手品

  口上

 雪深い東北の山襞(ひだ)の中の村落にも、正月は福寿草のように、何かしら明るい影を持って終始する。貧しい生活ながら、季節の行事としての、古風な慣習を伝えて、そこに僅かに明るい光の射すのを待ち望んでいるのである。併し、これらの古風な伝習も、そんなにもう長くは続かないであろう。
 それらの古風な慣習の一つに「チャセゴ」というのがある。正月の十五日の晩には、吹雪でない限り子供は子供達で、また大人は大人達で、チャセゴ[#「チャセゴ」に傍点]に廻(まわ)る。子供達は、宵(よい)のうちから、一団の群雀(むらすずめ)のように、部落内の軒から軒を(アキ[#「アキ」に傍点]の方からチャセゴに参った。)と怒鳴って廻(まわ)るのだが、すると、家の中から(何を持って参った?)と聞き返すのである。子供達はそこで(銭(ぜに)と金(かね)とザクザクと持って参った。)と一斉に呼び返す。そこで、二切ればかりずつの餅が、子供達各自の手に恵まれるのである。
 大人達のチャセゴは、軒々を一軒ごとに廻るのではなく、部落内の、または隣部落の地主とか素封家(そほうか)とかの歳祝(としいわ)いの家を目がけて蝟集(いしゅう)するのであった。それも、ただ(アキの方からチャセゴに参った。)というばかりでは無く、何かと趣向を凝(こ)らして行くのである。歳祝いをする家でも生活が裕(ゆたか)なだけに、膳部を賑(にぎ)やかにして、村人達が七福神とか、春駒とか、高砂(たかさご)とかと、趣向を凝(こ)らして、チャセゴに来てくれるのを待っているのである。


                                                     佐々木俊郎  手品
                                               読みの底本;青空文庫ファイルより

                                               (青空文庫の作成記録)
                                                      底本;「佐々木俊郎選集」英宝社
                                                                             1984年4月14日初版
                                                                 
                                                                   入力;大野晋
                                                                   校正;湯地光弘
                                                               ファイル作成;野口英司
                                                                             1999年12月 6日公開
                                                                             2000年 5月19日修正



                                             朗読 ;籾山久雄(音の図書室 音訳ボランティア)2002,3,1

           
                                                                         手品
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