「瓶詰地獄」他から
悪魔祈祷書

                                                          夢野久作
 いらっしゃいまし。お珍らしい雨で御座いますナアどうも……こうもダシヌケに降り出されちゃ敵いません。
 いつも御贔屓になりまして……ま……おかけ下さいまし。一服お付けなすって……ハハア。傘をお持ちにならなかった。ヘヘ、どうぞ御ゆっくり……そのうち明るくなりましょう。
 どうもコンナにお涼しくなりましてから雷鳴(はやしかた)入りの夕立なんて可笑しな時候で御座いますなあ。まったく……まだ五時だってえのに電燈(でんき)を灯けなくちゃ物が見えねえなんて……店ん中に妖怪(おばけ)でも出そうで……もっとも古本屋なんて商売は、あんまり明るくちゃ工合が悪う御座いますナ。西日が一パイに這入るような店だと背皮(クロス)がミンナ離れちゃいますからね。ヘヘヘ……。
 失礼ですが旦那は東京のお方で……ハハア。東京の大学からコチラへ御転任になった。○○科にお勤めになっていらっしゃる……成る程。コンナ時候のいい時は大してお忙しく御座んせんで……ヘヘ。恐れ入りやす。開業医だったら大損で……まったく大学って処は有り難い処で御座いますなあ。

底本:角川ホラー文庫『夢野久作怪奇幻想傑作選−あやかしの鼓』(角川書店 平成10年4月10日初版発行)
入力:林 裕司(「あやかしの鼓」を除く)
※「あやかしの鼓」は、ディスクマガジン『電脳倶楽部』に掲載されたテキスト(入力者:上村光治)を使用しています。
校正:浜野智
1998年11月10日公開
1998年12月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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朗読 音訳ボランティア 籾山久雄  2003-3-15

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