半七捕物帖から                             石灯籠
                                                  岡本綺堂

半七老人は或るとき彼のむかしの身分について詳しい話をしてくれた。江戸時代の探偵物語を読む人々の便宜のために、わたしも少しこにそ
の受け売りをして置きたい。
「捕物帳というのは与力や同心が岡っ引らの報告を聞いて、更にこれを町奉行所に報告すると、御用部屋に当座帳のようなものがあって、書役しょやくが取りあえずこれに書き留めて置くんです。その帳面を捕物帳といっていました」と、半七は先ず説明した。「それから私どものことを世間では御用聞きとか岡っ引とか手先とか勝手にいろいろの名を付けているようですが、御用聞きというのは一種の敬語で、他からこっちをあがめて云う時か、又はこっちが他をおどかすときに用いることばで、表向きの呼び名は小者こものというんです。小者じゃ幅が利かないから、御用聞きとか目明めあかしとかいうんですが、世間では一般に岡っ引といっていました。で、与力には同心が四、五人ぐらいずつ付いている、同心の下には岡っ引が二、三人付いている、その岡っ引の下には又四、五人の手先が付いているという順序で、岡っ引も少し好い顔になると、一人で七、八人乃至ないし十人ぐらいの手先を使っていました。

底本:「時代
推理小説 半七捕物帳(一)」光文社文庫、光文社
   1985(昭和60)年11月20日初版1刷発行
   1997(平成9)年3月25日20刷発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
※誤植の疑われる「薄団」は、「半七捕物帳 巻の一」筑摩書房(1998(平成10)年6月25日初版第1刷発行、1998(平成10)年10月15日初版第2刷発行)、「半七捕物帳【続】」大衆文学館、講談社(1997(平成9)年3月20日第1刷発行)がともに「蒲団」としていることを確認しました。
入力:砂場清隆
校正:大野晋
2002年5月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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朗読 音訳ボランティア 籾山久雄  2003,3,25

石灯籠

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