芸能界屈指のプロレス者・大槻ケンヂが、ある団体のトップと会談した。
その名も「身障者プロレス団体・ドッグレッグス」。
黒柳徹子なら、「ハンディに負けず元気に頑張るみなさん」といったところでまとめるのだろうが、さすが大槻、話は「寝たきりレスラーは可能か?」「あの障害者レスラーが挑戦表明した男は…」などヘンな方向へ(笑)。

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もちろん北島氏の「無敵の』ハンディキャップ」「ラブ&フリーク」も必読である




大槻  障害者プロレス団体「ドッグレッグス」は、今年、旗揚げから十年を迎えるそうですね。僕は今年のニ月に見にいったのが最初なんですけど、新宿の「シアター・モリエール」という喫茶店みたいな名前の(笑)劇場の、わざわざ最前列の席を取っていただいて----。その節はありがとうございました。

北島  僕たちのなかでは、スタートの頃から大槻さんはずっと「見にきてほしいリスト」の上位に入っていたんです。
僕は以前、毎日中学生新聞の記者もしていたんですけど、仕事と称して観戦にきてほしい人を片っ端からインタビューしてまわって、ついでに興行に誘うという作戦を採っていたんですよ。それをきっかけに来てくださって、いまやドッグレッグスのリングドクターにまでなってしまったのが香山リカさんなんです。・


大衝  みうちじゅんきんや小林よしのりさんもいらしたことがありますよね。

北島  はい。ずいぶん初期の、小脇に「ガロ」なんか抱えた人が多かった頃ですね。

大槻  よりにもよって「ガロ」(笑)。それはなんともいえないなあ(笑)。しかし、小林さんなんかは、わりと真面目に障害者の社会性みたいな視点からご覧になっていた印象があるんですけど、僕は社会的な問題意識はまあいいや、と思いながら、あえて単なる1プロレスファンとして見に行って、プロレスのー形態と考えても非常に面白いと感じたんですよ。

北島  たしかに、活動を始めた頃と最近では、会場の雰囲気もやってる僕らの意識もずいぶん違いますね。僕がドッグレッグスの歴史を書いた第一作『無敵のハンディキャップ』は障害者プロレスの社会運動的な側面をやや強調して書いているんですね。要するに、障害者であることで仕事もない、彼女もできない、何も手に入らない。だから、そこで自分たちの肉体をさらして殴り合いを見せることによって、障害者がここにいるんだ、お前たちは障害者を差別しているんだと気付かせるために、取りつかれたように活動していたのが最初のニ、三年なんですよ。

大槻  その頃はほんとうにどろどろと欝屈したものがあったんでしょうね。

北島 ただ、そういうマイナスのエネルギーだけだと、活動も行き詰まるんですね。そのうち、選手の方にも怠慢ファイトが目についてきて、試合もマンネリになってきたんですよ。

大槻  そうすると、喰らわしたりするんですか、プロレス的にいうと(笑)。「ショッパイ試合しやがって」とか(笑)。

北島  ……まあ、そういうことも(笑)。だから、何度もやめようかと思ったんですが、そんなときに「愛人 ラ・マン」とか「洋子ちゃん」としてリングに上がっている大賀宏二さんという重度の脳性麻痺の人が、いまのミラクルヘビー級にあたるクラスに仲間を引き連れてきたんですよ。

大槻  「立って試合を行う選手をヘビー級、ヒザ立ちで試合を行う選手をスーパーヘビー級、ほとんど寝た状態で試合を行う選手をミラクルヘビー級」という、ものすごい階級分けがあるんですね(笑)。

北島  彼らはリングに上がってもほとんど寝たきりですからね。いままで通り、剥き出しで見せてもいいんですが、すこしショーアップしていこうという発想が入ってきて、ドッグレッグスも変わっていったんです。

大槻  重度障害の人が入ってくることによって、エンターテインメント性が増したんですね。面白いなあ。WWFのマクマホンJrに聞かせたいなあ(笑)。

北島  だから今度出した『ラブ&フリーク』という本に書かれている時期というのは、どろどろした感情はもう昇華されていて、いやがらせをするだけじゃダメだから、見られているからには楽しませようという方向にエネルギーが向かっている頃なんですね。

大槻 でも、この間のシアター・モリエールにしても、オープニングで障害者たちが1列に並んでどーんと出てきたとき、僕は1プロレスファンとして見にいったつもりだったんですが、社会的なものとして考えなくちゃいけないとも思わせるくらいのインパクトはありましたね。

北島  楽しんでもらいたいけれども、やはりお客さんに「揺れて」見てほしいという気持ちはあるんですよ。心に何ともいえないざわめきを感じてもらいたいんです。

大槻  これをどうやって見ればいいのかなあ、とは思いましたね。たとえば大賀さんが女装して「洋子ちゃん」として出てきても、笑っていいのか、引くべきなのか、僕のなかではよくわからないんですよ。

北島  ところが、彼らのほうは、障害者問題について、それほど深く考えてるわけでもないんですよ。「障害者と健常者の間にある壁を取り払いたいんですね」とか言ったりする奴もいるんだけど、よくよく聞いてみるとたいしたことはなくて、むしろ単純に自分が目立ちたいとか強くなりたいという欲求が強いんです。

大槻  みんなバチバチのバーリトゥードファイトみたいな闘いを繰り広げていて、試合はすごい迫力ですよね。「これ以上障害が重くなったらどうする気なんだ!」って、リングサイドにいる実況の人が言ってましたけど、そういうことはないんですか。

北島  サンボ慎太郎という比較的軽い脳性麻痺のレスラーがいまして、彼と僕の「障害者対健常者異者格闘技戦」が、ドッグレッグスの看板カードのひとつなんですが、慎太郎がこの間、頭をきれいにまるめて坊主にしてきたんですよ。そうしたら頭が変形しちゃってデコボコになってるんです(笑)。
ちょっとぞっとしましたけどね。

大槻  その上、次回からはオープンフィンガーグローヴ着用で、顔面パンチも導入するんですよね。すごいなあ。

北島  もともと格闘技色の強い団体を目指していましたから。
でも、お笑いあり、シビアな闘いがあり、ちょっと観客を引かせちゃうのもあり、と1回の興行でいろいろ見せたいとは思っていますね。お客さんは多少混乱するのかもしれませんけど。

大槻  そのお笑いの部分でいうと、障害者の人たち、やたらに脱ぐでしょう(笑)。僕は肛門期的なギャグだなあと思ったんですけど、いわゆる体育会的な「脱いじゃえば受けるだろう」というのとは、似てるんだけど微妙に違いますよね。

北島  たしかに彼らは、裸になることにほとんど抵抗はないみたいですね。

大槻  自分たちの体を見せつけてやろうという気持ちもぎっとあるんでしょうね。それが自己存在の証明になっているのかなあ、なんて考えながら見てました。

北島  町に出ると、良かれ悪しかれ彼らはじろじろ見られる対象なんですよね。そこで発想を逆転させると「だったら見せてやる」となるんでしょう。

大概  笑わせるのはいいけど、笑われるのはイヤだ、というのは人間誰しもが持っている感情でしょうけど、そのあたりは非常に難しい問題ですね。それから、プロレスをやることによって、彼らはハレの感覚がクセになってるんじゃないかと思うんですけど、どうですか。

北島  いまやああいう舞台がないと困ると思っている人もいますね。だからやめづらくなったという面もあるんですが。
結成時からのメンバーで、欲獣マグナム浪貝というレスラーがいたんです。障害者パンクバンド「つめ隊」のボーカルを務めたりして、テレビ出演の話もいくつかあったんで、そうやってちょっとちやほやされると、日常の生活が乱れに乱れてしまって…(笑)。

大槻  なんてわかりやすいんだろう(笑)。

北島  渋谷でタクシーを蹴っ飛ばしたり、飲み屋で暴れて物を壊したり、いっぱい借金をこしらえたり、すっかり生活が破綻してしまったんですよ。諸々の理由があって、いまはドッグレッグスのリングにも上がっていないのですが。

大槻  バンドやってる連中にしても、カネはないし女にはもてないしのダッセー生活してたのが、いきなり人気出ると、たいがいダメですね。ほんとに飲む打つ買うになってどんどん落ちぶれていくんですよ。ドッグレッグスもブレイク寸前みたいな感じですけど、そんな心配を僕はしてるんですが。

北島  ありがとうございます(笑)。

プロレス者たちの肖像

大槻  この『ラブ&フリーク』には、さっき話に出た浪貝と精神のバランスを崩した人妻との恋物語とか、すぐ映画になりそうなエピソードが満載なんですけど、菓子パンマン選手の話も最高ですね。なにしろリングに登場するときの紹介のされ方がすごい。「親なし、家なし、知能なし! 菓子パンMAN」って、そんなレスラー普通いないでしょう(笑)。

北島  彼は知能検査をしたところ、IQが81だったんですよ。80なら晴れて知的障害者と認定されて、さまざまな保護を受けられるし、住むところも確保できるんですが、1ポイント上回ってしまったばっかりに十五歳にして社会の荒波に投げ出されるんです。

大槻  1ぐらい、おまけしてくれないんですかね(笑)。しかも彼は孤児なんですよね。

北島  いま、若い人は孤児(みなしご)って言葉自体知らないみたいですね。

大槻  僕も実物は見たことないなあ……。あっっ、演劇やってる知り合いにー人いるか(笑)。これだけキャラが立ってるレスラーがたくさんいると、他団体から交流戦の誘いもあるんじゃないですか。

北島  全日本女子プロレスが倒産して、活躍する舞台が少なくなってしまった小人レスラーの方には、逆に1度参戦してもらいました。「つのかけとめぞう」さんとか。

大槻  この本にも出てきますね。角掛留造さんとりトル・フランキーさん

北島  試合に出てくれないかと交渉しにいったら、はじめは難しい顔をして考え込んでいるんですよ。アマチュアのリングに上がることが気にいらないのかと思って、われわれの理念を一生懸命説明したんですけど、そういうわけじゃなかったんですね。「障害者がプロレスやってるのは、かわいそうで見てられない泣けちゃって、試合なんかできない」と、真っ赤な顔して涙浮かべて言うんですよ。

大槻  それも実にいい話だなあ。

北畠  結局は納得して出場してくれたんですが、お客さんからはたいへんに好評でしたね。

大槻  ほかのメジャーどころからはオファーはなかったんですか。たとえば新日本プロレスとか(笑)。

北島  昔はいろいろありましたけど、僕らも頑なだったから全部断っていたんですね。オフレコですけど、実は**さんのところから打診があったんですよ。

大槻  えーっ! でも**さんに登場されても、どうしたもんか困っちゃいますね(笑)。「涙のカリスマ」大仁田(厚)さんなんかとはテイストが似てるといえば似てますけど。

北島  天顔大介監督に、ドッグレッグスの活動を題材にした「無敵のハンディキャップ」というドキュメント映画があるんです。そこに大仁田さんが出演してましてね、僕らの試合を見てコメントをするんですけど、「こいつらも邪道、おれたちも邪道。だけど邪道で何が悪いんじゃ!」って、思い切り力技で自分の土俵に引き込んでいくんですね(笑)。

大槻  あの人は障害者だろうとなんだろうと、絶対食いにいきますよ(笑)。僕も初対面の時、後楽園ホールの控室で「大槻さんッ、あんたも『高木ブー』とか唄って馬鹿にされてんでしょうッ。俺たちも馬鹿にされてんですよッ。馬鹿にされてる者同士、邪道じゃないですかッ。われわれは一つですよッ」とか言われて(笑)。初めて会ったのにいきなり勝手に同じカテゴリーに入れられて、あれには参ったなあ。
他の団体との交流は別としても、僕は障害者プロレスの一ファンとして、みんなに絶対見てほしいという気持ちがあるんですよ。初めて見た人がどんな反応をするのか、すごく興味がある。でも、そのうちドッグレッグスがメジャーになったら、テレビって怖いから、障害者プロレスでさえ取り込んでしまうのかなあ、と思うんですけど、どうお考えですか。

北島  そういうふうに障害者が一般的なマスメディアにごく普通に受け入れられるようになったら、われわれの役割は終わったということでしょうね。そんな日が来ればの話ですが。

「乙武君に果たし状を!]

大槻  表舞台に出ていく障害者ということでいえば、『五体不満足』の乙武洋匡君について、ドッグレッグスのレスラーたちの反応はどうですか。

北島  先日、「ホットドッグ・プレス」の、大槻さんとの対談に呼んでいただいたウルフファングは、「試合したい」なんて言ってましたね。

大槻  それ、それ! その発想こそプロレスですよ(笑)。
無茶苦茶見たいな、そのカードは。後楽園ホールどころか、横浜文化体育館くらいの容れ物、いけますよ。昔、アントニオ猪木を挑発した鎖鎌の人みたいに、果たし状だけでも叩きつけにいったらどうですか(笑)。NBAのデニス・ロッドマンのように、最初はセコンドに付くという参戦の仕方もあるし、なんとかならないですかね。この対談を読んだ「東スポ」の人が1面で書いてくれないかなあ(笑)。

北島  けっこうスポーツを見るのもやるのも好きみたいだから、一度見てもらって血が騒いでくれればいいですね。

大槻  乙武君も爽やかな感じだけど、ドッグレッグスでもウルフファング選手はとても可愛いらしいキャラクターだし、つるぞの志こと鶴園誠選手もカッコイイですよね。

北島  鶴園は左足がないんですが、上半身の筋肉は発達しているし、顔だちも端整で、女性ファンにはとても人気がありますね。

大槻  その片足を切断するに至るストーリーもすごい。たしか浮浪者同然の生活をしていたら・・=・・

北島  不潔な環境にいるうちに、足に雑菌が入って壊死してしまったというんですが、でも彼自身には悲壮感は全然ないんですよ。ほんとの根っこの部分はわからないけど、コンプレックスもないみたいで、そういう意味では乙武君に近いのかもしれません。

大槻 ストリートから這い上がってくるというと、なんだか梶原一騎の『プロレススーパースター列伝』みたいですね。
北島さんからドッグレッグスの話をいろいろ聞いていて、これだけ心に残るのは、きっと自分が感動しているからだと思っていたんですけど、そうじゃないことがわかってきました。梶原一騎の世界が韓実に起きていることに僕はドキドキしているんですね。

北島  普通の人が障害者とプロレスという組み合わせを聞くと違和感を覚えるんだと思いますけど、くっつけてみるととても相性がよかったんですよ。もともとプロレスには、肉体にしても、生まれ育ちというか、そのパックボーンにしてもある種の異形性とか奇矯さを競うような部分があるじゃないですか。芝居や歌では、障害者がどれだけ健常者に近づけるかという価値基準しかありえないけれど、プロレスの場合は、逆に「障害者だからすごい」という自己表現につながっていくんですよ。たまたまボランティア・グループの仲間たちがみんなプロレス好きだから始めただけなんですが、彼らの個性を生かすのにこんなにいいジャンルはないと思いますね。

大槻  「障害に負けずに頑張って!」というのも感動的なんだけど、結局「いい話」で終わっちゃうんですよね。そこにプロレスというバイアスを加えると、すごくドラマが生きてくるんだなあ。ドッグレッグスに所属する各レスラーのライフ・ストーリーをあの絵で、ぜひ読みたいですよ。語り手役で出てくる猪木の顔を、北島さんの顔にして…(笑)。

次回の興行は7月15日でしたっけ?

北島 北沢タウンホールで午後六時試合開始です。

大槻 スケジュールの関係で、観戦に行けるかどうかわかりませんが、差し入れはしますよ。悲願の後楽図ホール進出を目指して頑張ってください。そして、その次は海外進出ですね。人間の考えることなんてそれほど違わないんだから、どこかで似たようなことやってる国は絶対ある。ブラジルあたりに世界最強の障害者がいるんですよ、きっと探し出してぜひ対決して下さい(笑)。

『ラブ&フリーク --ハンディキャップに心惹かれて』
(北島行徳著・発売中)



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