「きみは・・・・」



しかしシンジの目の前には誰もいなかった。


シンジの視線が上から下へと向かい、ようやく目標の人影を捉えた。




人影をじっくり見たシンジは言葉に詰まる。





「・・・随分小さいんだね」



さすがの御気楽少年もやや呆然としている。





シンジの目の前に現れたのは、六センチ程度の人影だった。


そのため、注意して見ないと見落としてしまいかねない。


そんなに小さいと「目の前」じゃないだろ、という突込みはなしである。




その人影は小さいながらもスーツのような物を着ており、髪型も短く整えられている。


顔の作りなどをよく見ると、どうやら男のようだ。


一見するだけで礼儀正しさが見て取れる。





「すみません、今はこのぐらいが精一杯なんです」


小さな人影が見た目どおり丁寧に答える。



「ふ〜ん、よくわからないけどそうなんだ」


不可思議な生命体が現れてもシンジは呑気だ。




「ところできみだれ?僕の事知ってるみたいだけど」



「私はよく知っていますけど、会うのは初めてになりますね」


そこまで言うと小さな人影は姿勢を正す。



どうやらかなりの礼儀を身に付けているようだ。




「私イロウルと申します」



「イロウル!!」



シンジの目が驚愕で開かれる。



さすがの御気楽少年も驚かずにはいられないのだろう。

















「・・・イロウルって何?」



そうでもなかった。





考えて見ればシンジは正確な使徒の名前を知らなかった。


シンジにはそんなこと聞いている余裕はなかったし、誰も進んで教えてはくれなかったのだ。





「あれ?知らないんですか?」


小さな人影、イロウルは驚いたような声を上げる。


ネルフの重要人物であったシンジなら知っていると思っていたのだろう。




「うん。そんなの聞いた事無いよ」


そんなイロウルの考えを全く気にかけず、シンジはあっさりと頷いた。




「では自己紹介させて頂きます」


イロウルはどこまでも礼儀正しかった。


人見知りしない分、昔のシンジ以上だろう。





今のシンジとは・・・比べるまでも無い。







「私の名前はイロウル。11番目の使途です」



「へ〜使徒なんだ」


イロウルの爆弾発言にも全然驚いていない。




肝っ玉が座っているのか、それても何も考えていないのか。






おそらく後者だろう。






「驚かないんですね?」


「こんなに小さいんだもん。人間だって言われたほうが驚くよ」



それももっともな話だ。




「う〜ん・・11番目ってことは・・・」



シンジは今まであった使徒を思い出していく。





「最初は自爆君・・・」



サキエルのことらしい。




「次は鞭君・・・」


シャムシェルのことだろう。




「ビーム砲君・・・」


ラミエルのことである。



「魚君・・・」


言うまでもないがガギエルである。



「双子君・・・」


イスラフェル・・・。



「溶岩君・・・」


サンダルフォン・・・



「シャカシャカ君・・・」


マトリエル・・・?


しかしなぜ擬音なのだろうか。



「落下君・・・」


サハクィエル・・・



「吸収君・・・」


レリエル・・・



「乗っ取り君・・・」


バルディエル・・・




「食材君・・・」


・・・最強の使徒ゼルエルも草場の陰で泣いている。




「洗脳君・・・」


アラエル・・・




「紐君・・・」


アルミサエル・・・


レイの自爆も報われないほど、あっさりと言いのけた。





「それでカヲル君だろ?」


正確にはダブリスである。






「ってことは・・・」


シンジはもったいぶって間をおく。





「食材君!!」



シンジがイロウルを指差しながら、御名答とばかりに言い切った。





「違います」


しかし、イロウルの返事は容赦なかった。




「だいたい何なんですか、そのわけのわからない名前は・・・」


さすがに礼儀正しいイロウルも呆れ顔になっている。



「だって名前なんか知らないからわかりやすいように・・・」


シンジが言い訳がましく、言い逃れを行う。



「使徒の名前ぐらい聞かなかったんですか?」


「関係ないって教えてくれなかったんだよ」



シンジは膨れっ面になりながら、不満そうにしている。






「ほ〜んと、ネルフってケチだよね〜」






間違ってはいない。









「それにどうやらアダムさんとリリスさんのことは知らないようですね」


「アダム?リリス?」


シンジはさっぱりわからないようだ。



しかしシンジも中学2年、人類の始祖と言われるアダムぐらいは知っていてほしいものだ。





「アダムさんは第一の使徒。リリスさんは第二の使徒です」


イロウルは丁寧に他の使徒には「さん」づけをしている。



「へ〜そうなんだ。でもそいつらはいつ来たの?」


シンジが素朴な疑問を口に出した。





「その辺を話すと長くなりますのでまた後で・・・」


イロウルはそう言って話をずらす。





「別に知りたいとも思わないけどね」



シンジはどこまでも御気楽であった。




「アダムとリリスっていうのがいたとすると・・・きみは吸収君!!」


どうやらシンジにとってはそちらの方が重要なようだ。



「違います。それよりその呼び方はやめてください」


さすがにあの呼び方は嫌なようだ。




「え?また違うの?」


シンジはいまだに理解で来ていない。




「どうやら私のことも知らないようですね」


イロウルが段々疲れた表情になってくる。



もっとも、小さいためシンジにははっきりと見えていない。



「私はレリエルさんより一つ前の使徒です」


「え?じゃあ落下君?」



「だから違いますって」


「?」



「私はサハクィエルさんとレルエルさんの間の使徒です」


物分りの悪いシンジにも、イロウルは頑張って説明していく。


かなりの努力家のようだ。




努力家の使徒・・・



もちろん突込みは禁止である。





「そんなのいたっけ?」


「覚えていませんか?ダミープラグのテストの時暴走したことを」


「ダミープラグのテスト?・・・う〜ん・・・」



イロウルの言葉にシンジはしばらく考え込む。




「全然知らない」


「・・・そうですか・・」


きっぱりと言われたイロウルががっくりと肩を落とす。




「でもダミープラグのテストなんてやったっけ?」


かつて、親友のトウジを傷つけたダミープラグの話題にも御気楽さは変わらない。




どうやらこの一週間で御気楽さが増しているようだ。



「能天気少年」になるのも遠くはないだろう。





「・・・あなたにはエントリープラグ交換実験と言った方が言いかもしれませんね」


シンジがほとんど事情を知らされていないことを思い出したイロウルは言い方を改める。




「あ!思い出した!裸のまま湖に放り出された時だね」


「詳しくは知りませんがそうだと思います」


「じゃあきみはあの時に来てたんだ」


「はい。あの時マギをハッキングしたんです」


イロウルが誇らしげに胸を張った。



「マギに挑んだんだ!きみ凄いんだね〜」


シンジは使徒相手に感心していた。



それでいいのか?




「いや、それほどでも・・・」


イロウルは照れていた。



使徒も照れるらしい。




「でも世界が滅ばなかったということは失敗したんだね」


「・・・そうなんです」


イロウルは今度は落ち込んだ。


なかなか喜怒哀楽の激しい使徒である。




「あとちょっとだったんですけど・・・変なプログラム送られちゃって」


進化促進プログラムのことだろう・・・



なんとなく悔しそうである。





「いや、きみも頑張ったよ」


何も知らないくせにシンジはイロウルを励ました。




「ウッウッ・・・ありがとうございます・・」


イロウルは涙ながらに礼を言う。




そんなに悔しかったのだろうか?





「でもなんで君は生きてるの?」


「ああ、それはですね。死ぬかマギと共存するかを選ぶ事になったんで、共存にしたんです」


「マギと共存?きみそんなこと出来るの?」


「ええ。私は細菌サイズの使徒ですから」


「細菌サイズ?細菌ってこんなに大きかったっけ?」


「私は栄養を取る事で増える事が出来るんです。それで今は全部集まってこの形を作っているんです
よ」


「ふ〜ん・・・」


わかっているんだか、いないんだか、シンジは答える。






「じゃあきみは姿を変えられるの?」


相変わらずどこか抜けた質問である。



「ええ。全体量は決まってしまいますけど・・・」

「じゃあやって見せてよ!」

「え?」


勢い良く言ったシンジにイロウルがうろたえる。




「だから変身して見せてって言ってるの」


「え〜っと・・・なぜですか?」


シンジの勢いにイロウルがやや引く。



「僕が見たいから」


「それだけですか?」


「うん」


シンジの言葉に一片の迷いも無い。



このぐらいの気負いが昔あれば・・・





「・・・わかりました」


瞳を爛々と輝かせているシンジに何を言っても無駄と分かったのか、イロウルが渋々頷いた。




「でも一回だけですよ」


「わかったから早く!」



シンジの性格がすっかり変わっている。




「え〜と・・・」


イロウルが集中し始めた。




すると、イロウルの姿が微妙にぼやけ始める。





「えい!」


そんな言葉と共に、イロウルの姿が女性型に変わった。



髪が長くなり、胸もやや膨らんでいるようだ。


もっとも、もとが小さいからあまりよくは分からない。






「凄いや!」


シンジが感嘆の声を上げる。



「・・・でも少し小さくなった?」


「ですから全体量は変わらないんです」


女性型になっても言葉使いはあまり変わらないようだ。



「髪が伸びたり、全体的に丸みを帯びたので高さは減ったんですよ」


「ふ〜ん。ねえ?それ以上増えれないの?」


シンジがさらなる要求をする。



「増える事は可能ですよ。エネルギー源さえあればですなんですけどね」


「エネルギー源って何?」


「基本的には何でも構いませんよ。私は進化することでどんな物でも栄養に出来ますからね」


「便利なんだね」


「使徒ですから」


どことなくシニカルな会話であった。



しかし、イロウルの言葉づかいが若干変わっている。


やはり姿に影響されるのだろうか?




「じゃあたくさんある物をエネルギー源にした方がいいよね?」


「それはそうですが・・・何かいい物でも?」


「ちょっとこっち来てよ」


そう言うとシンジはイロウルを持ち上げ、手のひらに置くと、扉から出て行った。


イロウルも抵抗はしなかった。












「なんか人形みたいだね」


移動中、シンジは手のひらのイロウルを突っつきながらそんなことを言った。



「小さくても使徒ですからね」


イロウルはやや不機嫌そうに言った。



「その気になればあなたを殺せますよ」


「そんな怖い事言わないでよ」


そんなこと言いながらもシンジの表情は怯えを見せない。





度胸がいいのか、何も考えていないのか。




やはり後者だろう。




「でもそれほんと?」



「・・・嘘です」


シンジの問いかけにイロウルは膨れっ面なりながら答えた。





その道の人が見れば「萌え!」と叫びそうである。




もちろんどんな道かはわからないし、言葉の意味もわからない。






「私は攻撃能力を持たないので、進化の速度を早くすることで生き残りを図っているんです」


「へ〜」


相変わらずシンジは分かっているのか、分かっていないのか疑問である。




「それより驚いたよ。使徒も嘘つくんだね」


「マギと共存しているときに色々学んだんです」


「なるほどね。それで僕の事も知っていたんだ」


「はい。マギの知識と、マギを使用しているカメラの映像は全て知っていますよ」


「その言葉使いもマギのせい?」


「はい。マギのデーターでは年上には礼儀正しくするものだそうですから」


なかなか素直な使徒である。



「年上?きみって何歳なの?」


シンジが驚いたように聞いた。



「女性に年齢を聞く物ではありませんよ」


イロウルはしれっと答える。



やはり性格が若干変わっているのかも知れない。



「さっきまで男の子だったじゃないか」


イロウルの反応が面白いのか、シンジは含み笑いをしながら言い返した。




「・・・年齢で言えば数千年は生きてますよ」


イロウルは渋々答える。



「それじゃあ僕より年上じゃない」


「いいえ。人間の世界では私はまだ0歳ですから」



女性らしく年齢が気になるのだろうか?




「・・・きみって考え方が硬いんだね」


「知識源がコンピューターですから」


イロウルの答えは実に明瞭である。



「まあいいや」


シンジもそれ以上は追求しない。




気遣いか、御気楽か・・・


分かりきったことは言わないでおこう。







「それより何処に行くんですか?」


さらに五分ほど経ったあと、イロウルがシンジに向って聞いた。



「もう着いたよ」


何時の間にかシンジはネルフの外までやってきていた。




「ここは・・・外ですね」


「そう。今の世界に一番たくさんあるのはきっとこれだからね」



そう言うと、シンジは足元を指差した。





そこに広がるのは赤い世界を作り出している元凶、LCLの海であった。





「なるほど、確かにそうですね」


イロウルも納得したような表情をする。



「はい!頑張って増えてみて!」


シンジは実に楽しそうだ。




「・・・わかりました。この世界にいるにはもう少し大きい方がいいですからね」


イロウルはそう言って自分を納得させると、LCLの海に身体を浮かばせようとした。











ジ〜〜





そんなイロウルをシンジがじっと見つめている。




「・・・あの・・・あんまり見つめられると、何かやりづらいのですが・・・」


イロウルが照れたように言う。



「使徒なのにデリケートなんだね」


「怒りますよ?」


「・・・チェッ、わかったよ」


シンジは残念そうに呟くとイロウルに背を向けた。





それを確認したイロウルは身体の力を抜き、LCLの海を漂った。



















「退屈だな〜」


シンジが一人で愚痴る。


イロウルがLCLに漂い始めてから一時間近く経っている。



その間シンジは一度足りとも後ろを振り向いていない。



(約束は守らないとね)



御気楽少年の割には律儀であった。




かと言って、イロウルが大きくなる事に興味津々のためこの場を離れる事も出来なかった。




結果、シンジは暇を持て余しているのだ。








「お待たせしました」



さらに十分ほど経過したあと、シンジにそんな言葉が投げ掛けられた。






その声にシンジは「待ってました!」とばかりに勢いよく後ろを振り返った。






「・・・きみがイロウル?」




そこにはシンジとほぼ同じくらいになったイロウルが立っていた。























「ハァ、ハァ・・・」


「ゼェ、ゼェ・・・」



一方こちらは別次元。



今まで戦いを繰り広げていた謎の両者が息を切らしていた。





「いい加減に諦めて・・」


「それはこっちのセリフさ」




どちらも譲る気はないようだ。


そのまましばしの睨みあいが続いたが、不意に二人が何かの気配を察する。



「この気配は・・・」


「・・・イロウルのようだね」




「・・・イロウルは碇君と同じ次元にいるわ」


「僕を差し置いていい度胸じゃないか」


二人の背後に怒りの炎が見える。




「あなたに構っている暇は無いわ」


「それは僕も同じさ」


先ほどまでの諍いが嘘のように息が合っている。




「一刻も・・・」


「早く・・・」




「碇(シンジ)君と同じ次元へ!!」



そう言うと、二人の謎の人物は次元の壁を破るべく、力を蓄え始めた。











<次回予告>



異次元にいる二人の前に立ち塞がる絶望!


イロウルの姿に驚きを隠せないシンジ!


そして早くもこの作品一番の常識人となっているイロウル!


このままヒロインになってしまうのか!




バラバラな考えで動く四人。


四人の思惑は何処へ向うのか?


一人きりの生活にピリオドが打たれたシンジはどう変わるのか?






次回!



太正櫻に浪漫の嵐!



「第四話 シンジの願い」





「・・・あなたは何を望むの?」








次回予告は真っ赤な嘘です(笑)


















〜〜〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜〜〜〜〜



というわけで、まるすさんからのリクエストである、「シンジ君+αの戦い?」を
お送りいたしました。


リクエストのみと言いながら、一番更新が早いのは何故でしょう(汗)



それでは次回でお会いいたしましょう☆



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