いてふの実

 そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチのきをかけたはがねです。
 そして星が一杯です。けれども東の空はもう優しい桔梗ききゃうの花びらのやうにあやしい底光りをはじめました。
 その明け方の空の下、ひるの鳥でもかない高い所を鋭い霜のかけらが風に流されてサラサラサラサラ南の方へ飛んできました。
 実にそのかすかな音が丘の上の一本いてふの木に聞える位澄み切った明け方です。
 いてふの実はみんな一度に目をさましました。そしてドキッとしたのです。今日こそはたしかに旅立ちの日でした。みんなも前からさう思ってゐましたし、昨日の夕方やって来た二羽のからすもさうひました。


宮沢賢治


底本:「新修宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
   1979(昭和54)年5月15日初版第1刷発行
   1984(昭和59)年1月30日初版第7刷発行
入力:林 幸雄
校正:久保格
2002年11月10日作成
青空文庫作成ファイル:


いてふの実

朗読   籾山久雄

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