フッター画像

猪の若者



 かつてポムという名の老婆がルーイという孫娘と一緒に住んでいた。ある時、日照りが長く続き、森の渓流の水は皆干上がってしまった。 そんなある日、二人で畑に綿を採りに行った。日差しは非常に激しかった。二人とも咽がからからだった。耐えきれず、ルーイは仕事を辞め水を探しに行った。 しかしそのあたりの水は乾ききっていて一滴の水もなかった。 探して探して彼女はやっと一本のキノコの上にほんのちょっとの水を見つけ出した。それは猪の小便だった。ルーイは戻って祖母に尋ねた。
 「おばあさん!キノコの上に溜まった水は飲めるかしら?」
 ポムは言った。
 「そんな水はだめよ。飲めないわ。」
 しかしルーイは咽の渇きに耐えきれず、すぐさま祖母にわからないようにこっそり飲みに行ってしまった。
 その後しばらくするとルーイは疲れ切ってへとへとになり、腹は次第に膨れた。それを見て祖母は尋ねた。
 「お前、その有り様は、一体誰と寝たんだい?」
 ルーイは答えた。
 「私、夜はいつもおばあさんと寝てるわ。昼間はいつもおばあさんと一緒よ。私が誰かと一緒にでかけた?」
  臨月になり、ルーイは一頭の猪を産んだ。ポムは非常に恥ずかしくなり、それを埋めに行った。
しかし埋め終え家に帰ると、まだその猪がいるではないか。ポムはまた埋めに行った。しかし今度も同じ有り様だった。 祖母が帰って家の入り口に来ると、また家の中に寝ているのだった。いくら埋めてもだめだった。 ポムとルーイはしぶしぶ育てた。ほどなく、猪は大きくなり、あちこち走り回り、しゃべることができるようになった。
 ルーイが猪を産んだという話は各地に広まった。王(プタオ)もそれを聞きつけ、見に来た。ルーイは恥ずかしさのあまり、猪を隠してしまった。
 「ルーイが猪を産んだというが本当か?」
 ルーイは首を振ったが、猪は走り出て言った。
 「本当さ!僕がルーイ母さんの子供だよ!」
 ポムとルーイは食事を作り王を接待し、王にこのことを誰にも言わないで下さいと頼んだ。 王が帰るとき、猪は連れていってくれとせがんだ。王は断り、ルーイに猪を大きな背負い籠に入れ、フタをきちんとするように告げた。
 帰り道で、王は一羽の野鶏を見、射ろうとして矢筒の弓を抜くと、突然矢筒から声が聞こえた。
 野鶏はそれを聞き、飛んでいってしまった。王は非常に怒り、矢筒をひっくり返してみた。するとそこには猪がいた。 王はすぐに猪を捕まえルーイの所に連れ帰った。しかし王が家に帰ると、矢筒の中にまた猪が潜り込んでいた。  王には非常に美しいホービアという名の娘がいた。王が帰ると彼女は尋ねた。
 「ルーイが猪を産んだという話は本当だった?」
 王が返事をする間もなく、猪が言った。
 「僕がルーイ母さんの子だよ。」
 どんなことをしても猪を追いだすことができず、王はやむなく飼う羽目になった。


 ある日、王家みんなで渓流に魚を取りに行った。王はホービアに家にいて水牛の世話をするように言いつけた。しかしホービアは行きたくなかった。突然、猪が言った。
 「僕に水牛を世話しに行かせて!」
 王の水牛は何百もいたが、その夕方、皆戻ってきた。あの水牛もこの水牛も皆腹がぱんぱんだった。  魚がおもしろいように取れるので、皆何日も渓流での魚とりに没頭した。そのため、いつの日も猪が水牛を世話しに行った。 猪がとても水牛の世話がうまいので、ホービアは不思議に思った。翌日、 ホービアはこっそりついていき様子をうかがった。 猪は水牛を追って森に入り、それから猪の衣から抜け出しとてもハンサムな若者にと変身した。そして水牛の背に乗り歌うのだった。 人影を見ると、彼はまた猪に変わった。ホービアは尋ねた。
 「猪よ!お前、水牛の背に乗ったとってもハンサムな若者を見なかった?」
 猪は答えた。
 「僕、誰も見なかったよ!」
 翌日、ホービアはまたそっとのぞきに行った。今度もまた昨日と同じだった。普通の猪ではないと気づいたホービアは、愛情を抱くようになった。
 数日後、皆魚取りから戻ってきた。ホービアは王に言った。
 「お父様、私、結婚したいんです。」
 王は尋ねた。
 「誰と結婚するつもりだい?」
 ホービアは言った。
 「お父様が全部準備してくれたら話すわ。」
  衣装を縫い終え、酒が良い香りを放ち、水牛や牛を殺して御馳走が準備された。王はそして尋ねた。
 「お前が誰と結婚するつもりか教えてくれるな?」
 ホービアは猪を黙って入れた。
 「これが夫よ!」
 王はいらだち猪に尋ねた。
 「お前、ホービアと結婚するのか?」
 猪は答えた。
 「いいえ!」
 ホービアは懇願し続けた。猪はやっと了承した。すなわち、もはや阻む術はなかった。王はしぶしぶ結婚させた。
 みんなが御馳走を食べに来る日、王は酒甕を大きな家の一間に集めた。酒を飲みたい人たちは酒甕に水を入れなければならない。 そうして初めて管を入れて飲むことができるのだ。酒甕があまりに多いので誰も全部に入れる分の水を汲みに行くことができなかった。 猪はすぐに竹を切って水を取りに行くように告げた。猪の竹筒は決して大きくなかったが、奇妙なことに酒甕全部を一杯にしてもまだ残った。
 その日の晩、猪はホービアと一緒に寝ることに我慢できなかった。 そこでホービアは猪が酔って眠りこけるのを待ち、猪を抱きかかえて自分の床に入った。そうしているうちに、猪は妻と一緒に生活することに慣れていった。 家中の人間が安らかな眠りについたある日の晩、猪はまたその衣から抜け出して鏡をとりだし自分の姿と妻の美しさを比べた。 その若者から放たれた輝くばかりの一筋の光で、王がふと目を覚ました。王はホービアを呼んだ。 しかしホービアが起きたころには若者はまたもとの猪の姿に戻ってしまっていた。
 ある日、村人は皆で矢を削り、槍と剣を準備して鹿狩りに行った。猪はやって来て尋ねた。
 「おじさん達、何を狩に行くの?」
 皆ホービアと結婚したので猪がとても嫌いだった。彼らは眉をひそめて言った。
 「儂らはお前の一族、両親を全部狩に行くのさ!」
 猪は我が身を嘆き、家に帰ると妻に言った。妻は慰めた。
 「今日からもう彼らと遊ぶのをやめましょう。」
 それからというもの、村人が何日狩に行っても獲物は何もなかった。最後の日になって、やっと虎に肉の半ばを取られた一頭の鹿を手に入れることができただけだった。猪はそれを見て、すぐに妻に二人の弟のチムテとオアクを連れて狩に行くと告げた。
 たった一日で、猪は数えきれないほどの鹿を狩ってきた。三人は肉を割いて、焼こうと乾いた竹を取った。彼らはとても大きな乾いた肉を一ヶ所に集め、二つの背負い籠と小さな竹筒に入れた。
 戻ってきた三人を見て王は尋ねた。
 「お前たちは何か獲物があったかい?」
 猪は答えた。
 「たくさん捕れました。肉を置きますから家の高床の穴を全部塞がせて下さい。」
 王は一つの竹筒と、二つの背負い籠を見て、ただ笑って何もしなかった。猪はすぐに竹筒と背負い籠から肉を取りだした。果たして、たくさんの肉が家中にあふれた。
 またある時、村人が誘いあって縄を準備し象狩りに行くことになった。象を捕まえ家畜にするためだった。猪は尋ねた。
 「皆、縄を打って何を捕まえるの?」
 皆また怒って返事した。
 「お前の兄弟の一族を皆縄で捕まえてしまうのさ!」
 猪は嘆いてまた妻に話した。妻は慰めた。
 「やめて!もう彼らと遊ばないで!」
 皆長い間狩りに出かけたが、ただ片足が不自由な象を一頭捕まえることができただけだった。それを見た猪はまた妻に大きな縄を撚ってもらい、二人の弟を連れて象を捕まえに行った。
 三人はそろって森に入った。ある川にさしかかると、猪は二人の弟にここで魚を取って自分を待っているように告げた。象の好物がマンゴーであることを知っていたので、猪はマンゴー林を探しだした。 ちょうどその時、象の群れがマンゴー林で草を食べていた。
すぐに猪は象の群れの首領の頭によじ登った。その象は尋ねた。
 
 「お前の望みはなんだ?」
 象は言った。
 「お前を捕まえて帰りたいんだ。木材を引っ張ったり、家具や米や塩を運んだりするのに・・・・。」
 その象は非常に怒ってすぐに猪を払いのけようと森の中をむちゃくちゃに走り回った。しばし走り回った後、また尋ねた。
 「お前、まだ落ちていないのか?」
 猪は笑って答えた。
 「まだだよ!」
 それでその象はまた走り回った。疲れ果てやっと立ち止まった象はまた尋ねた。
 「お前、まだ落ちていないのか?」
 猪はまた笑って答えた。
 「まださ!」
 その象はかんかんになって一月もの間、水の中に潜っていた。その間、猪は一本のタケノコを折って、それが臭いを発するように水に浸し、象の頭に乗せた。岸に上がって象は尋ねた。
 「お前、まだ死んでいないのか?」
 猪はまた笑って返事した。
 「まだ死んでなんかいないぞ! でも象さん!あまりに長く潜ってたから頭が溶けはじめちゃったよ。」
 象が頭を鼻でなでてみると果たして頭の上がべたべたではないか!その臭いは腐った肉の匂いのようだった。自分の頭が本当に溶けだしたと思った象は非常に驚きしかたなく猪に降伏した。マンゴーの木の根本に戻ると群れに告げた。
 
 「かつて儂らの祖先はあまりにも多くの人間の畑や焼畑を荒しに行った。今こそ、その償いをするのだ!」
 その象の群れは首領が行くのを見て、その後に続いた。すなわち、猪と二人の弟は象の群れの一団を捕まえ全てを村に連れ帰ったのである。
 三人が大きな象の群れを連れ帰ったのを見て、王とあらゆる人々が喜びの宴会を催した。
 飲み終え、体が熱くなったホービアは猪を水浴びに連れ出した。ホービアは猪に先に浴びるように言えば猪がまた先に浴びるように言う。二人は譲りあった。結局、猪が先に浴びることになった。浴び終えると、猪はその衣を捨て人間になった。ホービアは喜んで夫と一緒に家に帰った。王は自分の娘が逞しくハンサムな若者と戻ってきたのを見て、猪を殺して他の人間と結婚するんだと考えた。が、ホービアが事の次第を一部始終はなすと、王は非常に喜んだ。
 この後、王は老いると若者に権利と全ての財産を譲ったのだった。

To Van Hoc Dan gian編 2000,"Truyen co cac dan toc Viet Nam 1" nha xuat ban Da Nang

フッター画像

Ads by TOK2