これは、私(わたし)が小さいときに、村の茂平(もへい)というおじいさんからきいたお話です。
むかしは、私たちの村のちかくの、中山(なかやま)というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。
その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん狐(ぎつね)」という狐がいました。ごんは、一人(ひとり)ぼっちの小狐で、しだ[*「しだ」に傍点]の一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種(なたね)がら[*「がら」に傍点]の、ほしてあるのへ火をつけたり、百姓家(ひゃくしょうや)の裏手につるしてあるとんがらしをむしりとって、いったり、いろんなことをしました。
或秋(あるあき)のことでした。二、三日雨がふりつづいたその間(あいだ)、ごんは、外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。
雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、百舌鳥(もず)の声がきんきん、ひびいていました。
ごんは、村の小川(おがわ)の堤(つつみ)まで出て来ました。あたりの、すすきの穂には、まだ雨のしずくが光っていました。川は、いつもは水が少(すくな)いのですが、三日もの雨で、水が、どっとましていました。ただのときは水につかることのない、川べりのすすきや、萩(はぎ)の株が、黄いろくにごった水に横だおしになって、もまれています。ごんは川下(かわしも)の方へと、ぬかるみみちを歩いていきました
新美南吉 ごん狐
読みの底本;青空文庫ファイルより
(青空文庫の作成記録)
底本「新美南吉童話集」岩波文庫 岩波書店 1997年7月15日発行2刷
入力時に使われた底本が不明とのことなので、表記は岩波文庫版に合わせた
入力;林裕司
校正;浜野智
1998年10月23日公開
1999年 8月28日修正
朗読 ;籾山久雄(音の図書室 音訳ボランティア)2002,4,15
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ごん狐