第二章 四翼の天使

1 潮薫る港町へ

『…ン…リー……アンジェリーク……』

不意に、誰かに呼ばれたような気がして振り返る。

「誰ですか?」

恐る恐る声に出したものの、何故かハッキリと、これは夢だと確信していた。

『貴女はついに目覚め、出会った。

運命の導き。

四翼の天使…アンジェリーク。

貴女は既に二枚の翼を手に入れた。

残る二つ……

一枚は東に……

一枚は西に……

彼の地にて出会いがあるだろう』

「出会い……? 運命……?」

不思議な声だった。

まるで知らない声だというのに、とてもよく知っている気がした。

暖かく包み込むような、親しさを感じる。

『翼をすべて手に入れたとき、運命はさらに進んでゆくだろう。

貴女の力……

貴女の光……

貴女はそれを知らなければならない』

「どういうことですか?」

『その答えもまた、出会いの先にある。

だがまずは、貴女の目覚めを嬉しく思う。

……永い永い時を、ずっと待ち侘びていた、アンジェリーク。

貴女の心、貴女の優しさ、

貴女の存在そのものに、心から礼を言う。

ありがとう、アンジェリーク』

「あっ! 待って!!」

声は遠ざかり、引き留めようとしたが無駄だった。

世界はやがて白い光に包まれ、消えてゆく。

目覚めの時が、そこまで来ているのだ。

 

「ふにゃあお」

目が覚めて一番に飛び込んできたのは、エルヴィンの顔だった。

「まあ、エルヴィンったら!」

エルヴィンはザラザラした舌でアンジェリークの頬を舐める。

「ふふっ。おはよう、エルヴィン」

「にゃん」

ゆっくりと体を起こし、

「ううーん!」

大きく背伸びをすると、エルヴィンを抱き上げながらさっきの夢を思い返した。

「不思議な夢を見たのよ、エルヴィン。

…上手く言えないけど、大切なことを言っていた気がするの」

「にゃあん?」

「あなたにそんなことを言っても、困らせてしまうわね。

さあ、着替えてサルーンに行きましょう。

今日からはオーブハンターとしてお仕事をするんだもの!」

ベッドから下りて部屋を見回す。

住み慣れた学寮ではなく、新しい自分の部屋。

そう言うと、くすぐったい気分になる。

自分に力があるのかどうなのか、未だ半信半疑で、

役に立てるかどうか不安もある。

それなのに、アンジェリークの部屋として割り振られたのはかなり広い部屋で、

そんな部屋を使ってもいいものか悩んでしまう。

「やれるだけやってみましょう、エルヴィン!

頑張るしかないんだものね」

アンジェリークが細い腕に力を入れると、

「にゃあお」

心配そうな声でエルヴィンが鳴いた。

 

「おや、おはようございます、アンジェリーク」

階段を下りると、ちょうどニクスが外から屋敷の中に入ってきた。

「おはようございます、ニクスさん」

アンジェリークが挨拶する間に、エルヴィンがササッと駆けていってしまう。

「あ、エルヴィン!!」

「……おやおや。どうやら私は、嫌われてしまったようですね」

「そ、そんなことは……」

「いえ、いいのですよ。猫は気まぐれですから、また戻ってくるでしょう。

それより、朝寝坊のレイン君は放っておいて、一緒に朝食などいかがですか?」

「? …レインは、どうしたんですか?」

「どうやら彼は早起きが苦手な夜更かしさんらしいですね。

夕べ、遅くまで何かなさっていたようですよ?」

「まあ」

「ですから、レイン君は寝かせておいてあげませんか?」

「そうですね。起こしちゃうのは悪いですもの。

いただきます」

「ええ。では、こちらへどうぞ」

ニクスにエスコートされ、アンジェリークは食堂に入った。

案内された席に着くと、使用人が朝食をワゴンに乗せて運んできた。

「あ、ありがとうございます」

思わず礼を言うと、使用人はにっこりと笑って下がっていった。

朝食は、かりかりのベーコンにスクランブルエッグとトースト。

レタスとトマトの簡単なサラダに、オニオンスープ。

「まあ、おいしそう。いただきます」

トーストを頬張りながら、ふと、食堂の壁に飾られた大きな肖像画が目についた。

アンジェリークはスープで口の中を湿らせると、

「ニクスさん、あの絵は……」

「ああ。先日注文しましたのが、今朝早く届きましてね。

早速飾ってみたのです」

「そうだったんですか」

だとすれば、ニクスは相当早起きしたことになる。

アンジェリークはそのことにも驚いていた。

「女王様の肖像ですね」

「ええ、そうです。

アンジェリークも訊いたことぐらいはあるでしょう、女王の伝説を」

「はい」

「アルカディアに危機が訪れたとき、女王は目覚める。

アルカディアに伝わる伝説です」

「学院の聖堂にも、女王様の肖像画が飾られていました」

「そうでしたね。私も拝見させて頂いたことがありますが、立派な作品でした。

学院長の目利きは確かなようです」

「ええ。学院長は、女王様は必ずおられると仰っていました。

いつか誕生されるその時まで、祈りを欠かすべきではないと……。

最近では、女王様を信じない人が増えてきて残念だとも言っていました」

アンジェリークが言うと、ニクスは眉間に皺を寄せ、

「その通りです、アンジェリーク」

と同意する。

「女王信仰は、アルカディアにおいて大切な意味があります。

信じないことは自由ですが、信じる者を侮辱するような声も聞きます。

それは感心しませんね」

そう言ってから、ふとアンジェリークに目を遣り、

「おっと、失礼。

話ばかりしていては、食べることもできませんね。

せっかくの朝食が冷めてしまわないうちに、食べてしまいましょう」

おどけて言い、それからは他愛のない話で盛り上がった。

だが、何となく、心に引っかかる。

ニクスが一瞬、ほんの一瞬だけ、

とても暗い目をしていたように見えたのだった。

 

「アンジェリーク!」

日も高く昇ったころ、庭を散策していたアンジェリークに声をかけたのはレインだった。

「レイン。今までずっと寝ていたの?」

「まあ、そういうこと。それより、今からファリアンに行ってみないか?」

「ファリアン?」

「にゃあん?」

アンジェリークの足下にエルヴィンが寄ってきて、レインを見上げている。

「ああ。さっきニクスと話していたんだが、向こうの方からも依頼が来ているらしい。

だけどよ、あいつ、海が苦手らしくて」

「え?」

「意外だよな。ニクスに苦手なモノがあるってのも。

それも海だって言うし。

どっちかっつうと、あいつ自身が水みたいな感じするのにな」

レインが笑う。

それほど深く考えて発言しているわけではないらしい。

「ニクスさんが水……?

そうね、とても優しい方だものね」

「イヤ、オレが言ってるのはそういう意味じゃなくて、

つかみ所がないって言うか、

掴んだと思っても指の間から抜けてくような感じがあるからで……

まあ、いいや、そんなことは」

レインが苦笑する。

「それで、どうするんだよ。行くのか、行かないのか」

「そんなこと言っても、ファリアンって言うのがどんなところなのかも、私、知らないわ」

「あー、そうか」

レインが後ろ頭を掻く。

「ファリアンってのは、アルカディアで一番大きな港町なんだ。

商業都市って呼ばれてるぐらい、人と物が集まってる」

「へえ、賑やかそうね」

「ああ! そりゃもう、すごいもんだぜ!

いつだって人がたくさんいて、リースなんかじゃ比較できないな」

「そうなの? 私には想像できないわ……」

「行ってみりゃわかるって!」

「そうね。一度行ってみたい!

でも、ニクスさんに聞いてからにしないと…」

「あー、それなら大丈夫。

さっき話したついでに、断ってきたから」

「そうなの? でも、準備ぐらいさせて」

「OK! 待ってるから、急げよ?」

「にゃあ!」

アンジェリークが急ぎ足で部屋に戻るのを、レインは上機嫌で見送っていた。

 

商都ファリアンへはリースから徒歩で約半日かかる。

日がだいぶ高くなってから陽だまり邸を出たアンジェリークらがファリアンへ着いた頃には、

太陽はすっかり沈みきって、町の街灯に火が灯されていた。

「もう夜だというのに、人がたくさんいるのね。何かあるのかしら?」

暗くなっても通りには人が溢れ、往来は賑やかだ。

町行く人が皆急ぎ足なのが気になるが、活気がある。

リースの穏やかな空気の中で生活してきたアンジェリークは、この空気にやや気圧されていた。

「いや。いつもこんなもんさ。

ファリアンっていうのは、夜だって賑やかなんだよ」

「そうなの? それじゃあ、皆さんはいつ寝るのかしら?」

「さあな。夜働くんだったら、寝るのは昼間だろ?」

アンジェリークはレインの答えを聞いても、イマイチ納得のいかない顔をしていた。

そうした生活をしたことのないアンジェリークには、にわかには受け入れがたい。

「まあ、その辺のことは後にしようぜ?

それより今日はどうする?

町を見るのは明日にするしかないが、どこか泊まるところ探さないと」

「…そうだったわね」

「ニクスから宿代もせしめてきたからな。

豪華にとはいかなくても、ちょっとした場所なら飯付きで泊まれそうだ」

「当てはあるの?」

「まあ、観光シーズンでもないからな。どっか空いてるだろ」

楽観視するレインを、アンジェリークは睨め付けた。

「本当に大丈夫なの?」

「ああ、ちょっとここで待っててくれ。

連絡してくるから」

「連絡?」

「ほら、あそこに公衆電話があるだろ。

あれで連絡してくるんだ」

「電話? 町の中に?」

「なるべくすぐ戻るから。じゃあな」

レインは急ぎ足で駆け出す。

「あ! 待って!」

引き留めようとしたものの、レインは振り向かずにいってしまった。

「もう、レインったら!」

見知らぬ町にぽつんと取り残され、少し心細くなったのか、

「エルヴィン」

足下の猫を抱こうとかがんだときだった。

ドン!!

何かにぶつかられ、

「きゃあっ!」

バランスを崩して転んでしまった。

「だ、大丈夫かい!?」

ぶつかった相手が心配そうに手を伸ばした。

「怪我はなかった? ゴメンね、僕のせいだ」

穏やかな口調だが、本当に心配しているのが分かる。

「いいえ、私は大丈夫ですから」

見知らぬ男性の手を借りるのもどうかと、その手を取ることを躊躇しながら言う。

「慌てていたとはいえ、痛い思いをさせてしまったね。

僕に何かできればいいのだけれど」

「いえ、本当に大丈夫ですから」

何となく、ぶつかられたアンジェリークの方が申し訳ない気持ちになってきた。

暗くてよく見えないが、かなり大きな体躯の若い男性のようだ。

「どうしたんだい?」

なかなか手を取ろうとしないアンジェリークに、男性は不思議そうな顔をする。

「だ、大丈夫です!」

慌てて一人で立ち上がる。

「それより、い、急いでいたんじゃないですか?」

「そうだった」

そう言いながら、少しも慌てず、

「でも、こうして出会ったのも何かの導きかも知れないね。

僕の名前はジェイド。

ふふっ、いい名前だろう?」

誇らしげにいう姿は、まるで子供のように無邪気で、

何となく気を許してしまいそうになる。

立ち上がるとジェイドの背の高さは予想より高く、

子供っぽさとのギャップがなんだかおかしかった。

「君は?」

「私はアンジェリークです。この子はエルヴィン」

つられて名乗ってしまう。

「アンジェリーク。素敵な名前だね。

もちろん君もね、エルヴィン?」

「にゃあ」

褒められたことが分かるのか、エルヴィンがすまして鳴いたので、

思わず笑い合ってしまう。

そのときだった。

「見つけたぞ!! そこのお前!!」

「ああ、見つかっちゃった」

顔を真っ赤にして息を切らした男がズカズカとジェイドに迫る。

「俺の女に手ぇ出しやがって!!

きっちり落とし前つけてもらおうじゃねえか!!」

「君は何か誤解しているんじゃないかい?

話し合おうよ、きっと分かり合えると想うんだ」

場違いなほどのんびりと言うジェイドに、男は完全に腹を立て、

「てめえ!!!」

拳を振り上げた。

「や、やめてください!!」

アンジェリークは思わず二人の間に割って入った。

 

 

 

あなたの悩み解決します 低金利でお得なローン探し 低金利でお得なローン探し
[PR] | うつ被リンク船橋平塚渋谷新宿中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - 企業価値 - Timesell - 国際電話 - ホノルルマラソン - コミュニティ監視 - 風評被害 - ホテル比較 - ノースウェスト - Finalchecker