ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。
ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲(こうきょうきょく)の練習をしていました。
トランペットは一生けん命歌っています。
ヴァイオリンも二いろ風のように鳴っています。
クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。
ゴーシュも口をりんと結んで眼(め)を皿(さら)のようにして楽譜(がくふ)を見つめながらもう一心に弾いています。
にわかにぱたっと楽長が両手を鳴らしました。みんなぴたりと曲をやめてしんとしました。楽長がどなりました。
「セロがおくれた。トォテテ テテテイ、ここからやり直し。はいっ。」
宮沢賢治 セロ弾きのゴーシュ
読みの底本;青空文庫ファイルより (青空文庫の作成記録) 底本「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫 新潮社 1989年6月15日発行 1994年6月5日13刷 底本の親本れ;「新修 宮沢賢治全集」筑摩書房 入力;水口充 野口英司 ファイル作成;野口英司 1997年10月12日公開 2001年 9月26日修正
ここの絵は牛飼いとアイコンの部屋からお借りしました。記して感謝します。
朗読 ;籾山久雄