2001年読書雑録

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1月某日
「イスラームとアメリカ」山内昌之 中公文庫

気鋭の学者として骨太の考察を展開しつつも、文学的香りの高い文章を書く山内氏のイスラム論。中東本来のイスラムではなく、西洋とのかかわりをジャーナリスティックに押さえているのが興味深い。
「イスラム原理主義」がテロ一辺倒にイメージされるのはまずい、武闘派は「イスラム過激派」とすべきだ。原理主義派の一部は既に福祉・啓蒙・議会の分野から権力に浸透している…という指摘や、ブラック・モスレムの歴史、スーフィズムの米国対抗文化、トクヴィルを例にした西洋知識人の偏見などどれも興味深い。
当たり前だが、アメリカにも「アラブ系」がいるのだ。(ブッシュ政権にも入る)アメリカ政治の舞台にイスラムが入るのも近い。
映画・「マーシャル・ウォー」もこの本を見るとさらに面白くなるだろう。


1月某日
「本日も夢見ごこち」「猫待ち月夜」「陰陽師」夢枕獏

最近、勝手に夢枕ウィークである。この人は格闘小説と雑誌エッセイしか読んでいないので、あらためてまとまったエッセイを見るとまた印象が変わる。
しかし、いい人だねえ。
実は怒っていたはず、怒っていいところを「悲しくなった」みたいな表現をしているとこもその表れだろう。彼がもっとえぐければ立場上格闘界では「平成の梶原一騎」になれるのだが、まあ性格的に無理だろうな(笑)。

差別用語、オウム論なんかは、この人の真摯さがよくでていて面白い。
宗教の狂気に心引かれながらも、「彼らは『正義』か『悪』か以前に、無差別殺人をする以上僕の『敵』なのだ」と結論付けるところは、福田恆存の「常識に還れ」という言葉を彷彿とさせる。

「陰陽師」は、ホームズ・ワトソンのある意味使い古された関係が料理のしかたによっては幾らでも魅力的な物語を作れる、ということがあらためて分かった。
オカルトの論理構成は、もっと緻密だと聞いていたが今は断片しか出ていないのか?

1月某日
「三国志 きらめく群像」高島俊男(ちくま文庫)

高島氏が中国という専門ジャンルを離れ、「本が好き、悪口いうのはもっと好き」で鮮烈なデビュー(?)を飾ったときの衝撃は忘れられない。そこから逆にたどって、氏の中国専門書をむさぼり読んだものだ。
その彼が、『私の書いた中で一番面白い』というのがこれだから品質は保証付き。
三国志マニアには周知の事実も多いのだろうが、それを普通の人の日常感覚に置きかえるバッファーが上手いんだよね。
曹操の息子が、妻を友人達との宴会に呼んだというエピソードを、例えば男女同権的文脈でとらえてしまう人もいるが、「これは今で言えば、自分の女房を裸で人前に出すに等しい」と分かりやすく彼の横紙やぶりを解説し、そこから、「いわば芸術家肌」というふうに彼の個性を分かりやすく書く。そこが高島氏の妙手だ。

一番興味深いのは、中国の「史書」とはすなわちなんであるかという解説。
基本的には膨大な資料から、編者が抜き出し、付き合わせ、まとめるのが歴史なのだという。
そしてその史観の縛りや、「会話は史書を書くものが自由に創作していい、が不文律だった」など、実はこのへんがプロレスに通じているなあ、と格闘HPらしく結ぶ(笑)。

1月某日
「敗者学のすすめ」山口昌男

山口昌男が最近のテーマとしているのが、明治―昭和の在野の知のネットワークだ。
アカデミズムとは一線を画し、「学問」とは呼べないようなコレクター、奇人、偏屈マニアがネットワークを自然に造り、そこで後世に残るようなものを生み出す。
その過程の解読である。
これは、彼の古本道楽を兼ねた(笑)研究成果があってこそ出きるのだろう。
山口氏は、それを薩長政府―東大閥のような権力構造のオルタナティブとして読んでいるが、浅羽通明の影響が強い私はむしろ、どうやっても出てきてしまう「おたく」的情熱、ムーブメントの一環として読んだ。
山口敗者学は、坪内祐三、ヨコジュン、浅羽、唐沢俊一、中野翠―などのネットワーク(?)のひとつとして読むとさらに面白い。
ただ、最初のほうは講演の再録ということもあり読みやすいが、後半は無名人の日記などがネタでありやや退屈。

ところで身近なところで、「アミューザ系」と呼ばれる格闘技サイトのネッターたちがつくっている人脈、ネットワークも、例えば専門マスコミの一部をある種凌駕していきつつある。
実はその渦中にいるものは、案外分からないのかもしれないなあ(笑)

1月某日
「と学会年鑑2000」と学会

オカルトを中心に、作者はマジだがはたから見ると笑える本を紹介する「と学会」も、だいぶ名を知られるようになってきた。最初に連載した「宝島30」を覚えている人はもう少ないだろうな……。
付き合いの長い私にとっては、これは四天王時代の全日やみちプロのようなもので、どんな技が出てどんな試合になるかはおおよそ読めても、それ自体を十分満喫できる安定感がある。
今回は、ある宗教文書を紹介し、「これは非売品ですが、東大学長や皇族に無料で送付しているそうなので、頑張って東大学長になれば読めます」というくだりに爆笑。

今回やや話題になっているのは、巻末座談会で山本弘代表が「ゴーマニズム戦争論」を『トンデモ』だと(「買ってはいけない」と並べて)断定していることだ。
ある意味と学会は、イデオロギー中立性(面白主義)に立脚していたのだが、ひとつの言論機関、立場としての意味を問われる以上、これは必然的なことかもしれない。
(実際私も、幾つかの同書の事実誤認については聞いている)
ただ、今回は余談のような形で本の中では論証不足のためやや唐突で、支持者からの怒りもやむを得まい。
このリアクションは予測できたのだろうから、項を改めてどこがどうおかしいのかをきちっと山本氏は書く必要があるだろう。ただ、そうするとお笑い本としての「トンデモ本」シリーズにはなり得ないわけでココがジレンマなわけだが。

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