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気胸でお困りの方へ

 気胸の病態と治療について概説し、現在本邦で普及しつつある胸腔鏡手術についての説明。さらに、一カ所の皮膚切開(18ミリ)のみで気胸の治療が可能な胸腔鏡手術を紹介。この方法により、気胸の初回発作のケースでも病変の切除が可能となり、低侵襲(日帰り)であるとともに美容面においても優れている。

気胸とは?
  (肺内ではなく)胸腔内に(普通は存在しない)空気が流入し、そのため肺が虚脱した状態を気胸という。臨床においては、次の如く4通りに分類される。
1. 自然気胸
2. 続発性気胸
3. 外傷性気胸
4. 医原性気胸
このほか、中年女性に見られる月経随伴性気胸や診断・治療のにおいて胸腔内に空気を注入する人工気胸などがあります。
 これらの気胸のなかで圧倒的に頻度が高いのは、自然気胸であり、全体の90%以上を占めます。
 自然気胸の成因・病態・症状・診断・治療について概略し総評を加えます。

[ 成因 ]
 成因は肺尖部分(肺の上葉のなかで頭側に位置する部分:図1で赤の部分)・上区域(肺の下葉のなかで頭側に位置する部分:図1で紫の部分)(図1)の胸膜下に生じた気腫性嚢胞(一般にブラ・ブレブ/bulla,blebと称される)(図2・3)が破裂し肺内の空気が胸腔に流入して生じる。ブラ・ブレブの発生については先天性・後天性のものがあると考えられており、高齢者あるいは喫煙者における続発性気胸との鑑別が困難になる場合も存在する。

[ 病態 ]
 10歳後半から20歳台の男性に好発する。やせ型、長身、胸郭の薄い体型の人に多い傾向がある。高齢者の場合には肺気腫などの嚢胞性肺疾患の合併患者に多い。成因で述べたブラやブレブの内圧が、咳や体動時に高まった時にそれらが破綻して生じる。航空機内や高地など気圧の低い場所や、スクーバ・ダイビングの浮上時などで外気圧との差が大きくなった場合にも発症しやすくなる。また、店頭販売中・吹奏楽器などの演奏中、あるいはカラオケでの絶唱中の発症もある。

[ 症状 ]
 初発症状は、突発性の胸痛及び咳が最も多い。多くは一過性である。胸痛は、軽微な場合から患側肩や背部に放散する痛みまで様々であり、咳も気道分泌物を伴わない乾性咳嗽(空咳のこと)である。この胸痛と乾性咳嗽は、気胸発症時の胸膜表面張力の変化が胸膜表面の迷走神経末端を刺激するためと考えられている。また、気胸により肺の虚脱(肺が小さくなること)が進行すると、呼吸困難が出現する。とくに、ブラ・ブレブの破裂部分が一方弁化(one way valve)し、胸腔内の空気圧が高まると著しい呼吸困難が生じることがある。これは、緊張性気胸と称し救急処置が必要である。この状態が悪化すると、肺の虚脱による呼吸不全とともに胸腔内圧の上昇により左心房への血液環流を減少させることによる左心不全・肺水腫で死亡する危険がある。

[ 診断 ]
 上記症状が見られた場合、まず気胸を疑い胸部レントゲン写真を撮影し診断を行う。通常、胸郭の打診にて患側の鼓音(左右差)及び聴診上患側の呼吸音の減弱(左右差)があれば、ほぼ気胸の診断は間違いない(図4・5)。胸部レントゲン写真深吸気時と深呼気時に撮影することで縦隔の偏位や肺虚脱の程度がさらに明らかとなる。さらに、胸部CTによりブラないしブレブの検索を行う。thin sliceCTと呼ばれる撮影間隔の小さい断層写真により肺尖部・上区域を中心にブラ・ブレブを検査する(図6)。

[ 治療 ]
自然気胸の治療には、保存的治療と手術療法がある。

保存的治療
1. 安静 
 安静のみによる治療は再発率が高く、今日採用されるべき方法ではない。とくに外来通院にて気胸を経過観察することには危険を伴う。これは、発症時には軽微な気胸では、受診時すでに症状が消失している場合であっても、帰宅後急激に病態が進行することがある。気胸が悪化した場合には、発声が困難になり救急隊への連絡さえ不可能になる。入院後の安静経過観察中においても、呼吸困難を感じてから暫く我慢していた患者がナースコールしたあと、十分に声を出せなくなっていたという報告があった。
2. 穿刺脱気(胸腔ドレナージ)
 胸腔にドレナージチューブ(外径5から10mmの専用ビニール・チューブ)を刺入し、胸腔内の空気を体外に排出する。この場合、胸腔内圧を大気圧より5から10cmH
2Oだけ低い状態で持続的な陰圧吸引をかけ脱気する。気胸発症から時間が経過し、長期に肺虚脱が続いていた場合には胸腔ドレナージにより、急激に肺が再膨張するとかえって、呼吸困難が発症することがある。(re-expansion lung edema)
 これは、長期の肺虚脱の影響で肺胞の表面活性物質(サーファクタント)の減少等が起こり、肺の再膨張時に酸素の取り込みに障害があるにも関わらず血液循環だけが再開され、酸素化されない血液が大量に全身循環に入ることが原因である。
 穿刺脱気による治療成績は、手術療法に比し明らかに再発率が高い。約70%の患者に再発がみられたとの報告から50%という報告まで、施設により差はあるものの、手術療法と比して明らかに成績は不良である。再発率を軽減させる目的で盲目的に胸膜癒着剤の注入を行う施設があるが、この方法は高齢者の気胸などに限定されるべきであり、長期の成績では発ガンの危険性やあるいは将来、他疾患のため開胸手術が必要になった場合に不利となるため、安易に行うべき治療ではない。レントゲンやCT検査でブラ・ブレブ等の所見があり、喫煙歴(+)の2項目が当てはまる人は、気胸の保存的治療では再発率はかなり高いと考えるべきである。そして、現在の医療レベルではどの患者に再発が生じるかを予測することは不可能であり、穿刺脱気による治療では、気胸再発に十分留意しなければならない。

手術療法
1. 開胸手術
 胸腔鏡手術が普及するまでは、胸部を約7cmから25cmの皮膚切開を加え、ブラ・ブレブの縫縮や切除がなされていた。適応としては、気胸再発例、両側気胸例、広範囲あるいは多数の病変を有する症例、胸腔内に癒着が見られる症例、血気胸(気胸と同時に胸腔内に出血が生じる疾患)などであったが、胸腔鏡手術が行われるようになり適応も変化してきている。即ち、気胸の場合にはまず胸腔鏡手術が考慮され、その実施が困難と思われる場合に開胸手術が適応となる。従って、一般的には後者の二つの適応に限られるようになった。
2. 胸腔鏡手術
 1990年以降、胸腔鏡手術が開胸手術より手術侵襲(ストレス)、術後の疼痛及び手術瘢痕の審美的問題が少ないため、本邦でも普及するようになった。胸腔鏡手術は、欧米と同様に本邦においても気胸が最初に適応疾患とされ施行されるようになり、胸腔鏡手術はのなかで最も多く施行されている。適応については、ブラ・ブレブの病変が明らかである場合、再発例、両側発症例などである。手技については、胸腔内操作については開胸手術とほぼ同じであるが、胸腔鏡手術ではレーザーによる病変の焼灼あるいはルーピングとよばれる糸による病変の結紮など、開胸手術ではあまり行われない処置を実施する施設は存在する。しかし、胸腔内操作は開胸手術と同様病変の切除を中心に行うことが有効と考えられている。

 胸腔鏡手術が普及するに至った最大の利点(低手術侵襲、術後疼痛の低減及び審美的問題)に関しては、皮膚切開の部位や数・大きさなどは実施施設ならびに術者の知識・経験・方針の差により様々な形が存在する。そもそも胸腔鏡手術は皮膚切開の大きさが小さくその数も少ない程望ましい。また手術瘢痕についてもケロイドや肥厚性瘢痕の発症のリスクもあるため手術瘢痕は、衣服(下着・水着を含む)で隠れる部位であることが審美的にも好ましいのは当然である。様々な方法で発展してきた胸腔鏡手術の中で最も胸腔鏡手術の特長を有し、理想的な方法を紹介する。



 従来、欧米から導入された胸腔鏡手術は 上の図7に示す如く病変部位を野球の2塁に見据えた状態で左右両手に持った内視鏡用の鉗子を操作することで手術を行っていた。このため、皮膚切開は左右両手のために2個とカメラ用に1個の3箇所必要であり、その操作性の確保から各皮膚切開の位置はある程度距離が必要であった。通常、気胸は肺尖部に病変があるため上の図7に示す如く胸部に皮膚切開が必要となるため、これらの手術瘢痕を衣服では隠すことは不可能である。さらに、カメラを下位の肋間から挿入し頭側に向けて操作するため肋間に存在する神経(肋間神経)や血管を圧迫・損傷するリスクがある。


 以上の問題点を克服した胸腔鏡手術法は、これまで使用されていた真っ直ぐな硬性鏡を用いず、柔らかい軟性鏡とそれを支持するスコープガイドを組み合わせて行う方法である。これにより、皮膚切開の数は1箇所となり、その位置は自由に設定可能となった。胸壁で軟性鏡を曲げることにより肋間に存在する神経(肋間神経)や血管を圧迫・損傷するリスクを減少させることが実現でき、様々な位置からの皮膚切開であっても術後の創部痛が軽減できる(上の図8)。皮膚切開の大きさは胸腔内の観察のみであれば10mmで可能であり胸腔内のすべてを観察できる(下の図9)。

さらに、患者さんの希望する部位からの手術も可能であり、また胸腔ドレナージが施行されている場合にはその切開からブラ・ブレブの切除を内視鏡用の自動縫合器を用いて行うことが可能となった(下の図10)。

さらに、肺の切除を行うためには15から18mmで可能である。胸腔ドレナージが施行されている場合、通常15mmの皮膚切開が行われているため本術式では改めて皮膚切開を加える必要が無い。この方法は、前述の胸腔鏡手術の特長を有しているとともに、手術術式に伴う固有の皮膚切開の位置という従来の手術の基本の考えかたも必要でなくなっている。
 この軟性鏡を用いた方法は、気胸のみならず肺腫瘍(良性及び転移性肺腫瘍)に適応可能であり、肺の様々な部位での腫瘍切除が可能であった。

[ 総評 ]
 気胸の診断については、本邦の如くほとんどの医院や病院などの医療施設でレントゲン写真が撮影できるためほとんど問題はない。しかし、レジャーなどで人里離れた山岳地帯、離島、ダイビング・リゾートや航空機内など、迅速な医師の治療が受けられないこともある。また、海外では医療施設の設備内容も本邦を比べると充実していないのが現状で、言葉の問題もあり気胸発症時には不安が伴う。気胸は何の前兆もなく発症する。日々の生活に注意を払う必要があり、またこのことは非常に大変でもある。

 気胸の発作があった場合でも、軽微な時は安静のみで経過観察が可能であるが、胸腔ドレナージが必要となるほどの気胸では、現在当科の胸腔鏡の技術であれば、そのドレナージの創部からブラ・ブレブの切除が可能であり、またブレブ鉗子を用いることも可能であるため、根治的な治療ができる。ブレブ鉗子を用いた気胸手術は本年に行われた気胸学会でも報告されたように、平均20カ月の観察期間で再発率は,1.8%あり、約半数が再発するドレナージ単独の治療にくらべ、有意に再発率を低減できうる。

 したがって、ドレナージを受けたあと再発を心配している方は、このホームページで手術の意義について理解を深めていただければ幸いです。当科ではすべての気胸の患者さんに手術が必要と考えてはおりませんが、一旦ドレナージがなされた患者さんにはその方のライフスタイルを考慮し手術治療を行っています。

 軟性鏡を用いた胸腔鏡手術では、、初回の発症時にでも胸腔鏡手術を受けることには大きな意味がある。明らかな病変がある場合でも初回発作時には経過観察をするという方針をとっている施設も多くあるが、そもそもにそれらの施設とは胸腔鏡の手術侵襲も違うため異なる手術適応となるのも当然と言えなくも無い。現在多くの施設が2あるいは3個の皮膚切開を加える手術を行っているが、それらの手術とは大きく手術侵襲と成績が異なるので、当科では手術適応として、過去に気胸でドレナージを受けた方には手術の要請に応えている。なぜなら、初回発症時ではなく気胸再発時には緊張性気胸などの危険性の他に、以前のドレナージ部分で肺の癒着が生じていたり胸腔内に他の癒着ができていたりするため、前回の創部からは、胸腔ドレナージ用のビニールチューブが挿入できず、ただドレナージのためだけの皮膚切開を新たに追加しなければならないからである。

 現在、気胸の治療は様々な方針・方法で行われている。古典的とも言える開胸手術のみを行っている施設も市中には存在し、また低侵襲な手術方法に転換途中にある施設も多く見受けられる。また、胸腔鏡手術を行っている施設においても、術者の経験、知識、態度により実際の手術内容には大きなレベルの差がみられる。最近の胸腔鏡に関連する学術集会をみても、施設間の技術力の差は明らかである。そもそも開胸手術からより低侵襲な治療形態に進化してきているにもかかわらず、学会においてさえ、『多数の皮膚切開を加え手術することにためらいを全く感じない。』といった発言を行う医師もいるのが現状である。こういう発言を行う術者やその施設は、それ以上の技術・知識を持たない事に加え胸腔鏡手術への取り組み態度に問題があると言わざるを得ない。外科医は患者の治療において当然、人を切るわけであるが、手術において最も手術侵襲が少なく、その患者の身になって皮膚切開の位置・大きさを含め処置内容を最善に行うべきであり、低レベルの技量による手術を患者さんに薦めるべきではない。本稿を読む方々には、医師及び患者が含まれていると思われる。特に、外科医は前述の内容をよくふまえ、改めて文献を検討する必要がある。また、患者さんは、治療を受ける施設により治療の内容が大きく異なることに注意しなければならない。どの病院でも同じ治療を受ける事ができると考えることは、胸腔鏡手術においては通用しないと思われる。同じ胸腔鏡治療といっても、皮膚切開の数や大きさについて自ら医師に問いかけ、知識や経験・技量の程度を見抜くことが重要である。医師の立場では気胸の再発がなければ手術は成功とされるが、通常皮膚切開の部分に生じる醜状瘢痕やケロイド・肥厚性瘢痕などは考慮にされていない。しかしながら、皮膚を切ることによって生じるこれらの合併症がひとたび生じると、有効な治療法がないため年余にわたり治療に難渋する。その肉体的な苦痛はもとより精神的にも大きなストレスとなることは言うまでもない。さらに、手術創が大きけれが大きいほど、周囲からは大病を煩ったかの誤解を受けることも否めない。即ち、皮膚は切らないに越したことはなく、手術を受ける際には患者は、治療医師にこの点を十分に質問しておく事が肝要である。(現在、日本では手術の技量に関係なく保険点数が決められており、レベルの上下にかかわらず手術は同じ費用である。逆に表現すれば、よく調べた上で、より高い手術レベルの病院で治療を受ける方が良いと思われる。)


[ 参考文献と資料 ]
1. 読売新聞1997年1月 16日(木曜)兵庫版朝刊
気胸手術跡目立たなくー自由に曲がる鏡を利用ー
2. 山本英博, 岡田昌義, 真庭謙昌, 高田昌彦、坂田康二、橘史朗、斉藤寛、河村宗典. 軟性鏡を用いた胸腔鏡下手術 [Video-assisted thoracic surgery using flexible scope] 外科治療(永井書店)、77巻、105-107、1997.
3. 山本英博, 岡田昌義. 1ヵ所の皮膚切開(18mm)による胸腔鏡下手術の開発. 医科器械学、67巻10月号、469-470、1997. 
4. Hidehiro Yamamoto, MD, Masayoshi Okada, MD, Masahiko Takada, MD, Hidehito Mastuoka MD, Kouji Sakata MD and Munenori Kawamura MD. Video-assisted thoracic surgery through a single skin incision. Arch Surg 1998;133:145-148.
5.山本英博, 岡田昌義, 真庭謙昌, 高田昌彦、松岡英仁、坂田康二、河村宗典、橘史朗、斉藤寛肺腫瘍に対する鏡視下手術の問題点と工夫. (ビデオシンポジウムVS-3-1、第59回日本臨床外科医学会総会)日本臨床外科医学会誌. 58、149、1997.

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