坊っちゃん その

 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談(じょうだん)に、いくら威張(いば)っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。小使(こづかい)に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼(め)をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴(やつ)があるかと云(い)ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 

                                    底本:「ちくま日本文学全集 夏目漱石」筑摩書房
                                        1992(平成4)年1月20日第1刷発行
                                    底本の親本:「夏目漱石全集」ちくま文庫、筑摩書房
                                                     入力:真先芳秋
                                                     校正:柳沢成雄
                                                ファイル作成:野口英司
                                                 1999年9月13日公開
                                                 2000年11月1日修正
                                                青空文庫作成ファイル:
                                   

                        

                                     朗読 籾山久雄 2002,7,58


                                     坊っちゃん その1

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