おじいさんのランプ

新美南吉

かくれんぼで、倉の隅(すみ)にもぐりこんだ東一(とういち)君がランプを持って出て来た。
 それは珍らしい形のランプであった。八十糎(センチ)ぐらいの太い竹の筒(つつ)が台になっていて、その上にちょっぴり火のともる部分がくっついている、そしてほやは、細いガラスの筒であった。はじめて見るものにはランプとは思えないほどだった。
 そこでみんなは、昔の鉄砲とまちがえてしまった。
 「何だア、鉄砲かア」と鬼の宗八(そうはち)君はいった。
 東一君のおじいさんも、しばらくそれが何だかわからなかった。眼鏡(めがね)越(ご)しにじっと見ていてから、はじめてわかったのである。
 ランプであることがわかると、東一君のおじいさんはこういって子供たちを叱(しか)りはじめた。
 「こらこら、お前たちは何を持出すか。まことに子供というものは、黙って遊ばせておけば何を持出すやらわけのわからん、油断もすきもない、ぬすっと猫(ねこ)のようなものだ。こらこら、それはここへ持って来て、お前たちは外へ行って遊んで来い。外に行けば、電(でん)信柱(しんばしら)でも何でも遊ぶものはいくらでもあるに」
 こうして叱られると子供ははじめて、自分がよくない行いをしたことがわかるのである。そこで、ランプを持出した東一君はもちろんのこと、何も持出さなかった近所の子供たちも、自分たちみんなで悪いことをしたような顔をして、すごすごと外の道へ出ていった。
 外には、春の昼の風が、ときおり道のほこりを吹立ててすぎ、のろのろと牛車が通ったあとを、白い蝶(ちょう)がいそがしそうに通ってゆくこともあった。なるほど電信柱があっちこっちに立っている。しかし子供たちは電信柱なんかで遊びはしなかった。大人(おとな)が、こうして遊べといったことを、いわれたままに遊ぶというのは何となくばかげているように子供には思えるのである。


新美南吉
おじいさんのランプ

底本:「新美南吉童話集」岩波文庫、岩波書店
   1996(平成8)年7月16日発行第1刷
入力:浜野智
校正:浜野智
ファイル作成:浜野智
1999年4月20日公開
1999年8月28日修正
青空文庫作成ファイル:
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朗読 音訳ボランティア 籾山久雄


おじいさんのランプ

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