おきなぐさ

 うずのしゅげを知っていますか。
 うずのしゅげは、植物学(しょくぶつがく)ではおきなぐさと呼(よ)ばれますが、おきなぐさという名はなんだかあのやさしい若(わか)い花をあらわさないようにおもいます。
 そんならうずのしゅげとはなんのことかと言(い)われても私にはわかったようなまたわからないような気がします。
 それはたとえば私どもの方で、ねこやなぎの花芽(はなめ)をべんべろと言(い)いますが、そのべんべろがなんのことかわかったようなわからないような気がするのと全(まった)くおなじです。とにかくべんべろという語(ことば)のひびきの中に、あの柳(やなぎ)の花芽(はなめ)の銀(ぎん)びろうどのこころもち、なめらかな春のはじめの光のぐあいが実(じつ)にはっきり出ているように、うずのしゅげというときは、あの毛※科(もうこんか)のおきなぐさの黒朱子(くろじゅす)の花びら、青じろいやはり銀(ぎん)びろうどの刻(きざ)みのある葉(は)、それから六月のつやつや光る冠毛(かんもう)がみなはっきりと眼(め)にうかびます。


                                                              宮沢賢治 
                                 読みの底本;青空文庫ファイルより                                      (青空文庫の作成記録)                                               底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店                1969(昭和44)年7月20日改版初版発行                1993(平成 5)年6月20日改版71版発行 入力:薦田佳子 校正:平野彩子 ファイル作成:野口英司 2000年8月25日公開                   朗読 ;籾山久雄2002,9,20

おきなぐさ

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