謎の街

松本 泰

 坂の多いサンフランシスコの街々は自動車に乗っても電車に乗っても、目まぐるしいように眼界が転回する。八層、十層の高楼も、たちまち眼下に模型の建築物のように小さくなってしまう。
 雨の日は建物の地肌で赤く黒くそれぞれの色彩を保っているが、晴れた日は一様に黄色い日光を浴びている。
 高台の電車軌道の大きく迂回(うかい)しているところから左へ行くと、金門公園(きんもんこうえん)がある。
 太平洋沿岸の旅を終わって、日本へ帰る便船を待ちながらP街の『柳(やなぎ)ホテル』に滞在していたわたしは、ある早春の午後、その公園の疎林の中を歩いていた。枝ばかり残った枯れたような木々も、傍(そば)へ寄ってみると明るい空にいつか新芽を吹いている。
 わたしは静かな小径(こみち)を抜けて、水族館前の広場に出ようとした。その時、
「もしもし、失礼ですけれども……」
 と、不意に呼びかける者があった。


底本:「清風荘事件 他8編」春陽文庫、春陽堂書店
   1995(平成7)年7月10日初版発行
入力:大野晋
校正:ちはる
ファイル作成:野口英司
2001年4月30日公開
青空文庫作成ファイル:
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朗読 音訳ボランティア 加藤未来 2002,2.20


謎の街

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