御が必要だと、ちょっとややこしくなります。
データシートをさらに眺めていくと、動作周波数の一覧があります。
え?
256fsモードでは192kHzは動作しないようです。192kHzで動かすにはシステムクロックは128fsあるいは、192fsにする必要があります。
すなわちCS8416のシステムクロックは256fs(あるいは128fs)なので、直結した場合は32〜192kHzでは連続で動かない
(動作保証されない)ということですね。これはRenew DAI for DF1706と同様のシステムクロックの分周回路を入れなくてはなりません。
WM8741のシステムクロックの動作表(32〜192kHzを同一fsで動かすことはできない)。
そういえば・・・
PCM1794やFN1242は大丈夫なのかな〜。
PCM1794は大丈夫のようです。192kHzでも256fsもサポートしています。
PCM1794のシステムクロックの動作表(32〜192kHzは128fs〜384fsの広範囲で動かすことが可能)
FN1242Aは128,192fsであれば32〜192kHzに対応していそうです。
さて、組み立てて見ましょう。
DAIはCS8416をつかいますが、基板はRenewDAIを流用・改造することにしました。
これは動作周波数に応じてシステムクロックを切り替える機能があるからです。
まずは変換基板と小さいユニバーサル基板に組み付けていきます。
久し振りのユニバーサル基板での半田付けに手が振るえてしまいました(笑)。
まずはテスト用の基板が完成!
Renew DAIと接続して動作準備完了です。
動作確認はこんな感じでおこないました。
動作確認!
このDACは差動電圧出力なので、その様子を確認しておきました。
アナログ電圧は5Vなので、出力は2.5Vをセンターにして振幅が1.5V程度で出力が得られるようです。
このまま差動アンプに通すと出力振幅は3Vになりますから、実効値も2V強でちょうどいいくらいですね。
]
動作確認時の波形(1kH正弦波および三角波、サンプル周波数は44.1kHz)
一番気になるフィルター特性
WM8741で一番気になるのがフィルター特性です。色々と可変できるようなので、どのように変わるか試してみました。
Pin4とPin22の組み合わせで変わるので、一通りみてみましょう。
調査時の波形はパルス波でサンプル周波数は44.1kHzです。
サンプリング周波数 44.1kHz システムクロック11.2896MHz(256fs) | |||||
Pin4 (FSEL/DINR) | |||||
L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) | |||
PIN22 OSR/ DSDR |
L (GND) Low rate |
![]() |
![]() |
![]() |
|
Z (OPEN) Midium rate |
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![]() |
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||
H (3.3V) High rate |
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これだけ変わると面白いですね。どんな音がするのかワクワクしてきました。
ちなみに44.1kHz以上ではどんな感じになるか試したいところですが、44.1kHz以上に変換するにはASRCを通す必要があります。
しかしそうすると、ASRC内部のフィルターを通ってしまうので何を評価しているかわからなくなってしまうと想定されるのでちょっとパスです。
もう少し調べてみよう!
マニュアルを読み進めると気になる一文がある。
すなわち、動作周波数に応じて常にPIN22(OSR/DSDR)端子は設定を確実にしなさいということである。
これがどういったことを意味するのかも含めて、フィルターによる変化の様子と合わせて調べてみました。
まずは96kHz入力時。重要なことは波形の変化(これはASRCのフィルタのため、ほとんど変化がない)ではなく、Pin22がL(Low rate)ではうまく動かないということです。
サンプリング周波数 96kHz(ASRC使用) システムクロック24.576MHz(256fs) | ||||
Pin4 (FSEL/DINR) | ||||
L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) | ||
PIN22 OSR/ DSDR |
L (GND) Low rate |
![]() |
![]() |
![]() |
Z (OPEN) Midium rate |
![]() |
![]() |
![]() |
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H (3.3V) High rate |
![]() |
![]() |
![]() |
次は192kHz入力時。こちらもPin22がL(Low rate)およびZ(MIdium rate)ではうまく動かないということです。マニュアルに書いてあることは正しいですね。
サンプリング周波数 192kHz(ASRC使用) システムクロック24.576MHz(128fs) | ||||
Pin4 (FSEL/DINR) | ||||
L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) | ||
PIN22 OSR/ DSDR |
L (GND) Low rate |
![]() |
![]() |
![]() |
Z (OPEN) Midium rate |
![]() |
![]() |
![]() |
|
H (3.3V) High rate |
![]() |
![]() |
![]() |
となると、このDACは44.1kHzあるいは48kHzをメインにして、色々なフィルターを楽しめるようにするのがいいのかもしれません。
しかし、どんな音がでるのかな?
差動合成回路はどうするかな? 2010.10.10
アナログ出力を出すには差動アンプが必要になりますが、どんな定数にするか検討してみました。
まずは下図のような回路で試してみましょう。
この回路構成だとシンプルIV基板を使えば、簡単にできあがりです。
![]() |
差動合成アンプの回路構成
フィルタ特性。20kHzで-1dB、-3dBが約90kHz。
手持ちのコンデンサの都合で変な特性です(笑)。
組上がった差動合成基板。IVアンプは使わないのでスルーです。
早速試聴してみる!
差動アンプが組みがったので早速接続して試聴してみましょう。
DAI基板の上に差動合成基板をのせて、その上にWM8741の基板を載せました。
コンパクトに収まるので机の上が広く使えます。ホントは机の上を片づければもっと広くなるですが・・・(汗)。
まずは電源ON! 煙はでない(笑)。
出力オフセット電圧は左右がそれぞれ0.9mVと1.0mVなので問題なし。
これを確認してアンプに接続します。そして、まずはフルボリューム。ノイズはありません。きわめて静寂です。
これだけのバラックでノイズ無しとは嬉しいです。
バラックでの動作中。
そして、試聴に用いたのは今井美樹のCDです。
まず最初のイントロが流れた瞬間の印象はみずみずしいな〜という感じ。
歌が流れてくると、今井美樹が3〜4才若くなった印象です。
ちなみに、今井美樹っていくつなんだろう?(笑)。
調べてみたら、なんと同い年でした・・・・・。
このWM8741っていいな〜。折角なので基板にしたくなりました。
でも、ケースに入っていない基板がゴロゴロ(Renew DAC1704、Renew R-2R)しているのに
自分自身消化不良になってしまいそう。まあ、趣味だから仕方ないですね。
サンプル周波数96kHz以上のパルスの応答は? 2010.10.11
これって気になるところです。ASRCを通してしまうと、ASRC内のディジタルフィルタの影響が支配的になってしまうのは
すにで掲載した通りですが、素直に96kHzとか192kHzのサンプル周波数でのパルス波がはいると、WM8741のディジタル
フィルターはどんな応答をするのか興味が沸いてきました。
どうやってパルス信号をつくるか?
適当なロジックを組んで波形(BCK,WCL,DAT信号)を発生させることも考えられますが、手っ取り早い方法があります。
それは、メモリーバッファーを使う方法です。すなわち、メモリーバッファーには、たとえば48kHzサンプルでのパルス波形
を入力して、出力は96kHzに設定してやれば出力は強制的に96kHzでのパルス波形になります。音楽信号だったら
音が飛びまくりますが、この手の実験であれば全然問題ありません。
レベルコンバータ基板をつくる!
そうとなれば、メモリーバッファーとWM8741を接続するためのレベルコンバータ基板が必要です。メモリーバッファーの
制御信号のレベルは5Vですが、WM8741の入力は3.3Vです。この差を埋めておかないと、下手にラッチアップでもされたら
大変です。レベルコンバータといっても専用のICは手元にないので、74LVC04をつかうことにしました。この74LVCというのは
高速のロジックICですが、基本は3.3V動作です。が、入力レベルは5Vも可能なので、この74LVC04で5Vで受けて、
出力は3.3Vに変換してやろうという算段です。
74LVC04はインバータ回路なので2段直列にすることで、単なるバッファーとして機能させます。
レベルコンバータ基板の裏側 レベルコンバータ基板の表側
早速実験してみましょう!
メモリーバッファーと接続して早速、パルス波形の応答を調べてみましょう!
メモリーバッファーとWM8741の間にレベルlコンバータ基板を挿入
メモリーバッファーには1kHz周期でのパルス波形を入力しておきます。
そして、出力サンプル周波数を96kHzおよび192kHzに変更してWM8741の出力波形を観測しました。
ちゃんと96kHzあるいは192kHzに変換されているかどうかは、パルス間隔で確認することができます。
すなわち96kHzの場合だったら、間隔は2倍、すなわち500uSになりますし、192kHzの場合だったら
4倍の250us間隔になります。
では、早速観察した結果です。
サンプリング周波数 96kHz パルス波応答 システムクロック24.576MHz(256fs) | ||||
Pin4 (FSEL/DINR) | ||||
L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) | ||
PIN22 OSR/ DSDR |
L (GND) Low rate |
動作せず | 動作せず | 動作せず |
Z (OPEN) Midium rate |
![]() |
![]() |
![]() |
|
H (3.3V) High rate |
![]() |
![]() |
![]() |
サンプリング周波数 192kHz パルス波応答 システムクロック24.576MHz(128fs) | ||||
Pin4 (FSEL/DINR) | ||||
L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) | ||
PIN22 OSR/ DSDR |
L (GND) Low rate |
動作せず | 動作せず | 動作せず |
Z (OPEN) Midium rate |
動作せず | 動作せず | 動作せず | |
H (3.3V) High rate |
![]() 極力リンギングを減らした特性 |
![]() プリリンギングを無くした特性 |
![]() 通常(一般的な)フィルター応答 |
といった感じです。なるほど、大まかにはPin4の選択により3種類の特性に変換できそうです。
@Pin4=L : 極力リンギングを減らした特性
APin4=OPEN : プリリンギングを無くした特性
BPin4=High : 通常(一般的な)フィルター応答
すこし動作モードを整理しておきましょう。192kHzのみ動作周波数を変更させる仕組みをいれれば良さそうです。
Pin4 (FSEL/DINR) の設定 | |||||
fs | 動作周波数 | Pin22設定 | L (GND) | Z (Open) | H (3.3V) |
44.1kHz 48kHz |
256fs | OPEN Midium rate |
![]() 極力リンギングを減らした特性 |
![]() プリリンギングを無くした特性 |
![]() 通常(一般的な)応答 |
96kHz | 256fs | ||||
192kHz | 128fs | High(3.3V) High rate |
作るならば・・・
コードネーム DAC8741-1.5
小型の基板に整流回路込み。DQAC1794-1.5、DAC1242-1.5と同じ構成。
wm8741はステレオ使い。
コードネーム DAC8741-2
メモリーバッファーと同じサイズの基板に本体のみ。
wm8741はモノ使い。出力アンプはディスクリ構成で、電源も独立供給可能で別基板。
ハイエンド狙い。
かな?
(つづく)