(初期形)やまなし

宮沢賢治

小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈を見て下さい。

  一、五月。

二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話してゐました。
 「クラムボンはわらったよ。」
 「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
 「クラムボンは立ちあがってわらったよ。」
 「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
上の方や横の方は青くくらく鋼のやうに見えます。そのなめらかな天井をつぶつ
ぶ暗い泡が流れて行きます。
 「クラムボンはわらってゐたよ。」
 「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
 「そんならなぜクラムボンはわらったの。」


底本:「筑摩書房「新校本 宮澤賢治全集第十巻 童話V本文編」
これは、作者の死後発見されたやまなしの初稿です。


朗読 音訳ボランティア 上山聡美 2003,2,20


やまなし

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