10 君だけが

「ジアースは・・人がどうこうできるレベルのポケモンじゃなかったんだ。

エアリスを捕まえて、酷い実験をしてきたロケット団のことを、

ジアースはとても・・怒っていた。

当たり前だよな」

「そんなことしてたなら、当然だわ!」

「そうだな…だけど、それだけじゃなかったんだ。

ジアースは元々、二つに分裂してた。

あの黒いジアースは世界を滅ぼそうとしてる。

怒りと、憎しみとでいっぱいなんだ」

「じゃあ、あの白いジアースは・・」

「俺の体の中から、ずっとあれを牽制していた。

世界を護ってくれるジアースだ。

このままじゃ、共倒れになっちまう!」

サトシの説明を、じっと聞いていたコジロウが、くすっと笑った。

「? 何? どうしてこんな時に笑うの?」

「だってさ」

本当は声を出して笑いたいのを、堪えてるみたいな感じ。

「ほんとうにおかしいんだもんな。

何で二つに分かれたか、知ってるか?」

「そ、そんなこと分からないわ」

「ジアースって言うのは、魂の循環器なんだよ。

地球の生物全ての魂は、ジアースに集まり、ジアースから放たれる。

その魂に影響されて、善い心と悪い心ができちまった。

そうやって分裂していったのさ」

「い、意味が分からない」

「それでいいよ、ハルカ。

人は、こんなこと理解しない方がいい」

「な、何それ。

あなたが人じゃないみたいじゃないのよ。

それに、どうしてコジロウがそんなことを知ってるわけ?」

クスクス。

コジロウが笑う。

「何処までも鈍くて可愛いね、君は。

俺が、コジロウだと、まだ信じてるわけ?」

「…何? どういうこと……?」

「こういうことだよ」

突然、コジロウの体がガクッと崩れ落ちた。

倒れ込んだその体から、光がムクッと起きあがる。

光はコジロウよりも小さな人の形になり、やがて……

「サトシ!」

「俺!?」

私が一番よく知っているサトシになった。

「そいつの記憶から、借りたんだよ。

そん時に、ハルカの記憶もあったから、正直驚いたよ、君を見たときはね」

そうなんだ。

というか、やっぱりさとしさんはサトシだったのね。

「君を一目見て、すぐに欲しくなった。

だから、君の好きな男になったんだよ」

「な、何言ってるのよ!!」

ここは、赤くなってもいいのかしら。

ふ、複雑。

だって、本人(大人)の前だし……。

このサトシは、人間でもないってことよね……?

でも、顔が熱いから、もう赤くなってるのかも。

は、恥ずかしいよう。

「わ、私はね! コジロウの体が好きな訳じゃないのよ!」

あれ? 何かおかしなこといってる?

言ってて少し、いやらしいような……気のせいよね。

「コジロウが、コジロウだから好きなの!

ちょっとドジだし、頼りないし、すぐ悪いこと考えるし、

割と恐がりだったりするけど!!

でも、すごく優しくて、ポケモンが大好きで、

一緒にいるととっても……楽しいの!

大好きなんだもん!!」

「………」

「コジロウの体に入ったからって、あなたじゃダメなの!

コジロウじゃなくちゃダメなの!

だからお願い、返して。

コジロウを返してよ!!」

 

空気が一瞬で凍り付いたのが分かった。

 

「どうして」

少年のサトシが、再びコジロウの中へ溶けていく。

コジロウの体がゆっくりと起きあがり、暗い表情で私を見る。

ゾクッとした。

「どうしてダメなんだ」

今までの覇気は何処へやら、と言った感じで、とても……怖い。

怒りとか、憎しみとかだったらまだ、よかったのに。

これは、違う。

コツ。

コジロウが一歩進み、思わず一歩後退る。

後ろには、サトシ(大人)がいるはずだった。

だけど……。

「! いない!?」

それだけじゃない。

ジアースもいない。

周りがどんどん暗くなって、足下もあるのかないのか分からなくなっていく。

「ハルカが欲しいのに」

コジロウの顔で、そんなこと言わないでよ。

意志が弱くなりそう。

でも、負けたくない。

私は、元のコジロウを返して欲しい。

まだ、デートだってしてないんだもん。

「ねえ、あなたは何なの?

どうしてこんなことが出来るのよ!」

「俺は、最初のエアリスだよ。

最初に捕まって、実験で実体を失った、唯一のエアリス。

そう言われてた」

「エアリス!?」

あのピンク色の可愛いエアリスを思い浮かべる。

「でも、そうじゃない。

実験で、実体を消す方法を思い出したんだ。

そしてようやく、他の六体のエアリスと融合できた。

そのために、ロケット団を利用してたんだからな」

「ロケット団を利用?」

「ああ。きかなかったか?

新しいボスがいるって噂。

俺のことだよ」

「ええーーーーーーっ!?」

コジロウの体で言ってるけど、あのサトシの格好でやってたんだわ。

ポケモンとは思えないほど、頭がいいのね。

コジロウには悪いけど、コジロウの数倍はすごいかも。

でも

「あなたはとてもすごい力を持ってるし、頭もいいと思う。

だけどね、私がコジロウを好きなのは、変わらないの。

いつもの、あのコジロウが好きなの」

恥ずかしい。

でも言っちゃうって決めた。

ここで躊躇して、帰ってきてくれなかったらイヤだもの。

「不器用だったり、おっちょこちょいだったりするんだけど、

すごく優しいの。

困ったように笑う、コジロウが好き。

いつだって、ちゃんと私のことを気にしてくれるコジロウが好き。

ケンカしても、ちゃんと気にしてくれるコジロウが好き。

エアリスにそっと布団を掛けてあげる、優しいところが好き。

エアリスを抱いて撫でてるときの、あの優しい目が好き。

ねえ、好きなところがいっぱいあるの」

「どうして、俺じゃダメなんだよ」

「じゃあ、あなたは、私以外の女の子でも愛せる?」

コジロウは、躊躇なく否定した。

何となく、照れるかも。

(そんな場合じゃないよね)

「おんなじ。

私も、コジロウ以外は見えないの。

例え、あなたがコジロウの体を操っていても、

私には違う人に見えるの」

気付かなかったけど、おかしいと思ったことはあった。

そういうことがもっとたくさん出てきたら、きっといつかは気がついたと思う。

「あなたのことが、好きか嫌いかは分からない。

だって、あなたのことをよく知らないし、

結構、いろいろあったし。

でも、何となく、嫌いにはなれないし」

「だったら、俺はどうすればいいんだよ!

お前が俺を受け入れないって言っても、俺は出て行かないからな!

俺はお前だけが欲しいんだ。

他には何もいらない。

いるもんか、こんな世界!」

コジロウが、私の肩をがっと掴んだ。

 

それにしても、だんだん腹が立ってきたわよ?

どうしてこれだけ言っているのに、コジロウは出てこないわけ?

だって、サトシだったら自分で出てこれそうじゃない?

なのに、なのに、なのに、もーーーーーーーっ!!!

 

「こらあああ! コジロウ!!!」

コジロウがビクッとした。

「私が好きって言ってるのに、いつまで隠れてるのよ!

早く出てきてよ、ばかばか馬鹿あああああっ!!!!」

 

「…?

まさか……?」

コジロウが、驚いたように目を見開いた。

 

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